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NHK将棋シリーズ 阿久津主税の中盤感覚をみがこう |
[総合評価] A 難易度:★★★ 〜★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜上級向き |
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【著 者】 阿久津主税 | ||||
【出版社】 日本放送出版協会 | ||||
発行:2010年12月 | ISBN:978-4-14-016187-6 | |||
定価:1,260円(5%税込) | 256ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
・【コラム】(1)想像以上の反響にビックリ
(2)イチロー選手から学ぶプロ意識 (3)頼りになる3人の同期 |
【レビュー】 |
中盤の感覚を重視した定跡解説書。 まず、内容の前に、表紙に目を奪われた。今年のベスト1?になりそうだ(笑)。前作『必ず役立つプロの常識』(阿久津主税,MYCOM,2009.12)では前髪が一部で大きな話題になったが、今回の表紙もなかなかのもの。レジに持っていくのにちょっと勇気が必要です。ちなみにこのデザインは、本文中のポイント講座「アッくんの目ヂカラ」を象徴したもの。なお、「目ヂカラ」には目だけのイラストが描かれている。 (どうもこの「目ヂカラ」のイラストを見ていると、わたしが学生のころによく聴いていたTRIUMPHの『Surveillance』(1987)のジャケットを思い出してしまいます…) さて、内容について。タイトルからは大局観や形勢判断の本かと思いがちだが、意外にも定跡の解説がメインである。対象棋力は初段前後で、プロでは現れないが(作戦負けが明らかなので)アマではありそうな局面からの攻め方や、プロでも流行中でアマにも使いこなせそうな戦型をピックアップして解説している。序盤は比較的あっさりと飛ばし、仕掛けの入口から終盤の手前まで、つまり「中盤」の「考え方重視」の書き方になっている。 本書の場合、各節の構成やレイアウトが出色のデキ。まず、各項の冒頭2ページ(右図参照)で、 [上段] 中盤のポイントとなる局面図×3+コメント [下段] ポイント図と比較して好ましくない変化の図×3+コメント を掲示。目指すべき形、避けたい形をハッキリさせている。 その後、考え方重視の解説を進めたあと、各節の最後に「アッくんの目ヂカラ」(半ページの囲み部分)で気をつけるべき点をコンパクトにまとめている。また、章全体の最後には見開き2pで急所の局面をまとめてある。 また、レイアウトもかなり工夫を施されていて、網掛け(指し手の基本変化や図面の一部)、矢印、囲み、図面下の補足コメントなどを駆使して、かなり分かりやすくなっている。(右図をクリックして拡大してみてください) 掲載されている戦法の中から、いくつかピックアップしてみよう。 ・第1章「さばきの感覚三間飛車」 升田式石田流▲7七銀型から▲8六歩の仕掛けは、非常に分かりやすい展開になりやすい。石田流関係の他書にも載っているが、ここ数年で出てきた仕掛けなので、昔ながらの▲7七桂型を指している人は試してみよう。 ・第2章「最強の囲い居飛車穴熊」 △ゴキゲン中飛車に対して、従来は「居飛穴には組みづらい」とされていたが、▲8八銀のハッチを締めずに(▲8八角の余地を残して)右銀を▲5九銀と引く手法が開発された。プロでも比較的最近出てきた指し方だが、アマにも使えこなせそう。詳しく知りたい方は『遠山流中飛車持久戦ガイド』(遠山雄亮,MYCOM,2009.11)を参照のこと。 ・第3章「迫力満点の矢倉戦」 4六銀-3七桂型で、先手が1筋を詰めた場合の攻め筋は基本なので必ずマスターすべし。また、急戦矢倉△5筋交換型で、先手が1筋攻めをする変化はあまり他書に載ってないように思う。(羽生いわく「急戦矢倉の未解決分野は5筋交換型だけ」らしいので(『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?』(梅田望夫,中央公論新社,2010.11))、知識として知っておきたい。) ・第3章「軽快に戦う横歩取り」 横歩取り△8五飛で、持久戦気味になったときの考え方は参考になる。 ・第3章「角換わりの秘策」 同型腰掛け銀の定跡は、「難しくて、シビアで、進化が速くて」の三点セット。定跡書が追いついておらず、なかなかアマにはついていけない。そんなあなたでも「アッくんスペシャル」(右図)なら大丈夫! 同型腰掛け銀模様から、銀を腰掛けた直後に銀をぶつけるだけ。角銀を手持ちにして、打ち込みを狙う。右桂の活用は▲1七桂〜▲2五桂のルート。先手だけ右金を一段金にしておくのがポイントだ。 また、同型角換わりの序盤で、通常は端歩の突き合いが入るが、後手が端を受けなかったときの咎め方も参考になる。プロではまず実戦に現れず、定跡書でも「端を受けないと作戦負けになる」くらいの記述しかない場合が多いが、アマでは後手が先攻したくて端歩を省略することもありそうだ。本書では、スズメ刺しからきっちりつぶすまでが書かれている。 全体的に、感覚や考え方重視の解説がされているので、まったく同一局面でなくても参考になる場合が多いだろう。本書では、仕掛けに入る前の何気ないところで、相手側が緩手を指している場合が多いので、棋力が上がってくると使えなくなる変化も出てくると思うが、むしろそれこそが棋力が上がった証拠。他の専門的な定跡書をガンガン読んで、細かい部分を学んでいけばよいと思う。(2010Dec24) ※誤字・誤植等(第1刷で確認) p37 ×「本譜の明快さに欠けます」 ○「本譜より明快さに欠けます」or「本譜の明快さには劣ります」 ※疑問事項 p65 「C図で△4五同歩は、▲3三角成△同金▲同飛成で居飛車必勝です」とあるが、直後に△4四角(王手龍)▲同龍△同銀となり、スッキリしないのでは?△4五同歩に▲3三飛成△同金▲同角成(後手に角がないので、純粋な飛銀両取り)の方がハッキリすると思う。 p247 (急戦矢倉△5筋交換型で)「△3一玉のような手では・・・(ダメ)」とあるが、△3一玉は2008年12月10日の竜王戦第6局(羽生vs渡辺)で出た渡辺新手そのもの。急戦矢倉の名著『変わり行く現代将棋(下)』(羽生善治,MYCOM,2010.04)では、この手について「(△3一玉以下)▲8三角で飛車を取ることはできますが、△7二角と受けられるとパッとしません。」(p220)とあり、形勢不明としている。 本書で解説されている実戦は2005年4月10日なので、その当時に書かれた原稿であれば仕方ないが、本講座の放送は2010年4月〜9月だし、本書の出版は2010年12月なので、不思議である。 その後△3一玉に結論が出たとはわたしは聞いていない。もしご存知の方がおられましたら、掲示板で教えてください。m(_ _)m |