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羽生善治の詰みと必至
1分トレーニング 最短距離で勝ちパターンが身につく |
[総合評価] S 難易度:★ 〜★★☆ 見開き2問 内容:(質)A(量)A レイアウト:A+ 解答の裏透け:なし (同一見開きに解答) 解説:A 読みやすさ:A+ 入門〜初級向き |
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【著 者】 羽生善治/監修 | ||||
【出版社】 ナツメ社 | ||||
発行:2017年11月 | ISBN:978-4-8163-6337-5 | |||
定価:1,026円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
・【コラム】羽生流 将棋の心得 (1)負けた将棋のなかに強くなるヒントがある (2)心を落ち着かせて実力を出し切ろう (3)勝っても負けてもカッコよく (4)長く集中できれば上達につながる |
【レビュー】 |
初級向けの易しい詰みと必至の形をマスターする本。 初心者同士の対局を見ていると、お互いに駒を溜めこんでいて、延々と終わらないときがある。 原因の一つは、詰みの形をあまり知らないことだ。詰みの概念に乏しいため、偶然(?)発生した1手詰め(または単純な並べ詰み)でないと終局しないのである。他には、「縛る」という概念がないため、王手で何枚も駒を投入して逃げられてしまうことも多い。 逆に言えば、易しくてもいいから、詰みや縛りをマスターすれば、すぐに初心レベルから初級・中級へ上がれるということでもある。 本書は、初心者でも1分以内で解ける(理解できる)ような、易しい詰みと必至を繰り返し練習することで、初心者の棋力の大幅アップを図る本である。 本書の特長を列挙してみよう。 〔Good Point〕 ・2色刷り → 赤黒の2色。グラデーションも駆使してあって、全体的に見やすい。 ・すべてルビ付き → 小学生でもOK。難しい言葉もなるべく使わないようにしてある。 ・参照ページの表示あり → どこを見れば詳しく書いてあるかが分かる。 ・盤面の駒は駒形を採用(漢字だけではない) →本書の場合は見やすい。(※駒形は、他書ではかえって見づらい場合もある) ・「上達のポイント」「ワンポイントアドバイス」で、羽生のアドバイスがある →本編に関連した追加アドバイスがある。 ・マンガ・図解が豊富 →各章の冒頭に、見開き2枚で、羽生と初心者の寸劇(?)マンガがあり、良いアクセントになっている。図解も充実していて、1手詰めでも失敗例もたくさん載せている。 ・初心者が誤解しやすいルール、手筋の解説が丁寧 →「成る」、「駒の取り合い」、「打って守る」、「棋譜の読み方」など、初心者が特に誤解したりおろそかにしがちなところを丁寧に解説している。特に棋譜の読み方は、「▲5八金右」や「▲3三角行成」など、特殊バージョンも分かりやすい。 ・問題の答は、すべて同一見開き内に載っているレイアウトを採用 →初心者は頭の中に盤面がないので、一般的な「ページをめくってから解答」というレイアウトだとすごく読みづらい。本書では、問題図を見ながら解答を見ることができる。 〔Bad Point〕 特になし! あえて、あえて言うなら、「ルールから覚える入門者・初心者が、本当にこの一冊で、1手必至を理解できるところまでいけるのか?」という懸念はある。この辺は、自分が有段者である以上は、体感できないので何とも言えない。 〔スクリーンショット〕 各章の内容を見ていこう。 第1章に入る前に、「将棋の基本」として、将棋のルールや用語の説明がある。ルールをマスターしている人は、ここは飛ばして良い。もちろん、少しでも自信のない人は目を通しておこう。 説明されているルール・用語は以下の通り。 駒の並べ方、駒の動き方、利き、成る、取る、打つ、詰み・王手・詰めろ・必至、棋譜の読み方、反則、入玉 第1章は、「詰み」。各駒の詰み形を知ろう。 例題では、頭金、一間龍、開き王手、大駒の離し打ち、吊るし桂、突き歩詰めetc.など、基本の1手詰〜3手詰。ここで「詰み」というものがなんとなく分かってくる。失敗例の図解も豊富。 「初級」では、1手詰と3手詰をセットで出題。上段の1手詰の形になるように考えれば、下段の3手詰も解ける仕組み(「将棋3手詰入門ドリル』(椎名龍一,池田書店,2008)などで採用された3手詰入門の良パターン)。一部に5手〜7手まで考えさせるものもあるが、直前の問題が頭に入っていれば解けるはず。 「中級」では、1手詰〜5手詰がランダムに出題される。セット問題ではなくなるのでやや難易度はup。分からなければ答を見てもOK。形を覚えることの方が大事である。 5手といってもほぼ基本手筋なので、全問クリアできるようになるまでは何度も取り組もう。 第2章は、「必至」。次に必ず詰む状態のこと。少し棋力が上がれば、運良く詰みがあるということはなくなっていくので、「詰めろ」(放置すれば次に詰む)から「必至」を目指すことになる。 必至は初心者には少し難しく、1手必至をほぼ完璧に解けるなら初段クラスといってもよいと思う。よって、初心者向けの本で必至を教えるのは非常に珍しいが、これをクリアすることでグッと棋力が上がるはず。 本章で扱う必至は、基本的には1手必至。ごく一部に、「決め手は1手だが厳密には3手必至」のものもある(p170問題18など)。次に易しい1手詰〜3手詰というものがほとんどなので、そんなに構えなくても良い。 必至と詰将棋の関係について、「詰将棋の問題図」=「必死の解答図」という概念を言語化したのは◎。 例題では、上から押さえる、挟撃、腹銀、一間龍、受け場なし、両王手、数の攻めなど、必至の基本パターンを網羅している。 初級問題では、第1章の「詰み」で見てきたパターンに収束させるものが多い。また、第2章の例題と似たものも多い。初見では難しくても、これまで順を追って見てきているはずなので、あきらめずに考えてみよう。 中級問題もオール1手必至。パターンはいろいろ変わるが、基本的にはこれまで見たことのある筋なので、さほど難しくはなっていないはず。分からない場合は、素直に解答を見て理解し、後日リトライしてみよう。 第3章は「寄せ」。「詰みがあれば詰ます、なければ必至をかける」という、『寄せの手筋168』(金子タカシ,塚田泰明監修,高橋書店,1988)などで採用された、棋力を磨くための良パターンをここでも採用してきた。詰みは駒余りOK(通常「詰将棋」では駒余りのある出題は不可とされる)。玉方の持駒の有無にも注意しよう(ヒントに書いてあるのでまず見落とすことはないが)。 全32問中、詰みは16問、必至も16問。見開き2問ずつだが、詰みと必至のセットとは限らず、どちらも詰み/どちらも必至の場合もあるので、先入観なしで問題を見つめよう。 詰み問題の内訳は、3手詰=8問、5手詰=8問。必至問題は、1手必至=15問、3手必至=1問。ここが難しく感じる人は、もう一度、第2章or第3章を取り組み直そう。 本書をコンプリートしたとき、あなたの棋力が間違いなく上がっていることを保証します。(2017Nov18) |