zoom |
マイナビ将棋BOOKS 相掛かりの新常識 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ: 上級〜有段向き |
||
【著 者】 中座真 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年2月 | ISBN:978-4-8399-6515-0 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 216ページ/19cm |
【本の内容】 |
序章 相掛かりの変遷 第1章 2筋即交換型 第2章 ▲9六歩型 第3章 ▲5八玉型 第4章 ▲6八玉型 第5章 ▲5八玉戦法 ・【コラム】(1)将棋が好きな息子 (2)終わりと始まり (3)ロシア「ユジノサハリンスク訪問」 (4)インコ ◆内容紹介 近年、プロ間で採用率が上がっている相掛かりについての戦術書です。 飛車先交換を保留して銀を上がる、玉を立つ、端歩を突く。そんな最新形が深く、かつ分かりやすく解説されています。相掛かり党必見の一冊です。 |
【レビュー】 |
相掛かりの解説書。 長年、相掛かりの出だしは、互いに飛先を伸ばし合い、角頭を金で守ったら、先手は▲2四歩と飛先歩交換をする、というのが当たり前だった。そこで、1990年代ごろまでは▲2六飛と浮き飛車にして攻勢を狙うのが主流だったし、その後は▲2八飛からの引き飛車棒銀が優秀とされていた。7手目に飛先歩交換をすることへの是非を問うた本はなかった(5手目歩交換の是非は何度も扱われたが)。 ところが、近年は飛先歩交換はすぐには行われない。本書によれば、飛先交換のタイミングが変化し始めたのは2012年ごろから。以下のような流れが背景にある。 ・後手は、先手の右銀の動きを見てから飛先交換し、対応しやすい位置に飛を引きたい。(例えば、先手が棒銀なら初めから△8四飛と引きたい) ⇒先手も飛先交換を遅らせるようになり、右銀や玉の移動、端歩突き、飛先を切らずに早繰り銀などを試みるようになった。 ⇒相掛かりの先述の幅が大きく広がった。 いまや、「飛先を突くタイミングは重要な戦術」と考えられている。決して、外連味や奇襲ではないのだ。 本書を読んで、飛先交換のタイミングが持つ意味を、十分に理解してほしい。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。なお、端歩を突く順番、飛先交換のタイミング、飛の引き場所、玉の位置などの分類は非常に多岐にわたるので、本書では代表的なものを扱っている。 |
序章は、「相掛かりの変遷」。 1998年ごろまでは浮き飛車が主流だったが、2001年ごろには引き飛車が優位になり、ヒネリ飛車は衰退。そして、2012年ごろには、後手が飛先交換を保留するようになった。本章では、後手の飛先保留の仕方をいくつか解説していく。 p8〜では、△7二銀〜△9四歩の待ち方。先手は9筋を受けない傾向で、受けると後で端攻めされるし、受ける1手を攻めに使いたいためである。 相引き飛車の腰掛銀になるなら後手に不満なし。9筋を受けた▲引き飛車棒銀には△8五飛型で9筋攻めができる。9筋を受けない▲引き飛車棒銀には、後手はじっくり囲うと苦労が多いが、9筋に2手かけて棒銀を引っ張り込むのが意外と有力となる。 p29〜では、△3四歩〜△5二玉の待ち方。後手が右銀を動かさず、△7四歩〜△7五歩と先手の角の活用を押さえる。途中で▲7六歩なら、突いた譜を狙う。こちらも後手の有力手段だ。 p32〜 というわけで、先手もできるだけ飛先交換を遅らせる指し方が出てきた。本書では、基本的に飛先交換前に▲3八銀と△7二銀が入った形がベース(基本図)となる。 |
第1章は、「2筋即交換型」。〔基本図〕から先手は飛先交換して引き飛車に構える。従来からの考え方にやや近い指し方だ。 後手は3通りの対応がある。 (1) △3四歩から、銀冠を目指す。 (2) △7四歩から、早繰り銀か、△7五歩位取りを目指す。これは先後を問わず流行している。 (3) △8三銀から、飛先を交換せずに速攻棒銀を目指す。 |
第2章は、「▲9六歩型」。〔基本図〕から▲9六歩が実戦例が最も多い。角の動けるスペースができるので、3筋・4筋の歩を突いても横歩を狙われる展開にならないのが利点。 後手の指し方は3つ+αに分かれる。 (1) △8六歩は、後手が先に歩交換をする。形を先に決めるのがアダか、やや先手持ちとされる。 (2) △9四歩は、後手の勝率が高いが、具体的な理由は不明。先手が先に態度を決める、後で端攻めの味があるなどが要因とみられる。 (3) △1四歩は、やや守備的ではあるが、後手も角を活用しやすい。 (4) △1四歩▲1六歩△9四歩と、全ての端歩を突き合うと、先に態度を決めるのは先手であり、選択肢が多い。争点も多いので、必ずしも損ではないかもしれない。 |
第3章は、「▲5八玉型」。〔基本図〕から▲5八玉で、居玉を避けつつ、4七・5七・6七の3ヵ所を守っている。 これも後手の選択肢は3つ。 (1) △8六歩は、すぐ飛先交換をして、飛の引き場所は△8四飛。△8二飛だと、▲3六歩に△3四歩としにくい。 (2) △5二玉は、後手もすぐに態度を決めない構え。対して▲7六歩なら局面が動き出す。端歩をすべて突き合うなら、先手が先に飛先を切ることになる。 (3) △4二玉は、同型にしない意図。先手は銀による攻め、後手は桂による攻めになりやすい。 |
第4章は、「▲6八玉型」。〔基本図〕から▲6八玉で、左辺にやや厚く、左金との連絡があり、囲いの進展性がある(例えば銀冠を目指しやすい)。 後手の展開は4つ。 (1) 飛先交換して△8二飛と引く。対して▲3六歩と突くと、△3四歩としにくく(横歩をすぐ狙われる)、△引き飛車棒銀vs▲3五歩になりやすい。 (2) 飛先交換して△8四飛と引く。相浮き飛車か、両端を突き合って▲2五飛か、飛先交換せずに▲3六歩か。 (3) 飛先交換を保留して△5二玉は、出来るだけ態度を保留したい構え。対して▲7六歩と突くと、後手が先に飛先交換するが、飛の位置を先に決めるのは先手になる。 (4) 飛先交換を保留して△4二玉は、△5二玉と似ているが、展開によっては昔の「相浮き飛車」に戻ることがある。 |
第5章は、「▲5八玉戦法」。これまで見てきた基本図ではなく、第3章の▲5八玉型とも別物。 本戦法では、横歩取りの出だし(居飛車党同士で相掛かりを拒否するとなりやすい)から、互いに飛先を切った後、先手が横歩を取らずに▲5八玉と上がる。居玉を避けて、超急戦を狙っている。2000年ごろからあるが、近年、再注目されている。 序盤の怖い変化(p168〜p170)を切り抜けると、大きく分けて4つになる。 (1) △8四飛から相掛かりに戻す。 (2) △5二玉から先手に追随。激しい変化がある。 (3) △7六飛は、相横歩取りで力戦か、先手番での横歩取らせか。 (4) △4一玉は、横歩取り△8五飛戦法へ回帰。 一番激しいのは(2)で、本章でも最もページが割かれており(p180〜)、最終盤の詰むや詰まざるやまで研究が求められている。 |
先述の通り、相掛かりでは、端歩を突く順番、飛先交換のタイミング、飛の引き場所、玉の位置などの分類は非常に多岐にわたるので、本書だけで全てを網羅することはできないが、以前はなかったような相掛かりの感覚を取り入れておくことは非常に重要。 「相手に先に○○させたい」というのは、今後の将棋戦術の重要テーマになっていくだろう。相掛かり党でなくても触れておきたい一冊だ。(2018Apr21) |