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マイナビ将棋BOOKS 戦慄の▲7七金! 奇襲きんとうん戦法 |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)B(量)B レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:B 上級〜有段向き |
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【著 者】 島本亮 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年4月 | ISBN:978-4-8399-6571-6 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)趣味 (2)指導将棋 (3)棋士の日常 |
【レビュー】 |
「きんとうん戦法」を解説した本。 「きんとうん」とは、2006年に発刊された『神戸発 珍戦法で行こう』の冒頭6ページにわたって(?)掲載された奇襲戦法。それが12年の時を超えてスピンオフし、「きんとうん」だけで単行本が発刊されることになった。 意外にもアマに人気があったそうだ(そういえば私も指されたことがあるような…)。神戸在住のアマが考案し、島本が開拓・整備した戦法と言ってよいだろう。 「きんとうん」の概要は、以下のようになる。 〔序盤〕 ・横歩取り模様から、飛先交換せずに▲7七金!?とする。(基本A図) ⇒ほとんどの相手は△3三角と飛先交換を防いでくるが、そこで▲7五歩!とする。(基本図B) 〔狙い〕 ・▲2六飛と浮いて、玉型を整え(一例図)、▲8六歩から飛をぶつける。 ・▲7六金〜▲6五金と中央を制圧する。銀が出るより進退が自由で死ににくい。 ・▲3六飛のタテ歩取りを見せて、後手の駒組みを牽制する。 ・角交換後に▲7七桂〜▲8五桂ポン ・角交換後に▲7七桂〜▲8六歩△同歩▲8五歩からヒネリ飛車(タテ歩が取れて1歩ある場合) |
基本A図 | 基本B図 | 一例図 |
また、本書では、棋書の単行本としては新しい試みとして、ソフトを導入している。まずは著者が従来通りに自身の判断で指し手を解説していき、次に別章でソフトの形勢判断や気になった筋、面白い筋を紹介していく。これにより、従来は「どう指しても一局」としていた局面でも、出来るだけ結論をつけるようにしている。 これは非常に珍しい試みで面白いが、初めてだったせいか不備は多い。特に、元の変化が載っているページが添えられていないので、それを探し回ることになるのがやや残念。見やすさだけを言えば、著者とソフトの見解を同一見開き内で書いたほうが良かったかと思う。 なお、ソフトの最終的な見解としては「きんとうんは不優秀」(p222)とのこと。特に左金が進出していく手の評価値があまり良くないようだ。逆に言えば、「立派な奇襲」としての勲章と言えるかもしれない? 各章の内容を、簡単なチャートを添えながら紹介していこう。なお、本編とソフトの見解はできるだけ同一チャートにまとめてみた。 |
第1章では、後手は二枚矢倉を目指し、先手は▲8六歩から飛をぶつける。 本章では△7二銀型と△6二銀型に分かれているが、違いを明確に言語化した解説はなかった。飛交換後にやや違いがありそう。(△7二銀型は陣形が低い、ただし△7二金とすぐにできない、など) |
第2章は、後手が二枚矢倉にするのは第1章と同じで、本章では先手は決戦せず、ヒネリ飛車にする。 左金を6六に使っていけるのが通常のヒネリ飛車と大きく違うところ。また、2筋の歩を切っていない分だけ持ち歩が少ないが、▲2五歩を玉頭の位と見ることもできるし、後手の左銀に食い付かせるために餌と見ることも可能。 また、ヒネリ飛車にせず、▲7六金も一法で、この戦型ならではの戦い方。 |
第3章は、後手がカタ囲いに組む形。 陣形が低く、飛角総交換だと先手の陣形の方が浮いていてまとめづらい。「そこでゆっくりした戦いを検討してみます」(p121)とあるが、本編にも「ソフト君曰く」にも「ゆっくりした戦い」の内容がない…。 第3章の形が「実戦登場率が最も高い」(p112)とあるのに、急戦は先手不利、「ゆっくり」は解説なし、というのはちょっといただけない。 |
第4章は、「類似形あれこれ」として、序盤で▲7七金(△3三金)と上がる形でプロ公式戦に登場したものを9局紹介。 残念ながら、ほとんどは「きんとうん」とは別物だと思う…。 (1) 1976年、棋聖戦、▲板谷進八段△灘蓮照八段 後手が角換わり拒否で△3三金〜△3五歩〜△3四金 (2) 1980年、棋聖戦、▲関屋喜代作六段△灘蓮照九段 (1)と同様。 (3) 1976年、NHK杯、▲二上達也九段△高島弘光七段 後手が角換わり拒否で△3三金〜△3二銀の逆形にしている。 (4) 1980年、棋聖戦、▲前田祐司六段△野本虎次六段 先手が飛先の歩を切り、互いに▲7七金△3三金とやり合う。先手はきんとうん風のヒネリ飛車へ移行。 (5) 1981年、棋王戦、▲島朗四段△下平幸男七段 横歩取り模様で、先手の飛先歩交換に対して△4一玉。先手は後手の飛先交換を拒否して▲7七金。 (6) 2007年、王将戦、▲中川大輔七段△金沢孝史五段 後手が角換わり拒否で△3三金〜△3五歩〜△3四金〜…〜△2二飛。 (7) 2010年、新人王戦、▲広瀬章人五段△天野貴元三段 4手目△3五歩〜△3二金〜△3三金から四間飛車。 (8) 2017年、銀河戦、▲勝又清和六段△土佐浩司八段 4手目△3五歩〜△3二金〜△3三金から飛先(8筋)を伸ばして四間飛車。 (9) 2017年、王位戦第5局、▲羽生善治王位△菅井竜也七段 阪田流向飛車の出だしから三間飛車。完全に別物… 第5章は、後手きんとうん。本章は実戦ベースの解説なので、チャートは省略する。 1980年、日本将棋連盟杯、▲鈴木輝彦四段△真部一男七段で、後手がきんとうんを採用していた。角換わりの出だしから、△3三金で角換わりを拒否し、△8四飛〜△3五歩で、まさにきんとうん。著者はこの将棋はしらなかったとのこと。 後手でもきんとうんはできるが、先手番と比べて1手遅れのため制限は多い。端歩の省略や玉型などで工夫が必要。島本の実戦2局を見る限り、後手ではしんどいかも? 第6章は、実戦編。島本の公式戦5局と、将棋倶楽部24での早指し戦6局。24の方の対戦相手は、R2200〜R2400クラス。R2500以上は対戦がなかったのかどうかは不明。総譜はなし。 〔総評〕 きんとうん戦法を初めて指す人向けではなく、すでに本戦法をある程度指している人向け。自分の指し手との違いを比較し、本戦法の弱点も認識したうえで使う助けにするとよいだろう。 意欲的な一冊だったが、不備も多いため、BとCの境目で迷った。ギリギリBとしておく。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p5 チャート ×「(基本図B)から△7二銀、△4二角、△6四角に分岐している」 ○「▲3八銀から△4二角、△6四歩に分岐する」 p60下段 「ただし△3四銀…(参考図)」 ⇒参考図では△4四銀型。おそらく参考図の方が間違い。 |