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マイナビ将棋BOOKS SUPER自戦記シリーズ 阪口悟の順位戦昇級のキセキ |
[総合評価] B 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4〜6枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解答の裏透け: 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 阪口悟 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年10月 | ISBN:978-4-8399-4907-5 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 |
【構成】野間俊克 第1局 八代弥四段戦 「相穴熊戦を制す」 第2局 藤森哲也四段戦 「難解な終盤戦を制す」 第3局 小倉久史七段戦 「無理気味の攻めを通す」 第4局 川上 猛六段戦 「九死に一生を得る」 第5局 瀬川晶司五段戦 「有名人との対戦」 第6局 永瀬拓矢五段戦 「初黒星を喫する」 第7局 西川和宏四段戦 「念願の昇級を果たす」 ・棋譜解説=6局 ・【コラム】(1)木下晃(師匠)将棋教室の思い出 (2)アプラたかいし将棋教室 (3)息子 (4)阪口流端歩の駆け引き@ (5)阪口流端歩の駆け引きA ◆内容紹介 「長い道のりだった。何度もくじけそうになったが、頑張ってきて本当に良かった」(第7局 西川和宏四段戦より) 本書は「SUPER自戦記シリーズ」の第二弾!既存の自戦記とは違い、本譜手順の解説にとどまらず、実戦を題材とした序盤・中盤・終盤の講座を多く盛り込んでいます。実戦は研究通りに進むことは少ないかもしれません。しかし手順だけでなく実戦におけるプロの読み・局面の捉え方にも注力したこのシリーズは、必ずや皆さんの棋力向上の助けとなるでしょう。 シリーズ第二弾の著者は(2012年度の第71期C級2組順位戦で)9勝1敗の好成績でC級1組への昇級を決めた阪口悟五段。苦節8年。過去には自力昇級の一番に負けて昇級を逃したこともありました。30代となり、自分よりも若い世代との対局も増え、降級点を意識しながら戦ったことも――。 念願の昇級を果たした第71期順位戦から、好局7局を厳選して解説します。これらの実戦を題材とした講座は、まさに生きた知識。ゴキゲン中飛車や相振り飛車の序中盤では、細かい形の違いを例に、最新形の変化を掘り下げて解説しています。激しい終盤戦では、「終盤の解明」と題して、プロ同士の綱渡りの変化を徹底的に解析しています。 1人の棋士が積み重ねた苦労と研究を詰め込んだこの一冊。ぜひ一度手に取ってみてください。 |
【レビュー】 |
阪口悟五段の自戦記本。「SUPER自戦記シリーズ」の第2弾。 阪口は、本書出版の2013年10月時点で35歳、プロ10年目。中飛車党で、以前には『ナニワ流ワンパク中飛車』(2007,MYCOM)という▲中飛車の本を著している。これまで特に大きな活躍はなかったが、C級2組8年目でついに念願の昇級を果たした。 本書は、阪口五段の第71期C級2組順位戦(2012年度)での戦いのキセキ(軌跡/奇跡)を自戦記で解説した本である。 阪口はプロデビュー以来ずっと中飛車党であり、後手では△ゴキゲン中飛車、先手では▲中飛車を目指す。 先手番で▲7六歩△3四歩となった場合、多くの現代振飛車党は▲7五歩から石田流にするが、阪口は端歩で様子を見ることが多い。また、3手目以外にも端歩突きのタイミングに特徴があり、他の棋士と感覚が異なるようだ。なお、初手▲5六歩はあまり好みではないようで、同じ中飛車党でも近藤正和六段とは違っている。 棋風は、じっくりした駒組みが好きで、すぐに戦いになるのは好まない。 各局の内容を紹介していこう。 (1) vs八代弥四段 (C級2組1局目,2012.06.19) 戦型:△ゴキゲン中飛車▲超速 銀対抗型・相穴熊 →第6局の永瀬戦と似た将棋。銀対抗相穴熊を指す人はぜひ見比べておきたい。 [序盤の研究]△6二玉以下の攻防(4p) ・ゴキ中が10手目△3三角でなく△6二玉なら…? →棋譜解説@(vs中村太地四段)の実戦も参照。 [中盤の急所]△5七金以下の攻防(4p) ・△7二玉型で△5六歩と決戦に出る変化の研究。 [定跡講座]△6四歩の変化(2p) ・△4二角と引く手に替えて△6四歩 [中盤の急所]△9五歩と突き越す変化(2p) ・相穴熊で9筋を突き越すと、具体的にどのような得があるか? [中盤の急所]第11図からの攻防(2p) [終盤の解明]ワナをめぐる攻防(1p) (2) vs藤森哲也四段 (C級2組2局目,2012.07.17) 戦型:▲中飛車△一直線穴熊 相穴熊 →一直線穴熊については『中飛車破り 一直線穴熊徹底ガイド』(見泰地,マイナビ,2013.08)を参考に。 [序盤の研究]△7四歩〜△7三桂の研究(7p) [終盤の解明]▲3三香からの攻防(3p) [終盤の解明]▲4三桂以下の攻防(1p) [終盤の解明]△3五歩の攻防 (3) vs小倉久史七段 (C級2組3局目,2012.08.28) 戦型:相振り飛車▲四間△三間 →後手から3筋を強襲した。△三間使いで序盤のチャンスを見逃したくない人は要チェック。 [序盤の研究]3筋を交換しない戦い方(4p) [中盤の急所]▲3七桂の変化(2p) [終盤の解明]投了図以降の解説(3p) (4) vs川上猛六段 (C級2組4局目,2012.09.18) 戦型:▲中飛車△左美濃から居飛穴 →急転直下の大逆転になった一局。 [中盤の急所]▲4八金左の研究(4p) [中盤の急所]△6六角の研究(1p) (5) vs瀬川晶司五段 (C級2組5局目,2012.10.16) 戦型:△ゴキゲン中飛車▲丸山ワクチン6八玉 →角交換後に主流の▲9六歩△9四歩▲7八銀ではなく、▲6八玉。 この指し方の思想についてはあまり書かれていない。 △2五桂ポンの攻防が繰り広げられた一局。 [序盤の研究]▲8八銀の変化(1p) [中盤の急所]▲3七歩からの攻防(2p) [中盤の急所]▲2六歩の変化(1p) (6) vs永瀬拓矢五段 (C級2組7局目,2012.12.18) 戦型:△ゴキゲン中飛車▲超速 銀対抗型・相穴熊 →第1局の八代戦との違いに注目。 第71期C2での、阪口の唯一の敗局。 永瀬の終盤での「根絶やしの受け」に刮目! [中盤の急所]▲2八飛以降の研究(5p) [終盤の解明]▲4三香成の変化(4p) [終盤の解明]読みになかった△7八歩(2p) (7) vs西川和宏四段 (C級2組10局目,2013.03.05) 戦型:相振飛車△三間▲四間(西川流) →相振飛車では約8筋の歩を突き越すという、西川流の序盤に注目。 [中盤の急所]△6四同歩の研究(1p) [中盤の急所]△6四歩の変化(1p) [中盤の急所]▲6五銀の研究(1p) [中盤の研究]勝負どころの局面(3p) [終盤の解明]思い出に残る一着(2p) [終盤の解明]小技を使う(3p) [終盤の解明]勝負手▲8四飛(3p) 〔棋譜解説〕 @ vs中村太地,2010.02,C2(3期前),△ゴキゲン中飛車 10手目△6二玉 (第1局の八代戦に別途解説あり) A vs澤田真吾,2012.06,王将戦,△ゴキゲン中飛車▲超速 銀対抗・相穴熊 B vs澤田真吾,2012.01,C2(前期),▲中飛車 C vs中田功,2012.11,C2(6局目),▲石田流本組△銀冠 D vs田中悠一,2013.02,C2(8局目),▲四間飛車 E vs佐藤和俊,2013.02,C2(9局目),△雁木 自戦記は7局で、「SUPER自戦記シリーズ」第1弾の『稲葉陽の熱闘順位戦』(2013.09)より少ない。その分、1局あたりの解説量は増えている。特に「SUPER自戦記シリーズ」の特徴である「脇道研究」(急所の局面でページ数を多く使って変化を解説する)では中終盤の検討に多くのページを割いている。 なお、棋譜解説も含めると13局で、第71期(2012年度)順位戦C級2組での阪口の実戦はすべて掲載されている。 全棋譜を並べてみた印象としては、イメージする武器は「戟」。刃の鋭さでスパッと切るのではなく、武器の重さと腕力でザクッと斬る感じが、十分に自陣を固めてから戦い始めるイメージに重なる。……って、かえって分かりにくくなってしまったかも(汗)。 中飛車党で、どちらかといえば穴熊にしたくて、端歩のタイミングにこだわりがある方にオススメ。中飛車党の自戦記としては、近藤正和六段の『ゴキゲン中飛車で行こう』(2013.08)の「適度なテキトーさ」の方が個人的には好みではある。(2014Jan09) |