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天才棋士降臨・藤井聡太 炎の七番勝負と連勝記録の衝撃 |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き2〜4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:B 解説:A 読みやすさ:B 上級〜有段向き |
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【著 者】 書籍編集部/編集 | ||||
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ出版/販売 | ||||
発行:2017年8月 | ISBN:978-4-8399-6380-4 | |||
定価:1,490円 | 192ページ/19cm |
【本の内容】 |
・口絵写真=8p 第1章 藤井聡太 炎の七番勝負と公式戦29連勝=26p 第2章 藤井聡太インタビュー=8p 第3章 炎の七番勝負第7局自戦記(藤井聡太)=20p 第4章 羽生善治が見た藤井聡太(羽生善治三冠)=10p 第5章 炎の七番勝負第1局〜第6局自戦記(藤井聡太)=74p 第6章 藤井聡太四段と対戦して ─対局者のコメント=8p 第7章 炎の七番勝負を振り返って(鈴木大介九段)=16p 第8章 藤井の七番勝負を見て(杉本昌隆七段)=8p 第9章 公式戦29連勝の軌跡=15p 【構成】鈴木宏彦 【協力】アベマTV ◆内容紹介 羽生善治三冠が14歳の中学生棋士に敗れる――。 平成29年4月23日、誰も予想できなかった結果に将棋界は騒然となりました。ニューヒーローの名は藤井聡太。藤井四段はその後プロ公式戦で連戦連勝、それまでのデビュー戦からの連勝記録10をはるかに上回り、勝ち続けました。 本書はスター誕生の舞台となった炎の七番勝負と驚異の連勝記録について、藤井四段の自戦解説をメインとし、羽生善治三冠をはじめとする対局相手棋士のコメント、七番勝負の企画者でありすべての対局に立ち会った鈴木大介九段の感想で振り返るものです。 また、師匠の杉本昌隆七段による藤井聡太論も収録しています。 藤井四段の棋士人生の輝かしい第一歩、その軌跡を本人と、関係した多くの棋士たちが綴った記念碑的一冊です。 |
【レビュー】 |
藤井聡太四段の「炎の七番勝負」と公式戦29連勝を記した本。 藤井聡太は2016年12月に史上最年少の14歳2か月でプロデビューし、公式戦29連勝で大きな注目を集めた。また、藤井フィーバーのきっかけとなったのがアベマTVが企画した「炎の七番勝負」で6勝1敗の好成績を収めたことで、特に羽生善治に勝利したことだった。 本書は、「(藤井の)長く続くであろう即席の最初の記念碑となった炎の七番勝負、そして29連勝までの足取りを振り返るものである」(p8)という位置づけ。ただし、内容をよく見ると8割方は「炎の七番勝負」で、特に藤井の自戦記がメインコンテンツであるといえる。 各章の内容を簡単に見ていこう。 冒頭にはカラー写真が8ページ、計16枚掲載されている。他書や新聞・雑誌で見かけた場面もあるが、撮影角度が違うので藤井ファンを自負する人は要チェック。 第1章は「炎の七番勝負」と公式戦29連勝のデータを1局ごとに記録。期間は2016/12/24〜2017/06/26。掲載データは以下の通り。(ただしデータ抜けもある) ・日付 ・棋戦名 ・対局場所 ・開始時刻〜終局時刻 ・対戦相手 ・手数 ・藤井の服装 (学生服、○色のスーツなど) ・藤井の昼食 ・藤井の夕食 ・取材陣の数 (○人、○社) ・対局の概要 (戦型など) ・藤井の終局後のコメント (28連勝、29連勝時は関係者コメントも付記。29連勝時は記者会見の応答も付記) なお、公式戦の連勝がストップした佐々木勇気戦は、データ・コメントともになし。また、図面・写真がないのは臨場感がイマイチで残念。 第2章は藤井のインタビュー。『将棋年鑑2017』に掲載されたものを一部修正している。取材日は不明。 (1)パーソナリティ (2)日常 (3)将棋との接点 将棋倶楽部24の点数がハンパない…! 第3章は「炎の七番勝負」第7局(羽生戦)の自戦記。「将棋世界」2017年6月号に掲載されたものと同じもの。 史上最年少棋士とはいえ、新人が羽生に勝ち、しかもフロックではない内容で、さらにすでに公式戦で負けなしだったことで、対局後から加速度的に注目が集まり、何度もこの将棋の内容が取り上げられることとなった。 文章と解説のバランスがしっかりしていて、これまでにたくさんの観戦記や自戦記を読み込んできたのだなと分かる。 第4章の羽生のコメントとセットになっている。時間軸順で読みたい人は、ひとまず第3章・第4章を飛ばして第5章から読もう。 第4章は、羽生が見た藤井像。日本将棋連盟HPに2017年4月22日付で掲載されたコラム。 「炎の七番勝負」の対局後のものなので、第3章とセットで読もう。同じ将棋を対局者両方の視点で見られるのは貴重(これまでにも例はあるがサンプル数は少ない)。▲7七歩の受けを、藤井は「失着」と言っており、羽生は「藤井さんの好み」と見解が分かれるのが興味深い。また、両者とも、実戦には現れなかった勝負手を対局後に発見しているのが、後々伝説になりそうな気がした。 第5章は、「炎の七番勝負」第1局〜第6局の自戦記。書き下ろしと思われる。第4局(中村太地戦)で第7局(羽生戦)に触れているので、七番勝負が終わってから書かれたもの。 ソフトの形勢判断の話がたまに出てくるのが現代風だが、それほど多くはない。(最近は棋譜中継コメントでもよく見られる) (1)増田康宏四段戦、角換わり (2)永瀬拓矢六段戦、ゴキゲン中飛車vs超速 (唯一の負け) (3)斎藤慎太郎七段戦、ゴキゲン中飛車vs超速 (▲1一銀不成〜▲2二銀成が話題に。駒損よりも相手の歩切れを重視) (4)中村太地六段戦、角換わり (5)深浦康市九段戦、矢倉 (中盤の△3三歩の受けが印象的。羽生戦でも似た手が出た) (6)佐藤康光九段戦、△ダイレクト向飛車 (会心の玉頭攻め) 感想や読み筋でよく自陣桂が出てくる。他にも自陣角や、第7局の羽生戦で出た▲3五金(持ち駒を打った)など、盤上の自陣に駒を入れる筋を(選ぶかどうかはともかく)よく考えるのが藤井将棋の特徴かな、と思う。 第6章は、「炎の七番勝負」第1局〜第6局の対局者のコメント。七番勝負後、29連勝が確定してから取材されたコメントだと思われる。 第7章は、鈴木大介件のコメント。鈴木は「炎の七番勝負」の企画者の一人。(※もう一人は野月浩貴七段。別冊宝島では野月の方がコメントしていた) 企画時の藤井評と、全7局の感想が書かれている。 全体的に、藤井と鈴木の感覚の相違が随所にみられる。例えば、第2局(永瀬戦)で、鈴木が「悪いながらも最善の頑張り」(p155)と絶賛したところは、藤井の自戦記では「粘りを欠いた」(p93)となっている。また、第4局(中村戦)では、金桂交換になった局面を中村も(p147)鈴木も(p158)「後手良し」で一致しているが、藤井の自戦記では「意外だった」(p114)とあり、互角以上の自信があったと伺える。 第8章は、藤井の師匠である杉本昌隆七段のコメント。杉本の談話は、本書以外でもいろいろなところに同じ趣旨のことが書かれているので、見比べてみるとよい。 藤井の将棋は昔は切り合いだったが、三段リーグの途中から受け止める将棋になったとのこと。藤井本人曰く「三段のころから将棋ソフトを活用するようになった」(p50)という時期と一致している。攻め・受けの判断に対して、局面の過大評価・過小評価をしなくなったのが大きいと思われる。 第9章は、「29連勝の軌跡」と題されているが、実際は節目の対局の棋譜と解説。 ・デビュー戦(加藤一二三九段戦)、ミニ自戦記+棋譜 ・20連勝目(近藤誠也五段戦、竜王戦6組決勝)、ミニ自戦記+棋譜 ・29連勝目(増田康宏四段戦)、藤井のコメント入り解説+棋譜 ・連勝ストップ(佐々木勇気五段戦)、藤井コメント+佐々木コメント入りの解説 (棋譜なし) 全体的に「将棋世界」を毎月買っている層がターゲットになっており、読みこなすには一定以上の棋力が必要。藤井聡太の人物像よりも、将棋の内容にスポットが当てられているのでヘビーユーザー向けであることに注意してください。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p184 ×「△4九角成▲同銀△2七歩成」 ○「△4九角成▲同飛△2七歩成」 p186 ×「第30期竜王戦ランキング戦6組決勝」 ○「第30期竜王戦決勝トーナメント」 |