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■矢倉の急所 【4六銀・3七桂型】

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矢倉の急所 【4六銀・3七桂型】
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最強将棋21
矢倉の急所 【4六銀・3七桂型】
[総合評価] A

難易度:★★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 森内俊之
【出版社】 浅川書房
発行:2008年12月 ISBN:978-4-86137-022-9
定価:1,470円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1章 攻撃術T─基本講義
第2章 反撃術 ─基本講義
第3章 攻撃術U─宮田新手
第4章 攻防術 ─最新講義
第5章 構想術 ─駒組みと作戦

◆内容紹介
本書は、
4六銀・3七桂型にテーマをしぼった矢倉の定跡書です。この戦法の出始めから、宮田新手を経て、今日の最新形に至るまでの流れを、一気に、コンパクトにまとめました。抜群のキレ味をお楽しみください。
本書が目指したのは、これまでの定跡の流れを、きちんと整理して読者に提示することです。したがって単なる「指し手のカタログ」にはならず、「哲学のある矢倉本」になりました。著者の森内九段の考え方をじっくり味わってください。


【レビュー】
矢倉▲4六銀-3七桂戦法の定跡書。

本書は、『矢倉3七銀分析【上】』(森内俊之,MYCOM,1999)の続編という位置づけ、ではある。しかし、徹底的な変化の網羅と真理追求のような研究で埋め尽くされた前著とは違い、本書はどちらかといえば「講座」である。▲4六銀-3七桂型の歴史を追いながら、書名のとおり「急所」の部分だけをカバーし、難しいとされる矢倉戦法を分かりやすく解説している。

1.矢倉▲3七銀基本図2.▲4六銀-3七桂型の一例

「分かりやすく解説している」とはいっても、有段者レベルの知識は必要だ。上左図は前著のテーマ図から△6四角が指されたところ。そして互いに玉を入城させて組み合った一例が上右図。後手の構えは他にもあるが、少なくとも上右図くらいまでは何も見ずに組み上げることができるくらいの棋力は必要だと思う。実際、本書では右上図に至るまでの解説はわずかしかない。

各章の内容は、目次だけでは分かりにくいので図面を使って説明しよう。
第1章基本図
【第1章・攻撃術I−基本講義】
・4六銀・3七桂型とは?
(1)基本の仕掛け
(2)手筋の突き返し
(3)角筋を止めない受け
(4)すぐの反発
(5)先手穴熊へ
(6)完全穴熊からの攻め


第1章の基本図は左図。ここから▲2五桂△9五歩▲5五歩△同歩▲1五歩△同歩▲3五歩と桂跳ね+3歩突き捨てで攻めるのが基本。▲4六銀-3七桂の比較的初期に現れた順で、(1)〜(3)でこの仕掛けの強力さを解説していく。
→しかし▲2五桂にすぐ△4五歩と反発すると後手良しになることが分かった(4で解説。大事な手順)。
→そこで先手は穴熊に潜って玉を堅くすることで、少々無理な仕掛けでも通そうとした(5,6)。
→「簡単に穴熊に組ませては後手がまずい」これが現代の▲4六銀-3七桂の基本の考え方となる。

第2章基本図(森内流)
【第2章・反撃術−基本講義】
・新しいフォーメーション
(7)すぐの仕掛けはどうか
(8)間合いを計る▲9八香
(9)▲5七角の狙い
(10)固めて待つ△4二銀
(11)クリンチ第二弾
(12)さらに力をためる
(13)▲5七角に△8五歩


第2章基本図は左図で、「森内流」と呼ばれる形(※本書では森内流という名前は使われていない)。『現代矢倉の思想』(森下卓,河出書房新社,1999)では「21世紀の主役」とされた。『思想』p160から森内流の意義を抜粋すると、
 ・先手が穴熊を目指すならそれにアヤをつける。
 ・先手が棒銀に出れば中央から動く。
 ・受けの理想形であれ、攻めの理想形であれ、一方的に先手の理想形を許さない。
 ∴強い反発力を武器に、きわどいバランスを保ち続ける。


△8四歩保留+△9五歩突き越しが大きな特徴で、△9三桂〜△8五桂の跳ね出しが利く。特に先手が左図から穴熊を目指せば、△9三桂〜△8五桂〜△9七桂成▲同銀△8五歩で、先手が動けば強力なカウンターが生じる。つまり、先手は穴熊に頼らず仕掛けを模索することになった。半面、この形は玉頭への直接の脅威が薄いのと、7三角が浮きやすいという欠点もある。

第2章では、左図からのさまざまな仕掛けの検討と、有力視される▲5七角型の検討をしていく。結論としては「『先手よし』の線は見つからず、一局の将棋にしかできない時期が続いた」(p73)。

第3章・宮田新手
【第3章・攻撃術II−宮田新手】
・宮田新手とは何か
(14)▲5五歩の仕掛け
(15)仕掛けの考え方
(16)飛車の封じ込め
(17)歩の連打
(18)じっと垂れ歩
(19)飛車まわりを拒否
(20)▲6四歩△同歩の研究
(21)銀冠作戦
(22)宮田新手に△3三桂


第3章のメインは左図の宮田新手▲6五歩。プロでの初登場は2002年5月。森内をもって「なんだこれは!」(p76)と言わしめた新発想である。そして2000年代の矢倉を語る上で最重要な手である。

 ・▲6六角や▲6四歩の筋が増えている。
 ・△6四歩▲同歩△同銀の反発は、▲2五桂で先手良し。後手は反撃の形になっていない。
 ・△6四歩▲同歩△同角の反発は、(1)▲6六銀から押さえ込んでも、(2)▲5五歩から3歩突き捨てで仕掛けても先手良し。
 ・△9三桂には▲6六銀。▲6五歩型の効果。
 →後手は仕方なく△8五歩。そして▲2五桂△4二銀。「先手の攻撃力は大きく増し、後手は4五歩の反撃が難しくなった」(p81)。


第3章は宮田新手に対する攻防を詳しく解説。宮田新手がよく分からなかった人も、きっと理解できるだろう。

なお、宮田新手は△森内流専用である。△8五歩型に▲6五歩とすると、△6四歩▲同歩△同角で、玉頭の歩が伸びているので直撃される。

第4章・復活する第1章基本図
【第4章・攻防術−最新講義】
・復活する基本図
(23)穴熊をめぐる駆け引き
(24)桂をはずす受け
(25)△5三桂の筋
(26)▲9八香に△6四角
(27)端攻め問題
(28)▲9六歩の待機策
(29)銀を引かせる
(30)▲2五歩の戦い


森内流に対して宮田新手が強力なので、第1章の△8五歩型の見直しが始まった。とはいえ、第1章で見たように穴熊対策は必須。「この章ではかなり新しい指し方を調べていく」(p126)とのことなので、未解決なテーマ図がほとんどである。

1.矢倉▲3七銀基本図
【第5章・構想術−駒組みと作戦】
・基本図までの諸問題
(31)いきなり▲5七角
(32)6筋からの動き
(33)後手棒銀
(34)早い端歩
(35)入城せずに▲4六銀
(36)入城を待って端攻め
(37)早い▲4六銀
(38)4六銀・3七桂型を拒否
(39)四手角を作る
(40)早めの△3三桂


第1章〜第4章では左図から「互いに玉を入城する→先手は4六銀・3七桂型を作る→後手は反撃の構えを取る」という流れで、第1章基本図や第2章基本図などに至っていたが、そこに至る手順も必ずしもマストではないかもしれない。というわけで、第5章では以下の諸問題を検討する。
 ・左図からいきなり▲5七角は?(△4五歩の反発には強い、▲2五桂と跳ねやすい)
 ・後手が入城せずに動く可能性は?
 ・4六銀・3七桂型を阻止できないか?


つまり、本書を読むことで「△8五歩型での▲穴熊の優秀性→森内流で穴熊対策→宮田新手が森内流対策に→再び△8五歩型」というサイクルを理解できる。もちろん、ただグルグル回っているだけでなく、現在は10年前に比べて螺旋階段の一段上にいる状態だ。

前著の『矢倉3七銀分析【上】』と比べると、網羅的ではなくなった。しかし森内の見解は本書でもしっかり述べられている(わたしは確認していないが、『現代矢倉の思想』と同一局面で見解の異なる箇所もあるらしい)。また、内容が本筋に絞られただけでなく、4六銀・3七桂の根底に流れる思想や、戦い方のコツ・狙いなどが非常に分かりやすく言語化されている。矢倉を指す人にとっては、間違いなく必読の一冊である。「新・現代矢倉の思想」といってもよいのではないだろうか。

ただし、基本図に至るまでの急戦などにはほとんど触れられていないので、さすがに本書だけで矢倉を指しこなすのは無理。(2009May24)

※浅川書房の本は、最近誤字脱字が散見されたが、本書では見つからなかった。最初は編集のせいかと思っていたが、渡辺明ブログによれば、筆者が自分で校正するらしい。さすがは森内。


【他の方のレビュー】(外部リンク)
Amazon.co.jp: カスタマーレビュー
せんすぶろぐ
ビーケーワン
すこっとのブログ




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[著者] 
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[発行年] 
2008年

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