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永世竜王への軌跡 | [総合評価] S 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜向き |
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【著 者】 渡辺明 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2009年7月 | ISBN:978-4-8399-3236-7 | |||
定価:1,890円(5%税込) | 320ページ/21cm |
【本の内容】 | ||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
渡辺明・初代永世竜王の自戦記本。 渡辺は、第17期竜王戦で森内を破って初戴冠を果たしたあと、5期連続で竜王を防衛して、史上初の「永世竜王」になった。本書は、第17期竜王戦の予選から第21期竜王戦七番勝負までのすべての将棋を渡辺本人の解説付きで収録し、特に渡辺が印象に残っている10局を自戦記として記したものである。 渡辺の自戦記本は初めてだが、『頭脳勝負 将棋の世界』(渡辺明,筑摩書房,2007)に載っている自戦記が相当面白かったので、本書も期待していた。そして、その期待は裏切られなかった。 本人は『谷川浩司全集』をかなり意識して書いたそうだが、いくつかの工夫やネタ満載など、一部は『谷川浩司全集』を上回っている。 ・各所にちりばめられた「おやつネタ」 ・封じ手に関する心理的なやり取り ・指しているときの心情 ・(一部ではあるが)思考の逡巡も含めた読みの公開 etc. 自戦記編、棋譜解説編、および「ネタ」について、例を挙げて紹介していこう。 ●自戦記編 ・自戦記編では、実戦の進行が本文に出てくる場合は、棋譜を太字ゴシックで強調しているのが従来の自戦記本ではあまりなかった工夫。渡辺明ブログでは少し前から採用されているが、自戦記集の単行本ではおそらく本書が初めてだと思う。 ・各図面での残り時間が書かれているのも新しい工夫。その局面での残り時間や一手にかけた考慮時間は、そのときの対局心理・心情を推察するためには重要な情報だ。 ●棋譜解説編 ・各局の解説の末尾には一言感想が添えられている。 ・自戦記編はもちろんのこと、棋譜解説部にも本人しか分からない背景説明や心情吐露が多数。 〔例〕 (2局目)「3日前に師匠(所司七段)が(同じ戦型で)快勝していたので追従した。」 (4局目)「当時は定跡を細部まで知らなかった。」 プロだからといって何でも知ってるわけじゃないんですね。 (6局目)「森九段が「歩がないから負けか」とボヤいたのが印象に残っている。」 (7局目)「打った直後に不安な気持ちで自玉を見つめた。」 (14局目)「研究の本線は……だったのでアテが外れた。」 ●ネタの例 p41/新手を出した後の1日目夜の会食で、相手の様子が普段と変わらないように見え、「新手が不発なのか」と心配になってあまり眠れなかった。 p74/滑りやすい駒のため指したときに周りの駒を弾き飛ばしてしまい、戻したら木村に「違います」と指摘され、パニックになって「すいません、どこが違うか分かりません」 ※トッププロでもこんなことがあるんですね。 p78/竜王戦記念扇子の揮毫(毛筆)が5年で恐ろしく上達している。 p105/『頭脳勝負』(渡辺明,筑摩書房,2007)の自戦記にも出てきたエピソード。1日目の夜に次の手を懸命に考えていたところ、フッとある局面が浮かんだが、ありえない局面だと思って忘れようとしたところ、妙手順でその局面になることを発見したこと。 p131/おやつネタ。「3時のおやつにケーキが出た。薄っぺらい紙がはがしにくくて苦戦したが、丁寧に格闘して1,2分かけて成功。対して佐藤棋聖はすぐに諦めてそのままフォークでくり抜いて食べていた。」 何やってるんですか(笑) p146/(3時のおやつがチョコレートケーキだったかショートケーキだったかで、記事に間違いを書かれ)「おやつに関しては自信を持っている。(自分の記憶違いではない)」 ※渡辺がタイトル戦でのおやつを楽しみにしているのは一部では有名。対佐藤戦では自分のおやつを佐藤側に置かれてしまい、佐藤が気づかずに(?)食べてしまってガッカリした、などのエピソードもある。 p141/「読み筋通りの手が帰ってくる度に安堵し、恐る恐る次の手を指して、再び手を待つ。」 この辺はアマもプロも同じなんですね。 p162〜164/あの「▲9八飛」について、1手だけで3pもの解説!(というか読みの公開) 単なる「手の善悪」の解説だけではなく、いくつかの候補手を時間と戦いながら逡巡している様子は、今まであまり読んだことのないリアリティを感じた。 竜王戦は読売新聞に観戦記が掲載され、特に七番勝負は単行本としてまとめられている。そのため、本書に載っている将棋のほとんどは「第○期竜王決定七番勝負」(第17期〜第21期)でも見ることはできる。 ただ、新聞に掲載される観戦記は文字数の制限が大きく、将棋の内容の濃さにかかわらず原稿量が同じであり、そのため序盤は引き延ばしの話が入っていたり、逆に中終盤の難しい部分が省略されていたりすることがある。その点、自戦記では文章量は自由自在。特に本書では書き下ろしなので、肝心な局面ではかなりのページを費やしていたりする。 本書の自戦記は、本人による棋譜解説としても、また読み物としても、トップクラスの面白さだと思う。 ただ一つ残念なところが…。個人的には、このハイレベルさなのにハードカバーじゃないところが残念だったんです!ただそれだけです!(2009Oct21) ※初版の間違い(「渡辺明ブログ」より、宮田五段の指摘によるもの) p169 追及→追究または追求 p226 ※のところ、「他に18期第3局(99頁)」→「19期第3局」 p272 「森内の勝ち」→「森内竜王の勝ち」 p314 2組3位杉本六段→2組2位 ※第21期第7局(vs羽生)の「宮田研究」(本局の難解な終盤戦を宮田敦史五段がA4数枚ものレポートにまとめたそうだ)が公開されていれば「神」だったのだが…さすがにそれは無理なお願いか。 |
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