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マイナビ将棋BOOKS これだけで勝てる 角換わりのコツ |
[総合評価] B+ 難易度:★★★ 〜★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A(一部B) 中級〜有段者向き |
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【著 者】 大平武洋 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年6月 | ISBN:978-4-8399-7560-9 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
・【コラム】将棋めし1〜4 |
【レビュー】 |
角換わりの戦術書。 「これだけで勝てるシリーズ」は本書で9冊目となるが、今回初めて相居飛車を取り上げている。相居飛車はかつては、プロでは局数が多いがアマではあまり指されない感じだったが、近年はアマでの相居飛車もよく見かけるようになり、相居飛車を解説した本の需要が増えているようだ。 また、「これだけで勝てるシリーズ」としては初めて、各図面に形勢評価値が入るようになった。全体を100点として、互角なら50-50というように、点数を振り分けている。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「角換わりの基本―平成と令和の違い」。 角換わりのオープニングから仕掛け前までの駒組みを解説する。 主に平成初期〜中期に流行した「従来型」と、平成末期〜令和で流行中の「新型」で分けて解説している。 〔従来の角換わり腰掛け銀・先後同型の序盤、仕掛けまで〕 ・従来の角換わりの立ち上がりは、▲7六歩△8四歩▲2六歩だった。 −ここで後手が角換わりを望むなら、△8五歩▲7七角となる。 −△3四歩に▲8八銀が従来の主流。角交換を拒否されたときに、角を立て直しやすいのが主な理由。 −右銀は▲3八銀と上がっていた。棒銀・早繰り銀・腰掛け銀の選択肢を残すため。 −プロでは腰掛け銀が主流。このとき、右桂は駒組みが充実してから、仕掛けの直前に跳ねていた。桂頭を狙われるのを防ぐため。 −後手は△8五歩と突き越すが、先手は▲2六歩で保留することも多かった。▲2五桂と跳ねる含みを残すため。 −右金が▲5八金と浮いている状態で▲4五歩と仕掛けていた。早く仕掛けないと、後手から仕掛けられる恐れがあるため。 〔新型の角換わり腰掛け銀の序盤、仕掛けまで〕 ・初手から▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩と、相掛かりと同様の立ち上がりが流行中。 −ここで▲7六歩なら角換わりへ。後手が雁木へ変化することを警戒した指し方。替えて▲7八金なら相掛かりになる。 −そこで△3四歩なら横歩取り模様だが、このオープニングは後手が「相掛かりでも角換わりでもよい」ということなので、変化される可能性は低め。 −▲2五歩を決めているので、将来の▲2五桂の筋はなくなっている。 −左銀は▲6八銀と上がることが多い。角交換を拒否されたときの角の立て直しよりも、中央を厚くしている。 −右銀は▲4八銀と上がるのが主流。棒銀は捨てて、中央志向。 −現在は右桂を跳ねるのが早い傾向。場合によっては桂で速攻する。 −▲4八金-▲2九飛型が主流。バランスを重視している。 |
第2章は、「有名定跡」。 ▲棒銀と、旧型腰掛け銀・先後同形のメジャーな定跡を解説する。 (※なお、どちらも現在(2021年)のプロ将棋で出現することはほとんどない。) 〔▲棒銀〕 ・▲2七銀〜▲2六銀から銀交換、または端の突破を目指す。 ・後手の受け方として、大きく分けて「△7三銀〜△5四角」と「△1四歩」の2つを紹介。 ※なお、他書でよく見られるのが「△6三銀型に対して先手の端攻め〜▲1二歩の垂れ歩〜▲8四香の筋で成功」というものだが、本書では触れていない。 そもそも後手が少しでも定跡を知っている相手なら、▲棒銀に△6三銀とする人は少ないので、特に問題はない。 |
〔腰掛け銀〕 ・旧型の腰掛け銀を解説。▲5八金型vs△5二金型。 ・互いに▲8八玉△2二玉と入城した形から▲4五歩と仕掛ければ「木村定跡」。先手必勝とされる。 −ただし、▲8八玉のタイミングで後手から△6五歩と仕掛けて、先手が受け身になりやすい。 ・というわけで、▲7九玉-△3一玉型の形で▲4五歩と仕掛けるのが長年のテーマだった。 −当初は「4-3-1-7-2」の順番で歩を突いていたが、平成後期では「4-2-1-7-3(世に伊奈さん)」の順番が主流に。手抜きをしにくい順で突き捨てる。 −どちらの場合でも、3筋の▲3五歩には取らずに△4四銀が受けの形。 ・▲1二歩△同香▲1一角からの変化を本線として紹介していく。 −章の仕上げとして、▲1二歩△同香▲3四歩の「富岡定跡」で締める。これが旧型の決定版になっている。 |
第3章は、「早繰り銀」。 ▲3六歩〜▲3七銀〜▲4六銀と配置し、▲3五歩から銀交換を狙う作戦。 ・▲早繰り銀に対し、後手には大きく分けて2つの対抗策がある。 −(1)△7四歩から相早繰り銀(反撃含み)、(2)△6三歩から腰掛け銀(じっくり受け止める)。 ・早繰り銀側が仕掛けるには、▲2四飛の形になったときの王手飛車を回避しておく必要がある。 −(1)▲5八玉、(2)▲1六歩、(3)▲6八玉が有力。 −※なお、「昔から指されているのは▲5八玉」(p68)とあるが、▲5八玉は比較的新しい手。『青野流近代棒銀』(1983)の頃は▲1六歩か▲6八玉だった。 ▲1六歩も見直されている。早めに打診することで、後手の対応を見てから作戦を選べる利点がある。 ・▲3五歩△同歩▲同銀の仕掛けには、△8六歩〜△8五歩の継ぎ歩の反撃が常にある。 −これで戦えないなら▲3五歩と仕掛けるべきではない。 ・▲5八玉型では銀交換よりも▲3四歩△2二銀としたい。その後は、▲6六歩〜▲6八銀〜▲6七銀と片雁木に組み替えるのが柔らかい発想。 ・▲1六歩型では、銀交換を目指す。▲3四歩△2二銀▲2四飛とすると、△2五飛!が妙手で困る。(4七が守られていない弱点を衝かれている) ・▲3五歩の仕掛けの前に、間合いを測る手段がある。 −(1)▲1五歩、(2)▲5六角の設置、(3)▲6六歩、など。 ・△腰掛け銀には、▲6九玉が推奨。 −▲6八玉は、銀の取り合いになったときに戦場が近い。 ・▲7八金を省略して早繰り銀に出るのが新しい順。▲6八玉から早囲いを見せたり、▲7九玉と戦場から遠ざかる手が含みにある。 ・▲3五歩に△4三銀と銀矢倉で受ける順には、▲3四歩△同銀→▲3六歩が必修手筋。次に銀を捌く狙い。 ・▲7九玉型を生かすには、▲3四歩△同銀右▲5五銀と逆モーションが面白い。 |
第4章は、「▲4八金−▲2九飛型」。 第1章で触れられた、新型角換わり腰掛け銀を解説する。▲4五桂速攻も本章で解説する。 ・新型腰掛け銀では、先後ともにバランスを取った陣形になっている。 ・早めに右桂を跳ねることが多い。▲4五桂をいつでも決行できる形にしておく。 ・▲3五歩〜▲4五桂の仕掛け(▲4五桂速攻)は有力だが、△4四銀〜△3六歩が後手の有望手で、この仕掛けは少なくなっている。 −ただし、1筋の突き合いがあると、先手は▲2六飛と引きやすく、さらに有力。 (△1五角の筋がなく、端攻めを絡めることもできる。逆に▲1五角の王手がない点には注意。) |
・▲4五桂速攻を仕掛けなければ、相腰掛け銀を目指す。 −▲2九飛と引き、▲4八金と上がる。 ・互いに銀を腰掛けて、同型の一歩手前が後手の分岐点。 (1)先に△6五歩と仕掛けるか、 (2)△4四歩と同型で行くか、 (3)△6三銀と引いて一人千日手で待機か、 (4)△5二玉と玉の往復運動で待機か。 ・(1)△6五歩と仕掛けると、▲同歩に△同桂か△同銀の二択。 −後手は△4四歩を省略して仕掛けているので、△3五歩の桂頭攻めは先手にとってあまり怖くない。 −△同桂は、後手が攻める形を継続するのが大変か。 −△同銀は、互いに攻めの切り札があり、タイミングは難しい。 −∴後手番でも積極的に指したい人には、△6五歩の仕掛けはオススメ。(後手が有利という訳ではない) |
・(2)△4四歩は、先手から▲4五歩と仕掛ける。 −▲7九玉と囲ってから▲4五歩と仕掛けるのもあり。ただし、△4一飛と備えられると、先手が少し損をしている可能性あり。 −激しい戦いで、一手違いになることが多い。 ∴現在は、先手良しと見られている。 |
・(3)△6三銀は、後手が争点を作らずに徹底防戦する構え。半面、後手からの攻めはない。 −▲6七銀と引いて銀矢倉にし、5筋の歩を伸ばすのが一案。陣形を広く好形にして、後手に攻めさせる展開になりやすい。 −入城してから▲4五桂と跳ねていくのも有力。 |
・(4)△5二玉の待機策は、柔軟に構えている。先手は▲7九玉と囲いを進める。 −△4四歩〜△4一飛で先手の仕掛けを封じるのが一策。 −△4二玉と四段目の銀をキープして玉の往復運動をするなら、激しい変化にもなり得る。 ▲8八玉に△6五歩と後手に仕掛けさせるか、機先を制して▲4五桂〜▲5三桂成の筋を含みとした仕掛けをするか。 |
なお、本章ではここ数年のプロ将棋で頻出してきた戦型を扱っており、これまでの「これだけで勝てるシリーズ」(コツシリーズ)の中では非常に難しい。章末のp218〜p221に「アップデートしたい3つのコツ」が書かれているので、先に読んでおくのがオススメ。(※表紙に書かれている「現代角換わり3つのポイント」を解説したもの) 〔アップデートしたい3つのコツ〕(超抜粋) ・隙あらば▲4五桂跳ね(歩でタダ取りされないのが目安) ・決められる形は決めてしまう(例:▲4五桂を狙うので、▲2五歩と決めてしまっても良い) ・玉の堅さを求めず、広さやバランスを重視する |
〔総評〕 本書は、「角換わりが一冊で分かる」というコンセプトで作られており、棒銀・早繰り銀・腰掛け銀といった角換わりの主要戦型は一通り押さえられている。腰掛け銀も、旧型の変遷と結論をしっかりオサライした上で、新型をじっくり解説しているのは良い。 角換わり棒銀の本にありがちな「後手に序盤で甘い手を指させて先手成功」という手法は取っておらず、どの戦型もプロで指されたことがあるような本筋に近い変化を中心に解説しているのは◎。 一方で、これらの戦型を同じ難易度で解説するのはかなり難しいようで、全体的な難易度の振れ幅が大きく、章によって対象棋力に違いがあり、「一冊丸々ちょうど良い」というイメージではない。特に腰掛け銀は膨大なプロ将棋の変化を扱うだけあって、難易度は高めになっていた。既存の腰掛け銀の本よりはやや易しめの解説にはなっている。ただし、一部のページでは図面不足になっていて、読みづらい場面もあったが、これは臨機応変に図面を増やせば解消していたはずだ。 本書のオススメ度は、かなり人による。 「既存の本(たとえば『斎藤慎太郎の 角換わり腰掛け銀研究』)は難しすぎる」と感じている人には試す価値があるだろう。また、「プロの将棋をよく観戦しているけど、角換わり腰掛け銀や早繰り銀でよく分からないところがある」という人にもオススメ。 半面、「ちょっと角換わりを始めてみようかな」くらいの人だと途中で挫折してしまうので要注意。また、これまでの「これだけで勝てるシリーズ」が難易度的にちょうど良かったという人も、ちょっとしんどいかもしれない。 「既存の本でも十分理解できている」という人や「これまでの角換わりの戦術書はだいたい読んでいる」という人であれば、新規の知識が欲しければスルーでも良い。理解を深めるために復習したいなら読んでおいても損はないだろう。 (2021Jul07) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版Ver1.00で確認): p134 ×「P124第2図以下の指し手A」 ○「P123第2図以下の指し手B」 p150 ×「P124第2図以下の指し手B」 ○「P123第2図以下の指し手C」 p150 ×「P124第2図以下の指し手C」 ○「P123第2図以下の指し手D」 p171上段 ×「もう終盤戦入っている感じ」 ○「もう終盤戦に入っている感じ」 |