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■木村の矢倉 急戦・森下システム

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木村の矢倉 急戦・森下システム
zoom
KIMURA's YAGURA
木村の矢倉
急戦・森下システム
[総合評価] A

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 木村一基
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売
発行:2012年3月 ISBN:978-4-8399-4220-5
定価:1,575円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1章 右四間飛車と矢倉中飛車 ・右四間飛車と矢倉中飛車 34p
第2章 居玉棒銀 ・居玉棒銀 20p
第3章 阿久津流急戦 ・阿久津流急戦
・渡辺新手の周辺
・第2の新手・△3三銀
38p
第4章 米長矢倉 ・米長矢倉 24p
第5章 藤井流早囲い ・藤井流早囲い 28p
第6章 ▲3五歩急戦 ・▲3五歩急戦 36p
第7章 森下システム ・森下システム 32p
第8章 参考棋譜   6p

◆内容紹介
矢倉戦の序盤を網羅。これで矢倉は指せる!
将棋世界の木村一基八段の人気講座「これで矢倉は指せる」が待望の書籍化です。本書では後手急戦のほか、先手からの▲3五歩急戦、森下システムの戦いを解説してあります。
雑誌連載時にはなかった最新の変化も紹介してありますので、連載時に読んでいた方も目が離せない内容となっております。
本書を読んで、矢倉を指しこなしましょう!


【レビュー】
矢倉の定跡書。「将棋世界」誌に連載された講座をまとめたもの。

矢倉戦での人気戦法は、▲3七銀戦法(そのなかでも▲4六銀-3七桂型)である。ただし、先手が▲3七銀戦法を目指そうとしても、その前に後手から急戦を仕掛けてくる手がある。また、定跡どおりに奥深くまで行ってしまうこともある▲3七銀戦法を先手が避けることも考えられる。

本書は、▲3七銀戦法以外の矢倉戦について、主要な定跡と木村の見解を記した本である。前半の第1章〜第4章は後手からの急戦策、後半の第5章〜第7章は先手の採る作戦となっている。


各章の内容をチャートを添えながら見ていこう。

第1章は、△右四間飛車と△矢倉中飛車。△右四間は「対5手目▲6六歩」専用で、△矢倉中飛車は「対5手目▲7七銀」専用なので、この2戦法にあまり共通点はない。「どちらの方をやられたら嫌か」ということを考えて5手目を選ぶとよいだろう。

本章では、下記のような内容も触れられている。
 ・2手目△8四歩の復活傾向
 ・初手▲7六歩△3四歩▲6六歩から矢倉を志向する展開
 ・5手目▲6六歩の方が後手急戦に対応しやすい
 ・5手目▲6六歩に△矢倉中飛車はあるか





第2章は、△居玉棒銀。基本的に「対5手目▲6六歩」専用の戦法だ。かつては羽生vs佐藤康などトップ棋士どうしでも戦われた戦型だが、現在はほぼ「▲5五歩〜▲5八飛が優秀で先手良し」の結論が出ている。

ただし、知らないと一方的にやられてしまう可能性がある。本章で概略だけでも知っておこう。詳細を知りたい方は、『矢倉急戦道場 棒銀&右四間』(所司和晴,MYCOM,2002)を読むと良い。

また、本章の後半では「5手目▲7七銀〜▲4八銀」に対する棒銀(というより早繰り銀)についても書かれている。1980年代の棋譜には普通に登場する手順だが、余計な変化を与えてしまうことに注意。




第3章は、△阿久津流急戦。棋書によっては「郷田流」などと書かれていることもある。作戦自体は以前からあるが、阿久津主税が独自研究をプラスして、2002年〜2003年ごろに連採していた。

急戦といっても、すぐに本格的な仕掛けを狙うわけではなく、「駒組みのセンスを問われる持久戦になりやす」(p69)く、「定跡通りに負かされるリスクを避けようとして用いるケースが多い」(p69)とのことだ。わたしも後手で矢倉をするときは、▲4六銀戦法でやられるのが嫌なので、阿久津流をよく採用している。本の通りには滅多にならない(笑)。

2008年の竜王戦(渡辺が羽生に3連敗後の4連勝を喰らわせたことで有名)で、渡辺が2つの新手(しかも誰も検討していなかったもの)を出したことで、新たなテーマとなっている。つい最近の2012年名人戦でも現れたことは記憶に新しい。

渡辺新手について、本章でも木村は相当なページを割いて検討している。p89〜90は単行本での書き下ろしで、木村の新見解は「先手やれそう」とのこと。先手は2つの渡辺新手に対して、どちらでも持久戦にする指し方を選べるのが理由のようだ。




第4章は、△米長流急戦矢倉。1990年前後によく指されていた。

5手目▲7七銀でも▲6六歩でも使えるのは魅力的で、7七銀を動かして8筋歩交換を可能にするのを狙いとする。7筋を突き捨てて十字飛車を狙ったり、5筋6筋から攻め潰す展開もある。

現況は以下の通り。
 ・2000年 ▲羽生vs△森下戦で、先手良しに
 ・2003年 先崎が△4四歩を再発掘
 ・2004年 ▲渡辺vs△森内戦で、▲3六歩△5三銀左の交換を入れる手法が登場
      →後手の課題となっている





第5章は、▲藤井流早囲い。ノーマル早囲いは1980年代にかなり試されたが、後手急戦に弱いことが分かって廃れた。藤井流は2008年ごろから指され始めており、独自の研究が加わっている。その骨子は、「▲2六歩・▲3六歩・▲3七銀を指して(玉を囲う前に有効な手待ち)、後手の形を決めさせ、いくつかの急戦を消す」ことにある。

とはいっても、指をくわえて先手の早囲いを成功させると、後手は大損してしまうので、結局は後手から急戦を仕掛けることになる。定型的な急戦ではなく、さまざまな組み合わせが試されている。実は力戦で自信がある人向きの戦法だ。

本章は他の章と違って、チャート形式で変化を解説するのではなく、実戦解説にようになっている。
 (1) 藤井流早囲いの成功例 (後手が早囲いを許した場合)
 (2) 先手は角道を止めて急戦しづらいので、後手が早囲いするパターン (※藤井流ではない)
 (3) ▲早囲いに後手が急戦する例 (△矢倉中飛車、先手は藤井流ではない)
 (4) 藤井流早囲いvs急戦@
 (5) 藤井流早囲いvs急戦A 後手も攻めの含みを持たせて待つ





第6章は、▲3五歩急戦。通常の矢倉の流れから、先手が早めにちょっかいを出して主導権を狙う指し方で、戦いながら7九角をどかして玉を囲いやすくする意味がある。後手も反発するため、力戦志向になる傾向があり、先手だけ攻める展開にはならない。個人的には、「阿久津流」と似た雰囲気を感じる。

パターンは3つ。
 (1)(6筋を突かずに)▲3五歩 (※5手目▲7七銀のときのみ)
 (2)▲6六歩△4四歩▲3五歩 (※5手目▲6六歩からも合流する)
 (3)▲6六歩△4四歩▲6七金右△7四歩▲3五歩 (※5手目▲6六歩からも合流する)





第7章は、▲森下システム。▲3七銀戦法と並んで、本格的な作戦の一つとなっている。囲いを優先し、相手の陣形を見てから、こちらの形を後出しする。

木村はいずれ▲3七銀戦法も書きたいらしく、その下地として森下システムを解説する。森下システムの典型的な狙いや、後手の有力策である△スズメ刺しへの対応の歴史が分かりやすい。




第1章〜第4章の後手急戦については、『対急戦矢倉必勝ガイド』(金井恒太,MYCOM,2010)も読むと良い。さらにマニアック路線の方は、『変わりゆく現代将棋(上)』『変わりゆく現代将棋(下)』(羽生善治,日本将棋連盟発行,MYCOM販売,2010)もどうぞ。

これだけ予備知識を入れて、やっと▲3七銀戦法を目指せるのだ。矢倉とは、なんとも深〜い戦法である。(2012May26)


※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p13 ×「▲5七銀」 ○「▲5七銀右」 棋譜と本文の2ヶ所。(名無しさんご指摘thx!)



【関連書籍】

[ジャンル] 
矢倉
[シリーズ] 
[著者] 
木村一基
[発行年] 
2012年

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