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マイナビ将棋BOOKS とっておきのエルモ |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B+ 上級〜有段向き |
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【著 者】 細川大市郎 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年7月 | ISBN:978-4-8399-7308-7 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】 今まではまってきたものベスト10 |
【レビュー】 |
エルモ囲いを用いた対振り飛車急戦を解説した戦術書。 エルモ囲いはこの2年間くらいでかなり浸透し、プロでも特に若手棋士がよく採用している印象がある。また、アマでは自分がノーマル振り飛車を指すとかなりの確率でエルモ囲い急戦に遭遇し、結構対策に困る感じだった。逆に自分がエルモ囲い急戦を指してみると、かなり簡単に勝てることがあったり、逆に舟囲い急戦では見られないような変化が出てきたりと、面白味のある戦型だと思っていた。 エルモ囲い急戦の最初の戦術書としては、村田本(『対振り飛車の大革命 エルモ囲い急戦』,2019-04)がある。また、右四間を中心としたエルモ囲い本には鈴木肇本(『振り飛車を一刀両断!右四間飛車エルモ囲い』,2020-06)がある。本書は、それらの先行する2冊と比較しつつも、エルモ囲い急戦の全体像が分かる一冊になっている。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「エルモ囲い急戦を指すようになるまで」。右玉使いで知られた著者が、エルモ囲い急戦を指すようになった理由について。 ・右玉使いということが知れ渡り、狙い撃ちされるようになった。 ・対振り飛車は、左玉や相振りを採用していたものの、苦手だった。対抗形にしても、居飛穴の距離感がつかめなかった。 ・エルモ囲い急戦に出会い、試してみたところ、利点が多かった。勝率も良かった。 ⇒対抗形で、「(自分で採用した時ときの)居飛穴の距離感がつかめなかった」というのは、わたしも同じ。従来の5七銀左系統の急戦では玉が薄く、居飛穴は距離感がつかめず、天守閣美濃は玉頭を突つかれただけで自玉だけ終盤…ということで、悩みが同じである。 |
第1章は、「エルモ囲い急戦VS四間飛車」。 ・本書によれば、エルモ囲い急戦は四間飛車に対して特に効果的となる。 ・本書の序盤の手順は、対抗形としてはやや違和感があるが、対中飛車や対雁木を意識したもの。(※手数が進めば通常の形に合流していくので、あまり気にしなくてよい) 第1章第1節は、「対△4三銀型」。△四間飛車としてはオーソドックスな駒組みで、従来の急戦なら、左▲4六銀、棒銀、4五歩早仕掛けなどを後手の形によって選ぶところ。 ・▲4六銀の積極攻勢には、△4五歩の反発が最善。ただし、第二次駒組みで先手は居飛穴への組み替えが有力となる。 ・▲1六歩と様子見するなら、▲4六銀-3七桂型からじっくり攻めるのが良い。 ・居飛車の勝率イメージは約85%。 |
第1章第2節は、「対△3二銀型」。従来型では、△4三銀型より△3二銀型の方が急戦に強いとされていた。対エルモ囲いでも、角交換でのカウンターを狙う。 ・すぐ△4五歩には、▲3七桂がオススメ。 ・△5四歩の待機には、▲1六歩、▲5九金と陣形を整えてから仕掛けよう。 ・△6四歩には、いったん▲1六歩と待って角交換になる。 ・居飛車の勝率イメージは約75%。 |
第1章第3節は、「対△3二金型」。四間飛車側が左金を△3二金と上がり、急戦を受け止める形となる。 ・▲4六銀に△3二金と急戦を受け止めに来ても、▲4六銀-3七桂型から仕掛けが成立する。 ・居飛車の勝率イメージは約70%。 |
第1章第4節は、「対穴熊」。△四間飛車穴熊に▲エルモ囲い急戦が通用するかどうか。従来型の急戦では、仕掛けが成立しても玉の深さで居飛車が勝てないケースが多かったかと思う。 ・△4三銀型でも、△3二銀-△7四歩型でも、仕掛けは成立し、先手やや良し。ただし、やはり穴熊は遠くて堅いので、実戦的には大変か。 ・居飛車の勝率イメージは約60%。 ・なお、p87に補足として、「金美濃+△4一金型」で対抗する形が紹介されている。対エルモ囲い急戦用のシフトといえるが、それでも先手は▲4六銀-3七桂型で仕掛けることができそう。 |
第1章第5節は、「右四間飛車+エルモ囲い」。右四間飛車はユーザが多く、舟囲い、箱入り娘、天守閣美濃、端玉銀冠、居飛穴などさまざまな囲いとの組み合わせが試されてきた。ならば、エルモ囲いとの組み合わせも当然考えられる。 ・本書によれば、右四間+エルモ囲いは、対三間飛車・対石田流に対して有力であり、対四間飛車にはあまり使われない。 ⇒先行して発売された鈴木肇本でも、[右四間+エルモ囲い]は四間飛車に対してそこまで有力視されない旨が書かれていた。 ・△5四銀型には、▲5九金〜▲4九飛と陣形を整えてから仕掛けよう。 ・△5四歩型には、仕掛けは成立するが、互角。 ・右四間側の勝率イメージは約55%。 |
第1章第6節は、「対四間飛車、後手番の場合」。 ・対▲6七銀型には、シンプルな右△6四銀のときに、▲5六歩が入るのが先手の利点。後手は△9四歩で様子を見て、△6四銀-7三桂型でじっくり指し、先後の差をウヤムヤにするのがオススメ。 ・対▲7八銀型では、▲5六歩型では先手のメリットが薄く、▲4六歩型で▲3六歩まで入れる方が先手としては有力。後手は手待ちをせずに△7二飛から仕掛けたい。 ・対▲7八金型では、四間飛車が先手番でのメリットがあまりない。 ・全体として居飛車の勝率イメージは、居飛車が先手のときよりも各5%ずつ落ちるイメージ。すなわち、対▲6七銀型では約80%、対▲7八銀型では約70%、対▲7八金型では約65%となる。 第2章は、「エルモ囲い急戦VS三間飛車」。三間飛車は、かつて5筋不突き居飛穴の猛威に見舞われ、かなり採用が落ちていたが、トマホークができたことで息を吹き返した。現在はプロの採用数もかなり多くなっている。 第2章第1節は、「対△4三銀型」。 ・△4三銀型は、振り飛車がトマホークや三間飛車藤井システムなど、居飛穴を警戒して早い動きを見せたときに実現しやすい。 ・△5四歩には、▲4六銀からの攻めを見せる。後手が△6四歩〜△6五歩としてきたとき(※エルモ囲いの急所を狙っている)は、銀を引いて▲4六歩からの攻めに切り替えるのが有力。 ・△5四銀には、▲6六銀と受けると△4三銀と引いて千日手狙いになるが、細かい駆け引き後に▲4六銀と打開できる。 ・居飛車の勝率イメージは約70%。 |
第2章第2節は、「対△5三銀型」。本書では、エルモ囲い急戦にとってもっとも強敵とされる。 ・△6四銀には、▲6六歩〜▲6五歩と6筋の位を取るのが有力。 ・△6四歩には、▲4七金型から▲2四歩△同歩▲4五歩と手厚く攻める。 ・居飛車の勝率イメージは約65%。 ・なお、p143に補足として「対三間飛車▲5六銀型」のページがある。右四間ではなく居飛車で戦う形で、村田本でも解説された。本書では、この戦型で著者が目指したい形についてだけ触れられている。 |
第2章第3節は、「対穴熊」。 ・三間飛車穴熊に対しては、▲4六歩から相手の囲いを牽制して、エルモ囲いを完成させてから▲5六銀〜▲4五歩と速攻を仕掛けるのが有力。 ・穴熊が中途半端な状態で仕掛けられれば、先手のエルモ囲いの方が堅く、有利を得やすい。 ・対三間飛車穴熊では、先後の差はあまり影響がなさそう。 ・居飛車の勝率イメージは約80%。 |
第2章第4節は、「右四間飛車+エルモ囲い」。先手の角道を止めた石田流に対し、△右四間飛車でどのように仕掛けるか。先行して発売された鈴木肇本と同一のテーマとなる。 ・鈴木肇本では、「▲6七銀には△6五歩(と仕掛ける)」が掛け声だったが、本書では△3三角と1手入れる指し方を推奨。 ・▲5六歩に対する△6五歩の仕掛けは、大筋で鈴木肇本と同様の見解になっている。 ・▲8六歩には、鈴木肇本の変化はサラッとだけ書かれており、本書では別の変化を追う。 ・右四間側の勝率イメージは約90%。 |
第2章第5節は、「対三間飛車、後手番の場合」。 ・対▲6七銀型では、飛車側の端歩の交換が入れば△8六歩に▲同角と取れる変化があるが、あまり先手の得にはなっていない。先後の影響は少なそう。 ・対▲5七銀型では、右金を動かす一手が入らないと、4筋が弱い。△居飛車としては、千日手含みで指す必要がありそう。居飛車の勝利イメージは55%。 |
第3章は、「エルモ囲い急戦VSその他の振り飛車」。対中飛車と対向かい飛車を扱う。 第3章第1節は、「対中飛車」。本節では棋譜の変化を追わず、各テーマ局面に対する見解を簡単に解説していく。 ・対中飛車は、エルモ囲い急戦にとってあまり相性の良くない戦型。 ・対△ノーマル中飛車では、▲5七銀型で、▲6六歩から玉頭を厚くすれば、先手不満なし。 ・対△角道オープン中飛車には、エルモ囲い急戦は使いにくいが、早めの▲4六銀から展開によっては使用可能。 ・対▲5筋位取り中飛車に対しては、これもエルモ囲い急戦を最初から狙うのは難しいが、戦いながらエルモ囲いに組むことは可能。 ・居飛車の勝率イメージは約60%。 第3章第2節は、「対向かい飛車」。対四間飛車との違いを見ていく。 ・特に先手がナナメ棒銀に出た時を検証する。 ・△向かい飛車はあらかじめ2筋を受けているが、△2二飛が▲5五角のラインに入っているため、対△四間飛車とは別の変化が成立しそう。 ・ただし、▲4六銀に△5四歩と待てば、後手やや良しか。 ・居飛車の勝率イメージは約65%。 |
終章は、「各章のまとめと見解」。各章・各節を1ページずつ簡単にまとめ、勝率イメージを付記してある。 ●「参考棋譜 8局」は、著者が戦術編を書き終えた後の、将棋倶楽部24でのテストマッチの棋譜。解説はごく簡単に書かれている。30局中10局が「エルモ囲い急戦VS振り飛車」の戦型になり(結構出現率は高い)、戦績は9勝1敗!1手30秒以内の早指しとはいえ、高段でのこの戦績は驚異的だろう。 (1)▲細川△R2720、▲エルモ囲い急戦vs△三間飛車△5三銀型 (2)▲細川△R2875、▲エルモ囲い急戦vs△三間飛車△5三銀型 (3)▲細川△R2899、▲エルモ囲い急戦vs△三間飛車△5三銀型 (4)▲R2782△細川、▲三間飛車▲6七銀型vs△エルモ囲い急戦 (5)▲R2880△細川、▲石田流三間飛車vs△右四間エルモ囲い (6)▲細川△R2802、▲エルモ囲い急戦vs△四間飛車△4三銀型 (7)▲R2894△細川、▲四間飛車▲6七銀型vs△エルモ囲い急戦 (8)▲R2749△細川、▲四間飛車穴熊△エルモ囲い急戦 ●「リコー将棋部座談会」は、アマ最高レベルのリコー将棋部から、著者の細川大市郎氏、アマタイトル多数の中川慧梧氏と小山怜央氏の3人が、編集部の進行のもとでさまざまな話題を話していく。アマ強豪の実像がよく分かる。 ・将棋を始めたきっかけ ・将棋にハマった理由 ・細川氏が奨励会を辞めた理由、中川氏と小山氏が奨励会を落ちた件 ・高校・大学時代の活躍 ・アマ名人になって変わったこと ・三すくみ (中川>小山>細川>中川…) ・中川氏・小山氏の「エルモ囲い急戦」の見解 ──今まであまり使う気はなかったが、本書を読んで指してみたいと思った。 ・ソフト研究について ──自戦を手軽に解析するためにAndroid端末を使用。 ・勉強方法 −棋譜並べ、ソフト検討、棋書、実戦オンリーなど ・今後の目標 ・仕事と将棋との両立 ・リコー将棋部 ──部員約50名、アマ強豪多数、レーティング制度あり、社内掲示板で情報共有が活発、会社のバックアップあり ・将棋の魅力について 【総評】 本書は、エルモ囲い急戦の専門書としては、村田本(『対振り飛車の大革命 エルモ囲い急戦』,2019-04)に続く一冊となる。 村田本は一冊目ながらかなり変則的な手順に入り込んでいったのに対し、本書は比較的「エルモ囲いに組むならまずこの形を目指してみよう」という陣形から、「仕掛けるならこの形から考えよう」という仕掛けをほぼほぼ網羅できており、どちらかと言えば本書の方が標準的で、村田本の方がやや応用編のような位置付けとなっている。 それにしても、著者のエルモ囲い急戦の勝率イメージは衝撃的かつ驚異的で(ソフトの検証もあるので、大きく外れてはいないと思われる)、これだけの差が付くのであれば、もはや従来型のノーマル振り飛車は存亡の危機に立っていると言えよう。本書には載っていないような、エルモ囲いを崩させるような指し方(たとえば仕掛けの前に角交換してしまって第二次駒組みにするとか)か、エルモ囲いの急所を狙えるような指し方(たとえば耀龍四間飛車で8筋を狙えるようにするとか)が求められているように思う。対居飛穴や対ミレニアムの対策もあるので、両立させる方法があるのだろうか…。(2020Aug12) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認): 特に見つかりませんでした。 |