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マイナビ将棋BOOKS 中飛車破り 一直線穴熊徹底ガイド |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A- レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 高見泰地 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年8月 | ISBN:978-4-8399-4820-7 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 232ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
中飛車vs一直線穴熊の解説書。 ゴキゲン中飛車への対策は、プロでは現在も超速▲3七銀が本流である。ただ、超速は激しい流れから持久戦まで非常に変化が多く、中飛車側の形によっても複雑な変化があって、なかなか指しこなすのが大変な戦法だ。また、▲中飛車に対しては1手の差が大きく、成立しない形も多い。 それに対して、本書の「一直線穴熊」は、「序盤でつぶされることが絶対にない」(p108)戦法であり、また先手番でも後手番でもほぼ同じ組み方ができるという、とても覚えやすい戦法である。登場した時期は超速と近いが、最近じわじわと使用者が増えてきている。 本書は、対中飛車の一直線穴熊を詳しく解説した本である。 これまでに出版された、一直線穴熊が載っている棋書は以下の通り。ほんの少し触れられているだけの本は除外している。 2009-11 遠山流中飛車持久戦ガイド,遠山雄亮,MYCOM,第3章・第4章 2011-12 ゴキゲン中飛車の急所,村山慈明,浅川書房,第3章2〜3 2012-08 すぐ勝てる!先手中飛車,佐々木慎,マイナビ,第2章第2節 なお、従来の本では「一直線穴熊」という戦法名は使われていないことが多い。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 序章は、居飛車穴熊の利点について。本章で解説されている居飛穴の利点は、以下の通り。 ・堅さ (例: 二枚飛車に対して受けなくてもよい場合さえある) ・遠さ (詰めろがかかるまでに手数がかかる) ・王手がかからない (→「穴熊の暴力」と表現されるような、強引な寄せも成立する) もちろん、「逃げ場がない」などのデメリットもある。 従来、ゴキゲン中飛車に対しては「居飛穴には組みづらい」というのが常識だった。超速で相穴熊になる場合もあるが、それは中飛車側が銀対抗型を選んだ場合のみ。居飛車側から誘導するのは難しかった。 しかし本戦法では、中飛車側の形にほぼ関係なく、安心して居飛穴に組むことができて、上記の利点を生かせるわけである。 「一直線穴熊」は、通常の居飛穴と大きく違う点が2つある。 1つ目は、▲8八銀のハッチをすぐに閉めず、玉のコビンが開いた状態で組んでいくこと。通常は、居飛穴の▲8八銀は「1万円の価値がある」などと表現され、1手の価値が非常に高いのだが、「一直線穴熊」では8八を空けておくことが戦法の根幹になる。 2つ目は、右銀(▲4八銀)を玉に寄せるルートが、▲5九銀〜▲6八銀右となること。通常の居飛穴では、右銀の動きは▲5七銀〜▲6六銀(松尾流穴熊では▲6八銀)であるが、「一直線穴熊」では5五の位を取られているので、▲5七銀のルートは使わない。 第1章は、▲一直線穴熊vs△ゴキゲン中飛車。 一直線穴熊の手順を箇条書きにしてみた。なお、相手が美濃囲いの場合と、相穴熊の場合では、途中から少し違いがあるので、分けている。 〔共通〕 ・まず▲7八玉〜▲5八金右と舟囲いを作る (※超速の形にはしない) ・▲6六歩〜▲6七金として、5筋歩交換を防ぐ。 →早い△4五銀は大丈夫。次の△5六歩には対策があって、5筋は突破されない。 →通常は「△4五銀と上がらせないこと」(p30)が大事。 〔vs美濃囲い〕 ・穴熊に潜ったら、すぐにハッチを閉めず、▲3八飛と3筋歩交換を見せて、△4四角▲4六歩の交換を入れて△4五銀を防いでから、▲8八銀〜▲5九銀〜▲6八銀と固める。 ・「囲い終わってから▲2八飛と戻す」(p33) ・「囲うまでは動かれないように」「囲ったらとにかく攻める」(p49) 〔vs振り穴〕 ・穴熊に潜ったら、すぐにハッチを閉めず、▲8八角と引く余地を残す。 →7筋の袖飛車攻めが来たときに、△7六歩の押さえに対して▲8八角とできるようにしておく。 「相穴熊のときは▲8八銀はとにかく後回しで、7筋が大丈夫な時に上がる」(p59) ・「相手の出方が分かるまで穴熊に淡々と組む」(p86) ・△4四飛〜△4五飛に注意。 ・▲8六角と出る手を意識しておく。 ・「相手の駒組みによっては迅速に動く」(p121) 特にp24〜の「素早い△4五銀対策」、p41〜の「矢倉流中飛車型対策」、p51〜の「袖飛車対策」(→一直線穴熊のキモ)は基本となるので、しっかりと理解しておこう。 第2章は、▲中飛車vs△一直線穴熊。 穴熊への組み方は、なんと先手番と同じである。先手からの速攻が上手くいかないため、後手番でも安心して組んでよい。後手番なので先攻はしづらいが、チャンスがあれば狙ってよいし、後手番ならではの千日手狙いも可能だ。 ポイントとしては、△9四歩をなるべく指さないで済ますこと。△9四歩は、▲9五角(幽霊角)を消す「居飛車の税金」であるが、1筋方向で立ち遅れないように、可能な限り省略したいので、安易に突かないことを心掛ける。 以上のように、居飛穴に組むのは簡単なので、中飛車に対してどうしても居飛穴に組みたい人には超オススメ。中飛車殺しのスペシャリストになりたい人は、今がチャンスだ。 ただし、玉のコビンが空いていたり、相手の攻撃を浮き飛車で軽く受けたりと、従来の居飛穴戦にはない独特の感覚は必要になってくる。本書では感覚的な部分の解説も多いので、読み込んでおきたい。 基本定跡は本書で書かれているが、あるところから奥はまだ未整備。やや異感覚な部分もあり、やりがいのある戦型だと思う。 ちなみに、わたしはこの間の職団戦で中飛車側を持ってみたが、本書を読んでいたおかげで基本的な変化の読みが正確にできたし、居飛車側がやりたそうな手も察知できて、貴重な一勝を挙げることができた。中飛車側も、対策の意味で読んでおくべき一冊である。(2013Dec09) |