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マイナビ将棋BOOKS △3三金型振り飛車 徹底ガイド |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B+ 有段向き |
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【著 者】 安用寺孝功 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年7月 | ISBN:978-4-8399-7000-0 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)摩耶サロン子供将棋塾 (2)将棋フェスタ (3)NHK杯 (4)私の平成 |
【レビュー】 |
△3三金型振り飛車の戦術書。 △3三金型振り飛車とは、かつては「阪田流向かい飛車」のことだった。初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金と、一手損角換わりと同じ出だしで、▲2五歩△3三角と角交換を誘い、▲同角成△同金から△2二飛と向かい飛車に振る。そこから棒金で2筋を逆襲するのが大きな狙いとなる。 創始者は阪田三吉で、1990年代には小林健二がよく指していたが、金を前線に出すために、玉が薄くて反撃を受けやすいため、基本的には「奇襲扱い」が続いていた。それが近年になって、菅井竜也、糸谷哲郎、渡辺明らトップ棋士が連採したことで、注目されるようになっている。 もう一つ、同じ出だしから△3二飛と三間飛車に振る作戦が出てきた。2017年8月の王位戦七番勝負で菅井が羽生にぶつけた作戦で、菅井の快勝となった。2筋逆襲の筋はないものの、金桂のコンビネーションで局面をしていく。当初はあまり理解が進まず、大きなブレイクはなかったが、急戦だけではない戦い方が阪田流向かい飛車とともに徐々に広まっており、△3三金型振り飛車の価値が高まりつつある。(本書の出版直前の2019年5月31日▲藤井聡太△菅井竜也(竜王戦4組)での4手目△3二飛-6手目△4二金や、本書出版直後の2019年8月3日の第1期清麗戦第1局で、後手の里見香奈が「4手目△3五歩からの△3三金型石田流」を採用するなど、思想の近い作戦が広がりを見せている) 本書は、「△3三金型振り飛車」の二大戦型である「△阪田流向かい飛車」と「△3三金型三間飛車」について解説した本となる。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「△3三金型振り飛車の基本」。 ・初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金!▲2五歩△3三角! ・△3三角成の角交換に△同金と取る。 ・△2二飛なら阪田流向かい飛車。 −「逆棒金」で2筋逆襲を狙う。 −通常は守り駒の金が前線に出ていくため、角の打ち込みを消した陣形にするか、堅さ重視にするか。 ・△3二飛なら菅井流の△3三金型三間飛車。 −△3五歩〜△3四金〜△3三桂と駒を活用する。 −持久戦系で、見慣れない形になるが、意外と指しやすい。 |
第1章は、「阪田流向かい飛車 △5二金型速攻」。 ・△3三金型は、他の角交換振り飛車と違い、「▲6五角問題」はない。 ・△4二銀-△5二金で自陣を整えておく。 ・先手4八銀型には、逆棒金の攻めが炸裂する。 ・▲3八銀型にも逆棒金で、△2六歩・△3五金・△5四角が入れば大成功。 ・ただし、一目散に▲3七銀型に組まれると、逆棒金は止まってしまう。この兆候がある場合は、逆棒金をせずに別の展開を考えたほうが良い。 |
第2章は、「阪田流向かい飛車 △7二玉型」。 ・玉を少し囲ってから仕掛けを狙う指し方。 ・角の打ち込みには注意が必要。 (1)▲7七銀型 ・先手が▲6八玉〜▲7八玉〜▲7七銀と、やや無造作に囲ってきた場合。 ・逆棒金でズンズン攻めるといい勝負ではあるが、後手が負けやすい変化が多い。 ・△2五歩と押さえ、じっくり指すのが有力。 ・先に△3五歩と突き捨ててから△2五歩が細かいながら必修のテクニック。 |
(2)▲7七銀保留型 ・先手が▲7七銀の一手を、飛先逆襲の備えに充てる場合。 ・それでも後手は逆合金で動く。▲2六歩と謝らせれば、後手だけ一歩手持ちで満足とする。 ・2筋を謝らずに▲3七桂には、(1)で出てきた「△3五歩と突き捨ててから△2五歩」を狙うのが必須テクニック。 |
第3章は、「阪田流向かい飛車 対左美濃」。 ・先手は▲3八銀で右辺を備え、▲7八銀から▲7九玉型左美濃にする。 ・後手は堅さ負けしないように、片美濃に囲ってから仕掛けるのが近年の主流。 ・先手陣の右辺は、第2章よりもしっかりしているので、じっくり攻める。 ・基本は、△2五歩と押さえてから△3五歩。 ・「先手左美濃に対しては、後手も美濃から逆棒金が有力」(p115) |
第4章は、「阪田流向かい飛車 持久戦」。 ・すぐに逆棒金は保留して、美濃囲いから銀冠を目指す。 ・先手は矢倉か銀冠(居飛穴への組み替えも含む)。どちらも展開は似ている。本章では矢倉を題材とする。(▲銀冠は省略) ・持久戦のとき、後手は△4四歩〜△4三銀〜△5四銀を急ぎ、左金は△4三金と中央に使う。 ・逆棒金は角打ちのスキがあるので使えない。 ・先手の駒が偏ったら、△5九角や△7三角を狙っていこう。 |
第5章は、「△3三金型三間飛車」。 ・2017年8月の王位戦七番勝負で、菅井が羽生にぶつけた作戦。 ・阪田流向かい飛車の出だしから、△3二飛と三間飛車に振る。 ・△6二玉〜△7二玉まで囲ったら、△3五歩と位を取る。続いて△3四金〜△3三桂と活用する。 ・先手の囲いは、矢倉か銀冠。本書では矢倉に絞って解説。 ・後手は、「金銀桂を押し上げてじっくり指す方針」(p160)。三間飛車の場合は、阪田流のような2筋逆襲はできない。 ・後手の左桂の活用はスムーズにできる。一方、先手の右桂は活用が難しい。 ・△3四金〜△2五桂で、金が残らないように攻めよう。 (1)△3三桂〜△2五桂型 ・△3四金と桂の協力で、▲2五歩を取ってしまう形。 ・「いろいろな攻めがあり面白いが、丁寧に受けられると難解な変化が多い」(p179)。要は、攻め切るのは大変。 |
(2)△5四銀型 ・△4四歩〜△4三銀〜△3三桂〜△5四銀と左銀を活用する形。 ・攻撃陣を飛角金銀桂にして、よりパワーアップさせる。 ・△5四銀型を目指すとき、後手にとって怖い変化が2つあるので、注意。 p188〜 怖い変化@ ▲2一角 p196〜 怖い変化A ▲2四歩 |
(3)▲5六歩型 ・先手が右銀を中央に使う形。 ・先手の銀の出足が早いので、後手は玉を深く囲う前に△3四金〜△3三桂を済ませよう。 ・先手からの早い動きがあるので、玉の移動には慎重さが必要。 ・▲4六銀型には、左銀を△5一銀〜△5二銀と美濃にくっつけるのも一考。 |
〔総評〕 私はこれまで、阪田流向かい飛車を小林健二本などで読んできて、「逆棒金が面白いけど、相手の合意がないとできない(7手目に角交換してくれないとできない)し、自分が先手なら自分から角交換しなければ良いな」という認識でいた。要は、「奇襲」だと思っていた。 しかし本書を読んで、△3三金型自体の認識が変わった。相手の駒組みがまずければ、そのまま逆棒金で攻め込んでよいし、金の厚みを生かして居飛車の右桂を押さえ込み、金桂と持ち角の力でさまざまな攻め方ができるので、とても強力な作戦だと思った。 また、本書には直接載っていないが、たとえ先手が角交換してこなくても、少し前にレビューした『角交換四間飛車の新常識 最強△3三角型』のように「角道オープンを生かす」という考え方とミックスさせれば、どんな先手の作戦にも対応できる総合戦法になると思えた。 さらに、本書の指し方は、7手目までは互いの同意がある程度必要で、少し幅狭い意味がある(指したくなければ避けられる)が、最初から直接△3三金型を目指さなくても、本書で学んだ「△3四金〜△3三桂の協力で盤面を支配する」という考え方や手筋を知っていれば、臨機応変に金を前線に繰り出すような戦い方にも目が向けられ、戦いの幅が広がりそうだと思った。 たとえこの戦型を指さない人でも、読んでおくことをオススメします。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p44上段 ×「第4図以下の指し手A」 ○「第4図以下の指し手B」 p48上段 ×「第4図以下の指し手B」 ○「第4図以下の指し手C」 p65上段 ×「▲3五同歩にば」 ○「▲3五同歩には」 p136下段 ×「もし△同歩なら▲2五歩で…」 ○「もし▲同歩なら△2五歩で…」 ※先後の符号が逆。 p180 ×「p164第6図以下の指し手C」 「p164第6図以下の指し手B」 p182 ×「第4図以下の指し手@」 ○「第4図以下の指し手」 ※Aはなかった。 p183 ×「第4図以下の指し手A」 ○「第3図以下の指し手A」 p185 ×「第3図以下の指し手A」 ○「第3図以下の指し手B」 p210下段 ×「▲1八角のラインみられている」 ○「▲1八角のラインをみられている」 |