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マイナビ将棋BOOKS 緩急自在!新型相掛かりの戦い方 「飛車先交換、三つの得あり」に満足せず、交換保留で“四つ目の得”を求めた相掛かり! |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 〜★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 佐々木大地 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年8月 | ISBN:978-4-8399-7339-1 | |||
定価:1,804円(10%税込) | 264ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
・【編集協力】 松本哲平
・【コラム】 (1)人生でいちばん絶望した日 (2)ライバル (3)突然の電話 (4)故郷、対馬 |
【レビュー】 |
相掛かり▲5八玉型の戦術書。 プロの居飛車党同士の対戦では、一時期の角換わり腰掛け銀の大流行が一段落し、相掛かりがよく見られるようになった。一時期の相掛かりは、マニア同士だけが指す印象があり、棋書もあまり出版されていなかった。(個人的には、後手番でやりたい作戦があまりなかったのが原因だと思っている) 近年の相掛かりは、▲引き飛車棒銀が廃れ、さらに飛車先交換を保留するようになっている。先に形を決めず、一番いいタイミングで飛車先交換をしようというもので、玉の配置や端歩などの組み合わせが豊富で、研究のやり甲斐があるようだ。 本書は、相掛かりで高勝率を収めている佐々木大地五段が、やや主流になっている▲5八玉型を中心に、相掛かりの最新形を解説する本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「5八玉型vs4二玉型」。 ・相掛かりの序盤はパターンが多く、プロでも試行錯誤が続いている。 ・本章では、端歩を突かずに、▲5八玉・△4二玉と上がる形を検討する。 ・▲5八玉型はバランスが良く、相掛かりの基本の構え。 ・△4二玉型は、△3二金にヒモを付けており、▲3四飛と横歩を取られたときに先手になりにくい。(次の▲2二角成には△同銀で何でもない) ・新型相掛かりでは、飛車先歩交換を急がない。まず▲3八銀と立つ。 ・相掛かりでの狙いの一つである「十字飛車での横歩のかすめ取り」を、手損なく狙えるのが飛先交換保留の効果の一つ。 ・飛の位置を決める必要が生じたタイミングで、飛先交換を行う。(たとえば、自陣の横歩を▲2六飛で守る必要がある、など) ・新型相掛かりでは、序盤から積極的に横歩を狙う。▲2四歩△同歩▲同飛と歩を合わせて動く。 −横歩を取らせて、歩損の代償を求めるか。 ・△8五飛は積極的な構え。△7四歩と突いても飛の横利きは止まらない。 −△8五飛型に対する先手の攻撃形は、▲3七桂が基本。 −将来、△8五飛に当てて▲7七桂と跳ね、両桂での攻めも見ておきたい。 −▲2二歩の手筋も常に意識しよう。 ・△8二飛は受け重視。飛が目標になりにくい。△6四歩〜△6三銀から持久戦を目指す方針。 −▲3七桂は、速攻は利きにくいので、持久戦へ。後手も持久戦にするなら△5二玉型の方が向いている。 −▲3七銀からの積極策も有力。△8二飛が中段の受けに利かない点を衝き、△4二玉型を咎めやすい。 ・△8四飛はバランスが良い。横利きで3筋の歩を守っている。 −後手が駒組みを進めるときに、どうしても7筋の歩を突く必要があるので、そのタイミングで先手は横歩を狙う。 −また、浮き飛車が▲6六角のラインに入りやすいので、常に狙っておこう。 |
第2章は、「5八玉型vs3つの作戦」。 ▲5八玉型に対し、第1章の△4二玉型以外で、後手の有力な3つの作戦を解説する。 ・「早めの飛車先交換」は、▲5八玉のタイミングで後手が飛先の歩を交換する。飛の位置を変えて、別の狙いを生じさせている。 −△8四飛の浮き飛車は、▲7六歩に△7四飛と揺さぶれる。 −先手は飛先交換を保留した効果で、2筋歩交換から横歩を狙う場合に、歩を合わせるのではなく、盤上の歩を突くので、1手得をする。これを生かすためにじっくり駒組みを進めたい。 −△8二飛の引き飛車は、棒銀を狙っている。 −▲3六歩〜▲3五歩を狙いたい。後手の角の働きを制限する。一歩持っていれば、飛先突破には▲6六角〜▲8三歩△同飛▲8四歩で止められる。 ・「居玉早繰り銀」は、後手が飛先を切らずに早繰り銀に出る。飛先交換を防いだ▲7七角の頭を狙ってくる。 −早繰り銀を許すのは、やや先手不満。 −△7四歩の瞬間に飛先の歩を切って、横歩を狙いたい。(△7四歩を取らせて銀の進出を急ぐ指し方もあるが、▲5八玉型が後手の早繰り銀から一路遠い分だけ戦えると見ている) −実際には横歩を取らず、▲2五飛〜▲6六角〜▲7七桂と構えて、▲8五飛と飛をぶつける狙いを作る。 ・「先後同型策」は、後手も△5二玉と追随する形。△4二玉型とのわずかな差が決戦の成否を分ける。 −先手の方針は変わらない。▲3六歩〜▲3七桂を目指しつつ、△7四歩の瞬間に横歩取りに動く。 −▲3四飛が先手になるのが△4二玉型との大きな違い。(次の▲2二角成を受ける必要がある) −▲2二飛成△同銀▲5五角打の強襲筋は、△5二玉型には効果が薄い。 −△9四歩型が最前線。飛の横利きを止めず、▲8二歩には△9三桂、▲8二角には△9三香や△9四飛(△9五歩まで突いている場合)を用意しているので、飛を動かしやすい。ただし、端歩が緩手になる可能性もある。現在進行形で、今後の課題。(2020年8月現在) −「後手が9筋の歩を伸ばす価値が高いのは、…千日手を含みとした揺さぶりが利くから」(p220) |
第3章は、「最新の▲9六歩」。 ・先手が玉の位置を決める前に、先に▲9六歩を突いて角の呼吸を楽にし、▲4六歩や▲3六歩を突きやすくする。 −後手の飛先交換に▲8七歩が絶対手でなくなるので、歩を銀で守ったり、桂跳ねを急いだりできる。 −あえて歩を取らせて銀の進出を急ぐ作戦もあるが、本書では触れていない。 ・相手の様子を見てから、玉の位置を選ぶことができる。 ⇒▲9六歩は何気ない端歩突きだが、積極的な駒組みを狙う含みがある。 ・後手の棒銀には、▲7七銀で受けて銀交換させるのもアリ。手数をかけて銀交換していて、先手の角が楽になっているので構わないという考え方だ。 −かつては、ほぼ無条件で「銀交換できれば棒銀成功」とされていたので、随分と考え方が変わってきた。 ・▲3六歩〜▲3七桂を目指すなら、先に▲5八玉と立つ。居玉だと祟る展開が多い。 ・早めの▲3七桂型では、△3四歩には次に△3五歩が来る形を予期しておく。桂頭を守るか、歩を取り込ませて反撃するか、切り返しの手段を用意するか。 ・▲9六歩に△5二玉は、先手の構想を咎めるために早く動こうとしている。 −先手は▲3六歩〜▲3七桂と早く動く形を目指すと、後手陣が安定しているために、駒組みのリードまでは行かない。 −自玉の位置を決めていないのを逆手にとって、堅さを目指す駒組みを目指して持久戦志向にするのが一案。 |
第4章は、「実戦編」。 著者の佐々木大地の実戦譜10局を、一局あたり8〜10pでしっかりと解説していく。 ・すべて佐々木の先手で、かつ勝局。 ・実戦例は各章のチャートに組み込んであるので、参考にしてください。 −実戦例2,3,4は、▲5八玉に△1四歩の手順で、定跡編ではほとんど触れられていませんが、第2章のチャートに入れてあります。 実戦例1 2020.01.20、▲佐々木大地△先崎学、棋聖戦 実戦例2 2018.11.20、▲佐々木大地△及川拓馬、銀河戦 実戦例3 2019.03.18、▲佐々木大地△富岡英作、棋王戦 実戦例4 2019.06.10、▲佐々木大地△宮田敦史、棋王戦 実戦例5 2018.11.07、▲佐々木大地△行方尚史、王位戦 実戦例6 2019.01.29、▲佐々木大地△千田翔太、棋聖戦 実戦例7 2019.03.15、▲佐々木大地△稲葉陽、王位戦 実戦例8 2018.12.06、▲佐々木大地△佐々木勇気、棋聖戦 実戦例9 2019.12.09、▲佐々木大地△広瀬章人、棋王戦 実戦例10 2020.01.07、▲佐々木大地△渡辺明、王位戦 |
〔総評〕 「飛先交換を保留するタイプの相掛かり」の専門書としては、先に▲6八玉型の本(飯島本)が出ていたが、本書が出版されたことによって、一通りそろったと言っていいだろう。 そして本書では、まず「端歩を突かない形での▲5八玉型vs△4二玉型」で、後手の飛の引き場所によって戦い方を決めるという「新型相掛かりの思想」がしっかりと示されている。次に「後手の工夫として3つの作戦」が示され、最後に「端歩の有無による攻防の変化」と、この2〜3年の相掛かりの進化をきっちりと解説しており、また実戦例も豊富(ページ埋めのレベルではない)で、「シッカリとした一冊」という印象だった。 ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認): p69上段 棋譜 ×「▲2二角成 △同 角 ▲7七角」 ○「▲2二角成 △同 銀 ▲7七角」 (下段の本文内は正しい) p220上段 ×「千日手を含みした揺さぶり…」 ○「千日手を含みとした揺さぶり」or「千日手を含みにした揺さぶり」 |