zoom |
最強将棋21 現代調の将棋の研究 |
[総合評価] S 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A+(量)A+ レイアウト:B+ 解説:A 読みやすさ:B+ 有段者向き |
||
【著 者】 羽生善治 | ||||
【出版社】 浅川書房 | ||||
発行:2021年5月 | ISBN:978-4-86137-052-6 | |||
定価:1,650円(10%税込) | 248ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||
・プロローグ 各戦型の現状について
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
さまざまな戦型をテーマとした総合定跡書。 長年にわたってプロ将棋を牽引してきた羽生が、久しぶりに戦術書を書いた。羽生の名を冠した棋書は数多とあるものの、有段者以上に向けた戦術書としては『変わりゆく現代将棋(下)』(2010.04)以来、11年ぶりである。(2020年に感染拡大した新型コロナウイルスの影響で、家にいる時間が激増したため、定跡書を書く気になったとのことだ。) 本書は、羽生が現在気になっている最新テーマ図36について、代表的な変化を検証し、羽生の見解を書き記した本となっている。 各テーマの内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
プロローグは、「各戦型の現状について」。 主要な戦型の現状を簡単におさらいする。 ・矢倉は、5手目▲7七銀が主流になり、先手が飛先の歩を早めに伸ばすようになった。 ・角換わりは、▲4八金△6二金の形が主流になった。 ・横歩取りは、▲青野流が主流。 ・相掛かりは、互いに飛先歩交換を保留する形が流行。 ・振り飛車戦(対抗形)は、囲いが多様化。 従来からある舟囲い、美濃囲い、穴熊の他に、ミレニアム、エルモ囲い、金無双などが、居飛車・振り飛車の双方で採用されるようになっている。 テーマ1〜テーマ5は矢倉。 テーマ6〜テーマ15は角換わり(純正)。 テーマ16は一手損角換わり。 テーマ17は角換わり拒否の雁木。 テーマ18〜テーマ20は横歩取り。 テーマ21〜テーマ24は相掛かり。 テーマ25〜テーマ27は四間飛車vs急戦。 テーマ28〜30は対抗形の持久戦系。 テーマ31〜32は先手中飛車。 テーマ33〜34は3手目▲7五歩。 テーマ35は△ゴキゲン中飛車。 テーマ37は△向かい飛車vs▲超急戦。 〔矢倉〕 テーマ1は、「後手、早繰り銀の速攻」。 5手目▲7七銀の矢倉模様に対し、後手がすばやく早繰り銀を繰り出し、先手は矢倉囲い〜▲7九角で対抗する戦型。 ・△7六歩は微差ながら先手が指せそう。 ・△8六歩には▲4六角と利かせるが、ゆっくりすると陣形差で後手良し。先手は暴れるが、良くて互角。 ∴局面はほぼ互角だが、先手陣をまとめるのが苦労する。先手が好んで選ぶ変化ではなさそう。 |
テーマ2は、「右桂を使った急戦」。 5手目▲7七銀の矢倉模様に対し、後手が△6四歩〜△6三銀〜△7三桂と急戦を目指す作戦。 先手は▲5六歩を保留し(5筋の攻めを警戒)、▲6八角と備える(△6五桂の攻めを止める)のがトレンド。 ここまで備えられると後手からすぐに攻められないので、△4二銀と駒組みを進める。 先手が▲3七銀と速攻を見せ、△4四歩と角道を止めさせて、5筋の攻めがなくなったので▲5六歩と突く。後手は△4五歩と再び角道を開ける。 ・▲3五歩△同歩▲2六銀とスピードアップの棒銀は、3筋でポイントをあげる指し方。代償として、先に1歩渡すので、7筋から仕掛けられて8筋は壁銀になる。 ・▲3五歩△同歩▲同角の3筋歩交換は、先手は2筋も歩交換して2歩を手持ちにできるが、先手陣が整うのに手数がかかり、まとめにくそう。 ・▲4六歩と4筋の位に反発して動くのは、後手が1歩持つと角筋を生かして8筋の継ぎ歩攻めが来る。 ∴いずれもいい勝負ながら、後手としては有力。先手は動き方に工夫が必要。 |
テーマ3は、「先手の急戦策と5筋保留」。 先手が米長流急戦矢倉を目指すのに対し、後手が△5四歩を保留する指し方。5筋の争点を与えないようにしている。 ・▲5五銀とぶつけても、動いた割には戦果が上がらない。 ・▲4五歩△同歩▲同桂と動くのは、先手良しまで持っていくのは難しい。 −第91期棋聖戦(2020年)の藤井聡太の△5四金!〜△4二飛〜△3一銀が有名。後手から先手の攻め駒を責める指し方。 ・9筋の歩を突いておけば、桂を渡した時の反動が減る。▲9六歩の後、▲4五歩から同様に仕掛け、3筋も突き捨てていける。形勢は難解。 ∴▲米長流急戦矢倉に対して、本テーマの後手の対策は優秀。先手にはかなりの手順の工夫が必要。 |
テーマ4は、「古くて新しい形の新展開」。 相矢倉の脇システムについて。近年は後手からの急戦を警戒して▲2五歩を急ぐため、脇システムが出現する頻度が高まっている。 ・先手から▲6四角と角交換〜▲2六銀の棒銀で端を狙うのが基本的な攻め筋。端攻め自体は受からない。 ・▲6四角に△同銀の場合、後手は△6九角で反撃する。しかし先手の攻めがギリギリ続いていそう。 ・▲6四角に△同歩の方が最近は主流。▲2六銀に△6五歩から後手が先に仕掛ける展開になる。 ∴▲6四角△同歩が有力であるが、変化はかなり多く、きわどい展開。 |
テーマ5は、「後手、右桂活用の工夫」。 相矢倉の脇システムで、後手が△8五歩を保留し、△5三銀〜△7三桂と組む形。 ・先手は右桂をすぐに使えず、対策の幅は狭い。 ・後手が金矢倉に組んで△4五歩と催促するのは、馬を作らせる代わりに△8五桂に期待する指し方。形勢はほぼ互角。 ・後手が△4二銀右から銀矢倉に組み替えるのは、陣形のバランスが良く、後に全ての駒が活用できる。 ∴先手はこの局面を避けたい。急戦矢倉を見せておいて、△8五歩を突かせてから脇システムを目指す方が良さそう。 |
〔角換わり〕 テーマ6は、「意表の待機策とその攻防」。 角換わり相腰掛け銀の▲4八金-△6二金型において、後手が△4一飛と玉の下に潜り込んで先手の仕掛けに備える形。 ・△4四歩〜△3一玉まで指せると、△4四歩+△5四銀+△4一飛型で先手の打開は難しい。 ・△4四歩に▲4五歩の仕掛けは、△5二玉▲4四歩△同飛▲4七歩からいったん駒組みに戻る。再仕掛けは手にはなりそうだが、両者自信なし。 ・▲4五桂と跳ねて2筋歩交換し、▲5五銀と出た銀は追われにくい。互いに玉が薄く、下手に攻めると反動がきつい。 ∴後手の対策としてはかなり有力。先手は攻めの工夫が必要。 |
テーマ7は、「徹底待機策に仕掛けはあるか」。 角換わり相腰掛け銀の▲4八金-△6二金型において、後手が玉や銀の往復移動でひたすら待つ作戦。 先手は▲4五桂〜▲3五歩〜▲6五歩!と仕掛け、▲5五銀〜▲1八角の仕掛けが成立するかどうか。 ∴仕掛けの成立はかなり微妙。ただし後手が正確に受け切るのも大変。 |
テーマ8は、「銀矢倉からの攻め」。 角換わり相腰掛け銀の▲4八金-△6二金型において、後手が△7二金〜△6二金とあえて手損をした待機戦術に対し、先手は玉を入城し、腰掛け銀から▲6七銀と銀矢倉に組み替えて、▲5六歩〜▲4五歩と仕掛ける形。先手の攻撃力は下がるが、守りがしっかりしている。 ∴この仕掛けは先手にとって有効。後手が受け切るのは容易ではなく、回避したい局面。 |
テーマ9は、「6筋からの積極策」。 角換わり相腰掛け銀で、後手が△7二金と上がった後、△6一飛と回って△6五歩と後手から仕掛ける作戦。 ▲同歩△同銀▲6九飛で、後手がどう攻めるか。 ・すぐに△6八歩は、やや無理気味か。 ・△4四銀は、▲4五桂を防いで、先手に効果的な手がないとみている。▲4五歩△3三銀▲4六角と進めてから△6八歩の決行がある。 ∴後手の仕掛けはかなり有力ではあるが、先手が良くなりそう。 |
テーマ10は、「端の位を取る積極策」。 角換わり相腰掛け銀で、後手が9筋の突き合いに応じず、先手が▲9五歩と端の位を取る作戦。 さらに▲3八金〜▲4八金とあえて手損し、△2二玉と入城させてから▲4五歩と仕掛ける。 通常とは先後逆の形で、先手が端の広さを主張する指し方。 後手は△4一飛と反発し、▲4四歩△同銀に先手は▲7九玉と一手待って、後手の反応を見る。 ∴先後どちらも指せそう。後手は待機策を採るか、動くのかの判断のタイミングが重要。 |
テーマ11は、「右玉という繊細な戦法について」。 角換わり腰掛け銀模様で、後手が右玉で待機する指し方。 先手がどのように手を作るかが大きな課題。仕掛けられずに千日手では先手としては失敗になる。 ・▲4八金-2九飛型だと、▲5六銀に△4四銀と動かれるのが厄介。 ・▲5八金〜▲6八銀が意表の打開策。▲6七銀〜▲6八玉と雁木に来見直して、地下鉄飛車を目指す。 ∴地下鉄飛車の含みを見せて打開を図るが、条件が少し変わると成否も変わる。 |
テーマ12は、「先手早繰り銀の攻防」。 角換わりで▲早繰り銀に出る指し方。先手の構えは▲6八玉型、後手は△6三銀-△7三桂型をテーマとしている。 ・すぐに▲3五歩と仕掛けるのは時期尚早。 ・▲5八金〜▲6六歩と整えてから▲3五歩と仕掛けるのは、ほぼ互角。中央付近での勢力争いになる。 ・後手の形によっては、▲7九玉〜▲6八金右まで固めておくのもある。 ∴互いに指せる形だが、千日手になる変化も多く、先手は打開手段を考えておく必要がある。 |
テーマ13は、「銀矢倉への攻めと課題」。 角換わり▲早繰り銀に対し、後手が腰掛け銀から△4三銀と引いて銀矢倉で対抗し、じっくりとした戦いを目指す。 ・お互いにじっくり固めるのはいい勝負。 ・△3五歩▲同銀から8筋の継ぎ歩攻めも有力。 ∴△3五歩の変化はかなり有力。先手は改善策が必要。 |
テーマ14は、「主導権を握れるか」。 角換わり相早繰り銀で、互いに▲5八玉型-△5二玉型に構えて、先手がすぐに▲3五歩と仕掛けていく。 定番の継ぎ歩攻めで反撃したのがテーマ図。 ・△8五飛▲4六銀△2五歩で、先手の飛が捕獲されそうだが、▲7五歩が手筋で飛は助かる。ただし、代償として馬を作られそう。 ・△2三歩と打てば穏やかな展開。互いの構想力が問われる。 ∴▲5八玉から早繰り銀の速攻は有力な作戦だが、先手番として主導権を握るまでは行っていない。 |
テーマ15は、「シンプルな形速攻は成立するか」。 角換わりで、▲3五歩△同歩▲4五桂と速攻する形。 最速型の「居玉+居金+▲4八銀型」ではなく、「▲6八玉+▲7八金+▲5八金」とある程度は玉型を整えてからの仕掛けを扱う。 △6二金と上がられる直前の仕掛けになる。 ▲3五歩△同歩▲4五桂の仕掛けに、△4四銀と上がって、先手は飛先を交換して▲2九飛と引く。 ・自然な△6二金は、▲1五歩△同歩と端を突き捨ててからの▲3四角が非常に厄介。 ・後手は△2二金と端に備え、▲3四角に△3二玉(2三の地点を2枚で守る)を用意しておく必要がある。初見では指しづらい手だ。 ∴先後ともに工夫の余地あり。 (※アマ的には、相手が知らなければ一気に良くなり、知っていても経験値の差が出そうなので、大いにやる価値ありかも?) |
〔一手損角換わり〕 テーマ16は、「良くなりそうで差がつかない」。 △一手損角換わり(4手目角交換)に対し、先手が玉の囲いを最小限にして棒銀を目指す作戦。 後手は△3二金を保留して、△2二飛を用意しておく。▲3五歩に△3二金と上がればよい。 ・すぐに仕掛ける▲3五歩は有力。ただし、第二次駒組みから漠然とした局面が続く。 ・自陣を整備してから▲3五歩もある。 ∴どの変化も先手が少し良くなりそうだが、ハッキリした手順は難しい。 なお、本書では一手損角換わりは本テーマのみ。羽生の名を冠する「羽生流右玉」については、特に記載はなかった。(テーマとは思っていない?) |
〔雁木〕 テーマ17は、「角換わり拒否雁木作戦」。 角換わり模様から、後手が△4四歩と角道を止めて角交換を拒否する作戦。 後手は雁木+腰掛け銀に組み、先手は右四間飛車で攻めるのがテーマ図。 ・すぐに▲4五歩と仕掛け、過激に攻めるのは、後手の上手い切り返しがある。 ・両端を突き合って▲4五歩と仕掛け、角銀総交換だけして再び駒組みに入るのもある。 隙を作らないようにしながら、先手は矢倉、後手は雁木に囲う。 ・十分に駒組みを進めて、▲3五歩〜▲1五歩〜▲4五歩と仕掛けるのは有力。仕掛け前に▲6六角と手待ちして、後手にマイナスの手を指させるのがポイント。 ∴すぐの仕掛けはイマイチ。陣形を整えてから仕掛けるべし。 |
〔横歩取り〕 テーマ18は、「課題の局面と打開策」。 横歩取り▲青野流で、激しい変化での佐藤天彦新手▲2三歩について。 右桂の活用を図る▲3六歩に対し、△2六歩▲3八銀〜角交換〜△2七歩成〜△5五角▲8七銀△同飛成の激しい変化から。 ・羽生が実戦で指した△4四馬は、飛と馬を交換されて先手良し。一見、空間が多そうな先手陣だが、有効な飛の打ち込み場所はない。 ・△3三馬▲3五飛△2三馬に▲3七桂は、激しい変化に踏み込むようだが、先手の飛を追いかけられて千日手。 ・△3三馬▲3五飛△2三馬に▲8二歩〜▲2四歩が面白い手法。先手が少し良くなりそう。 ・△3三桂は先手が駒得になって良い。 ∴このテーマ図は、先手やや良し。 |
テーマ19は、「穏やかな形から激流へ」。 横歩取り▲青野流に対し、△8二飛と引く指し方。穏やかなようだが、さらに△2六歩に▲3七桂と突っ張ると、激しい変化になる。 △2七歩成▲4五桂〜角交換〜△3七と▲8三歩と飛の頭を叩いたのがテーマ図。 ・自然そうな△5二飛には▲2二歩が厳しく、先手が良くなる。 ・△8三同飛は、▲6五角や▲5三桂成が生じるが、最終的に「後手の桂得・歩切れvs先手の歩得」の構図で局面のバランスが取れる。 ・飛の横利きを残す△9二飛は、▲5三桂成を許すが、△4七とを楽しみにする。 ∴後手はいきなり潰されないように要警戒。局面が収まって長期戦になることも想定しておくべし。 |
テーマ20は、「ひねり飛車のように」。 横歩取りで青野流にせずに▲3六飛と引き、後手が△8四飛〜△6二玉からひねり飛車のように指す作戦。 ・△7一玉〜△8二玉と美濃囲いに囲って様子を見るのは有力。 ・△2四飛のぶつけも有力で、互いに飛角を持駒にして神経戦となる。 ∴この作戦は互いに有力で、一手の価値が大きく、構想力が問われる。 |
〔相掛かり〕 テーマ21は、「バランス型の攻防」。 相掛かりで互いに▲5八玉型-△5二玉型に組み、バランスを取る指し方。 タテ歩取り狙いの▲3六飛に対し、△8四飛と受ける。 ・△8八角成の角交換は、後手が先手と同じ形を作る意図。同型なら先手が打開するのに苦労する。先手は同型を避けるために▲6六角と手放し、手得と銀冠を主張としたい。 ・△3三角▲7七角と、互いに相手から角交換させようとするのが主流。 ∴互いに指せる局面。先手がハッキリと良くするのは難しい。 |
テーマ22は、「引き飛車からの構想」。 相掛かりで互いに▲5八玉型-△5二玉型に組み、互いに飛先を切って▲2六飛-△8二飛にした後、先手が▲2四歩の合わせから横歩取りを狙うのに対し、後手が角交換。先手は1手得に満足して▲2九飛と引き上げるという作戦。 ・後手が△2三歩と安全を期して、△3五歩とちょっかいを出すのは桂頭にキズを作って駒組みを牽制する狙い。 ただし先手が2歩を手持ちにするので、端攻めや後手の桂頭攻めが生じて、まとめるのが大変。 ・すぐに△3五歩とちょっかいを出すのは有力。先手は意外と指し方が難しい。 ∴後手は互角を目指せそう。 |
テーマ23は、「見たこともない乱戦へ」。 相掛かりで9筋を突き合った後、互いに▲5八玉型-△5二玉型に組み、▲3六歩に対して後手が飛先を切り、▲3七桂に△8七歩▲9七角と呼び込むと乱戦になる。 ・9筋の角頭攻めを避けて▲7五角は自然な一手で、途中から手が広く、形勢不明。 ・2筋歩交換から▲2五飛と角頭に備えるのも自然。△3四歩にはすぐ▲2四歩と合わせて動く。ねじり合いが続きそう。 ・2筋歩交換から▲2六飛は大胆。9筋攻めには角を見捨てて角香交換する。△2二角が使えていない後手はまとめるのが大変。 ∴乱戦になりやすく、互いにまとめづらい。工夫の余地は多い。 |
テーマ24は、「驚異の端攻めが定跡を変えた」。 相掛かりで9筋を突き合った後、▲6八玉型vs△5二玉型に構え、1筋も突き合った後に、互いに飛先を交換して浮き飛車にして、先手が▲2四歩の合わせから横歩取りを狙う展開。 ・△7三銀は、△6四銀〜△7二金〜△7三桂という駒組みを狙う。これを許さないために、先手はすぐに▲7四歩と動く。 先手は馬を作れるが、後手の駒が前に進んでいるので端攻めができる。 ・△3三角から△9五歩〜△同香!が驚異の端攻め。後手が先に香損するが、△9八歩の垂らしが受けづらい。 ∴先手はテーマ図を回避すべき。 |
〔振り飛車〕 テーマ25は、「エルモ急戦の攻防」。 △四間飛車+△4三銀型vs▲エルモ囲い+右銀急戦。先手の右金は▲4九金のまま。 ・▲5五歩と5筋を絡める仕掛けは、エルモ囲いの陣形を活かしている。虚々実々の攻防が繰り広げられ、ほぼ互角。 ・▲2四歩△同歩の突き捨てを入れてから▲5五歩なら、▲3五銀の変化が生じる。これなら先手良し。 ・▲2四歩に△同角なら、▲3四歩△同飛▲2二歩でと金を作って後手を催促する。 ∴この形での居飛車の仕掛けは成立している。 |
テーマ26は、「緩急自在のエルモ囲い」。 ▲四間飛車に対する後手のエルモ囲い急戦。振り飛車側は▲5六歩を保留し、▲7八銀型で急戦に備えながら高美濃に組んでみる。 ・△9四歩と端角に備えてから△7五歩▲同歩△同銀の仕掛けでは、△8六銀まで来たときに▲同銀と取るとエルモ側の大成功。 ▲8八銀が対エルモの正しい対応で、振り飛車が捌ける。 ・△7二飛〜△7五歩▲同歩△6四銀も▲7八銀型に対してよくある仕掛け。 いい勝負だが、振り飛車の方に楽しみが多そう。 ・△7二飛から単に歩交換し、▲6五角の捌き狙いに△4四歩と角交換を拒否するのがエルモ囲いの柔軟性。 右金を△4三金まで持ってこれば、上部に厚くて堅い陣形になる。 ∴エルモ囲いは柔軟な陣形で、優秀な作戦。ただし、振り飛車も適切に対応すればほぼ互角。 |
テーマ27は、「謎の金上がりの意味と狙い」。 ▲四間飛車vs△金無双急戦。後手は△6四銀-7三桂型を作る。 ・△6四銀-7三桂型でいつでも仕掛けを見せ、振り飛車の動きを抑えてから、△4四歩から持久戦を目指せるのが真の狙い。居飛穴まで組める。 条件次第では△8四飛〜△7五歩の仕掛けも狙える。 ・振り飛車はは漫然と組むと作戦負け。 ・▲5七金〜▲4六金と活用する余地を残すべし。▲3五歩から打開はできる。 ∴振り飛車は急戦と持久戦の両方に備えるべし。居飛車としては非常に有力な作戦。 |
テーマ28は、「ミレニアムへの新対策」。 ▲四間飛車に対して△ミレニアムが再評価されており、採用が増えている。 振り飛車側は、高美濃に組んだり、石田流を目指すのがメジャーだが、新対策が出てきた。 後手がミレニアム模様に組み始めたとき、▲5七金と上がる。次に▲4六金と出て、3筋や5筋を狙う。(※テーマ27の指し方と似ている) ・居飛車が一目散に堅く囲うと、▲5五歩〜▲5八飛と動かれて押さえ込まれそう。 ・居飛車が囲いの手を一手省略して、中央での角金交換を恐れない指し方の場合は、いい勝負。 ・居飛車が後手7四歩〜△7三桂〜△5三角を急ぐのもいい勝負。振り飛車は早めに▲5五歩と突き捨てておく。 ∴▲5七金はミレニアム対策としてかなり有力。 |
テーマ29は、「振り飛車でミレニアム」。 △四間飛車vs▲居飛車穴熊で、振り飛車がミレニアムを採用する作戦。 (△8一玉型が角筋を避けていて、右桂を活用しやすく、端攻めをしやすいのが人気の理由の一つ。) 本テーマでは、後手は△7二金-7一銀型のコンパクトなミレニアムに組む。 ・居飛車から▲3五歩〜▲2四歩〜▲6五歩と定番の仕掛けは、最終的に後手からの端攻めが厳しく、先手自信なし。 ・▲3八飛〜▲7八飛と細かく揺さぶれば、居飛車から打開できそう。 ∴振りミレは有力だが、正しく待つのがかなり難しい。 |
テーマ30は、「トマホークの破壊力」。 △三間飛車vs▲居飛車穴熊で、後手は△9三桂からのトマホーク作戦。 振り飛車の玉側の駒組みは、△6二玉のみの形がテーマ。(仕掛け前には△5二金左や△7二銀を入れていない) ・トマホークは、守りにかける手数は最小限にして、居飛穴が組み上がる前に攻撃形を構築しようとする。 ・5三の地点を△6二玉で守る。 ・居飛車が平凡に対応すると、途中で△4四角と▲2六飛に打診されて、角筋+玉頭銀+端攻めが止まらない。 ・△9五角と歩を取ると、後手の持ち歩が2枚になるまでは端攻めは来ないが、△4二飛〜△4四飛〜△7四飛の構想が面白い。 ∴テーマ図は先手にとってすでに危険。5筋不突き一目散穴熊は諦め、振り飛車の様子を見ながら穴熊を目指す機会をうかがうべし。 |
テーマ31は、「中飛車+相穴熊の戦い」。 ▲中飛車に対して、後手が一直線穴熊に組み、先手も穴熊に潜る相穴熊戦。 本テーマでは▲4六歩型を扱う。 ・▲4六歩と突かれたら、後手は△2二銀と締まりやすい。角頭を攻める変化が基本的になくなる。 ・▲4六歩型では、▲5六銀〜▲4七銀と組み替え、▲5六飛と浮く。手数がかかっているが、△4五歩を封じている。 −後手の仕掛けを封じつつ、▲3六銀〜▲4五歩から一歩交換でき、終盤の端攻めができるので、先手に不満なさそう。 ・後手が左金を保留する指し方もある。▲6六飛の揺さぶりに△5二金を用意している。 ∴居飛車が左金の動きを保留して駒組みをするのが有力策。 |
テーマ32は、「角道を開けない新対策」。 ▲中飛車に対して、後手が角道を開けず、△7三銀〜△6四銀と急戦を挑む作戦。 後手の囲いは基本的に△3一玉型左美濃を狙うが、△4二玉型のままで小競り合いが始まることもある。 ・普通に▲6七銀と上がると、後手は△3四歩と角道を開け、△3一玉型左美濃にして、さらに4筋位取りを狙う。先手は位に反発して、小競り合いが始まる。 ・▲6五歩△同銀▲6七銀として、銀の捕獲を見せるのは、△5四銀▲5五歩△4五銀と進んで銀の働きの評価が難しい。 ∴▲6七銀と▲6五歩はどちらも有望ながら、後手も十分に指せそう。▲中飛車対策として有力。 |
テーマ33は、「4手目△1四歩の構想」。 3手目▲7五歩の石田流狙いに対し、後手が4手目△1四歩とする作戦。 先手が1筋を受ければ相振り飛車、先手が受けなければ後手が1筋を突き越して持久戦を狙う。 本テーマでは、先手が5手目▲7八飛と突っ張り、後手が角交換から1筋を突き越した持久戦になった場合を扱う。 ・△3三桂は危険。桂頭を狙われる。 ・△3三銀は手堅い。先手は▲6五銀と出て、後手の5筋・6筋の歩を突かせないようにする。この銀は8筋に使うことも考える。 ・△4四歩は、▲5五銀で歩を狙ってくる。 ・△6四歩には、▲5五角から動く。 ∴1筋位取りの持久戦は後手にとって有力作戦。ただし変化が多岐にわたり、どの変化も駒組みに細心の注意が必要。 |
テーマ34は、「駒組みでも乱戦でも」。 相石田流の相振り飛車で、先後同型から▲7六飛と浮いて後手の3筋歩交換を防いだ形。 ・後手が金無双を目指すなら、同形だと打開しづらいので、先手は美濃囲いを目指す。 −後手が端攻めを狙う展開になる。 −先手が端攻めを警戒して銀冠に組むと、後手は2筋を狙う。 先手が左銀を▲7九銀のまま駒組みしておくと、中盤ですばやく動けるので、難解な局面になる。 ・すぐに△3六歩なら大決戦。 ∴すぐに仕掛けても、持久戦でも、後手はまずまず。テーマ図の▲7六飛が少し危険。 |
テーマ35は、「超急戦と押さえ込みの金」。 △ゴキゲン中飛車vs▲超速で、後手が金銀を動かさずに淡々と玉を囲い、▲4五銀を呼び込んで捌きを狙う作戦。 先手は飛先突破を目指すよりも、▲4五銀と戻して使うイメージになる。 ・しかしテーマ図ですぐ▲4五銀は、後手に上手く捌かれて面白くない。 ・▲3八金としてから▲4五銀が気づきづらい一手。金の力で後手の捌きを押さえ込む。 ∴▲3八金の発見後は減少傾向にある局面。ただし後手にもさまざまな陣形のプランがあり、鉱脈は残っていそう。 |
テーマ36は、「人間には見つけづらい手」。 ゴキゲン封じの▲2六歩〜▲2五歩で、後手がダイレクトに向かい飛車に振り、角交換から▲6五角△4五桂の乱戦になる将棋。 従来は△4五桂で後手良しとされていた。 ・▲7八金は面白い受け方だが、先手が好んで指す変化にはならない。 ・▲4八銀!が有力手。△5五角で香取りが受からないが、▲9八香!で取られる位置を変え、馬を使いにくくさせる。 ∴現在は、6手目△2二飛は無理筋。 |
〔総評〕 全36テーマは、非常に盛りだくさんだった。読むのに平均的な戦術書の倍以上の時間を要した(汗)。 テーマは、居飛車編が全体の約3/4を占め、振り飛車編は残りの約1/4となっている。各テーマからはだいたい2〜3個の分岐であり(最大4個)、それほど網羅的に描かれているわけではないが、羽生が有力と考えている変化にギュッと絞られているといえる。 また、テーマ図までは詳しい解説はなく、変化手順もかなり長手順が当然のように進んでいく。 どちらかといえば「普段からプロの棋譜をよく見ていて、自分の将棋の参考にしている人」向けの一冊と言えるだろう。また、「出版される戦術書はだいたい読んでいる」というのも条件になりそうだ。 なので、評価Sではあるが、万人向けではないことに要注意。36テーマ図を見て、「ああ、これね」とほぼほぼ思えるくらいでないと、本書を読みこなすのは厳しいかと思います。 ※誤字・誤植等(初版で確認): p28下段 ×「△5一銀打」 ○「△5一銀」 |