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藤井聡太 名人をこす少年 | [総合評価] C 難易度:★ 図面:なし 内容:(質)B(量)B レイアウト:A 解説:C 読みやすさ:B 将棋を知らなくてもOK |
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【著 者】 津江章二 | ||||
【出版社】 日本文芸社 | ||||
発行:2017年8月 | ISBN:978-4-537-21527-4 | |||
定価:1,404円 | 200ページ/19cm |
【本の内容】 |
・【巻頭】写真 第1章 奇跡を超えた新記録=12p 第2章 29連勝への道=46p 第3章 炎の七番勝負=18p 第4章 天才登場=14p 第5章 藤井聡太・強さの理由=20p 第6章 アンタッチャブル=18p 第7章 未来予想図=18p ・【特別対談】「トップ棋士が見た藤井聡太」(森下卓九段×深浦康市九段)=29p ・【巻末】藤井聡太足跡&全成績 ・脚注索引 ◆内容紹介 将棋界の話題を一手に引き受けた中学生棋士、藤井聡太四段。「天才」「神童」「史上最強」。褒め言葉ばかりが並ぶその理由を、フィーバーを間近で見続けた将棋記者が執筆。 本書の見どころは、棋士たちとの対比にある。それぞれの心内に秘めた意地。しかし、その意地をも凌駕する藤井四段の強さ。ごまかしの効かない世界の厳しさが、読み手の心を打つ。 また「子どもには好きなように。親は見守るだけ」という家族の方針から、才能の伸ばし方も読み取れる。秘蔵カラー写真を含めた藤井聡太四段の魅力を詰め込んだ1冊! |
【レビュー】 |
藤井聡太四段のデビュー29連勝を記者視点で書いた本。 著者は共同通信社の記者で、執筆時に66歳。ボクシング・野球の記者を経て、54歳の時に「瀬川騒動」があり、田辺忠幸から指名を受けて将棋担当になった。 全体的に文章で構成されており、図面による局面の解説はない。人物名・将棋用語など、一般人にあまり知られていないワードは太ゴシックで強調され、下段に説明がある。 各章の内容を列記してみよう。 ●〔表紙〜巻頭〕 ・表紙カバーの写真は、2010年5月の「全国小学生 倉敷王将戦 愛知県予選 低学年の部」で優勝した時の写真。 ・カバーの裏面(見返しではない)にも写真があるので、見逃さないこと。こちらは棋士になってからの対局時のもの。 ・見返し部(オモテ・ウラとも、紙が青い部分)に、将棋の基本ルール。 ・巻頭に、カラー写真が8p。1枚目は小学4年時の文集で、ここに大きな字で「名人をこす」(原文ママ)とある。本書のタイトルの由来となっている。他の写真は、5歳の幼少時から29連勝達成までの15枚。 ●第1章「奇跡を超えた新記録」 藤井四段は、2017年6月26日の対増田康宏四段戦で29連勝の新記録を樹立。その日のドキュメンタリー。 ●第2章「29連勝への道」 ・デビュー戦(対加藤一二三九段) 2016年12月24日 著者とひふみんは通算1000敗時の取材を巡って口論になったらしい。この時は、著者の論にひふみんが納得。 ・11連勝(対小林裕士七段) 2017年4月4日 新人の連勝新記録。 ・20連勝(対澤田真吾六段) 2017年6月2日 澤田は王位戦リーグ紅組で5戦全勝したばかり。このころに著者は「もしかして…(連勝新記録を作ってしまうかも)」と感じたという。 ・22連勝(対阪口悟五段) 2017年6月7日 局面だけでいえば、29連勝中での最大のピンチ。藤井敗勢の局面で、阪口玉に頓死が発生。この辺で、「記者としての“宝物を見つけた”感は随所に出てくる。 ・24連勝(対梶浦宏孝四段) 2017年6月10日 佐々木勇気五段と駅でバッタリ。この時点で佐々木が必勝宣言をしたそうだ。これは著者だけが知っていた情報。 ・26連勝(対瀬川晶司五段) 2017年6月15日 ・27連勝(対藤岡隼太アマ) 2017年6月17日 ・28連勝(対澤田真吾六段) 2017年6月21日 ※29連勝は第1章。 ・連勝ストップ(対佐々木勇気五段) 2017年7月2日 ひふみんの長文コメント全文がある。 ・連勝ストップ後の1局目(対中田功七段) 2017年7月6日 ・連勝ストップ後の2局目(対都成竜馬四段) 2017年7月11日 連勝が止まった後のフォローもしてあるのは○。 ●第3章「炎の七番勝負」 藤井ブームに火を点けた、アベマTVの「炎の七番勝負」を紹介。 棋譜・図面がないので、「受けの妙手を放った」(p74)のように書かれていても、本書だけでは全然分からない。(他書で先に全局並べておいたので理解はできたが、時間が経ったら何が書かれているのか分からないと思う) また、「この企画を考えたスタッフはどなたか知らないが」(p81)とあるが、記者であれば裏取りしてほしかった。(他書には鈴木大介と野月浩貴であることが書かれている) ●第4章 天才登場 藤井の生い立ちと、杉本昌隆七段(藤井の師匠)が見た藤井について。主に杉本コメントがメイン。p92に、ふみもと子供将棋教室で藤井が5歳の時に5手詰めを解いたプリントの写真がある。(ただし、5手詰としては易しいもの) ●第5章「藤井聡太・強さの理由」 藤井の強さの理由として、終盤力、研究会への参加、ソフトの理由、負けず嫌いな性格などを挙げている。 後半は、中学生棋士のデビュー連勝記録、他の連勝記録、最年少タイトル、年間最高勝率の話など。この辺は「期待」であって、「強さの秘密」とは特に関係なし。 ●第6章「アンタッチャブル」 「アンタッチャブル」とは、ここでは「絶対破られない(だろう)記録」という意味。藤井の連勝記録と並びそうなものを、将棋界やスポーツ界からピックアップ。なお、著者が専門としてきた分野だけなので、例えば囲碁界や競馬界などの記録は登場しない。 挙げられているのは、羽生のタイトル98期(更新中)、大山の全タイトル戦に10年連続で登場(タイトルホルダーor挑戦者として)、藤井のデビュー29連勝、ひふみんの18歳A級、野球・ボクシングの各種記録、イチロー、江川卓、アベベ、モハメド・アリ、具志堅用高、など。 本章は藤井本人にはあまり関係がないが、著者の記者歴を生かした「著者ならでは」の視点で、読んでいて面白い章だった。「藤井の連勝記録」に匹敵すると思うもの、またはこの記録の方がもっとすごいと思うものを自分で上げてみるのも良いだろう。 ●第7章「未来予想図」 10年後に藤井がどうなっているかを予想。著者は「B級1組」と予想するが、そこまで停滞するだろうか? また、様々な機試のニックネームやキャッチフレーズを紹介。著者は、藤井のニックネームとして「精密機械」を推奨。ちょっと違う気がします。 他に、八大タイトル戦を紹介。この章は「事実」ではなく「予想」なので、「藤井が取りそうなタイトル」などをもっと想像豊かに書いても良かったのかな…。 ●特別対談「森下×深浦」 連勝が止まって8日後に急遽設けられたインタビュー。著者も交えた鼎談。 ・29連勝をどう捉えているか? ・藤井の強さの理由は?(プロ視点で) 手堅くてミスが少ない、受けが強い、穴がない、根気がある ・印象に残った将棋は? 澤田戦の▲7六桂、瀬川戦 ・炎の七番勝負 深浦が対戦している。デビュー前の2016年10月に指した練習将棋とは全く違っていることを述懐。 ・増田戦(28連勝目) ・10代タイトルの可能性は? ・弱点は? 対振り飛車は不慣れ? ・10年後の予想 森下は「すでに永世名人かも」と一直線にA級から名人を予想。深浦は「B級で数期足踏みでは」と著者の予想(第7章)に近い。 良い点、不満点を箇条書きしてみます。 〔良い点〕 ・藤井の対局を間近で取材してきた経験を生かし、著者だけが知っている情報が時折あった。 ・表紙写真、巻頭写真など、将来貴重な資料になりそうな画像が数点ある。 ・スポーツ記者の経験を生かした比較(第6章)は興味深く読めた。 〔不満点〕 ・できるだけ将棋が分からない人にも読めるように書こうとしているが、そのために「妙手を放って藤井が勝った」などの平坦な表現にとどまり、臨場感が失われている。 ⇒下段に空きスペースがあるので、図面入りの解説があれば良かった。 ・下段で用語解説があるのは良いアイデア。しかし、だらだらと文章で説明されるより、図面一つ添えてあれば良いものも多かった。また、「端攻め」が戦法として説明されるなど、若干の違和感がある。 ・本文のフォントは問題ないが、下段のフォントは小さくて線が細い!老眼の人にはかなり読みづらいと思う。(著者は66歳とのことだが、これで読めたのだろうか?) ・ときおり符号が出てくるが、棋譜も図面もないので、余所での知識補完がないと分からない。特に第2章・第3章・第4章と特別対談は、図面が欲しい。 〔総括〕 全体的に、本の構成を練ったり、作り込む時間が足りなかったように思う。上記の不満点も、図面を追加して、棋士に解説を依頼すれば解決すること。出版社サイドとしてはとにかく早く出版したかったようで、あとがき(本書では「おわりに」)に〆切までの時間が足りなかったことが書かれていた。ビジネスとしては仕方ない面があるが、文化としては残念。 内容や視点としては悪くなかったが、とにかく読んでいてストレスが溜まりました。表紙と「名人をこす」の写真で「出オチ」になってしまった感がある一冊。(2017Sep25) ※誤字・誤植等(第1刷で確認): p28下段 ×「王位戦…詳細はp148参照。」 ○「王位戦…詳細はp147参照。」 |