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■野獣流攻める右四間

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野獣流攻める右四間
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マイコミ将棋BOOKS
野獣流攻める右四間
[総合評価] C

難易度:★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)B(量)A
レイアウト:A
解説:B
読みやすさ:A
中級〜有段向き

【著 者】 泉正樹
【出版社】 毎日コミュニケーションズ
発行:2009年5月 ISBN:978-4-8399-3204-6
定価:1,470円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1部 アームストロング砲右四間飛車
(対振り飛車)
・対4三銀型
 ├従来の▲右四間+舟囲いvs△5四銀+1二香型の定跡
 ├先手陣形を工夫(6八銀型舟囲い+7七角)
 └7八金型右四間(「かにの“ほろ酔い囲い”」)
   ├後手が高美濃
   └後手が銀冠
・対5三銀型
 └先手箱入り娘
・対穴熊
 └先手“箱入り息子”(7九玉-6八金寄型左美濃)
110p
第2部 ガトリング砲右四間飛車
(対居飛車)
・対△3三銀型(先手変形カニ囲い(「かにの“ほろ酔い囲い”」)
 ├後手矢倉
 └後手「ローストビーフサンド囲い」
・対△4三銀型
 ├後手雁木+△3三桂+△4一玉型、先手▲6八玉型左美濃
 ├後手雁木+△3三桂+△4二玉型、先手▲6八玉型左美濃
 ├後手雁木+△3三桂+△6二玉型、先手▲6八玉型左美濃
 ├後手雁木+△3三桂+△6二玉型、先手▲7九玉型左美濃
 └後手居玉で早めに飛先を伸ばす、先手「かにの“ほろ酔い囲い”」
・対△3三桂保留型
 ├後手雁木+△3三角、先手はカニ囲い
 └後手袖飛車△7二飛
110p

・【コラム】エルちゃんのコラム(1)エルの悪だくみ (2)エルザベス・カラー (3)エル篤姫を見る (4)真夜中のおやつ (5)エルの感想戦

◆内容紹介
本書は野獣流攻めるシリーズの第二弾で、右四間飛車戦法を解説しています。飛角銀桂と破壊力抜群の攻撃陣に加え、
対振り飛車なら7八金型、対居飛車なら6八玉型など、独特の工夫を加えて敵陣に襲い掛かります。あまり難解な変化はさておき、リズミカルな文章で狙い筋を披露しています。
「難しい定跡は苦手、とにかく攻めたい!!」といった方にぜひ読んで欲しい一冊です。


【レビュー】
基本図▲右四間飛車の戦法解説書。

本書の右四間飛車は、初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二銀▲4六歩(→基本図)といく、先手右四間飛車。ここから後手が四間飛車で受けるか、矢倉や雁木などの居飛車系で受けるかで展開が変わってくる。

近年よく見られる右四間飛車の囲いといえば、対四間飛車では(1)舟囲い (2)天守閣美濃 (3)端玉銀冠 (4)居飛車穴熊など、対居飛車では(1)居玉 (2)▲6八金(△4二金)型など。しかし本書では、それ以外の囲いを採用することで、右四間の新たな可能性を提示している。

「新たな可能性」と書いたが、実際には本書の戦型の多くはかなり古いものが多い。本文中に「右四間をよく採用した棋士」として挙がっている小堀清一、関根茂、富沢幹雄、宮坂幸雄らが囲いや仕掛けのタイミングを試行錯誤していた。

ただし、戦法自体は古いのだが、「メタボのお腹」(p90)「近頃は平気で手損する戦法も大流行」(p127)など、近年登場した言葉も使用されているので、原稿自体は比較的新しい模様。


さて、目次には「アームストロング砲右四間飛車」「ガトリング砲右四間飛車」と書いてあるが、何のことか分からないだろう(笑)。興味のある方は検索を掛けてもらえばすぐ分かると思うが、両者とも銃火器の一種で、幕末〜明治維新の戦乱で活躍した(らしい)ことが知られている。要は「破壊力抜群の戦法ですよ」ということである。

本書でどのような囲いの工夫がされているか、図で説明していこう。

▲舟囲い
第1章 対振り飛車
・▲舟囲い右四間飛車vs△4三銀型四間飛車

右四間vs四間のもっともオーソドックスな形で、基本定跡となる。「△4三銀型」と書かれているが、本書では先手が仕掛ける前に図のように△5四銀と上がっている。この形は先手有望な変化はたくさんあるが、正確に対応されると無理仕掛けになる。

よって、ここから先手が囲いを工夫する旅が始まる。


▲6八銀型舟囲い+7七角
・▲6八銀型舟囲い+7七角

▲6八銀で5筋や玉頭を厚くする。これだけだと、△8八角成▲同玉の形が味が悪いし、角がいなくなると△4四角のラインでいきなり寒くなることがあるが、▲7七角とさらに一手入れることで、これらの筋を甘くしている。

ただし、△8四桂や△7四香がきつくなる可能性もあり、一長一短。


▲かにのほろ酔い囲い
・▲かにのほろ酔い囲い

先の「▲6八銀型舟囲い+7七角」を改良した形。振飛車相手に▲7八金型なので違和感があるが、ここまで組めば(1)飛車打ちに強い (2)玉頭攻めに少し強い、などの利点がある。半面、5七が薄くなっているという欠点もある。

「かにのほろ酔い囲い」の由来は、カニ囲いから玉が一路ずれ、右金が下がっているので、カニが傾いたように見えるところから。


▲箱入り娘vs△5三銀型四間飛車
・▲箱入り娘vs△5三銀

「箱入り娘」の由来は、(1)玉が箱に入っているように見える、 (2)堅いようで、手がつくと意外と早い(もろい)、など。横からの攻めには強い。

一方、後手は△5三銀型。△4三銀型と違って、▲4四歩と取り込まれても銀に当たらない。また、△5四銀型と違って「歩越し銀には歩で対抗」の構えになっている。


▲箱入り息子vs△5三銀型四間飛車穴熊
・▲箱入り息子vs△穴熊

「箱入り息子」はおそらく泉の造語。箱入り娘の玉と銀が入れ替わった形ではあるが、▲7九玉型左美濃からの発展と考えた方がよい。堅そうだが、退路がないので信頼性は未知数。

▲8五歩は将来の穴熊崩しに必要。8五歩へのバックアップがないが、右四間飛車はいつでも仕掛けができるため、穴熊からの玉頭反撃はしづらいのだろう。


▲かにのほろ酔い囲いvs△矢倉
第2章 対居飛車
・▲かにのほろ酔い囲いvs△矢倉

「右四間に矢倉を入城するな」の典型的な例。金銀3枚で4四を守っているので堅いようだが、2二玉が間接的に角でにらまれているのが大きく、簡単に崩壊する。


△ローストビーフサンド囲い
・△ローストビーフサンド囲い

4四を厚く守りたいが、矢倉で入城してもダメなので、居角のまま変形矢倉で対抗したもの。「ローストビーフサンド囲い」は泉の造語で、「4四の地点が肉厚」とのこと…。


▲6八玉型左美濃vs△4一玉型雁木
・▲6八玉型左美濃vs△雁木

後手が雁木+3三桂で守るのは、飛車落ちの下手右四間定跡ににている。ただし平手では、後手の飛車がかえって目標になることも(▲7一角の筋)。

先手は6八玉型左美濃と工夫。その意味は本書にて。


▲6八玉型左美濃vs△6二玉
・▲6八玉型左美濃vs△雁木+6二玉

後手は雁木+3三桂で4筋を堅く守り、さらに△6二玉で▲7一角の筋を消す。

先手は後手玉の位置に目をつけ、6筋にちょっかいを出す。


△袖飛車7二飛
・△袖飛車7二飛

後手が雁木ライクの二枚銀でいったん4筋を受け止め、△7二飛と袖飛車に。先に一歩を持つことで、▲3七桂をけん制している(△3五歩▲同歩△3六歩の狙い)。




分かる範囲で参考棋譜を付しておく。なお、泉本人の右四間の棋譜は見つけることができなかった
(外部リンク:将棋の棋譜でーたべーす

○対四間飛車
  1985/09/10 ▲小堀清一△木村嘉孝 (6八銀-8八角型)
  1968/07/19 ▲小堀清一△勝浦 修 (5八金-5九金型)
  1987/06/05 ▲北村昌男△関根 茂 (居飛車穴熊)
  1991/08/01 ▲宮坂幸雄△瀬戸博晴 (対振り穴)

○対居飛車
 2002/08/01 ▲中川大輔△中原誠(△矢倉)
 1987/03/02 ▲谷川浩司△中原誠(△雁木+6二玉)
 2007/01/10 ▲阿部隆△泉正樹(△雁木+6二玉)


前著『野獣流攻める矢倉』(泉正樹,MYCOM,2008.10)と同様、リズミカルで講談でも聞いているかのような文章は楽しくて読みやすい。一方、やはり後手に悪手を指させてフィニッシュが目立つ

 p22「▲2二角成△2五歩なら、後手も戦えました。」→それを本筋として解説すべきでしょ…
 p96「香を取らずに△9三歩などは、仮に最善手でも空気を曇らすので、当然没収。(解説なし)」 おーいw

ただし、週刊将棋のインタビューによれば、後手に悪手を指させているのはワザとなのだそうだ。

いろいろな手筋が調子よく決まり、ド派手にぶっつぶれた図も多いですが、それは悪手も書いているから。変な言い方ですが、悪手を書くことによって、悪手を指さなくなるということもある。だから悪手も織り交ぜて書いています」(週刊将棋2009年6月10日号p15)

これをどう見るかは読者次第だと思う。わたしはやっぱり、適切な局面判断をしてほしいし、難しい局面なら「難解」と言い切って、その後の指針だけを示せばいいのだと思う。(2009Jun13)

※エルちゃん(愛犬)のコラムは健在です(笑)。本当は20pくらい書きたかったんだそうな。



【他の方のレビュー】(外部リンク)
適当将棋ノート




【関連書籍】

[ジャンル] 
ユニーク戦法
[シリーズ] マイコミ将棋BOOKS
[著者] 
泉正樹
[発行年] 
2009年

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