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将棋ポケット文庫
No.110 新しい将棋陣立崩し |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き1枚 内容:(質)B+(量)B+ レイアウト:B 解説:A 読みやすさ:B 上級〜有段向き |
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【著 者】 土居市太郎 | ||||
【出版社】 大阪屋號書店 | ||||
発行:1960年10月 | ISBN: | |||
定価:80円 | 199ページ/13cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
◆内容紹介(「序」より抜粋) |
【レビュー】 |
仕掛けを解説した本。 将棋では、少し形が違えば、有効な仕掛けの形も変わってくる。それでも、仕掛けの形を多く知っておくことは重要で、「この形であの仕掛けは成立するかな?」と考えることで、有利になる仕掛けのチャンスを得ることができるし、それを見込んだ駒組みで作戦勝ちを得ることができるのである。 本書は、さまざまな戦型での仕掛け方を解説した本である。 もちろん、1960年刊の古い本であるため、載っている戦型は現代のものとは大きく異なるが、前述の通り、仕掛け方をたくさん知っていることは必ず棋力上昇につながるだろう。 というわけで、古い本だからということもなく、こういった本も紹介してみたいと思う。 本譜の解説は、すべて組み上がった形からスタートする。見開き2pで1つの仕掛けを紹介していく。小さな本なので、現代の四六版の棋書と比べるとスペースは半分くらいしかないが、テーマ図以外の図面を省略することでスペースを節約しており、解説の分量は遜色ない。 本文中では、本譜の進行の指し手は太ゴシック体になっており、読みやすさを目指した工夫がみられる。ただし、棋譜はすべて漢数字(例:「▲7六歩」→「▲七六歩」)となっており、現代では読みにくい。 (本書は1960年刊であるが、このころは既に「▲7六歩」の表記が使われていたはず。本書の初出は1951年のようだが、おそらく1931年/1948年の『将棋陣立くづし』がベースになった改訂版だと思われる。なお、土居が1915年などに著した『陣立くづし法』とは別物で、「私にとって思い出の深い題名…(中略)嘗ての拙著とは全く内容の異なるものである」とのことである。) 本書で使われる「捌き」は、現代での使われ方と多少異なっていて、「陣形を生かした攻撃」という意味で使われている。また、時代背景もあって、居飛車・振飛車にかかわらず「位取りvs捌き」の対抗が多かった。代表的な例は、相掛かりの新旧対抗形など。 各章の内容を簡単に紹介していこう。なお、多彩な戦型からの仕掛けを解説しているので、図面は省略させていただきます。m(_ _)m また、「櫓」や「戰」などの旧字は、レビュー内では現代の字に直して表記します。 第1章は、角換わり腰掛銀。実戦形からのいろいろな仕掛けや、序盤のハメ手(▲7九銀型vs△4一玉型で飛先交換を誘う)など。 第2章は、角換わり両居飛車。現代では聞き慣れないが、角交換の相居飛車での持久戦模様の指し方を扱う。▲片矢倉5筋位取りvs△腰掛銀など。 本書では、この将棋のように、「一方が位を張って大きく構え、他方は低く構えてカウンターを狙う」という指し方が多く見られる。 現代将棋では、「堅さが正義」の時代が長く続いたが、コンピュータ将棋の影響で局面の価値観が大きく変わった2017年以降は、こういった組み立ての将棋が再興するかもしれない。 第3章は、相掛かり。5手目▲2四歩の是非、旧相掛かり(互いに5筋の歩を突く相掛かり)、腰掛銀からの相銀矢倉、腰掛銀からの相雁木など。 第4章は、矢倉崩し。相矢倉(3筋交換型)、いろいろな矢倉崩しなど。 第5章は、四間飛車破り。△4五歩ポン、▲ポンポン桂の原型、船囲い原型での▲4五歩早仕掛け、玉頭銀vs引き角、奇襲引き角、▲右四間、後手の▲右四間対策など。 第6章は、中飛車破り。対△6四銀型の早仕掛け、対△原始中飛車、△角交換型など。 第7章は、向飛車破り。3筋逆襲の是非、△4三金型向飛車、△4三銀型向飛車、△阪田流向飛車など。現代とはかなり違い、美濃囲いや△3二金型にしない。 第8章は、袖飛車撃退法。袖飛車は昭和前期にはプロでも密かによく登場した戦型で、古い本にはたびたび登場する。本書では、居飛車vs振飛車の対抗形で、振飛車が奇襲的に袖飛車を仕掛ける作戦。居飛車の角が邪魔になるので、速めに引き角から角交換を狙うのがポイント、としてある。 第9章は、三間飛車(石田流)の攻防。石田流は1960年代の升田式から復興したとされているが、本書が著された時期(おそらく初出は1930年〜1950年ごろ)にもテーマの一つであったようだ。 相石田流(「三間飛車の相掛かり」と表現されている)、△早石田、後手が角道を開けてないときの▲石田流、▲石田流vs△8四歩型での端桂作戦、▲石田流vs△棒金、▲鬼殺しなど。相石田はすでにあったんですね…。 第10章は、棒銀の攻防。角換わり▲棒銀、△四間飛車vs▲居玉棒銀など。この当時は、角交換の将棋でも5筋を突くことが多く、角換わり棒銀での定番の受け△5四角はまだなかったようだ。△4二角が有望とされている。 〔総評〕 意外にも、かなり「先後公平なスタンスでの解説」が多かったように思う。仕掛けの成功だけではなく、無理仕掛けへの対応、正しい受け方も示されており、結構知見になる。 「昔の仕掛けの本」ということなので、「仕掛けをこうすれば潰れますよ〜」の「将棋必勝本」(≒相手が損な駒組みにしてくれるはずがない)なのかと思ってました。ゴメンなさい。 局面の価値観が変わりつつあるこの時代では、こういう古い本を読み返すのも面白いかと思う。(2018May26) ※誤字・誤植等(1960年版で確認): p36図 ×「△4一金」 ○「△4一玉」 |