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広瀬流穴熊 終盤の極意 | [総合評価] A 難易度:★★★☆ 〜★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A- 解説:A 読みやすさ:A- 上級〜有段向き |
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【著 者】 広瀬章人 | ||||
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売 | ||||
発行:2013年9月 | ISBN:978-4-8399-4867-2 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 240ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)礎となった名局 (2)会心の一手で大舞台に (3)第二の故郷で誓う (4)「振り穴の広瀬」が定着 |
【レビュー】 |
穴熊戦の終盤術を解説した本。 広瀬七段は、最近は相居飛車も多く指しているものの、基本的に穴熊のスペシャリストである。居飛穴が得意な棋士は多いものの、振り穴・居飛穴の両方に精通し、他のトップ棋士にもない「穴熊感覚」が備わっているのが広瀬である。特に、一時期は「勝ちにくい」と敬遠されていた四間穴熊を駆使して王位を獲得したのは記憶に新しい。 本書は、広瀬の実戦を題材に、穴熊での終盤戦をなるべく易しく、かつ詳しく解説した本である。 解説は基本的に対談形式。アマ初段レベルに扮した編集者(実際はアマ四段以上と思われる)が、広瀬に質問を投げかけ、広瀬がそれに答えていく形で解説が進んでいく。各テーマでは、広瀬の実戦の中終盤から終局までを解説していき、さらに最後に一局を振り返ってどこがポイントだったを復習する。棋譜(総譜)は巻末にまとめられている。 広瀬の解説は、読みと手筋と大局観を駆使しており、それぞれ明快に言語化されているので、非常に分かりやすい。また、読者が疑問に思いそうなところを聞き手が上手く引き出しており、納得感が高かった。 また、巻末の棋譜はぜひ並べてみてほしい。各テーマの第1図までに至るまでの手順が参考になる。各第1図から広瀬の解説を読み進めたときと、初手から並べたときとでは、局面の印象にズレが感じられることがあるはずだ。テーマ図に至った時点で「これは広瀬が苦しい流れなのでは…」と感じる棋譜がいくつもあるので、「この局面の流れで、広瀬は指せそうだと思っているとは!」と思えれば、本書の価値は倍増する。 ただ惜しい点は、図面のレイアウトがいまいちなところ。オーソドックスなマイナビ将棋BOOKS型のレイアウトで見開き4図面なのだが、変化図面の位置を探しまわったり、スタート図やフィニッシュ図の確認のためにページを戻ったり進んだりする回数がかなり多かった。このため、解説はサクサク読めるのに、なにか突っかかって上手く読み進めない感じがあった。 スペースは余っているので、本文の内容に応じて見開き5〜6図面にしたり、『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』(上野裕和,マイナビ,2012)などに見られるような、図面の位置を矢印で示したりといった工夫が欲しかった。これが、レイアウト・読みやすさがA-になっている理由である。 本書で覚えておきたい内容を列挙してみる。中には穴熊戦に限らない話もあるが、一つでも「えっ」「おっ」と思った方は、ぜひ本文を読んでいただきたい。 〔相穴熊編〕 ・玉の近くに桂香を打って受けるのはダメ (p16, p70, p155など) →これは知らなかった… ・「垂れ歩は金銀一枚の価値に匹敵する」 (p22, p166) ・駒損してでも敵玉を穴熊から引っ張り出す (第1例, p75, 第5例, cf.p157) ・「自分の銀と相手の金を交換する」 (p27) ・相穴熊では(特に)金銀を遊ばせない (p40) ・(敵玉に迫る)▲4三との実現方法を考える (第2例) ・自陣飛車で受けるときは、桂香の目標にならないように注意 (第3例) ・大駒(飛、角)のどちらか一方を働かせる (p57) ・▲5五角(馬)は相穴熊の天王山 (p65) ・桂や香を金銀に変える (p93, p196, p206など) 〔対銀冠編〕 ・(こちらが穴熊で)対銀冠で飛が成れればまずまず (p96) ・崩れた穴熊を▲3九歩でカバーする ※弱点もあるので注意 (p108) 〔相振り編〕 ・「広瀬将棋では(大駒よりも)金が重要な駒」 (p140) →大駒を切るシーンはたびたび見られる。 ・相振りでは、穴熊から脱出して入玉するのも場合によっては有力、いざとなったら3九へ逃げ出すのもあり (p147, p157) ・8三に空間を作る (p154, p210) ・△1五桂or△3五桂が打てる形は詰めろをかけられやすい (p172) 〔居飛穴編〕 ・「相手の玉が薄い場合は大駒の威力が絶大」 (p178) ・(自玉が居飛穴の場合)「相手が穴熊以外の囲いでは最後に攻め合いに持ち込むことができる」(p187) ・「振り穴より居飛穴の方が玉が堅くなりやすい」 (p188) ・「飛車を切る手を常に考える習慣を付けておく」 (p200, p204) ・「多少駒損をしても(相手の)馬を消す」 (p203) ・対端攻めは香を残す (p199, p205) ・「相手を金なしに追い込む」 (p218) 以前に、広瀬が穴熊感覚を語った『とっておきの相穴熊』(広瀬章人,遠藤正樹,MYCOM,2007)という本があった。若手プロ(当時)とベテランアマの二人の穴熊スペシャリストによる対談形式の解説で、すごく面白かった。本書は、『とっておき〜』よりも少しだけ難易度を下げた作りになっているので、本書を読んだ後に併せて『とっておき〜』を読むと、とても参考になると思う。(2013Dec14) |