2.6KB

<< 直前のページへ戻る
 

■斎藤慎太郎の 角換わり腰掛け銀研究

< | No.1256 | >

トップページ > 棋書ミシュラン! > 斎藤慎太郎の 角換わり腰掛け銀研究
斎藤慎太郎の 角換わり腰掛け銀研究
zoom
斎藤慎太郎の 角換わり腰掛け銀研究 総合評価]
S

難易度:★★★★★

図面:見開き6枚
内容:(質)A(量)S
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:B
(棋譜入力ソフト推奨)
高段者向き

この本をAmazonで見る

【著 者】 斎藤慎太郎
【出版社】 マイナビ出版
発行:2020年3月 ISBN:978-4-8399-7224-0
定価:2,464円(10%税込) 384ページ/19cm


【本の内容】
テーマ1 ▲5八金型vs△6二金型 28p
テーマ2 ▲6八玉・6六歩vs△3一玉型 10p
テーマ3 ▲6八玉・6六歩vs△6五歩 12p
テーマ4-1 △5二玉〜△4二玉型vs▲8八玉型 38p
テーマ4-2 △5二玉〜△4二玉型vs▲4五桂 20p
テーマ5 △5二玉・6三銀型 26p
テーマ6-1 △7二金〜△6二金型vs▲6六歩型 12p
テーマ6-2 △7二金〜△6二金型vs▲5六銀型 28p
テーマ7 端歩問題 46p
テーマ8 後手6筋位取り 24p
テーマ9 ▲5六銀-△4四歩 72p
テーマ10 後手△5二金型 24p
テーマ11 ▲4五桂早仕掛け 14p
テーマ12 ▲2六歩型の歴史と模索 23p

・【コラム】(1)勝負好き (2)スポーツについて (3)念願の遠征先 (4)対局と運 (5)人前で話すこと

◆内容紹介
現在プロアマ問わず大流行が続いている角換わり。

本書は角換わりの花形といえる「角換わり腰掛け銀」に特化して、プロ間でも随一の研究家と知られる斎藤慎太郎七段が、その研究を余すところなく披露したものです。

その分量は驚きの384ページ。

▲4八金・2九飛型が現れてから、爆発的にその可能性が広がった角換わり腰掛け銀。それによって生み出された頻出局面を12のテーマに分け、そこからの指し手を徹底的に解説しています。

角換わり腰掛け銀は、これを読めば勝ちです。


【レビュー】
角換わり相腰掛け銀の最前線を解説した本。

相居飛車の四大戦型は、矢倉・角換わり・相掛かり・横歩取りであるが、他の戦型の事情もあって、現在は角換わりが主流になっている。△6二金-△8一飛型(▲4八金-▲2九飛型)のバランスの良さが認識されたこともあり、この数年間で角換わりは大きな進化を遂げた。

本書は、角換わりの最新テーマとなっている局面を12に分け(正確には14)、それぞれプロの実戦例と斎藤の研究を交えながら解明していく本である。

各テーマの内容を、チャートを添えながら紹介していこう。




テーマ1は、「▲5八金vs△6二金型」
。 近年流行している△6二金-△8一飛型が流行している理由を解説していく。

△6二金型は、昭和前期の角換わり流行期にも指されていたが、2016年2月に△4二玉型で△6五歩と仕掛ける形が登場したことで評価が高まり、流行につながっている。完全に結論が出たわけではないが、▲5八金型で△6二金型を攻略するのは難しいのではないか、と考えられているようだ。




テーマ2は、「▲6八玉・6六歩vs△3一玉型」。ここからは、基本的に「▲4八金-▲2九飛型vs△6二金-△8一飛型」と双方がバランス型の下段飛車に構える将棋で、他の箇所の違いを見ていく。

▲6六歩は、争点を与えるものの、△6五桂跳ねを防いで自然な一手。対して△3一玉も玉を囲う常識的な一手であるが、▲6八玉型のまま仕掛けられると、△3一玉が疑問手となる可能性が高まっている。




テーマ3は、「▲6八玉・6六歩vs△6五歩」。テーマ2で△3一玉の価値が高くないと分かったので、後手が△4二玉型で戦う形を模索する。先手が▲6六歩と突いて6筋に争点ができているので、△6五歩から仕掛けてみる。

戦場に近くて危なそうな▲6八玉型が、実は△7五歩の攻めには受けやすかったのが新しい発見。また、開戦後に▲5八玉と寄る変化が出てきたのも新型角換わりの特徴の一つ。この△6五歩の仕掛けは、先手がまずまずと見られているようで、後手の主流にはなっていない。




テーマ4−1は、「△5二玉〜△4二玉型vs▲8八玉型」。テーマ2の△3一玉や、テーマ3の△6五歩は、あまり後手が思わしくないということで、後手が△5二玉〜△4二玉と一人千日手状態で待つ。2019年夏から非常によく指された形。

先手は▲8八玉と入城するか、▲4五桂と仕掛けるか。(※4筋の争点がないので、▲4五歩の仕掛けはない)

本テーマの▲8八玉は、先手玉が入城して堅くなったようだが、後手の仕掛けに対して当たりが強まっているともいえる。また、将来の△6六角が王手になる筋がある。

斎藤の印象では、△6五歩の仕掛けは先手が悪くならないが、すべて先手良しとまでは言い切れない。ただし、後手を持って戦い切るのも大変。




テーマ4−2は、「△5二玉〜△4二玉型vs▲4五桂」。後手の玉往復・2手損作戦に対して、▲7九玉型で▲4五桂と仕掛けていく。後手が守勢に回り、怖い変化が多いが、先手の攻めがやや細く、後手が少し駒得で頑張れる可能性がある半面、斎藤は先手が実戦的にやれるのではないかとみている。

総合的には、テーマ4の「玉往復・2手損作戦」は先手が少し押し気味のようだ。




テーマ5は、「△5二玉・6三銀型」。後手の待機作戦の一つ。テーマ4では、△5二玉〜△4二玉と玉の往復で後手が待機して仕掛けのタイミングを計っていたが、本テーマでは△5二玉〜△6三銀〜△4二玉と銀をバックして完全な待機戦術を採用する。千日手狙いなので、好まない棋士もいるが、斎藤は「まだまだ有力」「今後も指されていく」(p140)と見ている。

先手からの仕掛けは▲4五桂のみ。どのタイミングで決行するか。




テーマ6-1は、「△7二金〜△6二金型vs▲6六歩型」。テーマ6は、後手が△7二金〜△6二金と「一手ずらし」で間合いを計る。△7二金のタイミングなら、△6一飛と回る筋もあって、単なる待機戦術ではない。

本テーマでは、先手が▲6六歩と突く形を扱う。△6五桂跳ねを防いで自然ではあるが、「△7二金に対して▲6六歩と突く将棋は、後手が6筋を争点にすることができるので、(後手から)いろいろな手段が考えられそう」(p151)とあり、先手にとってややリスクがある戦いになる。




テーマ6-2は、「△7二金〜△6二金型vs▲5六銀型」。先のテーマ6-1で後手の動きを警戒する場合、本テーマのように▲5六銀を優先する。△6二金で右四間飛車がなくなったのを見てから▲6六歩と突く。以下、後手は△5二玉〜△4二玉と往復し、先手は▲8八玉と入城する。2018年の夏から大流行した。

先手は、▲4五桂から仕掛けるか、▲4五歩と位を取って▲4六角と自陣角を設置するか、▲6七銀と引いて銀矢倉で戦うか。「後手も十分戦える戦術の一つ」(p180)と見られている。




テーマ7は、「端歩問題」

角換わり腰掛け銀では通常、両端の突き合いが入ることが多いが、後手は△9四歩(または△1四歩)を省略して攻勢が取れないか、というのは(旧同型角換わりも含めて)長年のテーマである。

本テーマでは、後手が△9四歩を省略した時に、▲9五歩と端の位を取るか、誘いに乗らずに▲3七桂と指すか。▲9五歩は後手の先攻を許すが、終盤戦で位が生きる展開も多くて、難解。▲3七桂は、「最もよい時期に▲9五歩を突こうという意図」(p212)だが、先手の動きによっては△9四歩と通常形に戻されることもありうる。




テーマ8は、「後手6筋位取り」。▲6六歩と突かれる前に△6五歩と位を取って、△6四角を設置して先手の攻めを牽制する狙い。先手は、後手の方が安定する前に仕掛けを狙う。(逆にいえば、後手は先手に「やってこい」と言っている)




テーマ9は、「▲5六銀-△4四歩」。△4四歩は、▲4五桂を防いで自然な一手であるが、4筋に争点ができるので▲4五歩の仕掛けが発生する。

現在は、後手が△4四歩を保留するのが主流になっているが、本テーマの形は結論が変遷しており、後手がこの形で戦えると考える棋士が増えれば、再びメインストリームに乗ってくる可能性もある。




テーマ10は、「後手△5二金型」。後手が、有力視されている△6二金-△8一飛型を目指さず、従来の△5二金型で対抗する将棋。

ここから△7三桂は、△4四歩を突いていないのが好都合とする指し方。△4四歩は、争点ができるのでいきなり仕掛けられてしまう(本テーマではp335に3行ほど触れられているだけ)。△6三金は手堅く待つ指し方。

斎藤の見解は「△6三金型は有力な手段ですが、▲4五桂への対抗策が出るかが復活のカギ」(p346)。




テーマ11は、「▲4五桂早仕掛け」。先手が陣形整備を最小限にして、「▲4八銀+居玉+▲7八金省略で、▲3五歩〜▲4五桂の仕掛け」がテーマ。『神速!角換わり▲2五歩型 必勝ガイド』(長岡裕也,マイナビ出版,2018-18)に詳しく解説されている。この仕掛けを警戒するため、後手の駒組みの手順はやや制限がかかっている。




テーマ12は、「▲2六歩型の歴史と模索」。▲2六歩型は、▲2五桂と跳ねる余地があるため、先手としては本来▲2五歩を保留しておきたいところ。

現在▲2五歩型の方が主流になっている理由は、(1)角換わり拒否の雁木に対抗するため、(2)△6二金型に対して▲2六歩型の優位性がハッキリできていない、(3)▲2五歩型の仕掛けが進化した、などが挙げられる。最近新しい工夫が出てきたとのこと。




【総評】
まさか、わずか4ヶ月の間に、角換わり腰掛け銀の重量級(350p超)の本が2冊も出るとは思わなかった。(もう一冊は『現代角換わりのすべて』(池永天志,2019-12)で、レビュー済み)

どちらもほぼ同じテーマを扱っており、甲乙はつけがたい。敢えて言えば、池永本は新進気鋭の若手の研究で、本書はタイトル経験者でこの春からA級のトップ棋士の研究、ということになるのだが、この戦型に精通したいのであれば2冊とも読むしかないだろう。

差がある部分は、本文レイアウト。本書では、オーソドックスな「[棋譜]+[解説]+[図面(見開き4枚)]」ではなく、「[散文形式の本文内で全て解説]+[図面(見開き6枚)]」という独特なスタイルを採用している。本筋となる進行は太字で強調されており、棋譜入力ソフトで並べながら読むならむしろ読みやすく感じたが、本だけを頼りに読むとなると非常に読みづらい(というか分岐を追いづらい)かもしれない。特に、分岐の記号は「(1)(2)…」「@A…」「(A)(B)…」「(a)(b)…」「(イ)(ロ)…」など様々な記号が使われているが、階層によって使う記号が統一されている訳ではないので(※同様に分岐が多かった東大将棋ブックスシリーズでは階層によって統一されていた)、分岐を戻るのが大変。

よって、棋譜入力ソフトがない方は、弊サイトのチャートを片手に読むことを推奨します。

個人的には、これまで棋譜中継で多くの角換わり腰掛け銀の実戦例を見てきて、この2冊を読み通したことで、いろいろな攻め筋・受け筋を目に焼き付けることができ、(マスターしたとは全く思わないものの)戦型の理解が進んで、自分でもこの戦型を指すようになった。我々クラスなら、定跡の知識よりも戦型の理解度の方が重要だと思えたし、何よりも、「この形なら後手を持ってもイヤじゃない」(一方的に攻められても相手も細い攻めで大変なんだとか、受けて駒を貯めて反撃するとか)というのが大きかったと思う。


最後に出版社の方が見ていましたら、一点お願いを。他のマイナビ将棋BOOKSと同様の四六版サイズで350p超の本を出す場合、紙を少し柔らかいものを採用するか、綴じ代に柔軟性を持たせていただきたいです。222pの本ならさほど気にならないのですが、本書のようなページ数ではシッカリしているのがアダで、開いておくと勝手に閉じてしまいます。重りを載せておいても、重りを弾き飛ばして閉じます。片手で本を押さえながら、もう一方の手で棋譜ソフトを動かしたり、盤駒を動かすのは大変でした。

(2020Apr15)



※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p7 ×「テーマ1図までの指し手」 ○「第1図までの指し手」
p11下段 ×「先手が不満のないな進行」 ○「先手が不満のない進行」
p73上段 ×「18年9月25、26日の王位戦第7局…」 ○「19年9月25、26日の王位戦第7局…」
p165上段 ×「第5図の△4四銀…」 ○「第4図の△4四銀…」
p187上段 ×「△6五角が飛車取りなってしまうので」 ○「△6五角が飛車取りになってしまうので」
p205上段 ×「▲3八金は単なる一手ずらしはなく」 ○「▲3八金は単なる一手ずらしではなく
p224上段 ×「短調になりやすく」 ○「単調になりやすく」

※その他、(イ)(ロ)(ハ)などの連番の間違いがいくつかありましたが、上記チャートでは原文ママで記しています。



【関連書籍】

[ジャンル] 角換わり
[シリーズ] 
[著者] 斎藤慎太郎
[発行年] 2020年

< | >

トップページ > 棋書ミシュラン! > 斎藤慎太郎の 角換わり腰掛け銀研究


Copyright(C) 1999-2024 【将棋 棋書ミシュラン!】 All Right Reserved