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■勝負の視点 研究と実戦の間

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勝負の視点
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勝負の視点
研究と実戦の間
[総合評価] B

難易度:★★☆
〜★★★★
(棋譜解説部)
図面:随時
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
中級〜向き

【著 者】 青野照市
【出版社】 毎日コミュニケーションズ
発行:1995年10月 ISBN:4-89563-641-0
定価:1,165円 223ページ/19cm


【本の内容】
第1章  勝負の向こう側 ・文化としての将棋
・コンピューターの実力
・30年前の予言
24p
第2章 プロの視点 ・24連勝の秘訣
・最善手追究派と実戦派
・感想戦への思いの違い
・右脳が左脳に勝つ日
・気配
・序盤の長考の中身
・駒落ち定跡の矛盾
・強者ゆえの弱点
・黄金の右手
・夢を売る職業
・将棋の免状
46p
第3章 棋士の心理 ・研究と実戦の間
・苦手意識のなせるもの
・サリエリに見る天才の嫉妬
・棋界の革命児
・順位戦の手
・花村九段の遺産
・木村義雄の再来
・修行の違い
・本当の恩返し
96p
第4章 女流棋士への思い ・女流対男性棋士の対決
・男性に並ぶ日は
・女流棋士の悲願
・中井広恵女流名人の快挙
22p
第5章 勝負のあとさき ・木村名人復位の瞬間
・粘るが勝ち?
・相手に粘らせない強さ
・勝負を決めるのは感性の鋭さ、か?
・相性の悪さを克服した新王将
・美学に殉ずる棋士は少数派?
・40にして昇級の快男児
・名人戦史に残る中原の落手
・最短距離の華麗な寄せ
・運も味方をしてくれる時
・投了後に受けの好手を発見!?
・プロの6級とアマの6級の実力差
・研究十分の森下、念願の初勝利
・プロを負かすアマもいる
29p

◆内容紹介
棋界随一の理論家である青野照市九段が将棋と将棋文化について語る。最近指された将棋を基に、エッセーよりも深く、観戦記よりも面白く、棋書より楽しく書かれており、青野九段の将棋に対する考え方がよく理解できる。


【レビュー】
青野照市九段のエッセイ集。

青野は、『必勝!鷺宮定跡』や『青野流近代棒銀』に代表されるように、序盤の研究家として知られていた。その青野が、将棋界や棋士に対する評論を書いたものが本書である。

「あとがき」によれば、「かなり若い頃から、棋士はどうして強弱の差がつくのかを真剣に考えてきた。研究の差なのか、才能の違いなのか、また人間性や性格が大きく影響するのか」(p222)とのこと。なので、「エッセイ」というよりは、「考察」の方が多いかもしれない。

いずれにせよ、青野の将棋に対する真摯な姿勢がふんだんに表れている。


本書の初出はさまざま。
 ・「将棋ペン倶楽部」(発行誌)、
 ・「NHK学園『将棋』」(機関誌)、
 ・「週刊将棋」(週刊紙)、
 ・「近代将棋」(月刊誌)、
 ・「JCB広報誌『THE GOLD』」
の5誌に掲載されたものを纏めている。そのため、文体や長さは掲載媒体によってかなり異なっている。



扱っているテーマは多岐にわたるので、各テーマごとに簡単な内容と所感を一覧化してみた。

第1章は、「勝負の向こう側」と題され、「将棋とは何ぞや」と「コンピュータの(当時の)現状」を扱う。本章は主に文章で、局面の解説は一部のみ。
タイトル 内容・所感
・文化としての将棋 将棋とは、ゲームであり、遊びであり、伝統文化である。性質は格闘技に近い。一対一の相対的ゲームで、やや曖昧さがある。
・コンピューターの実力 このころのコンピュータは、詰将棋ならほぼ解けるようになってきていた。先に駒損する手は指せなかったが、実戦の詰みならアマ三〜四段クラス。六枚落ちの下手では定跡より良い手を指したが、中終盤(詰みより前)はグダグダ。局面検索は当時も便利だった。
・30年前の予言 昭和43年度(1968年度)版『将棋年鑑』で、升田幸三が「コンピュータはプロ五段くらいまで強くなる」と予言。また、このコラム執筆時には「自動学習ができればプロを超える」と言われていた。


第2章は、「週刊将棋」に掲載されたコラムを集めたもの。「プロの視点」と題しているが、テーマはかなり雑多。プロ高段者から見た将棋のことを書いている。本章は、すべてのテーマに局面図が付いてくる。

タイトル 内容・所感
・24連勝の秘訣 1994年の丸山忠久五段の24連勝を考察。勝ち将棋はじっくりと、悪い時も暴れずに長引かせる。いわゆる「激辛流」の元祖は森下だった?!
・最善手追究派と実戦派 3手目▲7八金や、4手目△4四歩に対して、次の手は?相手によって手を決める棋士の方が多い。
・感想戦への思いの違い 木村義雄は感想戦でも相手を負かした。大山は感想戦では譲った。中原・米長は「最善を尽くせばいい勝負」。谷川・羽生は読み筋を全部言う。高橋・南はそもそも話さない。内藤は「感想戦は記者へのサービス」。年を取るほど、逆転負けの時に感想戦が長くなる。
・右脳が左脳に勝つ日 感覚が読みを上回ることがある。実社会では左脳の方が上?
・気配 タイトル戦立会人の入室タイミングの難しさ。順位戦の一斉対局で、昇級ライバルの勝敗がなんとなく分かる。
※話の流れ上の余談で、本節最後の「カメラマンが相手ばかり撮るので、ムカついてがんばった」というエピソードは、「気配」とは無関係。
・序盤の長考の中身 序盤の長考は、(1)新構想の検証 (2)作戦勝ちが狙えるかどうか (3)何かよくなりそうな感覚があるとき
・駒落ち定跡の矛盾 ・飛車落ち▲右四間の▲6八金上の是非は?
・二枚落ちは▲二歩突っ切りと▲銀多伝のどちらを推奨すべきなのか?
・強者ゆえの弱点 序盤・中盤・終盤の隙がなく、じっくり勝てる強い森下卓が、終盤が鬼強の羽生善治・谷川浩司に勝てない。森下は「普段はほとんど大差で勝つだけにせり合うことがないのが(中略)唯一の弱点」(p61)
・黄金の右手 子どものころから本筋を見ていれば、いい手は感覚で分かる(右手が自然に本筋に動く)。特に郷田真隆は「黄金の右手」の持ち主。
・夢を売る職業 王者に対し、周りは互角以上の気構えで臨むべき。それがプロ競技者の義務。
・将棋の免状 免状の文面の違い/四段昇段の一局/五段・八段昇段のエピソード/九段昇段の一局


第3章は、「棋士の心理」。「近代将棋」に掲載されたエッセイを集めたもの。各テーマは10p前後とやや長めで、本書の中でも読みごたえがあり、メインの章といえる。各テーマの前半ではテーマについて語り、後半はそのテーマに沿った棋譜を解説するスタイルを採っている。各テーマ末には棋譜が掲載されている(一部テーマは局面図のみ)ので、解説を読み始める前に、先に棋譜を並べておくとよい。オススメのテーマは、本書のサブタイトルにもなっている「研究と実戦の間(はざま)」と、「サリエリの嫉妬」。

タイトル 内容・所感
・研究と実戦の間 本書のサブタイトルにもなっているテーマ。棋士にとって事前研究は必要だが、実戦では必ず研究から外れる局面が来る。その差をどうやって埋めるか?

・「序盤の金子」・金子金五郎によれば、「(金子の弟子の)山田道美は(病気で早死にしなくても)名人にはなれなかっただろう」
⇒山田は精緻な研究家として知られる棋士。グループによる研究会を広めた。大山康晴には中終盤で力負けすることが多かったとされる。

・青野の山田観は、「事前研究を存分に行って実戦に臨むのは、天下を取る棋士の心構えではないが、天才でなければ最良」
⇒青野は、自分が山田に似ていると感じていた。変わろうと思って、感覚や感性を磨こうとしてみたり、しばらく相手の研究もしなかったりしたが、なかなか変われない。

・研究家の振飛車党が増えてきた。小林健二、櫛田陽一、杉本昌隆など。
⇒「研究する振飛車への挑戦」として、急戦の研究を再開。△四間飛車▲左4六銀の△3六歩捨て型に局面を限定(【左下図】)。新手▲3九飛(【右下図】)以下を深く研究。

しかし、▲3九飛以下、すぐに△2二角と打たれ、以降の研究は水の泡に。「研究に頼ることのむなしさを感じさせられた一局」(p86)
⇒これを青野は「机上研究と実戦のギャップ」と評したが、むしろ小林は研究済みだったのかも?どちらにしろ、「(研究は不可欠でありながら)空しい」と言いつつも、その後、青野は▲3九飛以下をさらに深めていった。(『新・鷺宮定跡』(1997)など)

〔棋譜〕▲青野照市△小林健二、△四間飛車▲左4六銀
・苦手意識のなせるもの トップ棋士は「思考の柔軟さ」が高い。局面の決め打ちはせず、棋風や得意戦法も変わっていく。ここでの「トップ棋士」は中原誠のこと。

〔棋譜〕▲中原誠△高橋道雄、相掛かり
腰の重い高橋が中盤にあせった指し方をして負けてしまったのは、中原への苦手意識のせいで冷静な判断力が欠けてしまうためか。(※相性の話は、別の青の本で登場する)
・サリエリに見る天才の嫉妬 サリエリは、映画『アマデウス』(1984)の主人公。一流の作曲家ながら、さらなる天才のモーツァルトに嫉妬する。一流であるがゆえに、大天才のすごさが分かってしまう。
青野は、将棋界では中原誠がモーツァルト、米長邦雄がサリエリ(の時期があった)となぞらえる。そして、自分は「(モーツァルトにはなれないまでも)サリエリの域になれるだろうか」(p99)と戦慄を覚える。

〔棋譜〕▲米長邦雄△藤井猛、△四間飛車▲4五歩早仕掛け
・棋界の革命児 将棋界の精神面を革新したのは島朗。「先輩の経験を学ぶことより、後輩の斬新な発想や感性を取り入れる方が、将棋は深くなるという信念」(p10)
⇒個人的には、そのさらに下地を作ったのは谷川浩司だと思う。

〔棋譜〕▲谷川浩司△島朗、相掛かり▲ひねり飛車
・順位戦の手 「全ての将棋に全力を尽くす」は建前。やはり順位戦は重い。昇級による格の上昇と、降級の恐怖を併せ持つため、特有の「ふるえ」が生じる。
〔局面解説〕▲高橋道雄△有吉道夫/▲有吉道夫△谷川浩司
・花村九段の遺産 将棋界では、子弟制度があるものの、師匠は弟子に将棋をほとんど教えないのが通例。しかし花村元司は、弟子の森下卓と千局以上も指して鍛えた。森下の手厚い指し方はここから来た。

〔棋譜〕▲羽生善治△森下卓、名人戦第1局、相矢倉▲3七銀vs△8五歩
森下が終盤のポカで勝ちを逃した一局。
・木村義雄の再来 将棋界を世間一般に広くアピールしたとして、羽生善治を木村由を十四世名人になぞらえている。元ネタは、米長邦雄による名人戦観戦記。
また、羽生の出現によって、棋士全体のレベルが向上したとも。こちらは森下卓の発言を引用しての考察。
・修行の違い 内弟子・塾生が消滅し、奨励会員が低年齢化する中で、地方出身者に不利な状況でプロになった深浦康市について。(深浦の修業時代については『プロへの道』(2009)に詳しい)

〔棋譜〕▲石田和雄△深浦康市、3手目▲5六歩からの相居飛車
・本当の恩返し 弟子が師匠に勝つことを「恩返し」というが、青野の考える「恩返し」とは、師匠が到達しなかった地位に自分が到達し(たとえばタイトル獲得)、「すべては師匠のおかげ」と表明することである。

〔棋譜〕▲久保利明△淡路仁茂
この対局は久保が勝ち、「恩返し」を果たす。(十数年後の2009年、久保はタイトルを獲得し、「青野流の恩返し」も果たすことになる。「師匠のおかげ」といったかどうかは知りません(汗))


第4章は、「女流棋士への思い」。当時の女流棋士は、男性棋士の棋戦への参加はすでに認められていたが、男性棋士との実力差は大きいと見られていた。本章の前半3編は、女流棋士が男性棋士に公式戦初勝利を挙げるまで。最後に中井広恵が初勝利を挙げるが、まだまだ「女流が勝っても不思議ではない」という状態にはならなかった。本章は局面図のみ。

タイトル 内容・所感
・女流対男性棋士の対決 ・▲林葉直子△畠山鎮、▲四間飛車△左美濃
先手が玉頭直撃作戦。一部では藤井システムに影響を与えたと評される将棋。
・▲丸山忠久△清水市代、横歩取り
・▲高田尚平△中井広恵、矢倉
・▲林葉直子△有森浩三、▲袖飛車
・男性に並ぶ日は ・▲中井広恵△清水市代、相掛かり?
(当時の)女流棋士には、プロ的感覚は十分備わっているが、ハングリーさが足りないのではないか?
⇒本章(第4章)で紹介される将棋を見る限り、当時の女流棋士トップは時折男性プロ並みの力を見せるものの、中終盤のプロ感覚が未熟だったようだ。
・女流棋士の悲願 ・▲藤井猛△中井広恵、▲四間飛車?△四枚美濃(図面は便宜上先後逆)
前項と違い、この将棋では中井のプロ的感覚が足りない。
・中井広恵女流名人の快挙 女流棋士が公式戦で男性棋士に初勝利。(※銀河戦での勝利はいくつかあったが、当時の銀河戦は非公式戦だったので、「女流の勝利」にはノーカウントだった)
・▲中井広恵△池田修一、ただし中盤での後手の大ポカによるもの。
・▲清水市代△桐谷広人
・▲林葉直子△斎田晴子(図面は便宜上先後逆)
・▲中井広恵△斎田晴子( 〃 )
・▲斎田晴子△中井広恵
斎田は、中井・清水の次世代として有望株だったが、この時点ではまだ届かない感じ。


第5章は、「勝負のあとさき」と題し、すべてが見開き2pのショートコラムとなっている。局面図が2つずつ載っているが、解説は軽め。

タイトル 内容・所感
・木村名人復位の瞬間 後世に残る投了図の一つ、▲木村義雄△塚田正夫。
・粘るが勝ち? チャイルドブランドたちは簡単に投了しない。
・相手に粘らせない強さ 谷川浩司と加藤一二三は、(違うタイプながら)相手を粘る気にさせない。
・勝負を決めるのは感性の鋭さ、か? 青野の主張は、「(勝負のメインは)感性の鋭さだが、経験が優ることもある」。ベテランもまだまだやれるぜ。
・相性の悪さを克服した新王将 米長邦雄が、王将戦で苦手の南芳一を1-3から逆転して奪取。
・美学に殉ずる棋士は少数派? 早投げの真部一男が、勝っている将棋で投了。
・40にして昇級の快男児 40歳でC級1組に昇級した沼春雄。
・名人戦史に残る中原の落手 第48期名人戦第2局、▲谷川浩司△中原誠。後手の打った桂が、直後にタダで取られるという大ポカ。
・最短距離の華麗な寄せ 内藤国雄の華麗な収束と、島朗の早投げ。
・運も味方をしてくれる時 気合や集中力があるときのみ、すべての駒運びが上手くいくときがある。
・投了後に受けの好手を発見!? ▲佐藤康光△神谷広志,第6期竜王戦4組決勝
・プロの6級とアマの6級の実力差 プロ6級はアマ四段〜五段に相当。アマ6級は、「プロ6級に二枚落ちの人」(※アマ1級くらい?)に、さらに二枚落ちで勝てない人。
・研究十分の森下、念願の初優勝 “準優勝男”森下卓が、新人王戦で棋戦初優勝。
・プロを負かすアマもいる 天野高志アマが竜王戦6組で勝利。



気軽に読みたい人は第5章⇒第2章から、じっくり楽しみたい人は盤駒(または将棋ソフト)を用意して第3章から読むのがオススメ。冒頭から読むと、テーマが「将棋とは?」なので、やや茫洋とした感じがするかも。(2016May14)


※誤字・誤植(版不明(表示なし))
p104上段 ×「参考C図の」 ○「参考D図の」



【関連書籍】
 『
勝敗を分けるもの─勝負の視点II
 『
実戦心理─勝負の視点III

[ジャンル] 
エッセイ
[シリーズ] 
[著者] 
青野照市
[発行年] 
1995年

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