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■1手ずつ解説する 角換わり棒銀

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1手ずつ解説する 角換わり棒銀
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マイナビ将棋BOOKS
1手ずつ解説する 角換わり棒銀
[総合評価]
A

難易度:★★
   〜★★★☆

図面:見開き2〜3枚
内容:(質)A(量)B+
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
初級〜上級向き
(一部有段者向き)

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【著 者】 真田圭一
【出版社】 マイナビ出版
発行:2020年12月 ISBN:978-4-8399-7494-7
定価:1,694円(10%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1章 角換わり棒銀の基本 駒組みと仕掛け&その後の攻略法 40p
第2章 棒銀対策△2二銀 銀交換を拒否してきた場合には 26p
第3章 端をめぐる激戦 △1四歩と突かれたら端攻め 22p
第4章 交換を角で受ける形 △5四角や△4二角の攻防 22p
第5章 先後同型、相棒銀 手番を生かした戦い方 46p
第6章 ▲7八金省略型 1手早く仕掛ける工夫 40p

・各章のまとめ=6p
・【コラム】(1)新会館建設 (2)藤井フィーバー (3)自転車 (4)指導対局 (5)金魚

◆内容紹介
本書は初段を目指す人向けに、一つの戦法の指し方を1手ずつ解説するシリーズの第2弾です。テーマは「角換わり棒銀」で、角換わりを得意とする真田圭一八段が、1手ずつ解説していきます。

棒銀の魅力はなんといっても破壊力でしょう。飛車と銀と手持ちの角で、うまくいけば敵陣を突破することができます。後手の有力な受け方についても詳しく述べてありますので、棒銀の受け方がよくわからないという方にもおススメの1冊です。

「角換わり棒銀のもう一つの特徴は、手筋の宝庫であるということ。攻撃側、守備側ともに学ぶべき手筋が満載です」と、真田八段がまえがきで述べています。ぜひ本書を読んで、初段の壁を突破してください。


【レビュー】
角換わり▲棒銀を1手ずつ解説する本。

角換わり棒銀は古くから指されている。

(※弊HPで把握している最古の角換わり棒銀の本は『居飛車を中心とした平手将棋の指し方』(山川次彦,田中書店,1957)で、すでに大友流▲2六飛、花村流▲3六歩突き捨て、升田流▲3八角、木村流△4二角などが載っています。章が割り当てられていないレベルであれば、『やさしい基本戦法』(原田泰夫,ハンドブック社,1955)など、もっと古い本もあるようです。)

30年ほど前(1990年前後)にピークを迎え、棒銀側がハッキリ良くなる順は見つからず、定跡の進化も停滞した。しかし、2000年代から流行した一手損角換わりの登場により、棒銀が再び注目されたこともあり、いまなお姿かたちを変えて生き残る戦法である。

角換わり棒銀は、手筋の宝庫で、攻撃側・守備側ともに学ぶべき手筋が満載。入門書や初級者向けの本にもよく角換わり棒銀は載っている。ただ、いずれも後手に緩手を指させて先手成功としている場合が多く、角換わり棒銀の全体像をしっかりと解説した本は、近年はあまりなかったかと思う。

本書は、角換わり▲棒銀の基本からさまざまな定跡型、さらにマイナーな形や新しい工夫までを、全ての手に解説を加えた本である。


各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。(※今回は本文中の変化手順はチャートに記載していません)



第1章は、「角換わり棒銀の基本」。角換わりのオープニングと、棒銀の攻め方を学ぶ。

本章では先手の大成功例を学ぶため、後手の対応はかなりぬるめ。(具体的には、腰掛け銀、▲1五銀と出てからの△1四歩、銀交換後の△4四歩などが緩手)
つまり、後手がところどころで大きな緩手を指していることには注意しよう。ただし、級位者の実戦では意外に同じような局面になることがあるし、有段者で銀交換後にどう指したらよいか分からず困っているケースも見られるので、しっかりとマスターしておきたい。

・本書では最近の傾向を反映して「▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7六歩…」のオープニングとなっている。
−昔の本では「▲7六歩△8四歩▲2六歩…」の立ち上がりが多かった。
−5手目▲7八金だと相掛かりになってしまうので注意。
・角交換直前は、▲8八銀。
−他には▲7八銀や▲6八銀もあり、角換わりにならない場合の駒組み自由度が変わってくるが、角交換になるなら影響なし。
・△7七角成で、角換わりが確定。
−ここで△3三角は「▲同角成で…△同金も味の悪い形」(p12)とされているが、△3三金型早繰り銀という新戦法もあるので、上達したら覚えよう。

・棒銀にするなら、▲3八銀〜▲2七銀と出る。
−▲4八銀だと、棒銀にはならない。
−棒銀では3筋の歩を突かないように注意。
・棒銀が銀交換できるか、五段目で威張れば成功。
−2六に取り残されたら失敗。
・本章では後手は腰掛け銀。
−通常、腰掛け銀は棒銀相手には相性が良くないとされ、上級者で用いる人はほとんどいないが、棒銀の習得用の陣形として頻出する。
−ただし、棒銀側は攻めを急がないと、後手の形がどんどん良くなることには注意。
・銀交換に成功したら、第二弾の攻めを構築する。
−下手に自陣の整備をすると、相手も角銀を持っているため、反撃されやすい。
−1筋の歩を突いて端攻めを考えよう。



第2章は、「棒銀対策△2二銀」。2筋の歩交換は甘受するが、銀交換はさせない(棒銀を捌かせない)という手。

・△2二銀には、歩交換をしたらいったん銀を引いて、立て直す。
−▲2四歩△同歩▲同銀△2三歩に、▲同銀成△同銀▲2四歩△1二銀▲2三角…という筋は、級位者〜初段くらいで見かけることがあるが、勝手読みで無理筋。△同銀で△同金!▲2四歩△3三金!で空振りする。
・銀の位置を立て直したら、銀交換は狙える。
−攻めの銀と守りの銀の交換ならば、手数がかかっても良い。
−いつでも銀交換できる形になったら、慌てずに将来の端攻めの準備として1筋の歩を突いておく。
・後手が端攻め防止に注力してきたら、逆サイドを攻めやすい。
・後手陣に隙がない場合は、自陣の整備をして隙ができるのを待とう。

・▲1五銀と出られる前に△2二銀と引く手もある。▲1五銀に△1四歩が間に合う。
−この場合だけは▲3六歩と突いてよい。3筋が薄くなっているのを狙う。
−ただし、慌てて銀交換に進めると△1五角の王手飛車があるので、気を付けよう。



第3章は、「端をめぐる激戦」。棒銀を進出させない△1四歩には、▲1六歩から端攻めをする。

・▲1五歩△同歩に▲同銀!が棒銀の必修手筋。
−▲同香とすると棒銀が進めなくなる。棒銀が残ってしまうのは作戦失敗。
−初級者の頃に初めてこの手を知ったときには、とても衝撃を受けたものだ。
・銀香交換後、▲1二歩の垂れ歩も必修手筋。
−▲1一歩成〜▲8四香〜▲6六角は、角換わり棒銀の超有名定跡。
−ただし、この定跡が通用するのは△6三銀型の場合。
−※少し強くなると、相手は△7三銀型(p78〜)で受けてくるので、この順は通用しない。△6三銀型は教材用の順だと思ってよい。

・△7三銀型は本格的な手。本書はここからが本番だと思ってよい。
−先手は急いで攻める必要がある。ゆっくりしていると、後手の早繰り銀に先攻されて棒銀が残る。
−棒銀で1筋攻めをしたときに、△6三銀型と△7三銀型の違いが出る。
−先述の▲1一歩成〜▲8四香〜▲6六角の筋が利かない。
−△1六歩▲1六歩の交換を入れてから△4四銀として、桂の逃げ道を作る手も手ごわい。
・この順で、形勢は難解ではあるものの、後手が互角以上。
−後手で対棒銀が苦手な人は、この順を覚えることを検討してみよう。
−先手が棒銀を得意戦法にするなら、この先を経験値でカバーしたい。



第4章は、「交換を角で受ける形」。△5四角で棒銀側の飛先を間接的に止めようとする手と、△4二角で直接的に銀交換を防ごうとする手を扱う。どちらも端に棒銀を進出させるのは許容する。

・△5四角は、▲2四歩△同歩▲同銀に△2七歩と飛先を押さえる手を狙っている。
−棒銀側は▲3八角と対抗するのが「升田新手」と呼ばれ、定跡の教える一手。
−後手も、△4四歩〜▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛〜△3三金が美しい手順。この順をマスターしているだけで、十分に有段者だと思われる。
−この順も、後手に不満なし。
∴▲棒銀対策は、△7三銀型で△1四歩と△5四角の二つあり、どちらも打開する手段が見つかっておらず、現在プロではほとんど指されていない。

・△4二角は、2四の地点に数を足して、銀交換を防ぐ狙い。単純なようで、結構複雑な変化を秘めている。
−ただしこの時点では、後手だけ角を手放し、受けにしか利いていない。(いずれ攻めに使えるようにする)
−初志貫徹で銀交換を目指す▲4六角には、△2二銀と引いてくる。以下▲2四歩△同歩▲同角に△3三桂。ここで▲3六歩!という手を知っていないと、先手がハマり形になる恐れがある。
−後手が角を手放したことに満足して、棒銀を立て直して持久戦を目指すのもあり。
※なお、△4二角は木村義雄十四世名人の手らしいですが、近年はコンピュータが有力視しているという話もあります。
∴後手での▲棒銀対策が苦手な人は、ひとまず局面を収める△4二角を検討してもいいかもしれない。



第5章は、「先後同型、相棒銀」。あなたが棒銀なら私も棒銀…というのはアマでは意外と現れる形。

・互いに▲1五銀△9五銀と我が道を行く指し方は、互いに銀交換を目指す変化と、互いに銀交換をさせない変化に分かれる。
−銀交換の変化では、先手が先に銀交換できるが、後手も銀交換まではできる。互いに銀2枚を持つが、銀1枚ずつを盤上に打ち合って、意外と渋い展開になりそう。先手は▲5六角を軸に端攻めを狙いたい。
−銀交換させない変化では、▲2四歩と突き捨ててから▲9六歩が上手い手順で、先後同型が崩れる。

・後手が△2二銀と引いて、先手は歩交換にとどめて、後から銀交換を狙う変化は、▲5六角が浮き駒の△3四歩を狙う形になり、渋い展開ながら先手良し。

・後手が△1四歩と銀の進出を防ぐ変化は、互いに端を突き合ってまたも先後同型になる。
−△6三銀型、△7三銀型との違いがどうなるか。
−▲8三香が打てるように、▲5六角(馬)が有効打になることが多い。
−互いに▲1五歩△9五歩と仕掛ける形は、定跡化が進んでおらず、複雑で意外と有力。本書では一応先手良しで結ばれている。



第6章は、「▲7八金省略型」。▲7八金を省略し、自陣に掛ける手を最小限にして、1手早く仕掛けようとしている。これまでの定跡とどう違ってくるか?

・棒銀対策として優秀な△7三銀型が間に合わない。
−△7三銀型を目指して△7四歩だと、後手の飛のコビンが開いた状態で戦うことになる。
−△5四角の定跡手順(第4章)も、△7三銀か△4四歩のどちらかが間に合わず、銀交換時の△3三金が指せない。△5四角しか知らない相手には、立派な裏定跡として通用する。
−△1四歩型も、▲1五歩△同歩▲同銀△同香▲同香のときに、△1三歩とはできない。飛のコビンが開いているため、▲1二歩に△2二銀打しかなくなる。
−ただし、△1三歩に替えて△1六歩▲1八歩△4五角が有力で、先手は飛を無力化されそう。
−p202にあるように、先手は端攻めをいつでもできるようにしておいて、自陣の整備をするのが良いかもしれない。

・△6四歩型には、▲7八金から定跡型に戻した方が良い。
−飛のコビンが開いていないので、大技は掛かりにくい。定跡型でも十分戦える。

・▲7八金を省略している分、自陣に隙があることには要注意。
−例えば、△7五歩▲同歩△6五角(角の両成り)の筋がある。
−△2二銀と引いて我慢し、歩交換のタイミングで△2七歩▲同歩△4五角(飛取りと△6七角成の両狙い)の筋は、▲7八金省略型に対して有力。乱戦になるが、いい勝負か。

・後手は、右銀を上がらずに△7四歩が工夫。
−次の△7五歩▲同歩△6五角が狙い。
−飛のコビンは開くが、飛は浮き駒にならず、飛の横利きも通っている。
−先手はあえて△6五角を打たせて角を合わせるのが最善。以下乱戦で難解。

・また、後手が飛先を受けないという手もある。
−棒銀対策の△2二銀(3三から引く)を先に指しているといえる。
−先手の飛先交換に△3三角が後手の狙い。▲7八金を指していない不備を衝く。
−ただし、▲7八金か▲1六歩のどちらかが入っていれば、△3三角は不発。



〔総評〕
本書は、大雑把に言って三部構成になっているイメージだった。

最初の第1章は、角換わりそのものの基本と、棒銀の典型的な成功例が解説され、主に初級者から中級者向け。
中盤の第2章〜第4章は、角換わり▲棒銀の代表的な定跡を詳しく解説しており、主に中級者から上級者向け。
後半の第5章・第6章は、相棒銀と▲7八金省略型という、通常とは異なるタイプの角換わり棒銀を解説しており、上級者から一部有段者向けとなっている。


最初の方は棒銀の成功例を示していくので、基本的には先手視点で、後手の指し手はかなりヌルくなっている。
中盤ではほぼ確立された定跡なので、棒銀側に偏った視点ではなく、後手の防御側の視点も入ってくるし、後手が選ぶべき形もハッキリ書かれている。
後半は定跡とはちょっとした違いで変化が変わってくる戦型で、棒銀側がすごく良くなるという訳ではないものの、アマとしては使ってみたくなる戦法だった。特に、最終の第6章のためにそれまでの章があったといっても過言ではない。

また、本書は「1手ずつ解説するシリーズ」ということで、1手ずつ全ての手に解説が付くという構成になっている。先行の『1手ずつ解説する四間飛車』と比較すると、本書の戦型は居玉で仕掛けていくことが多く、序盤の一手一手の密度が濃いためか、各手の解説文はかなり多くなっていた

棒銀の思想や、囲いを進めても良くならない理由などまで書かれており、また本流の定跡以外の変化も詳しく書かれているので、これまで他書で棒銀の定跡は知っているという人でも一読の価値はあると思う。また、「▲棒銀に対してどう指したらよいか分からない」という人も、複数の対策が選べるようになっているので、その中から自分に合うものを探してみるのが良いだろう。


角換わり棒銀という作戦は現在のプロではほとんど指されなくなった戦法ではあるものの、やや行き詰まり感があるだけで、潰れてしまったという訳ではないように思えました。わたし自身でも、本書が出版されてから完読するまでの間にネット将棋で後手を持った対局があり、途中で上手く対応できずに負けてしまいまして、本書を読んで「先手でも試してみるか!」という気になってます。特に最近は、居飛車党同士ならアマでも角換わりになることは増えているので、試す機会は多そうです。

(レビューを書き終えた後に、将棋ウォーズの10秒将棋にて自分で棒銀側を何度か試してみました。いまのところ、意外と勝てています。定跡通りに良くなるという訳ではないですが、棒銀側のペースで陣形を組み立てているのが大きく、岐れの局面の後に相手が構想を再構築するのが10秒将棋では難しいのかもしれません。)

(2020Dec26)


※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認)
p70上段 ×「P70第10図以下の指し手B」 ○「P19第10図以下の指し手B」



【関連書籍】

[ジャンル] 角換わり
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS 1手ずつ解説するシリーズ
[著者] 真田圭一
[発行年] 2020年

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