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MYCOM将棋ブックス 杉本昌隆の振り飛車破り |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段者向き |
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【著 者】 杉本昌隆 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2007年2月 | ISBN:978-4-8399-2303-7 | |||
定価:1,470円(5%税込) | 240ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】圧倒的な大局観/柔軟な発想その1/柔軟な発想その2/指導将棋の難しさ/居飛車にするのは |
【レビュー】 |
居飛車vs振飛車の戦型を解説した本。 著者の杉本は、(ほぼ)純粋振飛車党である。それなのになぜ「振飛車破り」の本なのか?杉本曰く、「振飛車の弱点を一番知っているのは振飛車党だから」だそうだ。というわけで、本書は「純粋振飛車党が書いた振飛車破りの本」である。 本書では、居飛車が有利になる変化と、振飛車が有利になる変化をハッキリ分けている。その中でも、特に振飛車側が優勢になる変化は「振り飛車の視点」、また細かい研究よりも分かりやすく実戦的な変化は「マル秘」として書かれている。ただし、解説自体はどちらか一方に肩入れしているわけではないし、プロの実戦や研究をベースにしているので「アマチュアなら通用します」というココセ本でもない。全体としてはかなり公平な視点で書かれていると思う。 各章の説明をしていこう。 第1章は、△藤井システムに対する▲3五歩急戦。タイトル戦でも何度か現れた戦型で、後手藤井システムの成否に関わる重要な変化だ。p20「藤井システム対居飛車急戦は、振り飛車が形成を損なわず、いかに局面を収めて玉を囲うか、が一つのポイントだ。」 第2章は、▲藤井システムvs△居飛車穴熊。非常に激しい戦いで、場合によっては詰みまで研究されている(例えば▲5六銀型に△4五歩の決戦など)。 第1章と第2章は藤井システムの最先端で、本書の中では一段階ほど難しいと思う。この10年間ずっと藤井システムを追ってきた人にはちょうど良いが、そうでない人はパスしてもいいかもしれない。 第3章は、5筋位取り急戦。すでにほぼ消えた戦法に近く、本書の実戦例で居飛車側を持っているのは西川慶二七段のみ。本書でも、ずっと居飛車が良くなる変化が続くものの、最後の1つは振飛車が良くなり、「やはり5筋位取り急戦は振飛車良し」の結論になる(振飛車破りの本なのに(笑))。ただ、すでにマイナー戦法になっていることもあって、実戦的には居飛車がかなりやれるのでは?と思う。 第4章はポンポン桂。別名「富沢キック」、または「桂捨て作戦」とも呼ばれる。▲4五桂と歩頭に桂を捨て、強引に角交換して飛先を突破するという、非常に単純な仕掛けだ。そのため、プロで使う人は少なく、既刊の棋書でも奇襲扱いだったり、「アマなら通用する」というスタンスだったりした。(cf.『振り飛車破りユニーク戦法』(田丸昇,創元社,2005)、『B級戦法の達人』(週刊将棋編,MYCOM,1997/2002)) しかし本書のポンポン桂は、「囲いが遅れている藤井システムに対して有効なのでは?」という思想から始まった、「現代版ポンポン桂」である。プロ高段者の実戦例もいくつか紹介されている。仕掛け方は同じでも彼我の陣形が従来と違うため、まったく別の戦型といっていいだろう。具体的には、▲5七銀(右)型になるため3七に隙ができるので、これをカバーするため▲1六歩とか▲5五角が必要になる。 第5章〜第7章は、石田流破り。 第5章は出だしはノーマル三間飛車から、▲石田流本組vs△居飛車穴熊という戦型。ここで後手が△8四飛と浮かず(7筋を受けない)、ひたすら玉を固める指し方に特化してある。▲7四歩△同歩▲同飛の歩交換に△6四銀と出るのが後手の狙い。 第6章は、対▲石田流のメインストリームになりつつある△銀冠。この章では振飛車が良くなる変化があまりなく、苦戦をうかがわせる。「振飛車破り」の本だからそれでいいのだが、実際に有効な対策が乏しいのだろうか・・・。 第7章は、新作戦の山本流。山本真也五段が開発した石田流対策で、おそらく単行本では初公開のはずである。▲石田流に対し、△4二玉+△6四歩+△6二飛と、たったこれだけで戦闘準備完了。あとは先手の動きに合わせて仕掛ける。対石田流が苦手な人でも、非常に覚えやすい戦法で、オススメである。わたしは将棋部のKさんとこの戦法を研究し、わたしが石田流側を持って一定の結論に達したが、先手が常形に組むのは難しく、かなりやっかいな戦法だと思う。自分が後手の時に、相手に石田流を使われたら今までは相振飛車にしていたが、今後はしばらく山本流を使ってみようかと思う。 全体的にプロ的な難しい変化も多かったが、研究が苦手な人でも、第4章(ポンポン桂)と第7章(山本流)だけでも読んでおくとよいと思う。(2008Jun13) |
【他の方のレビュー】(外部リンク) ・棋書解説&評価委員会 ・Amazon.co.jp: カスタマーレビュー ・T's shogi blog |