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マイナビ将棋BOOKS 三浦の矢倉研究 脇システム編 |
[総合評価] C 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)B(量)B レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 三浦弘行 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2014年5月 | ISBN:978-4-8399-5194-8 | |||
定価:1,717円 | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
矢倉脇システムの解説書。 脇システムは、矢倉の中で現在でも有力視されている戦法の一つである。その歴史は非常に古く、原始的な形はすでに昭和の中期からあったとされる。それを現代矢倉に昇華させたのが脇謙二で、『単純明快 矢倉・脇システム』(脇謙二,週刊将棋編,MYCOM,1994)に詳細が記されている。 しかし、脇システムは矢倉の歴史においてずっと傍流だった。それが、2013年1月に棋王戦挑決で指され、急に最注目されるようになった。矢倉では、△4五歩反発が大大復活して、▲4六銀-3七桂が急速にしぼむ中で、脇システムは先手の有力策のトップグループに躍り出たのである。 そんな中、2013年4月、電王戦で現役A級の三浦弘行が、コンピュータのGPS将棋に脇システムで敗れた。しかも、後手のGPS将棋が仕掛けの新手を出して、である。この将棋は、対コンピュータの価値観を大きく変化させるとともに、脇システムを見直すきっかけとなった。 そういった背景の中、出版されたのが本書である。 先に言っておこう。本書は、期待を大きく裏切っている。正直に言って、ガッカリした。 脇システムの定跡部分の解説は想像以上に少ない。先行して発行されている『単純明快 矢倉・脇システム』(1994)や『矢倉道場 第四巻 新3七銀』(所司和晴,MYCOM,2002)よりも少なく、更新された部分があまりない。 実戦解説集としての位置づけもいまひとつ。最新の棋譜でも2007年で、2013年以降の再流行で進化した部分にはほぼ触れられていない。 そして、もっとも期待された「GPS新手」に関する見解は、6pで「ちょっと長いコラム」レベル。棋譜もなく、指されたときの心情・動揺や、そのときにどう読んだか、もほとんどない。書かれているのは「GPS新手は成立している」「GPS新手の仕掛けが浸透しており、将棋の可能性を広げた」ということくらい。 棋譜解説12局はそれなりに並べ甲斐はあり、決して「買って損した」などとは思わないが、「思ってたんと違う」感がハンパなかった。 さて、気を取り直して(?)、各章の内容を紹介していこう。 序章は、脇システムの優秀性について。本章の「三つの魅力」とは、(1)駒組みが簡単 (2)先手が望めば高確率で誘導できる (3)研究量が多い方が勝つ、となる。基本的な狙いは、角交換して棒銀から端攻め。角が常に向かい合っているので、角は潜在的な持駒となり、攻め始めた時の互いの攻撃力が高い。例として▲三浦△稲葉(2012.07.24)と▲南△羽生が挙げられているが、棋譜はなし。 第1章は、相矢倉の基本。脇システムは矢倉▲3七銀戦法の一つであるが、組み上がるまでに後手からいろいろな急戦があるので、知識として知っておこう、という話。後手急戦の本は、もっと詳しい本が何冊か出ているので、そちらを参照したほうが良い。サラッと流そう。 第2章は、脇システム△7三銀型。もっとも基本となる型なので、しっかり変化を確認しよう。端歩の関係はいろいろあるが、本章では「両端突き合い型」と「両端突き越し型」を扱う。 終章のGPS新手は「1筋突き合い型」だが、チャートはここで統合しておいた。 第3章は、脇システム△7三角型。脇システムでは角が向かい合っているので、いつ角交換になるかが難しい(そこが初級者が参入しにくい点でもある)が、角が向かい合ったらすぐに△7三角と引くことで角交換を強要できる。 後手を持つ人で、先手の研究範囲に嵌まるのが嫌ならば、△7三角型で形を決めてしまうのも一法だろう。 第4章は、実戦編。三浦の実戦から、1999年〜2007年のものを解説。GPS新手が2013年、本書の出版が2014年なので、題材としてはかなり古め。序盤は定型になるためか、各実戦の第1図までの棋譜は省略されている。 これらの実戦譜は、可能な限り第2章・第3章のチャートに取り込んでおいたので、参考にしてほしい。 終章は、将棋ソフト「GPS将棋」の新しい攻め筋について。△7三銀型から、△7五歩▲同歩△8四銀が新機軸(第2章のチャートに記入した)。この筋は、のちのプロの実戦でも何度も現れ、有力視されている。 三浦が第2回電王戦第5局で「GPS将棋」と戦ったことは詳しく書かれていないので、時間が経過すると何の事だかわからなくなるかもしれない。 タイトルの「矢倉研究」、オビの「将棋界一の研究家が伝授」のいずれも、掲げた看板が大きすぎる一冊だった。(2016Jun01) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p160上段 ×「▲3二金の1手詰だ」 ○「▲3二金打の1手詰だ」 p218 ×「(p40参照)」 ○「(p46参照)」 |