新しい格言で、駒落ちと詰将棋を鍛えて初段を目指す本。
いろいろな意味で、「思ってたんと違う本」だった。
本書のまえがきには、「「将棋が強くなるにはどうすればいいか」の一点に絞って書いた本です。(中略)将棋上達法をいろんな角度から捉えて、基礎をみっちり身に付けるのがねらいでもあります。(中略)新格言は(中略)全部をこなせば上達間違いなしです。」とある。
また、本書の帯のウラ表紙側には、〔右図〕のように「40日のレッスンで20級の超初心者を初段にも勝てる中級者へ。」とある。“超初心者”は、駒の動き、ルール、符号の読み方などは知っているという前提。“初段にも勝てる”は、3〜4級くらいかな、上手くハマれば初段相手にも一発はいるくらいかな、と思う。
〔右図〕の「1日1レッスン」は、以下のような構成になっている。
・1レッスン=新格言+解説+次の一手+詰将棋=各8pで一組
・新格言
森の将棋教室での指導に基づいたオリジナル格言。「飛車だけ動いてもあかん」「攻めは一か所を狙え!」など、初心者がよくやってしまいがちなことを中心に、従来の格言よりもさらに級位者目線になった格言を生み出している。「なるほどなー」と思える格言も多い。
格言一覧 (重なりがあるので、新格言は39個)
・解説
1レッスンあたり2pで、局面図3つ。題材はほぼ駒落ちで、八枚落ち〜二枚落ち。
L1〜11 八枚落ち
L12 詰めろ
L13 七枚落ち
L14〜20 六枚落ち
L21 詰めろを受ける(簡単な頓死を防ぐ)
L22 五枚落ち
L23〜24 四枚落ち
L25 矢倉囲い
L26 振り飛車(駒落ちでの)
L27 受け(詰めろ逃れ)
L28〜30 四枚落ち(再)
L31〜40 二枚落ち
題材が駒落ちというのは、実際に読み始めるまで全く分からなかった。内容紹介文にも、オビにも全く書かれていないのだから。
・次の一手
解説に書かれていた局面から少し進んだところを題材にしていることが多い。つまり、問題図はほぼすべて八枚落ち〜二枚落ちからの出題になっている。
・詰将棋
似た形が2問一組になっている。最初は超易しい1手詰めからで、L7から捨て駒が登場する。格言・解説・次の一手とはほぼ関係なし。
L1 1手詰から
L6 3手詰が登場
L21 5手詰が登場
L22 7手詰が登場
L31 9手詰が登場
L37 11手詰が登場
L38 13手詰が登場
内訳: 計160問
1手詰=24問/3手詰=59問/5手詰=26問/7手詰=34問/9手詰=10問/11手詰=3問/13手詰=4問
途中から難易度の上がり方がハンパない。わたしでも(大した詰め力ではないですが)苦戦するようなものも多くなってくるし、打歩詰め打開もバンバン出てくる。ハッキリ言って、「中級者」のレベルではない。プロから見れば、中級者にはこれくらいは解けてほしいのかもしれないが…。
個人的には、「中級者の詰め力」は、「3手詰ならバッチリ、5手詰も易しめなら解ける」くらいだろうと思う。本書の難易度上昇カーブでは、「初段を目指す人」には難しすぎて、特に独学では挫折してしまうだろう。
まとめよう。
新格言の目の付け所は非常に良く、格言を読むだけでも気づきを得ることができるだろう。ただし題材は駒落ちなので、教わる機会がない人にはピンと来ないかもしれない。また、詰将棋は上達にはもちろん必要だが、本書では急激に難しくなるので、苦しくなった時点で飛ばして、他書(もっと易しい3手詰や5手詰の本)で補おう。
〔どういう人に向いている本か?〕
・将棋教室などで、プロかアマ高段者に駒落ちの指導を受けている人。
特に、なかなか勝てずに停滞していて、定跡以外のヒントが欲しい人
・将棋教室や学童保育などで将棋を教えていて、入門書の次に使う教材に困っている人。
(「この子には、ここから問題を出そうか」というように使う。
本人は三段以上で、駒落ちで鍛えられた経験があるのが望ましい。)
〔どういう人に向いていない本か?〕
・普段の主戦場はネット将棋で、ほぼ独学で初段を目指している人。
・本当に40日で初段に勝てるようになる、と思った人。
・駒落ちアレルギーの人。
一部の人には強力な教材になると思うが、おそらくごく一握りだろう。書店で「これいいかも」と思って手に取った人の大半は、「あれ…?」となりそうだ。
意欲作ではあったのだが、ちょっと全体のバランス調整が不十分なまま出版してしまったのかな、と思う。格言は同じままで、現実の中級者に難易度のアンケートを取り、題材を平手中心にして再版するのはいかがでしょうか?または、詰将棋は思い切って削除して、解説と次の一手を駒落ちと平手に応用したものにするとか。(2017Sep20)
※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p32 ×「これで▲9一角成受からないが」 ○「これで▲9一角成が受からないが」
p122下段 ×「馬と竜の組み合わを…」 ○「馬と竜の組み合わせを…」
p142 ×「▲同香攻めが成功だ」 ○「▲同香で攻めが成功だ」
p268下段 ×「▲3三飛成以下。」 ○「▲3三竜以下。」
Lesson 37-問題6 別解あり。初手から▲1二龍以下、作意と同手数で詰むのでは?(ソフトで確認済み、作意は▲3一角成から7手詰)
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