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■対振り飛車の大革命 エルモ囲い急戦

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対振り飛車の大革命 エルモ囲い急戦
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マイナビ将棋BOOKS
対振り飛車の大革命 エルモ囲い急戦
[総合評価]
B

難易度:★★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:B+
解説:B
読みやすさ:B
有段向き

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【著 者】 村田顕弘
【出版社】 マイナビ出版
発行:2019年4月 ISBN:978-4-8399-6912-7
定価:1,663円(8%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
序章 エルモ囲いとは? ・エルモ囲い概要 10p
第1章 エルモ囲いVS四間飛車 第1節 ▲エルモ囲い VS △4三銀型四間飛車
第2節 ▲エルモ囲い VS △3二銀型四間飛車
50p
第2章 エルモ囲いVS三間飛車 第1節 ▲5六歩型エルモ囲い
第2節 ▲5六銀型エルモ囲い
46p
第3章 エルモ囲いVS振り飛車穴熊 第1節 ▲エルモ囲い VS △四間穴熊
第2節 ▲エルモ囲い VS △三間穴熊
60p
第4章 後手番エルモ囲い 第1節 ▲四間飛車 VS △エルモ囲い
第2節 ▲三間飛車 VS △エルモ囲い
40p
第5章 エルモ囲い 実戦編   10p

・【コラム】 ボートレース/シンギュラリティ

◆内容紹介
将棋界ではプロ棋士が毎日の対局で新しい手、新しい工夫を試しています。その中で、1年にいくつかは大きな影響力を持つ「新手」が生まれます。

これだけでも十分珍しいことですが、年に1度、もしくは数年に1度「新戦法」が生まれます。トップ棋士をはじめ多くの棋士が採用して流行戦法となります。「矢倉左美濃急戦」や「雁木」などがこれにあたります。

この「新戦法」よりさらに珍しい現象があります。それは「新しい囲い」が生まれることです。将棋の囲いには玉の位置や守備駒の連結など、かなり限定的な条件があるため、新しい囲いが生まれる余地はほとんどないといって過言ではありません。

それが、つい最近生まれたのです。「新しい囲い」が。

その名も「エルモ囲い」。コンピュータ将棋ソフト「elmo」が多用したことでこの名がついています。プロ棋界では飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の大橋貴洸四段が連採し、高勝率を挙げたことで注目が集まり、関西の若手棋士を中心に現在大流行しています。

「エルモ囲い」は対振り飛車の囲いで、居飛車はこの囲いから急戦を仕掛けます。舟囲いは美濃囲いに比べてどうしても薄くなるため、居飛車からの急戦は振り飛車には通じない、というのがこれまでの常識でしたが、それを覆す戦法が現れたのです。

四間飛車にも三間飛車にも使え、なおかつ先手でも後手でも使える戦法。それが「エルモ囲い急戦」です。

舟囲いに比べて駒の連結が良く、低い陣形のため強い戦いが可能です。また、展開によっては5筋に飛車を回る手や、最終盤で▲6九玉と落ちる手段もあります。ただ、持久戦には不向きなため、仕掛けたら攻め切ることが大切です。

では、エルモ囲いにおける有効な仕掛けとは何でしょうか?あるいは、その仕掛けを成功させるために必要な手筋、手順とはどんなものでしょうか?それを解説したのが本書です。

本書は関西若手の研究家、村田顕弘六段がこの新しい囲いについて本格的に解説した初めての戦術書となります。

振り飛車に急戦は無理、と諦めていた居飛車党のみなさん、居飛車穴熊を始めとする持久戦以外でも振り飛車に勝てるんだということを、本書が証明します。


【レビュー】
エルモ囲いを用いた対振り飛車急戦を解説した戦術書。

「エルモ囲い」は、将棋ソフトelmoが多用した囲い方で、主に対ノーマル振り飛車への居飛車急戦に使えそうだと注目されている。プロ公式戦での登場は2018年だが、原型は対中飛車の▲4六金戦法などの歴史ある戦型にも登場しており、まったくの新型という訳ではない。

エルモ囲いを扱った本としては、本書が3冊目。過去には以下の2冊。

 2018-11 自由自在!中飛車の新常識,今泉健司,マイナビ出版
 2019-01 必勝 三間飛車破り,畠山鎮,マイナビ出版

一冊丸々エルモ囲いを扱った本に絞ると、本書が初めてになる。



本書は、elmo2017年5月Ver.を用いた検証をしつつ、村田顕六段が解説をしていくという感じで、人間とコンピュータが共同で戦型の解明を試みるスタイルになっている。elmoの推奨手や、結果図での評価値なども添えられている。

また、目次にテーマ図が挿入されているのが新鮮。一般的に、定跡書・戦術書の目次は、タイトルだけを見ても「(局面が)思ってたんと違う(´・ω・`)」となりやすいが、本書では誤解なくひと目で分かるようになっている。

一方で、変化がきれいな分岐になっていない箇所が複数あり、いまどこの局面を検討しているかが分かりにくいところもあった。


各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。



序章は、「エルモ囲いとは?」と称し、エルモ囲いの概要・特徴を解説。

・将棋ソフト「elmo」が、対振り飛車で多用した囲い。
・プロ公式戦で大橋貴洸四段が採用し、注目されるようになった。
・▲7八玉-6八銀-7九金〔下図〕が基本形。右金や角の配置はバリエーションあり。

・右銀急戦や▲4五歩早仕掛けなどと組み合わせて使う。
・序盤で、相手が居飛車か振り飛車かハッキリしないときでも、とりあえず▲6八銀と上がることができる。(相手が居飛車なら矢倉や雁木へ、振り飛車ならエルモ囲いへ)
・角道オープン系の振り飛車には不向き。角道クローズのノーマル振り飛車に使おう。



第1章は、「エルモ囲いVS四間飛車」

(1) ▲エルモ囲い VS △4三銀型四間飛車
・角交換から持久戦になる場合、エルモ囲いにこだわらず、▲4八金-2九飛型を作る。▲3七桂〜▲5五歩で、△4五歩を負担にしていこう。

・△6四歩を突かずに待機されると右銀急戦は難しそうなので、▲4八金が本書推奨の構え。1手様子を見て、後手の形によって▲4六歩か▲4六銀かを選ぶ。

(2) ▲エルモ囲い VS △3二銀型四間飛車
・▲3八飛からの仕掛けは難しく、▲3七金からの「棒金」を選択することになりそう。



第2章は、「エルモ囲いVS三間飛車」

(1-1) ▲5六歩型エルモ囲い その1 対 △5三銀型三間飛車
・△5三銀型で、△6四歩なら▲3五歩〜▲4五歩の仕掛けが有効。△6四銀なら▲6五歩と位を取り、状況によってはエルモ囲いを崩して駒組みしていく。

(1-2) ▲5六歩型エルモ囲い その2 対 △4三銀+△6四歩型三間飛車
・△4三銀+△6四歩型なら、対四間と同様にナナメ棒銀が有力。
・ただし、エルモ囲いは6筋が弱点なので、△6五歩は要注意。

(1-3) ▲5六歩型エルモ囲い その3 対 △4三銀+△6四歩保留型三間飛車
・△6三歩型(△6四歩保留型)にはナナメ棒銀はやりづらい。▲4六歩からの仕掛けを狙いたい。

(2-1) ▲5六銀型エルモ囲い その1 対 △5四銀型三間飛車
・エルモ囲いと▲4六歩+▲5六銀の腰掛け銀の組み合わせ。ただし先手は右四間飛車ではなく、▲4八金-2九飛から▲4五歩と仕掛けたい。

(2-2) ▲5六銀型エルモ囲い その2 対 △5三銀型三間飛車
・△5三銀から△6四銀には、早い仕掛けは難しい。陣形勝ちを目指そう。



第3章は、「エルモ囲いVS振り飛車穴熊」

(1-1) ▲エルモ囲い VS △四間穴熊 その1 ▲7八玉・▲5七歩型エルモ囲い
・角交換になる場合は、エルモ囲いを崩してでもバランスを取り、地下鉄飛車から端攻めを見せよう。
・角交換でない場合、エルモ囲いでも急戦で穴熊を攻略するのは難しそう。

(1-2) ▲エルモ囲い VS △四間穴熊 その2 ▲6九玉型エルモ囲い
・▲6九玉型エルモ囲いは、おそらく単行本初登場。プロ公式戦では、本文中にあるように2018年11月27日の▲池永△村田顕戦が初出と思われる。
・▲6九玉型で低く構え、▲6六角-7七桂で端をにらんでおく作戦。互いに具体的な良さは求めにくく、駒組みのセンスが出そう。

(1-3) ▲エルモ囲い VS △四間穴熊 その3 ▲7八玉・▲4六歩型エルモ囲い
・▲4六歩型は、相居飛車になったときに攻勢重視となる。対△四間なら、腰掛け銀で飛は2筋で使う。

(2-1) ▲エルモ囲い VS △三間穴熊 その1 ▲7八玉型エルモ囲い
・▲4六歩から4筋攻めを見せるのが有力。振り穴を断念させやすい。

(2-2) ▲エルモ囲い VS △三間穴熊 その2 ▲6九玉型エルモ囲い
・▲6九玉型なら、対△四間穴熊のときと同様、▲6六角型との相性が良さそう。端攻めを狙うので、自玉が戦場に近づき過ぎないほうが良い。

(2-3) ▲エルモ囲い VS △三間穴熊 その3 ▲6九玉+▲7八金型
・▲6九玉型エルモ囲いは対振り穴の有力作戦だが、▲7八金型の方がさらに良い可能性がある。
(※こうなると「エルモ囲い」というより「中原囲い」だが…)



第4章は、「後手番エルモ囲い」。▲振り飛車△エルモ囲いの戦いを先後の違いを意識しながら解説していく。単に振り飛車の手が1手進むというだけではなく、△エルモ囲いは千日手も辞さず、▲振り飛車は打開を意識した駒組みになる。

(1) ▲四間飛車 VS △エルモ囲い
・▲四間では、▲7八銀型で待つメリットが少ないので、▲6七銀と立つ。
・△ナナメ棒銀は有力ながら、後手番で特になる変化はなさそう。
・△6四歩もいい勝負。
・角打ちのスペースをキープする▲3六歩(▲4六歩に代えて)の待ち方は、いい勝負ながら先手はリスクを伴う。

(2) ▲三間飛車 VS △エルモ囲い
・△6四歩型には、▲6七金+▲4六銀の構えが有力だが、振り飛車が先手で手詰まりにならないように突っ張るのが難しい。
・▲6七銀〜▲5六銀なら、居飛車は力を溜め切ってから、△6五歩と仕掛けることができそう。
・△5四歩型では、△7二飛から歩を交換して、ジリジリ小競り合いが続く。



第5章は、「エルモ囲い実戦編」。つい最近、プロ公式戦で表れたエルモ囲いの実戦の序中盤の攻防を解説する。総譜はなく、序盤の出だしや終盤は省略。なお、村田顕の実戦ではない。
・2019/01/26 ▲久保△渡辺、王将戦2、▲中飛車vs△エルモ囲い
・2019/02/25 ▲西田△本田奎、竜王戦、▲三間vs△エルモ囲い+右四間



〔総評〕
わたしは直近3ヶ月ほど、実戦でエルモ囲いを試し、従来の急戦と比べて、終盤で自玉に手が付きにくく勝ちやすい局面もたくさん経験した一方で、中盤で上手く攻められずに(従来の急戦の攻め方で失敗して)不利に陥るシーンも何度かあった。そこで、本書では何かヒントを掴めるだろうと期待していたが、いい意味少し悪い意味で期待は裏切られた。

●「いい意味」の方:
・エルモ囲いと相性のいい作戦(右4六銀や▲4五歩早仕掛けライクの攻めなど)、エルモ囲いの弱点(6筋)、エルモ囲い急戦で必要な手(▲1六歩など)、角交換がありそうな振り飛車とは相性が悪い、などの認識が合っていることを確認できた。
▲6九玉型+▲6六角+▲7七桂のような、あまり知らなかった作戦を知ることができた。
振り飛車側の受けの形も有力なものがいくつか開示してあり、エルモ囲い側に偏った本ではなく、知見の幅が広がった。

●「少し悪い意味」の方:
・従来の急戦を踏襲すると、どう良くなるか(または悪くなるか)の分かりやすい典型例が少なく、いきなりelmoで検討した難しい局面の検討になっていく。
・elmoで検討した手順の一部は、「とても人間には指せないだろうな」というものもある。
・elmoに準拠した検討のためか、シンプルな急戦はほとんど上手く行かないことになっており、右金も攻めに出動したり、複雑な間合いの取り方を必要としたりする。「平手将棋に必勝法なし」である以上、それは高次元で正しいのかもしれないが、「有力な囲いなのに、こんなに手を尽くしてやっと互角くらいなのか」「本当にこうなら、我々アマがエルモ囲いを採用する意味ってあるのだろうか」と思ってしまった。(逆に、右金をも攻めに使う発想はわたしにはなかったので、勉強になったとも言えるが)


簡単に言うと、「まだ新しい戦法で、先行した棋書が少ない状態なのに、いきなり難しい本が出てしまった」ということです。

[基本]・[応用]・[発展]などに分かれているとか、「エルモ囲いの勝ちやすい展開、苦しい展開」「エルモ囲いを生かした踏み込みor寄せ」「エルモ囲いならではの失敗する形」などが示されていれば、もっといい本になったように思います。


※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p50下段 ×「振り飛車側から打開を狙う可能性するありそう」 ○「振り飛車から打開を狙う可能性すらありそう」

【関連書籍】

[ジャンル] 振飛車総合
[シリーズ] マイナビ将棋文庫
[著者] 村田顕弘
[発行年] 2019年

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