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マイナビ将棋BOOKS 相掛かり▲6八玉型 徹底ガイド |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段向き |
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【著 者】 飯島栄治 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年8月 | ISBN:978-4-8399-7070-3 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)門前仲町 (2)将棋と我が子ら (3)ツイッター |
【レビュー】 |
相掛かり▲6八玉型の戦術書。 相掛かりが、最近プロで流行している(2019年8月現在)。かつては相掛かり愛好家だけが指していたのが、居飛車党同士の対戦では頻繁に見かけるようになった。 理由はいろいろありそうで、、横歩取り▲青野流や角換わり新型同型(4八金-2九飛型)にやや指し疲れがあるとか、矢倉や角換わりで互いに飛先を突き越すのが主流になっている影響で、居飛車党同士では▲2六歩△8四歩のオープニングが定番になってきた(先手は相掛かりと角換わりを選べる)とかが考えられるが、一番大きいのは「飛先交換のタイミングが見直され、右銀・玉・端歩の配置や、銀が出るか桂が出るかなど、いろいろな工夫が出来そう」ということだと思われる。 特に玉の配置は、▲5八玉型と▲6八玉型はほぼ半々で指されているそうだ。もちろん好みで選んでよいが、本書は相掛かり▲6八玉型に限定した本となっている。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「なぜ▲2四歩を保留するのか?」。 相掛かりの7手目は、何十年も前からほとんどが▲2四歩の飛先交換だった。しかし最近のプロでは(特に2016年〜2017年頃から)、飛先交換を保留して▲3八銀が主流になっている。これは、「相手の飛の引き場所を見てから、自分の行動を決めたい」というのもあるが、特に大きな理由としては「▲引き飛車棒銀への有力な対抗策が出てきたため」とされている。 例として、 ・後手の反撃手段として、△6二金型に構えて△6五歩と仕掛けるのが優秀。 ・後手の迎撃手段として、角交換がなくなったタイミングで、△2四歩から片銀冠を目指す。(p25の▲6六歩に対して、△2四歩が通せることが分かったのも大きい) よって、先手が引き飛車棒銀を目指すメリットが薄れ、飛先交換を遅らせるようになったとのことである。(1998年発表の佐藤紳哉流が約20年経ってついに主流派に) ※なお、『相掛かりの新常識』(中座真,2018.02)では、飛先交換保留については別の理由がメインで書かれているが、どちらにしろ▲引き飛車棒銀が苦しい状況であるようだ。 |
第1章は、「基本図に至るまで」。 本書の基本図は〔右図〕。 [飛先交換を保留し、互いに銀をまっすぐ立つ] →[先手は▲6八玉] →[後手が飛先交換] →[▲7六歩]で〔右図〕。 ▲6八玉型の特徴として、以下のことが挙げられる。 ・▲7八金に玉自らがヒモを付けており、△7六飛と横歩を取られても先手にならない。(▲5八玉型などでは、▲7八金のヒモは▲7九銀だけなので、△7六飛のときに金が間接的に浮き駒になりやすい(次に△8八角成がある状況など)。) ・大駒交換に強く、超急戦・乱戦で戦いやすいし、玉型に進展性があるので、持久戦になってもOK。 ・ただし、△7六桂や△9五角には注意が必要。(横歩取り▲勇気流と同様) 本章では、基本図1手前の局面で、▲7六歩に替えて▲8七歩はどうなるか、がテーマ。後手の作戦として、△棒銀、△3筋桂頭攻め、△タテ歩取りなどがある。いずれも一局の将棋ながら、先手に不満はなさそうというのが飯島の見解。 |
第2章は、「基本図から△3四歩」。 △3四歩は自然な手だが、角が向き合うので、激しい変化にもなりうる。 特に、角交換から△3三角の筋(飛車取りと、△8八角成から二枚換えの突破の両狙い)は激しい。あやふやな知識でこの変化に突っ込むと、あっという間に先手が敗勢になるので要注意だ。「▲8七歩〜▲5五角」の手筋はしっかりマスターしよう。 |
第3章は、「基本図から△5二玉に▲3六歩」。 △5二玉もバランスを取って自然な一手。 本章では、先手は飛先交換よりも、▲3六歩で右桂の活用を優先する。本書のメインコンテンツとなる指し方。 後手の選択肢は4つ。 (1)▲3六歩に△3四歩 ▲3五歩と突かれないように、△3四歩は自然な手。先手は▲3七桂と予定通り活用する。 ここからまた4つに分岐する。 −@▲3七桂に△8四飛 無難に収めるのもあるが、角交換から▲8八銀と、横歩取りの後手番のように指すのが有力。大駒のぶっつけや、両桂跳ねを積極的に狙っていこう。 |
−A▲3七桂に△7四歩 次に△7六飛の横歩取りを狙っている。△7四歩は、飛が8筋から移動したときの▲8二歩に△7三桂を用意した意味がある。先手が飛先交換すると、角交換から△3三角で、第2章と似た展開になりうる。△7六飛と横歩を取ってきたら、▲8三歩と垂らして敵陣を乱そう。△8五飛なら、▲3四飛と先手が横歩を取って、大駒交換や桂跳ねを狙う。 |
−B▲3七桂に△3五歩 桂頭をすぐに狙ってくる手。△3五歩に▲同歩は先手がまずいが、▲2六飛と受けても大丈夫だし、▲2四歩と踏み込んでも先手が指せそう。好みで選ぼう。▲2四歩の場合、角交換から△3三角で、本書で3回目の大乱戦になる。細かい配置の違いに注意。 |
−C▲3七桂に△3三角 先手の切り札▲2四歩を予防する狙い。▲3三同角成は、先手が良くならなさそう。他の変化では激しく積極的に戦うことが多かったが、この変化では▲4六歩から局面を落ち着かせよう。 |
(2)▲3六歩に△8四飛 △8四飛自体は自然な一手。 対して、先手は8筋を謝らず、右桂活用から飛先交換〜▲2五飛、そして▲7七桂!?が「飯島流」。△8七歩で角が死に、カナ駒1枚損するが、二枚の自陣飛車で敵陣に駒を押し込めて模様良し、が本書での飯島の見解。 この作戦は、なんと本書発売日の2019年8月13日に、竜王戦挑決第1局(▲木村一基△豊島将之)という大舞台で登場!p151の▲8六飛引まで同じで、42手目△5五角で別れを告げた。途中までは控室の見解も割れていたが、結果は後手の勝ち。感想戦では、37手目▲9六歩(端を攻めていく)で▲6六歩なら互角のイメージとのことだった。▲6六角は本書p150の本文中に触れられているので、要チェック。 なお、後手が角殺しに来ないなら、▲8五飛と飛をぶつけて主導権を握ろう。 |
(3)▲3六歩に△9四歩 △9四歩は、将来の▲8二歩に△9三桂を用意しており、飛を横に動かしやすくしている。先手はやはり▲3七桂と活用しておく。△7六飛には、▲2四飛〜▲8四飛〜▲8七飛とクルクル飛車でかき回し、後手の飛車を陣の外でぼっちにさせてペースを握ろう。△8四飛には、8筋を謝らずに右辺の金銀を使い、角交換からの▲6六角を狙う。 |
(4)▲3六歩に△7四歩 後手の横歩(△7四歩)取らせ作戦。後手は1歩損の代償に、右銀の活用を急ぐ。先手は、後手の攻めを封じてゆっくりした将棋を目指したい。 |
第4章は、「基本図から△5二玉に▲2四歩」。 ▲2四歩も自然な手。(ただし本書では、▲3六歩を優先する(第3章)のが推奨で、本章の▲2四歩はサブコンテンツ扱い) 本書発売から10日後の、竜王戦挑決第2局(▲豊島将之△木村一基)では、本章の▲2四歩が採用されている。 |
〔総評〕 プロの相居飛車戦では、一時期の角換わり大流行から、相掛かりが多く指されるようになってきている。相掛かりは、かつてはスペシャリスト(というより「愛好家」?)だけが指している印象だったが、端歩や玉の位置などで様々な工夫のし甲斐があり、かつ激しい変化や、逆に持久戦で構想が問われる展開もあり、研究が煮詰まりつつある角換わりよりもやり甲斐があるのだろう。 その中で、本書の▲6八玉型は比較的多く指されており、本書は特に激しい変化での基礎知識となるだろう。今まで棋譜中継を見ていても、序盤で何をやっているのかよく分からないこともあったが、本書を読めば「ああ、あの変化を土台としているのか」というのが分かるようになってきた。 もちろん、相掛かりを指す人にとっては、激しい変化で研究負けしないように、必読の一冊となる。 わたしは今では相掛かりを全く指さなくなったので、プロ将棋の鑑賞のお供として使っている。棋譜中継で相掛かり▲6八玉型になったら、どこまで本書と一緒になるのかチェックしています。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p46参考図 △3一銀を先手の持駒に入れる。 |