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南の右玉 MINAMI'S MIGIGYOKU |
[総合評価] C 難易度:★★★★ 図面:見開き5〜6枚 内容:(質)B(量)B レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 南芳一 | ||||
【出版社】 日本将棋連盟/発行 毎日コミュニケーションズ/販売 | ||||
発行:2011年9月 | ISBN:978-4-8399-4045-4 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 232ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
南流の後手番戦術の解説書。 南九段といえば、「55年組」(cf. Wikipedia)の一角として、かつて大活躍した棋士である。特に、1987年から1991年にかけてタイトルを通算7期獲得しており、「55年組」の中では一番多い。また、竜王戦1組連続16期、A級9期など輝かしい棋歴を持つ。 その棋風は重厚で、対局中に正座を崩さず、ほとんど動かないことから「地蔵流」と呼ばれる。得意戦法は、矢倉と相掛かりのイメージが強い。(米長がタイトル戦で「横歩も取れない男に負けるわけにいかない」と南を挑発したのは有名) その南が、最近はユニークな戦法を駆使しているという。 後手番専用になるが、初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△9四歩〔右図〕。何の変哲もないノーマル振飛車の出だしに見えるが、8手目に△9四歩と打診するのが南流である。 本書は、その「南流後手番戦術」を南自身の実戦例23局を題材に解説した本である。 先手の方針はいくつか分岐点がある。 (1)9筋を受けるか受けないか ▲9六歩と挨拶すれば、居飛穴にはしにくい。また、ガッチリとした矢倉戦にもしづらい(棒銀で端を狙われやすい)。後手はウソ矢倉も視野に入れておくが、先手が堅く囲えないとみて、南流では△右玉を選択することが多い。 (2)玉を二段玉にするか、一段玉にするか 早めに二段玉(舟囲い)の形を決めた場合、何もなければ囲いがスムーズだが、後手が袖飛車で玉頭を狙ってくることがある。 ただし、これらの分岐点は戦型を完全に決定付けるものではない。〔下図〕に9手目の指し手と戦型を示してみたが、先手の対応と後手の気分次第で展開が変わっていく。なお、タイトルは「南の右玉」となっているが、大きく分けて「矢倉模様vs右玉」「陽動振飛車」「袖飛車」の3種類+αの展開がある。 さて、本書には残念な点が2つある。 ・総譜が載っていない。 本書では合計23局が初手から解説されているが、中盤で解説が打ち切られている。優劣がハッキリしたところまで解説したものもいくつかあるが、大半は難しい局面で終わっている。 総譜が載っていないのは個人的に大きなマイナス。例えば、分かれでは「後手良し」となった局面でも、大きな疑問手なしで逆転しているなら「実戦的にはいい勝負」と判断できる。また、「後手良し」からの勝ち方も重要だ。斬り合いで一手勝ちを目指すのか、網を破られないように押さえ込むのかで、各人の優劣判断も変わってくるだろう。 なお、同様の構成を採っている『高田流新感覚振り飛車破り』(高田尚平,MYCOM,2000)では、巻末に終局までの棋譜が解説付きで添えられているし、『康光流四間飛車破り 居飛車穴熊VS藤井システム』(佐藤康光,日本将棋連盟,1999)などでは巻末に総譜が載っている。 実戦解説である以上、総譜を載せるのはマストだと思う。23局すべて並べてみたが、どうにも消化不良だ。 ・対局日時、対局者名などの対局データが載っていない。 序盤の早い端歩突きを受けるかどうかは、他の戦法の結論も影響してくる。近年では、特に△藤井システムの状況がどうだったかは重要だ。△藤井システムに対して先手が自信のある時期ならば端歩を受けずに居飛穴に潜ろうとするだろうし、自信のない時期ならば端を突き合う展開が多くなるだろう。 本書では対局日時が載っていないため、背景にある他の戦法の状況がまったく分からない。また、対局者名が載っていないため、南流に対して妥協したのか、得意だから飛び込んだ展開なのかも推測ができない。 その他、持時間や各手の考慮時間も重要なファクターだ。じっくり考えた末の結論なのか、時間がないからエイヤーで行ったのか、消費時間から推測することができるからだ。 このような対局データがないのは残念。総譜が載っていないことに比べれば、やや軽い不満なのだが…。 ・〔気になる点〕先手が▲2五歩と早く突き越している 先手が5手目に▲2五歩と飛先を突き越しているが、基本的には後手が居飛車党だという前提で突かれている。さらに対向飛車に自信がなければ突き越すことができない。居飛車党相手に飛先を保留すると、ウソ矢倉にされて、後手だけ飛先不突き矢倉になるのが不満だということだ。 しかし、アマで4手目に角道を止める人は圧倒的に振飛車党が多く、この展開での5手目はほとんど▲4八銀ではないだろうか。つまり、この南流後手番戦術は、相手が自分の棋風を知っているのが前提でないと使いにくいのだ。 右玉や陽動振飛車の実戦的な戦い方を学びたい人には貴重な教材……となるはずが不十分だし、戦術自体がアマでは使いどころが難しいし、南流をプロの実戦で見かけるのもなかなか機会がないし…。それでも、あと少し「行き届いて」いれば、それなりに満足できたはずだった。個人的にはいろいろと不満な一冊だ。 「なるべく後出しをする」という戦術を学ぶには、一読の価値はある。また、周りの人が使っていない作戦で戦いたい人も参考にしてほしい。(2011Oct22) |