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矢倉・角換わりの教科書 | [総合評価] B 難易度:★★★ 図面:見開き3枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜上級向き |
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【著 者】 阿久津主税 | ||||
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売 | ||||
発行:978-4-8399-4824-5 | ISBN:978-4-8399-4824-5 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
・【コラム】棋士の日常/印象深い角換わりの将棋/子どものころの話 |
【レビュー】 |
矢倉・角換わりの指南書。「将棋の教科書シリーズ」の第6弾。 「将棋の教科書シリーズ」に、ついに相居飛車が登場した。 アマでは振飛車の人気が高く、相居飛車の出現率は低めである。これは、振飛車が比較的覚えやすく、序盤・中盤・終盤が分かれていて、後手でも比較的指しやすいなどといった、戦法の性格も一因ではある。しかし、「アマには振飛車が人気」というマーケティングのもと、振飛車の本ばかり出して、相居飛車の分かりやすい棋書を出版することを怠ってきた棋書業界にも大いに責任があるだろう。プロの相居飛車の将棋を見てほしいなら、相居飛車の魅力を伝えるような種まきを地道に続ける必要があるのだ。 そこで本書。相居飛車の花形である「矢倉」と「角換わり」を分かりやすく伝える本に仕上がっている。 【本書の構成】 「将棋の教科書」シリーズ共通の特徴として、〔右図〕のような縦串・横串の構造がある。(〔右図〕は同シリーズ『将棋の教科書 振り飛車急戦』(鈴木大介,2012.09)のものだが、基本的な構造は同じ) 通常の本では、「戦法Aを序盤から終盤まで解説してから、戦法Bを序盤から終盤まで解説する」という構造を採る。 一方、本シリーズでは戦法をちゃんぽんにして、序盤・中盤・終盤の3つに章を分けている。序・中・終盤のそれぞれのステージでは考え方が似ているので、戦法で分けるよりもステージで分けた方が理解しやすいというわけだ。 なお、本書では終盤編につながっている変化はごくわずかで、終盤編では矢倉系の囲い崩しの手筋や、寄せ・詰みの解説がなされている。これは、矢倉系の相居飛車では、中終盤の境目があいまいで、仕掛けから一気に終盤になだれ込むことがあるため。中盤編の変化でも、最終盤まで行ってしまっているものもある。 【各戦型の内容】 本書の戦型は、大きく分けて[矢倉]と[角換わり]。 この2つの戦型の共通点は、▲7七銀-▲7八金(△3三銀-△3二金)という矢倉系の囲いを使うことで、相手の飛車先交換を防いでいること。互いに飛車先を交換する相掛かり系と比べて玉が堅いため、それを攻略するためにすべての駒の配置を整えてから仕掛けることが多い。そのため、仕掛けるまではジリジリとした持久戦調、仕掛けてからは一気に激しくなりやすい。 なお、[角換わり]の方が角を手持ちにしているため攻撃力が高い傾向がある。また、▲7一角(△3九角)の筋を防ぐため、基本的には5筋の歩は突かない。 「矢倉編」は、「攻めが理想的に決まる展開を多く解説」(まえがき)。プロで主流の▲4六銀-3七桂には触れない。基本的には、後手の駒組み(反撃態勢)をかなり甘くして、先手が攻め切れる変化を解説していく。これは、矢倉という戦型の特徴として、「自分の攻撃理想形を目指す/相手の理想形を阻止する」という性質があるため、まず「どういう形が理想形なのか」「理想形からどのように攻めるか」を知っておく必要があるためである。 「矢倉編」を大きく分けると、以下の3つになる。 (1) 3筋歩交換から理想形を実現 ▲3七銀戦法で、△6四角と牽制してこない場合、すぐに3筋の歩を交換して、▲3六銀型を実現させよう。 (なお、このパターンが実現すればすぐに勝ちというほど甘くはなく、かつてはプロでも結構試されている。 詳しく知りたい人は『矢倉3七銀分析【上】』(森内俊之,MYCOM,1999)の第2章などを見てみよう。) (2) 加藤流 ▲3七銀戦法から玉を入城したら、▲1六歩と端を打診する。 後手が端を受けたら棒銀、受けなかったら▲2五桂-▲3八飛型を目指す。 (プロの加藤流は、▲1六歩と▲2六歩の2手で様子を見るのが基本。 本書では、後手が端を受けないときはすぐに▲1五歩と形を決めていく) (3) 阿久津流急戦(5筋歩交換) 後手が先攻されるのを嫌って、△5三銀右〜△5五歩と動く形。 矢倉の△急戦はいろいろあるが、ほとんどが対策されており、 (『対急戦矢倉 必勝ガイド』(金井恒太,MYCOM,2010)などを参照) 現在は「後手の急戦矢倉」といえばこのタイプ。 [矢倉編]は、全体的に「こんなイメージで矢倉を指してみてね」という感じになっている。矢倉編のまとめはp80〜81に書かれているので、ここは暗記するつもりで何度も読もう。 [角換わり編]は、矢倉編に比べて、角換わりという戦型を総合して理解できる内容になっている。 まず、角換わりの基本知識として必要なのが、「角換わりの三すくみ」。これは、「棒銀は早繰り銀で対策できる」「早繰り銀は腰掛け銀で対策できる」「腰掛け銀は棒銀で対策できる」という三すくみ状態で、本書ではp96〜97に「ジャンケンポン理論」として書かれている。 「角換わりの三すくみ」は知識として知っている人は多いと思うが、具体的に説明できない人も多いだろう。これまでの角換わりの本は、「▲棒銀(or早繰り銀)の成功例を解説した級位者向けの本」と「プロの相腰掛け銀を解説した有段者向けの本」ばかりだったためである。 本書の[角換わり編]では、「▲早繰り銀vs△腰掛け銀」「▲棒銀vs△早繰り銀」「▲棒銀vs△腰掛け銀」「△棒銀vs▲早繰り銀」を詳しく解説し、棒銀や早繰り銀がいずれも上手くいかないため、結局は「相腰掛け銀」に落ち着くということをキッチリと解説できている。 メインテーマの相腰掛け銀をさらに分けると、以下の4つになる。 (1) 木村定跡 角換わり相腰掛け銀の基本となる攻め方。 (2) 現代式同型腰掛け銀 互いに▲7九玉△3一玉型の同型から仕掛ける。 プロの腰掛け銀といえばこの形。 (本によっては「升田定跡」と書かれているが、本書では別の変化を升田定跡と呼んでいる。 先端定跡はいろいろ本が出ている。→[流行戦型別リスト#角換わり相腰掛け銀]) (3) ▲4五歩位取り型 ▲4五歩から▲4六角と設置し、態勢を整えてから▲5五銀とぶつける筋を狙う。 プロの実戦にも時々現れるが、棋書ではあまり解説されていなかった。 →この筋をマスターすれば、研究将棋と思ってしまいがちな角換わりを指したくなるかも。 (4) △6五歩位取り型 同型腰掛け銀を避けて、プロでもときどきみられる形。 [角換わり編]は、「角換わりの全体像がイメージできる」ような作りになっている。 また、本書の終盤編は、一部を除いて中盤編とリンクしておらず、手筋の解説になっている。中盤編も含めて、本書で学べる手筋はだいたい以下の通り。 〔矢倉〕 ・玉頭の継ぎ歩攻め ・四手角からの矢倉崩し ・棒銀を端攻めで捌く 〔角換わり〕 ・角換わり4筋攻め ・4筋位取りの升田定跡 ・木村定跡の終盤 〔終盤〕 ・歩頭桂の▲2四桂 ・3三への打ち込み ・▲4一銀の引っかけ ・△4三金を狙う ・腹銀 ・継ぎ歩に垂れ歩 ・天野矢倉は端が弱点 ・▲2四歩の突き捨ては常に有効 ・矢倉囲いの詰み 【総括】 本書は、「矢倉の攻め方を知り、角換わりの全体像を俯瞰できる本」といえる。 矢倉編の方は、実戦でここまで後手がゆっくりしてくれることはない。矢倉を指せるようになるためには、急戦の本をあと1刷マスターして、あとは新旧問わずに矢倉の棋譜を並べよう。最新のプロの矢倉の棋譜は▲4六銀-3七桂がほとんどなので、一昔か二昔前の棋譜(中原、米長、加藤の全盛期など)の方が矢倉の感覚をつかめるだろう。 角換わり編の方は、扱っている本自体が少ない現状の中で、全体像を理解できる貴重な存在だ。棒銀対策、早繰り銀対策を理解して、あとは位取り作戦をできるようになっておけば、堂々と角換わりを志向できるようになるだろう。特に「本格居飛車党」と呼ばれるためには、後手番で2手目△8四歩が突きたいところだが、角換わりの後手番が苦にならなければ大きな戦力となる。 本格居飛車党を目指す人には、角換わり編だけでも読んでおきたい一冊。(2013Dec25) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p11A図 ×「△8四歩」 ○「△3四歩」 p13 〔ちょっと疑問点〕5手目▲7七銀に△右四間は無効なのでは?▲6六歩と突いて矢倉にすれば、▲7七銀が目標となって△右四間が厳しくなるが、6筋を突かなければ争点が生まれない。 p66 ×「これ対して」 ○「これに対して」 p120 ×「26ページ第4図以下の指し手A」 ○「28ページ第4図以下の指し手B」 |