高田流の解説書。1999年10月〜2000年4月に「週刊将棋」に連載された講座を大幅に加筆・再構成したもの。
高田流は、基本的には対四間飛車の作戦である。元々の狙いは玉頭位取りで、天敵である△4四銀型を防ぐために序盤から工夫を凝らしている。
四間側は、あっさり玉頭位取りの理想形にされるわけにはいかないので、さまざまな反発をしてくる。それに対応すると、相振り型も含めて非常にバリエーションが出てくるのが高田流の特徴。一見、力戦のように見えるが、いくつかの思想が込められており、ある程度のパターンが出てくる。
本書は、高田流の考え方を、高田の実戦20局をベースに解説したものである。
高田流の基本的な流れを見ていこう。
高田がこの戦法を開発したきっかけは、玉頭位取り対策の△4四銀型に対し、▲4八飛と利かされるのを防ぎたかったこと。「6筋の位取りを目指し(中略)△5四銀型を強要」(p10)すれば、少なくとも▲4八飛の利かされを回避することができる。
高田流は基本的には対四間飛車用の戦法となる。その理由は、▲5七銀型が四間飛車に相性が良く(4筋を守っている)、また振飛車の左銀が5三に来ないので、6・7筋の位に働きかけてこないため。
振飛車側の対応はいろいろある。
・それでも△4四銀型を目指す
・居玉で6筋で激突
・相振飛車模様
〔変幻位取り戦法のポイント〕
・四間飛車に振るのを見たら、9筋(振飛車の玉側)の端歩は早めに打診する。
・居玉のまま▲5七銀と▲7八銀を上がる。どちらが先でも有力。左銀は▲6八銀上もある。
・次に▲6六歩で6筋位取りを目指す。後手は△6四歩or△5四銀or△4五歩が有力手。
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・△6四歩と6筋を保ってきたら、▲6七銀〜▲7五歩〜▲7六銀と7筋の位を取る。6筋か7筋のどちらかの位を取るのが急所。
・▲5七銀と▲7六銀の並びが基本形。二枚銀で広い利きを持たせる。ただし駒の連結がないので、このままでは中終盤に「離れ駒」になってしまうことに注意。(序盤の好形と終盤の好形についてはp22〜25を参照。)
・6筋歩交換を防いで△5四銀なら、△4四銀型を阻止できたので、穏やかに玉を囲う。▲2五歩△3三角を決めてから▲6八玉が堅実。飛先不突き型なら、▲6八飛から6筋での決戦もあり。
・玉頭位取りに穏やかに囲えたら、機を見て▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲6五歩の仕掛けを狙う。
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・序盤で△4四銀ときたら、▲6五歩△同歩▲7六銀〜▲6八飛。この後、後手は非常に囲いにくい。(※放っておくと木村美濃くらいにはされてしまうので、居飛車の方が囲えているうちに戦端を開く。居飛車は▲7八金〜▲7九玉で良い。6筋の歩が切れているので、終盤に底歩▲6九歩もある。居玉での▲6五歩は常に考えておく。
・6筋位取りを牽制して△4五歩でも、基本形を狙う。途中は▲7七銀(p40)や▲6七銀(p57)もある。
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・7筋の位に反発されたら▲7八飛もある。二段目を素通しにしている効果。
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・「▲5七銀、▲6七銀の形からは▲6五歩と位を取る手が成立することが多い」(p58)
・後手居飛車だと飛先不突きになりやすい。飛を横に使うことを意識しておく。例えば、角交換を要求して角交換相振飛車にする、など。
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また、第2部では「左玉戦法」を解説している。「左玉」は、「相居飛車での右玉」と同じ意味で、「相振飛車での左玉」ということ。玉頭位取りでの地下鉄飛車の展開を、最初から狙っていく。
「左玉」の形は、松浦隆一や田丸昇が指していた。高田流では、ダイレクトに飛を転回させる。相手が振飛車穴熊のときに特に有効となる。
「左玉」は第1部の「変幻位取り戦法」とセットの作戦となるが、普通の相振飛車から狙うこともできる。
〔左玉戦法のポイント〕
・相振り型なので、序盤の飛先不突きは必須。(序盤で▲2六歩を突いている状態で相振りにすると、▲2六歩が負担になる。)
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・相手が振り穴模様なら、6筋の位が取れる。→▲6六角の形を作る〔右図〕→▲7七桂(後でもよい)→▲8八飛→歩交換から▲8九飛。
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・矢倉や角換わりの右玉と違い、相手は穴熊なので、左玉の玉頭や玉側の端から攻められることはほとんどない。
・千日手OKの姿勢で。飛先不突きも条件なので、後手番向き。
・相振りからの左玉のときは、▲6六角型でなく引き角もあり。
・相振りでの穴熊には相性が良いが、対矢倉は課題。
・角交換は歓迎。
・▲3八金で右辺を守る形が多い。この金をどう活用するかは常に意識する。(2014年ごろから流行し始めた中飛車左穴熊と少し似たところがある) |
実戦をベースにした解説なので、チャートにするのは難しかった。本作戦の急所を理解するには、解説を読みながら棋譜を並べていくのが基本となる。特に、一部の解説は図面なしでギュッと圧縮されているので、頭の中だけで理解するのは大変。感覚を映像として理解するためにも、棋譜並べをオススメする。
また、序盤のポイントとなるような指し方は、各解説の中に散りばめられている。そのため、自分が気になる箇所は、後ですぐに見られるように付箋を貼っておくか、コピーを取るような読み方が良いだろう。
なお、本編の棋譜は中盤の岐れまで。続きは巻末にまとめられている。巻末棋譜にも中終盤の解説は付いているので、ちゃんと終局まで並べておきたい。
多少の読みづらさがあった(前の図面を見直すためにページを何度も繰る必要がある)ためBとしてはいるが、他人と違った戦法を指したい人にはオススメの一冊。
特に、最近は玉頭位取りを見直す動きがあったり(たとえば将棋世界2016年7月号の渡辺明vs中原誠の対談記事)、四間飛車藤井システムの復活気配があったりするので、高田流の再評価があるかも?(2016Jun21)
※誤字・誤植等(第1刷で確認):
p10上段 △「出合いました」 ○「出会いました」
p32上段 ×「平成2年6月。」 ○「平成2年2月。」(※巻末の棋譜が正しいとすれば)
p171下段 ×「▲3二角で▲4六同金…」 ○「▲3二角で▲4六同角…」
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