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週将ブックス 手筋の隠れ家 |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き3枚 内容:(質)B(量)A レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【編】 週刊将棋 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2010年4月 | ISBN:978-4-8399-3492-7 | |||
定価:1,470円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
実戦的な好手について解説した本。週刊将棋に連載された「手筋の隠れ家
勝ちやすい次善手たち」を単行本化したもの。 タイトルに「手筋の隠れ家」とあるが、あまり知られていない手筋を解説した本、というわけではない。また「勝ちやすい次善手たち」とあるが、次善手ばかりを解説した本でもない。 もちろん、中にはそういうテーマもあるが、本書は基本的には「実戦的な最善手」を解説している。たとえば、やや優勢な中終盤で、以下の2つの手があったとき、どちらを選ぶだろうか? A.ギリギリの攻め合いでも勝てそうだが、少しでも読み抜けがあると逆転し、取り返しのつかない手 B.相手の攻撃力を削ぎ、自分の防御力を増して確実に勝てる手 また、やや劣勢な中終盤で、次のような場合にはどうだろうか? A.ジリ貧になりそうだが、最善の受けを続けていく手 B.正確に対応されれば負けが早まるかもしれないが、上手くいけば逆転できるかもしれない手 もちろん、どちらが正しいかは局面によって違うと思うし、棋風によっても違うだろう。しかし少なくとも本書では、どちらもBを選択する。つまり、「優勢なときには確実に勝てる手(実戦的な最善手)」「劣勢なときには少しでも勝負になりそうな手(=勝負手)」を解説していく。一部のテーマでは「粘り方」や「裏定跡」のようなものも散見される(テーマ83「玉頭銀で急戦封じ」は四間飛車vs棒銀の裏定跡、テーマ88「一段金には▲3五歩」は三間飛車vs急戦の裏定跡)。 本書の基本構成は以下のとおり。なお、各テーマは見開き完結。 (1)冒頭(見開き右側):格言風のタイトル (2)見開き右上:テーマ図(ほとんどが中盤〜中終盤) (3)テーマ図の状況説明と形勢判断 (4)パッと見える候補手(2〜3種)の解説 (5)実戦的な好手の解説 本書の評価はBとしたが、人によってAにもCにもなると思う。「今まで経験的に得てきた感覚を言語化してくれた!」と思えれば高評価。半面、テーマによっては、相手の失敗によって勝負手が奏功している場合もあり、「○○が相手の判断を誤らせた」という解説になっていることもあるので、「相手がミスしなかったらダメじゃん」と思えば低評価。 つまり、一冊丸ごと使えるというわけではない。使えるかどうかは、テーマごとに自分の感覚・大局観と照らし合わせていく必要があるだろう。個人的なお気に入りテーマは以下の通り。 テーマ13「桂捨てで敵攻撃陣を崩す」…矢倉戦で、玉側の桂を捨てることで相手の攻撃態勢を崩して先攻する。駒損で玉の守りも薄くなって理論的には悪そうだが、実戦的には先攻できる利が大きい。 テーマ24「無理気味でも相手の理想形は阻む」…相手が数手後に理想形になることが分かっていれば、多少無理気味でも動いた方が良い。 テーマ44「歩の入る攻めを選ぶ」…歩がたくさん入れば攻めのバリエーションが増える場合が多い。これは私も思っていたことで、言語化してもらった感じ。 テーマ72「穴熊では1手前に受ける」…相穴熊で金銀をたくさん持っているなら、受け過ぎと思えるほどでも穴熊の壁を構築すると勝ちやすい。 テーマ95「複数の駒を残す」…テーマタイトルは若干言葉足らずで、解説どおり「複数の種類の持ち駒を残す」が正しい。これは他所でも聞いたことがある原理で、迷ったときにこの格言に沿って指すと、不思議と上手くいくことが多かった。 テーマ96「安全な玉の位置を探す」…中盤で一段落付いた場合、とにかく金銀の塊に玉を寄せていくのが良い。 特にテーマ72は、相穴熊で相手の玉を寄せに行かず、自陣の穴熊にもう一枚金を埋めて鉄壁にし、相手の戦意を喪失させるというのがとても印象に残っている。良い悪いは別にして、「ああ、将棋部のH.T.さんなら絶対こう指すだろうなぁ」と思いながら読んでいた。 情報の真贋判定、取捨選択は自分しだい。テーマによっては他書で述べられていない貴重なものもあるので、一読してみてはいかがだろうか。(2010May20) ※誤植・誤字(初版第1刷で確認)は見つかりませんでした。 ※疑問点:テーマ93の変化で、△7五銀のところで△6五銀と桂を取れば決まってしまうのでは?(▲同歩は角を素抜かれる) ※本書の講座を執筆していた新井田基信氏は、連載中の2010年2月19日に急死。享年48歳。連載は、週刊将棋2010年2月24日号掲載の第110回でストップした。本書に載っているテーマが107なので、残り3テーマは死蔵になってしまうのだろうか。ちなみに本書のテーマ107「5五銀の存在が大きい」は、週刊将棋では第108回なので、1回分だけボツになった回がある。(※バックナンバーを保管していないので確認不能) ※新井田氏は、「週刊将棋編」の名義で出版された棋書を多数執筆している(※本書を含め、スタッフ名の中に名前が書かれていることがほとんどないので、どの本を執筆したかは関係者以外は知ることができない)。週刊将棋編の棋書は、プロがなかなか書かないような冒険的な内容も多く、ハズレもあるが面白いものが多かった。故人のご冥福をお祈りするとともに、氏が棋書界に遺した功績に感謝します。 ※テーマが似ている棋書: 『東大式将棋必勝法』(東京大学将棋部,ごま書房,1978) 『大覇道伝説』(週刊将棋編,MYCOM,1991) |