zoom |
プロ最前線シリーズ 最新の振り飛車対策 |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
||
【著 者】 深浦康市 | ||||
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売 | ||||
発行:2011年10月 | ISBN:978-4-8399-3986-1 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
角交換系振飛車の定跡書。 本書の内容は、8割が△ゴキゲン中飛車で、残りが2手目△3二飛と4手目△4二飛。基本的には、深浦が有力だと考えている変化に絞られている。そのため、網羅型ではないが、考え方や著者の見解がしっかり述べられている。 本書に限った話ではないが、対中飛車戦の原則がいくつかある。 ・「△5五歩と△3三角の2手を指させてはいけない」(p11) → 5筋位取り中飛車にされて、先手の主張点がなくなる ・中飛車側に角交換と5筋歩交換の両方を許さない → 中飛車の攻撃力が上がる ⇒∴何かを譲歩したら、別の何かで主張点が必要 中飛車の定跡書では、これらの点に注意して読んでいきたい。 では、各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章は、△ゴキゲン中飛車に▲7八金と構える形。先手は囲いの自由度を下げる代わりに、飛先の交換を目指している。▲2四飛と走ったときに、角交換から△3三角の反撃がないのだ。反面、対振飛車の定番である舟囲いには組めず、銀冠を目指す場合は一時的に愚形になり、居飛穴を目指す場合は矢倉から潜ることになる。玉の囲い方には工夫が必要だ。 この形では、馬作りの変化(p31〜)がかなり指されたが、思ったより馬の活用が難しく、駒組みを進めた方がよいというのが本書の見解。「馬vs持ち角」については、他の戦型でもかなり価値観の分かれるところなので、本章を参考にして自分なりの意見を持ちたい。 第2章は、△ゴキゲン中飛車vs▲5八金超急戦。▲7五角型と、渡辺新手の2つがメイン。▲7五角型が消えた理由は、『遠山流中飛車急戦ガイド』(遠山雄亮,MYCOM,2010.07)とほぼ同じ。渡辺新手については、△7一玉の後は『速攻!ゴキゲン中飛車破り』(中村太地,MYCOM,2011.09)とは違う変化が本線になっているが、結論は同様で「後手が指せている、先手の新手待ち」という状態だ。 第3章は、△ゴキゲン中飛車vs▲二枚銀。▲4七銀型で5筋歩交換を抑え、左銀を▲7七銀〜▲6六銀と繰り出して5五歩を取ってしまう手を見せる。また、▲3六銀〜▲4五銀の角頭攻めもある。押さえ込み狙いなので、ジックリ型の人に向いている。また、本章の結論も「いい勝負」または「難解」なので、力を出し切りたい人にもオススメ。 最近のプロではあまり流行っていないが、超速に目が向いているためだろう。アマが得意形にするなら、本書の中で一番オススメだと思う。 第4章は、△ゴキゲン中飛車vs▲丸山ワクチン。角交換後に9筋を突き合う「佐藤新手」だ。一見すると力将棋になりそうだが、実はかなり長手数まで定跡化されてきており、案外仕掛けの間口は狭い。 本章の戦型については、『よくわかる角交換振り飛車』(横山泰明,MYCOM,2011.08)の方が量も多くて分かりやすいと思う。 第5章は、△ゴキゲン中飛車vs▲超速。プロで大流行中の戦型だ。先手は▲6八玉のまま▲3七銀〜▲4六銀とすばやく上がり、にらみを利かす。後手の形の組み合わせはいろいろあるが、本書では「△7二玉-△3二銀型」と「美濃囲い△3二金型での決戦」をメインに解説。この2つは、深浦が有力だと思っている形だ。 本章は本書の中でページ数が一番多いが、超速については、『速攻!ゴキゲン中飛車破り』(中村太地,MYCOM,2011.09)が量・網羅度・分かりやすさともに圧倒している。 第6章は、2手目△3二飛。▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩の出だしでは、後手が石田流に組むのは難しい。△4二飛と途中下車すれば(3・4・3戦法)戦えるが、後手でさらに手損。ところが、2手目△3二飛では、普通に指せば後手は少なくとも升田式石田流に組めることになり、かなり有力視されている。 先手としては、3手目▲9六歩が有力で、△9四歩なら深浦自身が指した王位戦第2局(▲深浦 △羽生,2008.07.23)がほぼ決定版になっており、先手良し。この将棋は、本書の実戦編でも詳しく解説されている。実戦的にはかなり難解だ。 また、後手が9筋を詰められるのを甘受して石田流を目指した場合、先手の得がハッキリしない。というわけで、現在の対策は「最近は振り飛車党相手に初手▲2六歩と突く棋士が増えている」(p158)らしい。不特定の相手と当たるアマチュアには使いづらい対策だが、どうしても2手目△3二飛が嫌な人は、初手▲2六歩も一策。 なお、「2手目△3二飛-4手目△4二銀」は本書ではノータッチ。 第7章は、4手目△4二飛。最近は藤井猛九段が得意にしている。狙いは角交換振飛車。 第8章は、深浦の実戦譜を11局解説。本文の内容とリンクしており、参照すべきページも載っている。本書では、同シリーズの既刊と違い、1局につき4pで解説。総譜は巻末にまとめられており、総譜にも将棋年鑑と同じくらいの解説が添えられている。 1局の解説量が倍増したのはよいが、参考棋譜数が半減したのが個人的には残念。このシリーズでは、類型をたくさん並べられるのが魅力だったので、どちらかと言えば実戦解説部を減らしてでも参考棋譜を増やしてほしいくらいである。例えば、「前局では○○としたが、△△だったので、本局では□□を採用した」というように、著者が考えている有力な作戦がどのように推移していったかを見たいのである。この辺は完全に好みの問題だとは思う。 この1年で中飛車の本は続々刊行されており、各章の内容の上位互換になっている本がいくつかあるため、本書はやや中途半端な感じがした。決して質は悪くないので、他に類書が出ていない状態ならば、Aでもいいかな、という感じなのだが、中飛車本の刊行も大流行の現状ではBにとどめておく。(2011Oct30) |