zoom |
将棋最強ブックス 勝てる棒銀戦法 |
[総合評価] B 難易度:★★☆ 〜★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜有段向き |
||
【著 者】 青野照市 | ||||
【出版社】 創元社 | ||||
発行:2011年11月 | ISBN:978-4-422-75136-8 | |||
定価:1,365円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
棒銀戦法の解説書。 青野はたくさんの棒銀本を書いているが、本書に載っている4つの戦型は、いずれも本流から少し外れたもの。詳しくは各章の紹介にて後述します。 内容紹介には「相手が初心者の場合から有段者の場合まで幅広く想定」とあるが、第1章以外はそこまで棋力の幅が広い訳ではない。第一感で考えそうな対策から順に修正しながら検討していくというスタイルで、定跡書ではよくあるパターンである。そのため、「自分は初級者だけど読めるかも」と思って飛びつくと、第1章の前半だけで挫折ということになりかねないので注意されたし。 各章の内容を、チャートを添えて紹介していこう。 第1章は、相掛かり▲棒銀。初級者向けの教科書本によく載っている一方で、プロでも指されている戦法だ。飛車先の突破や、銀交換後の指し方はこの戦型で解説されることが多い。上級になってくると、単純な突破はできないので、慎重に駒組みを進めることになる。 A:後手が初級者の場合 → 無策なので棒銀で飛車先突破 B:後手が中級者の場合 → 矢倉で守ってくるので銀交換。角も交換できるようにして、角銀を手持ちにする。狙いは、1筋を伸ばしてから(1)▲1四歩△同歩▲1三歩〜▲1二銀、(2)▲6一角〜▲8三銀、(3)▲7一銀〜▲6一角のコンビネーション、(4)右桂を跳ねて1筋攻め、など。多くの本では、原始棒銀の成功例は「銀交換後に端攻め」しか載ってない場合が多いので、ここはちゃんとマスターしておきたい。 C:後手が上級者の場合 → 浮き飛車(△8四歩)で棒銀シフトを敷いてくる。角交換から後手が菊水矢倉に組んだとき、プロでは先手が陣形勝ちを狙う指し方が多いが、本章では▲1七桂から積極的に桂交換を狙っていく。3七にスペースを空けないのがポイント。なお、この動きは△3一玉型では成立しないので注意(p30に示唆してある)。 初級から有段者まで使える戦法なのだが、残念なことにアマで相掛かりになる確率は非常に低い。わたしの経験では、自分が毎回初手▲2六歩と指しても、相掛かりになるのは10回に1回くらいだった。後手の有力作戦がほとんどないのが原因だろう。 第2章は、速攻矢倉棒銀。矢倉の速攻棒銀といえば、後手の居玉棒銀を思い浮かべるが、本章の戦法は別物。図のように、早囲いの形を作ってから棒銀で攻めていく。(※1)▲3六歩を突いておらず、藤井流早囲いとも違うようだ。なお、△居玉棒銀は『最新 棒銀戦法』(青野照市,創元社,2001)で詳解されている。 序盤で5手目▲7七銀としておくのも細かいポイント。後手の急戦策を限定(※2)し、右四間飛車や居玉棒銀をさせないため。 後手の対応は、角換わり棒銀のときと似たものが考えられるが、角交換していないために、角換わりでは有力な△5四角がない。仕掛けのタイミング、自玉を囲うタイミングを計りながら指していくので、手順を暗記するよりも感覚を吸収するほうがよいだろう。 なお、後手の攻撃形は△6四銀型に統一されている。「△6三銀型なら角筋が止まっている分、本譜よりやさしい」(p63)とのことだが、形が違う場合は後の攻撃が成立するかどうかを慎重に読もう。 この戦法は結構使えそうな感じがしたが、猪突猛進で攻め潰す訳ではなく、後手からもかなり反撃されるので、意外と受け棋風の人の方が得意にしやすいかもしれない。 第3章は、対四間飛車(美濃)の棒銀。最もオーソドックスな▲5七銀型ではなく、▲6八銀型のまま仕掛けるのが本章の特徴。もちろん一長一短がある。 〔長所〕 ・▲5七銀型より2手早い ・端(9筋)に角を成られたときに▲7七銀とできる 〔短所〕 ・4筋の守りが薄い ・△6四角に▲4六歩と受けられない(▲5七銀がいないので) この戦型は、載っている本がなかなか見当たらない。▲6八銀型は『四間飛車の急所(3) 急戦大全【下】』(藤井猛,浅川書房,2004)に少しだけ載っているが、同一局面はない。▲4六歩△1二香の交換も省いてあるのが本書の工夫だ。▲4六歩は棒銀にはいずれ必要な一手であるが、仕掛け後に必要になってから突けばよいというのが本書の主張である。この形自体は見たような記憶があるのだが、手持ちの棋書や過去レビューを探してみても見つけることができなかった。 第4章は、対四間飛車穴熊の棒銀。▲6八銀型で棒銀に行くのが特徴で、『四間飛車穴熊の急所』(広瀬章人,浅川書房,2011.04)では「スピード棒銀」として解説された形だ。『〜急所』と大きく違う点は、△3二銀型で待機されて▲3五歩に△4五歩と角道ポンされたときに、▲5七金と上がるところ(p207以降を参照。『〜急所』では▲5七銀だった)。 タイトルの「勝てる棒銀戦法」と聞くと、必勝作戦(≒相手の対応に問題がある場合が多い)のように思ってしまうので、本書に載っているのは「新しい棒銀戦法」だと考えよう。どちらかといえば、「これから棒銀を得意戦法にしたい」という人よりは、「棒銀が得意戦法だけど、いつもとちょっと違うものもレパートリーに加えたい」という人向けだと思う。(2011Nov29) ※1 ^ 私はこの形を初めて見ました。プロの棋譜など、なにかご存知の方がおられましたら、掲示板で教えていただけると助かります。m(_ _)m →〔2012Apr06追記〕2012/04/02 afroblue2001さんより、「類似形の実戦例がいくつかある」と教えていただきました。 先手で指した例: 1993年7月30日 ▲浦野真彦六段 △中村修七段(順位戦B2) 後手で指した例: 1967年9月4日 ▲中原誠 △二見敬三(順位戦) 1996年10月5日 ▲東和男 △内藤国雄(棋聖戦) 2009年2月9日 ▲中村太地 △阿部健次郎(新人王戦) など 以下、afroblue2001さんの投稿より: =========================== 柿木将棋の棋譜データベース機能を使い ▲7六歩▲7七銀▲6九金▲7九角▲5六歩▲5九玉▲4七歩▲3七歩 ▲2五歩▲2六銀▲2八飛▲2九桂▲1七歩▲1九香 を指定(右金は指定せず)で、先後指定なしで14局検索にヒットしました。 棒銀を先手で指しているのは2局、後手が12局です。 ウソ矢倉狙いからなることが多いためと思われます。 また右金を▲6七金(△4三金)としているのはそのうち3局で 他は▲4九金(△6一金)▲5八金(△5二金)などあり、一段金が一番多いです。(10局) これは、棒銀受けの△2二銀の時▲2四歩△同歩▲同角△同角▲同銀△2七歩▲同飛△3八角 などの変化の時に損になる可能性があるからだと思います。 =========================== ※2 ^ 矢倉の5手目▲7七銀と▲6六歩との違いは、『変わりゆく現代将棋(上)』『変わりゆく現代将棋(下)』(羽生善治,MYCOM,2010)に(とてつもなく)詳しく書かれている。 |