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マイコミ将棋BOOKS よくわかる角換わり |
[総合評価] A 難易度:★★★ 〜★★★★ 図面:見開き4〜6枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜有段向き |
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【著 者】 西尾明 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2011年8月 | ISBN:978-4-8399-3985-4 | |||
定価:1,470円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
角換わりの総合指南書。「よくわかるシリーズ」の第3弾。純正角換わりと一手損角換わりを手広く解説。 角換わりは戦前から指されている戦法だが、一時の浮き沈みはあっても、現代までプロの本格居飛車党の間で好んで指されている。純正角換わりは▲7六歩△8四歩からスタートするため、角換わりの成否は矢倉の採用率にも大きな影響を与える。2011年現在は、純正角換わりの同型腰掛け銀がかなり煮詰まってきており、後手が変化技を探している段階である。 また、ここ数年で指されるようになった「一手損角換わり」は、▲7六歩△3四歩という出だしで、△8八角成▲同銀という「後手の手損」が生じる角交換将棋である。当初は「後手で手損して良いわけがない」と顧みられなかったが、次第に見方が変わり、「△8五桂の余地が残っている」ことが認知されるに至り、純正角換わりとは似て非なる戦法だということが分かった。先後の飛先の歩の位置の組み合わせによってパターンも多く、現在では居飛車党の重要な選択肢の一つになっている。 ただ、角換わりはアマには人気のない戦法である。元々は「互いの合意が必要」「難解で研究勝負or知識勝負」「そもそもこの戦型にならない」などの理由で不人気だったが、「人気がない→棋書の売上見込みが低い→出版が企画されない→指したくても参考棋書がない→ますます人気がなくなる…」のスパイラルに陥っていた。一方で、プロ将棋の中継などが増え、角換わりの露出が増えるに従って、興味を持っているアマも少なからず存在した。 本書は、そのような期待に応えるべく、角換わり戦法を基本から解説した本である。 各章の内容をチャートを交えて紹介していこう。 第1章は、純正角換わりで腰掛け銀以外の戦型。現在のプロ将棋ではあまり指されていないが、1980年代ごろまでは盛んに指された。 ・棒銀 級位者向けの本では、先手の攻め方だけ載っていることが多いが、本書では後手の正しい受け方も解説。▲1五歩△同歩▲同銀の端攻めは、正しく受ければ後手ペース。△5四角vs▲3八角(升田新手)はいい勝負。 ・早繰り銀 ▲早繰り銀は△腰掛け銀で止めれば後手良し。一手損でも似た形が出てくるので、ここはマスターしておきたい。なお、30年ほど前に盛んに指された相早繰り銀は、本書では触れられていない。 ここまで読めば、「角換わりは、[棒銀]・[腰掛け銀]・[早繰り銀]がジャンケンのグー・チョキ・パーに関係にある」ということが理解できるだろう。 ・△右玉 特殊な部類の作戦。先手が攻める場所から玉を遠ざけておき、カウンターを狙う。後手が手待ちし続けるなら、▲地下鉄飛車で先手良し。後手が3筋から動いてくるなら、的確に対応すれば局面が収まる。 ・△棒銀 ▲棒銀があまり上手くいかないのに、後手で上手くいくはずが…と思うところだが、▲4六歩を見てから△棒銀にするのがミソ。[棒銀]>[腰掛け銀]の関係を利用する。先手は早繰り銀+▲5六角の形を作れないのだ。ただし、後手がすぐ仕掛けるのは無理筋なので、駒組みを進めて、持久戦志向で互角。後手の苦労も多い。 第2章は、純正角換わりの同型腰掛け銀。第1章の作戦はどれもなかなか良くならないので、腰掛け銀だけが生き残ったわけだ。 ベースとなるのは木村定跡(▲8八玉△2二玉に▲4五歩)。完成された先手必勝定跡で、すべての基本になっている。ただし、詳しく解説された棋書は少なく、『羽生の頭脳 7』(羽生善治,日本将棋連盟,1993)にもほとんど載っていない。たとえ実戦に出なくても、ここは熟読してしっかりマスターしたい。 次は後手の先攻型(▲8八玉に△6五歩)。木村定跡の1手前の形で、後手が先に仕掛けてくる形だ。これまでの本では、「後手が木村定跡と同じように攻めて後手良し」とあっさり書かれていることがほとんどだったが、実はそう簡単ではない。後手3一玉が露出しているので、最後まで同じように攻めると最後に飛で両取りをかけられ、攻め駒を抜かれてしまうのだ。本書では途中から攻め方を変えるところまでちゃんと解説されているのが出色。 そして現代型(▲7九玉-△3一玉型で▲4五歩)。前の2項で「同型で玉を入城する手は悪手」と分かったので、この仕掛けになる。本項も木村定跡と比較しながら解説していく。 △3一玉型と△2二玉型の大きな違いは、 ・上からの当たりはやや緩和されている ・端の守りは手薄。その代わり、端攻めの当たりはやや弱い ・△4一角の筋はない 木村定跡で後手の本筋だった△6三角は簡単に先手が良くなる。しかし、木村定跡と同じ仕掛けなら後手も戦えるので、先手は1筋も突き捨てる。▲1一角の筋は後手も戦えるようになったが、▲3四歩と取り込んでから▲1一角が最新型で、後手がかなり苦しくなっている。 同型が苦しいので、攻め合い型(▲4五歩△同歩▲3五歩に△6五歩と反撃)が出てくる。一気にカウンターが決まるわけではないが、アヤをつけておくことで局面を複雑化しておく。 最後は「世に伊那さんあり」(歩を突き捨てる筋の順番が42173)で、攻め合い型を封じるための歩突き順。ここ数年で多く指されている。順当に行けば後手の変化球を封じて現代型に合流できるが、別の変化球が生じてくる。 第3章と第4章は、一手損角換わり。わずか1手の手損で、似て非なる世界が誕生した。純正角換わりの知識や手筋は応用できるが、仕掛けの研究などはやり直しになる。 まず第3章は、一手損角換わりの相腰掛銀。△8五桂の余地があるため、▲7五歩の突き捨てが入らず、木村定跡など従来型の仕掛けが成立しない。代わりに▲8八玉と入城できるが、△6九銀の割り打ちが発生したり、上からの当たりもきつくなるなど、後手のカウンター力が強い。 第4章は、一手損角換わりで腰掛け銀以外の戦型。腰掛け銀で良くするのが難しいので、先手は他の作戦を考えることになる。△8五桂の余地を利点とさせず、手損を咎めたいのだ。ここで、純正では廃れた戦型が復活してくるのが面白い。 ・早繰り銀 1手損のため、後手はすぐに継ぎ歩の反撃ができないのが大きな違い。後手の対応次第では、陣形を崩して作戦勝ちを狙ったり、長い駒組みになったり、大決戦になったり、といろいろな展開がある。さらに詳しく知りたい人はこちらの棋書を参照。 ・棒銀 純正との違いは、 ・△8五歩が伸びていないので、△7三銀型の受けはイマイチ。 ・逆に▲8四香〜▲6六角の筋がない。 ・▲6八玉が入っていると、△1六歩の反撃はイマイチ。 というわけで、純正ではあまり見られなかったが、3筋からの仕掛けに一定の効果が期待できる。後手は四間飛車で受けることが多いが、先手はさらに居飛穴に潜るのが有力。 ・▲右玉 1手の遅れを咎め、先手が1筋の位を取って右玉にする。純正での△右玉と違って、玉が広く、地下鉄飛車の脅威もやや緩和されている。後手は位の圧力を避けて居飛穴に潜るのが有力。 本書は次のような大きな長所がある。 ・純正角換わりと一手損角換わりを見事にリンク ・木村定跡をベースとし、関連する変化を分かりやすく解説 ・ココセ定跡ではなく、対策のできている形はしっかりと押さえている なお、本書では、序盤の飛先交換の成否についてはほとんど書かれていない(そもそも現代の▲2六歩で保留する角換わりでは問題にならない)。また、個人的には、角換わりの頻出手筋集(『よくわかる振り飛車穴熊』(佐藤和俊,MYCOM,2011.05)の第3章のようなもの)や、角換わりの構造を書いたまとめページなどがあるとさらに良かった。 級位者向きとはいえないが、初段〜三段くらいで「角換わりは何をやっているのかよく分からない」という人にはオススメの一冊だ。これで角換わりのファン……とまで行かずとも、角換わりの理解者が増えるといいなぁ。(2011Aug30) ※誤植・誤字等(初版第1刷で確認): p84 ×「▲4五歩△同歩▲4五銀打と攻められて」 ○「▲4六歩△同歩▲4五銀打と攻められて」 p115 ×「第22図以下の指し手A」 ○「第22図以下の指し手B」 p179 ×「持久戦志向でいい勝負したが」 ○「持久戦志向でいい勝負でしたが」 |