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マイナビ将棋BOOKS 対三間飛車 一直線銀冠 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4〜5枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ: 上級〜有段者向き |
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【著 者】 池永天志 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年5月 | ISBN:978-4-8399-7607-1 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)大事なもの (2)質問コーナー
〜あるインタビューにて〜 (3)仕事と趣味の境界線 |
【レビュー】 |
△三間飛車vs▲銀冠作戦の戦術書。 対抗形で居飛車の銀冠は、以前は対振り飛車穴熊での銀冠か、、天守閣美濃から組み替えての銀冠くらいだった。特に、対三間飛車では居飛穴が主流の作戦だったが、トマホークなど対居飛穴の攻撃的作戦が増えてきており、居飛穴に組みにくくなってきた。 しかし、2000年代に3手目▲7五歩の石田流が流行し、居飛車の銀冠が対策として注目されるようになり、他の振り飛車に対しても居飛車の銀冠が採用されるようになってきている。 居飛車が銀冠に囲う場合は、まず▲8八玉型左美濃に組んでから、高美濃〜銀冠と組み替えていくのが一般的であるが、相手も同じような陣形になると打開が難しくなることもあった。 本書は、△三間飛車に対して▲居飛車が銀冠に囲うことを序盤から意識した作戦を解説する本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「銀冠について」。 ・▲6八玉型で▲7八銀と上がるのが、本書での銀冠を目指すための骨子。 −玉寄りを保留することで、場合によっては▲7九玉のままで戦う。 ・本章では主に、(▲7八銀に替えて)▲7八玉から駒組みを進めていくとどうなるのかを解説する。 −居飛車穴熊を採用した場合と比較して、銀冠では囲いの差をつけにくく、仕掛けの形を作るのも簡単ではなかった。 |
第1章は、「銀冠の狙い」。 まずは、先手の銀冠が上手くいった場合の指し方を解説する。後手は普通に銀冠まで駒組みを進め、先手は存分に組めるものとする。 ・先手の右金・右銀の使い方を工夫する。 −▲6七金-▲5七銀型は美しい形だが、後手も同じ形の場合は主張点に乏しい。 −右金は▲6八金右と寄せていく。 −右銀は▲4八銀で保留する。△6五桂の両取りを狙われないようにしておく。 ・▲8八玉のタイミングに注意。 −△7一玉を確認してから入城する。 −タイミングが悪いと、後手からの猛攻があり得る。(第3章) ・常に銀冠穴熊を目指せるように意識しておく。 −銀冠が流行しているのは、左美濃から安定して組み替えることができて、さらに銀冠穴熊に組める可能性があることが大きい。 −なるべく▲6六歩を突かずに駒組みすれば、隙が少なく、角道が通っているのも大きい。 ・△6五歩を見たら(△6五桂跳ねが無くなったので)▲5七銀と上がる。 ・先手の銀冠穴熊は堅いが、堅さを過信しないこと。後手の銀冠もなかなか堅い。細やかな攻めを心掛けておく。 |
第2章は、「対石田流」。 三間飛車側の対策の一つとして、石田流への組み替えがある。 また、本章では後手の布陣として△7四歩〜△7三角と組む陣形をメインに解説する。 (1)△4三銀型 ・先手の銀冠穴熊に対し、△5一角〜△7四歩〜△7三角は後手が捌きやすい陣形だが、△7四歩が後にキズになる。 ・後手が△7四歩〜△7三角型を作るなら、玉は△7一玉型の方が良さそう。 −先手が何も考えずに玉を固めると、3七の地点をバッサリと突破されてしまう。 −△3五歩に対して▲4六歩と突いておきたい。▲4七銀と手堅く受ける手を作り、状況によっては積極的に▲4五歩と仕掛けてしまう。 ・後手がさらに工夫して、△7一玉型で、角を引く前に△7四歩と突いてくるなら… −先手は▲4七銀型を作ることになるが、すぐには仕掛けにくくなる。 −後手の石田流を許す代わりに、先手は銀冠に組み替えるが、先手からの仕掛けがうまく行かず、同等の銀冠穴熊まで組まれてしまう。 −よって、ひょいっと▲5五角と覗くのが面白い。角の動きで手損するが、△7三桂と跳ねさせて、△7三角を防ぐ。以下は早い戦いを目指そう。 |
(2)△5三銀型 ・△5三銀型は、後手にとって左銀が玉に近いのがメリット、3筋が薄くなるのがデメリット。 −△5四歩が突かれているので、前節で推奨された「▲5五角」はできない。 −代わりに▲4三と等が利くことがある。 −▲4四歩と取り込んだときに、△5三銀型では△同銀の一手ではないのも後手にとってのメリット。 ・▲4七銀型を作って、持久戦で固め合うのも悪くはないが、厳密には後手が指せそう。 ・できれば、先手だけ銀冠、後手が美濃囲いの状態のときに戦いを起こしたい。 ・なかなか攻略するのは難しいが、△3五歩のタイミングで▲5六歩〜▲5七金が奥の手。 −▲4六金〜▲6八角で、△3五歩を取ることを狙っている。対△5三銀型限定の作戦。(※△4三銀型では△3四銀と歩を支えられる) −金を繰り出すのは、右銀を▲4八銀型で置いておけば、後手の3筋歩交換に▲3七歩と受ける必要がないため。 −金で後手の動きを押さえ込めたら、玉側に手をかけよう。 −後手が△3五歩を見捨てたときは安易に飛びつかず、後手の動きを封じながら万全を期す指し方が良い。▲4六金の位置で居座るのが好位置。 |
第3章は、「対三間飛車藤井システム」。 三間飛車藤井システムは、四間飛車の藤井システムと同様の発想で、居飛穴や銀冠を玉頭から直接攻撃することを目指す作戦。 『緩急自在の新戦法!三間飛車藤井システム』(佐藤和俊,マイナビ出版,2018.09)で広く知られるようになった。 (1)三間飛車藤井システムの狙い ・後手は△7一玉を保留し(△6二玉でキープ)、△6三銀〜△7二金〜△3一飛から玉頭攻めを狙う。 ・先手が何も考えずに銀冠に組むと、猛攻を喰らう。 ・△6三銀を見たら、無理に銀冠穴熊を狙わず、▲6六歩〜▲6七金右で上部を厚くしよう。 ・そもそも▲8八玉の入城を保留した方が実戦的には楽。「△7一玉を見てから▲8八玉」はここでも有効だ。 |
(2)△5三銀型 ・△5三銀型の方が三間飛車藤井システムの破壊力は高い。 −△6四銀と出て、玉頭の戦線に参加させやすい。 ・やはり後手の角筋に先手玉が入ってしまうのは危険。 ・入城を保留し、▲3六歩〜▲3七銀から、▲4六銀-▲3七桂-▲2六飛型に組むのは有力。 ・しっかり囲いたい場合は▲6六歩〜▲6七金右から▲4六銀。 −ただし、後手が早めに△4五歩と動いてきた場合は課題となる。 |
第4章は、「対穴熊」。 後手が振り飛車穴熊を採用して、堅さで対抗しようとする作戦。 本章の指し方では早めに▲7八銀を決めているので、相穴熊に組むことはできない。 また、先手が銀冠穴熊を目指すと、先に固め終えた振り飛車から先制攻撃される。 (1)△4三銀型 ・△4三銀型の場合、後手の攻めの陣形は石田流への組み替えにほぼ決まる。 ・対穴熊の場合は、3筋は▲1六歩〜▲2六飛で受け止め、右銀は▲5七銀〜▲6六銀と使うのが良い。 −右辺は軽く受け流して、左辺で勝負するイメージになる。 −持久戦になれば、▲6六銀と△4三銀の働きの差が出てくる。 ・▲8五歩と突いて、終盤での貯金としておきたい。 |
(2)△5三銀型 ・△5三銀型は、△6四銀と出て銀冠の玉頭をめがけてくる手がある。 ・△6四銀が早ければ▲6六歩で対抗したい。 ・後手がしばらく様子を見るなら、さっさと銀冠穴熊に潜り、△6四銀には▲6六銀で受けたい。 −ただし、優劣の比較は難しい。▲6六歩は比較的穏やか、▲6六銀は堅い半面激しい変化があり得る。 |
〔総評〕 四間飛車に対して居飛車が持久戦を目指す本はたくさん書かれているが、三間飛車での持久戦を居飛車の立場で解説した本はこれまで非常に少なかった。「対三間飛車には5筋不突き穴熊でOK」という時代が長く、どちらかといえば三間飛車側がいかに工夫をするか、という本が多かったが、トマホークなどによって居飛車は様々な形に柔軟に対応する必要が出てきている。本書の「まずは銀冠(隙あらば穴熊)」というスタンスは、現状にあった作戦といえるだろう。 三間飛車が四間飛車と大きく違うのは、銀の進路を選べること。本書では、多くの章で後手の右銀の位置を△4三銀型と△5三銀型で分けて解説しており、対三間飛車ならではの戦い方を上手く整理して解説できていた。 また、居飛車が良くなる解説だけでなく、「単純に組むとどうなるか」→「振り飛車の工夫」→「その対策」と、比較的公平な視点で扱われているので、先後どちらの立場でも有用だと思う。 ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認): p183上段 ×「第5図以下の指し手@」 ※A以降がない。 |