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マイナビ将棋BOOKS AI時代の新手法!対振り飛車 金無双急戦 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B- 有段者向き |
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【著 者】 所司和晴 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年7月 | ISBN:978-4-8399-7366-7 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 304ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)振り飛車受難の時代 (2)世界の将棋 (3)大橋貴洸六段 (4)富沢キック (5)本田五段の金無双 (6)飛車落ち定跡 |
【レビュー】 |
対振り飛車の金無双急戦の戦術書。 従来、対振り飛車の急戦といえば、「舟囲い基本形+右4六銀」や、「5七銀左戦法(舟囲い発展形からいろいろ派生)」と、あとは「天守閣美濃+右4六銀」などが指されていた。中でも「狭義の急戦」といえば「5七銀左戦法」で、非常に細部まで研究され、仕掛けとしては大変有力ながら、玉の堅さの違いで逆転負けも多く、平成時代では居飛穴に主流の座を譲っていた。 ところがAIの台頭によって急戦が見直されている。従来型の急戦の結論が大きく変わったわけではないが、例えばエルモ囲い急戦が非常に有力視されるようになった。もう一つ有力と見られているのが、本書の「金無双急戦」である。 「金無双急戦」の玉型は、舟囲い基本形から、〔右図〕のように▲6九金を▲6八金上と上がる。左銀は初期位置のまま。5七銀左戦法で左銀を7九に戻したような形になる。 [金無双急戦の特長]を列挙してみる。 ・囲いの金銀の移動が▲5八金右・▲6八金上の2手で済むので、攻撃形に手数を掛けられる。 ⇒▲4六銀-▲3七桂型(+▲1六歩、▲2六飛)のように、銀も桂も攻めに使える。 ⇒ただし、通常の5七銀左戦法と同じ仕掛けだと、損になっていることも多い。金無双急戦に適した仕掛けを選びたい。 ・二枚の金の連結が良く、浮き駒になりにくい。(※これは舟囲い▲6八金上型も同様) ・角交換になった場合、左銀が5七にいるよりも安定している。 ⇒同じ手数の舟囲い▲6八銀型だと△8八角成▲同玉の形は非常に味が悪いが、金無双では△8八角成に▲同玉も▲同銀も状況によって選び得る。 ⇒△9九角成と香を取りながら角を成り込まれても致命傷になりにくく、▲8八銀と盤上の駒で馬を弾ける。(※これはエルモ囲いにはない特徴) ・仕掛けが難しくて持久戦になったとき、居飛穴や銀冠などへの組み替えができる場合がある。(※これは意外な特徴。相振り飛車での金無双は「発展性がない」と言われてきたし、居飛車でもかつては同じようなことが言われていた) 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「基本図まで」。 初手から、各章のテーマ図までの手順を解説していく。 ・どの局面がテーマ図になっているかは、本文中に書かれてはいるが、本文中にも図面にも強調表示は施されていないので、探すのは結構面倒。 ・また、各章・各節のテーマ図を見たときに、「そこまでの局面に至るまでは○ページ〜△ページを参照」すべきかが分からない。 ⇒チャートにまとめておいたので、参考にしてください。 |
第1章は、「対四間飛車△5四歩型 ▲3五歩の仕掛けに△3二飛の変化」。 ▲3七桂-1六歩-2六飛型から▲3五歩と仕掛け、△3二飛と回られたときに▲4六銀と上がるタイプの仕掛けを解説する。 ・▲4六銀に△5三金なら、後手は潰されずに待つことができる。ただし、二次駒組みで先手は居飛車穴熊まで組み替えるのが有力。 ・▲4六銀に△5一角は、先手の仕掛けは成立するが、簡単ではない。 ・▲4六銀に△7四歩は、先手玉が薄いので実戦的には大変。しかし、攻防をしっかり指せば先手有利を望める。 |
第2章は、「対四間飛車△5四歩型 ▲3五歩の仕掛けに△同歩の変化」。 ・▲3五歩の仕掛けに△同歩なら、▲4五桂!△同歩▲3三角成△同桂▲2四歩と、「富沢キック」ライクの攻め方が成立する。 ・ただし非常に難解。▲2四歩に対し、(1)△同歩 (2)△3四桂(飛車取り) (3)△2二飛 の3通りがあって、それぞれ難しい。 ・(1)△同歩は、基本的に先手が指せそうだが、美濃囲いが堅く、実戦的にはなかなか大変。 ・(2)△3四桂は、平成ではほとんど見かけなかった筋だが、居飛車の飛が▲2六飛にいることで発生する。互いの金銀が盤上に残ったままになりやすいが、先に香を取った先手の端攻めが速いか、後手のと金攻めが速いか。 ・(3)△2二飛は、飛を取り合った後の先手のと金攻めが厳しく、先手の調子良し。 |
第3章は、「対四間飛車△6四歩型」。 ・△四間飛車が△5四歩を突かず、高美濃に組む変化。これは、金無双急戦に限らず、急戦にはやや弱い形。 ⇒ただし、四間飛車側が居飛穴を警戒して△6四歩を早く突くケースもあるかもしれない。 ・▲3五歩の仕掛けに、(1)△3二飛 (2)△同歩 のいずれでも、これまでの第1章・第2章よりも居飛車が指しやすい。 |
第4章は、「対角交換四間飛車」。 ▲6八玉のタイミングで△8八角成とする形ではなく、角道オープンのまま駒組みを進める形の「角道オープン四間飛車」に対する金無双急戦を解説する。 ・角交換四間飛車にも金無双は有効。 ・△角道オープン四間飛車では、(1)△3三角と先手から角交換させる姿勢で待つ変化と、(2)△3五歩から「4→3戦法」に組む変化がある。 ・△3三角には、角交換をせずに金無双〜▲3七桂で整えて、▲2四歩△同歩▲3三角成△同銀▲4五桂の仕掛けが成立する。 ・△3五歩からの4→3戦法には、▲2四歩から飛先を交換する。角交換〜△2二飛のぶつけが角交換系振り飛車の常套手段だが、先手も手得と金無双の安定感で強気に戦えそう。▲2三歩と飛交換を拒否して、▲7五歩と美濃のコビンを狙うのが急所。▲4六角△6四角と角を打ち合うが、局面が収まったとき、角の働きに差がつく。 |
第5章は、「対中飛車」。 ▲中飛車で、5筋を突き合うタイプに対する、△金無双急戦を解説する。 ・居飛車の課題局面からの△4二金上と金無双に組む形が有力に。 ・△4二金上が入っていれば、△7四歩と急戦の準備をしたときの、▲5五歩△同歩▲同飛の対策になっている。 ・△4二金上に、先手の指し方は(1)▲6六歩 (2)▲3六歩 (3)▲5九飛 (4)▲2二角成 の4通り。変化は多岐にわたる。 ・(1)▲6六歩に対し、居飛車は△6四銀-7三桂-8四飛から仕掛けるが、▲7七金で急戦を受け止められると、二次駒組みで持久戦になる。本書の進行では、後手が居飛穴への組み替え、先手は地下鉄飛車から玉を左辺へ引越する。 ・(2)▲3六歩から木村美濃へ組み替える順には、△8六歩の突き捨てから△7七角成と角交換して、▲同銀に△6五桂と銀をどかして△8六飛を狙うという、比較的シンプルな仕掛けが成立しそう。 ・(3)▲5九飛には、△7四歩と急戦を見せると、▲2二角成と角交換から第二次駒組み。本書の進行では、▲木村美濃vs△銀冠から戦いになる。 ・(4)▲2二角成の角交換から5筋の歩を交換してくる型には、金無双で5筋が厚いのを生かして、後手は簡単に歩を謝らずに戦う。8筋の歩交換ができれば、2歩を持って4筋から手を作る。 ⇒対▲中飛車の場合、これまでの章と違って、後手が金無双に組んだ後にどんどん攻める展開にはなりにくいが、じっくりとした持久戦になったときに、戦いを封じながら陣形の発展が望めるようだ。 |
第6章は、「対三間飛車」。 △三間飛車4三銀型に対する▲金無双急戦を解説する。 ・△三間飛車4三銀型は、雁木との両天秤で指されることがある。 ・雁木模様に対して、速攻を見せた▲3六歩に呼応して、△3二飛の三間飛車になる。居飛車穴熊がなくなっているのが後手の主張。 ・先手は▲3六歩を突いているので、急戦を狙う展開にする。▲4六歩から「4五歩早仕掛け」が有力策。 ・▲4五歩早仕掛けに対し、△4二飛▲5六歩に、(1)△3二金 と受け止める指し方が増えている。先手は決戦せずに、▲4五歩△同歩に▲4六歩といったん局面を収め、駒組みを整えてから▲4五桂と捌くのが有力。 ・(2)△5二金左 とする従来の型には、金無双から陣形を整えて▲2六飛と浮き、▲3五歩から仕掛けを続行するのが有力。飛角銀桂を使う攻めになる。普通の▲4五歩早仕掛けで行ってしまうと▲5七銀左型舟囲いより劣るので注意。 |
〔総評〕 本書は金無双急戦の初の専門書になるが、その[特徴(長所・短所)]や[戦い方のコツ]、[狙い筋]、[従来の急戦との違い]、などをまとめた章はなく、いきなり専門的な変化に入っていくため、とっつきにくいとは思う。 また、いったん急戦を封じ込めて第二次駒組みになっていく展開が延々と書かれている章もあるが、作戦勝ちにつながるかどうかが専門的には調べ甲斐があるとは思うものの、我々が同一局面を迎える可能性は低いだろう。 ただし、急戦模様でも持久戦模様でも「これにて一局」で終わらせず、「その先を知りたい」という要望には十分応えているように思う。 変化が詰め込んである分、いまどの変化の話をしているかが分かりにくいのが難点ではあるが(かつての「東大将棋ブックス」シリーズのような、分岐を「(1)(2)(3)…」とか「(a)(b)(c)…」のように何とか分かるようにする工夫も、本書ではなくなっている)、本レビューのチャートを併用すればかなり改善するはずです。評価はAにしていますが、読みづらさは織り込んでおいてください。 個人的には、二十数年前に金無双急戦をしばらく試したことがあり、それがこのAI時代に評価されたことをうれしく思う。また、当時は『羽生の頭脳』に載っているような仕掛け筋を金無双で試して、それほどの戦果を挙げられずに辞めてしまったが、「4六銀+3七桂」や「富沢キック」など、さらに昔の仕掛け筋と組み合わせれば有力であることを提示してくれたのは、目からウロコの思いだ。 エルモ囲い急戦に比べると、分かりやすさには欠けている半面、押したり引いたりの駆け引きが面白く、ある意味で新鮮だった。また、持久戦でも進展性が望める(と価値観が変わった)ことが面白い。 急戦で分かりやすくガンガン攻めたい人はエルモ囲い急戦を、持久戦も見据えつつ、相手の知らない仕掛けで押し引きしたい人は本書の金無双急戦がオススメです。どちらかと言えば、玄人タイプ向けでしょうか。早指しでの勝ち易さはあまりないかも? (2020Aug20) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver.1.00で確認): p30 ×「第12図はずっと課題の局面で、」 ○「第13図はずっと課題の局面で、」 |