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マイナビ将棋BOOKS 振り飛車4→3戦法 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 戸辺誠 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年3月 | ISBN:978-4-8399-4639-5 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)4→3戦法誕生の話
(2)幻の一手損作戦 (3)アマ時代の話 (4)振り飛車の現在と未来
(5)リンクする書籍 |
【レビュー】 |
4→3(ヨンサン)戦法の解説書。 後手番でも石田流ができる戦法として、3・4・3(サンヨンサン)戦法が単行本で紹介されたのは『島ノート 振り飛車編』(島朗、講談社,2002)だった。3・4・3戦法は、△3五歩〜△4二飛〜(△7二玉まで移動)〜△3二飛と動くことで、居飛車の▲6五角を防ぎながら石田流を目指せる戦法である。ただし、後手番である上に1手損するため、先手番の石田流よりも2手遅れることが懸念され、プロではあまり有力視されてはいなかった。 しかし、その後に一手損角換わりや角交換振り飛車が流行するにつれて、手損に対する考え方は大きく変わった。相手に利を与える手損はダメだが、相手と自分の形に差をつける手損は良しという思想が拡がり、特に手損に抵抗が少ない若手棋士を中心にさまざまな新手法が現れている。 本書は、若手棋士の一角である戸辺が、3・4・3戦法を改良し、有力な戦法として解説した本である。 戸辺は、3・4・3戦法の△3五歩を不急の一手と位置づけ、後回しにした方が作戦の幅が広がると考えた。改良版は、角交換四間飛車の出だしから△4二飛〜(△7二玉まで移動)〜△3二飛〜△3五歩の順で動く。展開によっては△3五歩は入らない(第4章)こともあるので、飛車の動きから「4→3戦法」と名付けた。 また、先手番の石田流より2手遅れることについては、「低い構えをキープできるので、飛交換を挑むチャンスが増える」というポジティブな考え方を採っている。 各章の内容をチャートを添えて紹介していこう。 第1章は、▲2四歩の対策。他の角交換系振飛車と同様、角が向かい合っている状態での▲2四歩はほとんど大丈夫なのだが、やはり基本として知っておく必要がある。 ▲2四歩と突いてくるタイミングは3種類。 (1)7手目▲2四歩 最速での▲2四歩。△角交換四間飛車と共通の変化になる。△ゴキゲン中飛車での最速▲2四歩とほぼ同じ変化で、角交換から△3三角の筋で2筋を逆に押し込める。緩やかな展開に落ち着くものの、先手を持って戦いたい人はいないだろう。 (2)11手目▲2四歩 △3二飛のタイミングで▲2四歩。角交換して飛をぶつければ、升田式石田流の変化を応用できる。 (3)13手目▲2四歩 △3五歩のタイミングで▲2四歩。やはり升田式石田流の変化を応用できるが、△7二玉とわき腹が露出している(美濃に収まっていない)ので、変化の後半に▲4二飛の両取り(△7二玉と△2二金)が来ることには注意が必要だ。ここは本戦法(&3・4・3戦法)に特有の変化なので、自信が持てるようにしておきたい。 第2章は、△3四飛型が実現し、角交換になる場合。▲升田式石田流に比べ、2手遅れた形で、3・4・3戦法でも共通のテーマだ。この「2手遅れ」をポジティブに捉え、「先手の手が進む分、陣形が上ずり、後手から飛交換を挑めるチャンスが増える」と考える。 よって、▲升田式で見られるような銀を5五に繰り出す戦いはせず、「△3三銀からどのタイミングで△2四歩と突けるか」が焦点になる。 なお、先手が角道を止めないが角交換をしてこない場合、石田流本組に組みたくなるが、2手遅れが響きそう。後手から角交換してしまうのが本節のオススメ。さらに手損になるが、左銀が3一にいるのを利用して、中央にスムーズに使うことで手損分を補う。 先手としては、手得を生かして玉頭位取り作戦が考えられる。本書の中では、高段者〜プロでありそうな作戦だと思う。 第3章は、△3四飛に対し、升田式石田流を嫌って▲6六歩と角道を止めてくる展開。テーマ1〜3ともに、アマ(特に級位者〜三段くらい)ではよく見かける形だ。 先手が受身になりやすいので、プロではあまり見かけないが、実際にとがめるにはどうしたらよいか?これまでの石田流の本では、「後手としてはスムーズに石田流本組にできるので満足」という程度の解説で済まされていることが多かった。本書では、具体的な攻め方や注意すべき点(特に△1四歩が必要なタイミング)が書かれているので、大いに参考になるはず。 第4章は、△3二飛に▲6六歩と角道を止めてくる展開。このタイミングで角道を止められると、後手は飛先を受けるために△3三角に限定され、石田流の戦いにはできない。その代わり、向飛車急戦に転じるのと、駒を組み替えて石田流本組の持久戦に移行するという、2つの選択肢ができる。 なお、テーマ1の「△2二飛急戦」は、『定跡裏街道 〜角交換振り飛車編』(松田基弘(個人出版/電子書籍),2012.05)第1章の「432戦法」とほぼ同じ。『〜裏街道〜』では△3二銀型だったが、本書では△3二金型で仕掛ける。 第5章は、先手番で4→3戦法を目指したときに相振飛車になる場合。後手番では▲2六歩を見てから振飛車にするので相振飛車になることはないが、先手番で相手も角交換振飛車党なら、当然考えられる展開だ。 テーマ1は相四間(角道オープン)。本書でのオススメは、金を上がって△4五角の筋をケアしたら、すぐに三間に振り直す。相手も意地を張って相石田流型になることもありうるが、本章では後手が△4二飛型を生かすために角道を止めてくる場合の展開を解説する。 テーマ2は▲四間vs△三間。先手が角道オープンなので、後手は▲6五角を避けるために角道を止めてから振ることになる。先手は、角交換の筋がなくなったら、すぐに三間に振り直して、序盤のリードを目指す。戸辺のオススメは、▲3八金型。1手で2筋と4筋を強化し、低い構えで先制攻撃を目指す。 この形はわたしもよく実戦で試していて、進展性には欠けるものの、比較的勝率の高い優秀な形である。 第6章は、次の一手形式での練習問題。といっても、本編の復習ではなく、本編で解説しなかった変化を補完したものである。2〜3問がセットになっているものもある。本編のどことつながるかは書かれていないので、分かる範囲で上記チャートに添えておいた。 3・4・3戦法系の作戦は、『島ノート 振り飛車編』以降の棋書ではたまに紹介されてきた。最近では、『菅井ノート 後手編』(菅井竜也,マイナビ,2012.09)の第6章第1節で、本書と同様の戦法が「△4二飛戦法」として解説されているが、一冊丸ごとで解説したのは本書が初めて。しかも、「こんな変化もあって面白いかも」というレベルではなく、若手上位棋士が有力視し、真剣に検討している内容である。 多くの変化で▲石田流の知見が生かせるが、2手遅れであることで成立する仕掛けなどもあるため、石田流党は必読の一冊である。特に、次のような方にはオススメだ。 ・先手番では石田流、後手番ではゴキゲン中飛車をしぶしぶ指していた人 ・先手番では石田流or▲中飛車、後手番では角交換四間飛車を得意とする人 ・2手目△3二飛戦法に飽きてきた人 仮に△ゴキゲン中飛車が行き詰まったとしたら、この系統の戦法が一気に増えるかもしれない。ライバルに先んじるなら今のうちである。(2013May24) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): 特に見つかりませんでした。 |