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■必勝 三間飛車破り

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必勝 三間飛車破り
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マイナビ将棋BOOKS
必勝 三間飛車破り
[総合評価] B

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)B+
レイアウト:A
解説:B+
読みやすさ:B+
上級〜有段向き

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【著 者】 畠山鎮
【出版社】 マイナビ出版
発行:2019年1月 ISBN:978-4-8399-6813-7
定価:1,663円(8%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
  プロローグ   12p
第1章 居飛車穴熊VS三間飛車石田流 居飛車穴熊VS三間飛車石田流 22p
第2章 居飛車穴熊VSコーヤン流三間飛車 第1節 居飛車穴熊VS後手コーヤン流
第2節 居飛車穴熊VS先手コーヤン流
26p
第3章 居飛車穴熊VS△5四歩型三間飛車 第1節 三間飛車穴熊
第2節 △5三銀型美濃囲い
24p
第4章 居飛車穴熊VS▲5六銀型三間飛車 第1節 ▲2八玉型
第2節 ▲1六歩型
24p
第5章 エルモ囲い急戦 第1節 △5三銀右型
第2節 △5三銀右保留型
65p
第6章 実戦編 第1局 本間博五段戦
第2局 神吉宏充六段戦
第3局 野月浩貴七段戦
第4局 野月浩貴七段戦
54p

・【コラム】(1)棋士の日常 (2)イベント事情 (3)遠征

◆内容紹介
「三間飛車には5筋を突かずに居飛車穴熊」。数年前まではこの呪文さえ知っていれば三間飛車に勝つことができました。少なくとも作戦負けになることはなかったと思います。

しかし、時代は変わりました。トマホークが登場したからです。この画期的な作戦によって、5筋を突かない居飛車穴熊は壊滅に追い込まれました。

そうなると今度は居飛車側が考える番です。

5筋を突く居飛車穴熊で戦うことになったため、これまで封印されていた三間飛車の様々な戦法が復活し、現在三間飛車はプロ間でも振り飛車の主力戦法になりつつあります。

そして、日々三間飛車への対策に悩まされている方も多いのではないのでしょうか?そこで福音となるのが本書です。

勢いに乗る三間飛車の各戦法、その全てに対して居飛車が有利になるような指し方を提示しています。

石田流、コーヤン流、相穴熊、下町流・・・。居飛車穴熊でこれらをすべて粉砕した後、さらに追い打ちをかけるように現在流行の兆しを見せるelmo囲い急戦も紹介しています。持久戦なら居飛車穴熊、急戦ならelmo囲い。どっちを選ぶかはあなた次第です。

本書を読めば相手が三間飛車にしてきた時点で「もらった」と思えることでしょう。


【レビュー】
ノーマル三間飛車への対策を解説した戦術書。

長らく三間飛車を苦しめていた5筋不突きの一目散穴熊がトマホークの登場によって苦しくなり、さらに三間飛車藤井システムの登場によって、いまノーマル三間飛車が復権している。今度は居飛車側が対策を考える番である。

本書は、ノーマル三間飛車の様々な作戦に対して、居飛穴か、または急戦で対抗する作戦を解説した本となる。従来から指されていた作戦に加え、この1〜2年で登場した新作戦も交えて解説していく。


各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。



プロローグでは、全体の内容をサラッと。

・居飛穴vs石田流(本組) (第1章)
→振り飛車は堅さで劣るが、駒の働きとバランスでカバーしようとしている。△3二金型と△5二金型の両方の対策を提示する。

・居飛穴vsコーヤン流 (第2章)
→コーヤン流は端攻めに特化した駒組み。コーヤン流の端攻めを喰らわないための対策を提示。

・相穴熊 (第3章)
→早めの▲6八角が有力。

・▲5六銀型急戦(下町流) (第4章)
→三間飛車側が▲5六銀から早めに動く。

・elmo囲い急戦
→エルモ囲いをミックスした急戦が2018年後半から指されている。従来の舟囲い急戦と比べて、似た仕掛けでも優劣が変わるものもある。
〔長所〕5筋の当たりが弱い、5筋に飛が回れる、4一に玉が逃げ込める。
〔短所〕上部が薄い、進展性がない。


 

第1章は、「居飛車穴熊vs三間飛車石田流」

・ノーマル三間飛車から石田流本組への組み替え。(3手目▲7五歩からの石田流ではない)
・▲居飛穴は1筋の歩(いわゆる「居飛車の税金」)を省略してみる。しばらく右金は保留して、△3三桂のタイミングで(△1五角がなくなるので)▲2六飛と浮き、それから右金を穴熊に寄せる。

・p29第10図のように、捌き合った後に「振り飛車側からすると桂得なので悪い理屈はないが、トップアマやプロ間では先手の勝率が良いという、不思議な局面」(p29)には注意。この場合は、玉の堅さが大差だったり、振り飛車が歩切れなのが原因だが、あらかじめ知っていれば大局観のズレを修正できる。



第2章は、「居飛車穴熊vsコーヤン流三間飛車」

・コーヤン流は、中田功七段が得意とする作戦。(というか、プロではほとんど中田だけが指している)
 cf.『コーヤン流三間飛車の極意 持久戦編』(2003)
・ノーマル三間飛車で、△7一玉型で駒組みを行う。9筋の突き越しと、△7三桂は早めにする。
・かなり早いタイミングで△8五桂と跳ね、角の睨みを生かした端攻めに特化した戦法。
・藤井聡太流の△5五歩からの仕掛け(2018年1月に登場)が注目されている。一時的に振り飛車の角筋を止めるのが狙いとなる。後手番の方が仕掛けの局面で金銀の連結(△6二銀-△5一金)が良く、上手く行きやすい。

・本書では、先手番での▲5五歩からの仕掛けはあまり上手く行かない旨が書かれているが、プロ公式戦では2019/02/01時点(本書の出版直後)で居飛車の17勝7敗とのこと。ただし、振り飛車を持ったのはすべて中田功。2/1の▲及川拓馬△中田功戦でも現れた。
(※2019Apr18追記: 本書出版から3ヶ月後の2019/04/17▲澤田真吾△中田功(棋王戦予選)で、p49▲6八角の局面から、△8四歩▲7九金寄の交換を入れて△4五歩▲3七桂△4二飛とし、▲5五歩△6二銀?!の新手で後手が快勝しました。)
・居飛車が先手番だと大変ということで、畠山のオススメは銀冠穴熊。端攻めの脅威を緩和することができそうだ。



第3章は、「居飛車穴熊vs△5四歩型三間飛車」
・相穴熊と、△5三銀型美濃囲いとに大きく分かれる。

・相穴熊では、△6四銀型にできるのが△四間飛車穴熊と違うところ。
・先手は早めの▲6八角で後手の駒組みを牽制するのがポイント。

・△5三銀型美濃囲いでは、後手は手厚さと押さえ込みが主張ポイント。
・高美濃+△6四銀の真部流まで組めると振り飛車が指しやすい。
・先手は固め過ぎず、右金を▲4九金のまま▲4六銀と出て、穴熊の堅さではなく遠さを生かした戦いを目指したい。



第4章は、「居飛車穴熊vs▲5六銀型三間飛車」

・先手は△5四歩のタイミングで▲5六銀と上がり、後手を揺さぶる。
・平成中ごろから指され始めたそうだ。

・▲2八玉型は、いわゆる「下町流」。小倉久史七段が得意としている。
 cf.『下町流三間飛車〜居飛穴攻略の新研究』(2006)
・▲5六銀と玉頭銀を見せ、△5五歩に▲4五銀〜▲5八飛〜▲5六歩と動く。

・▲1六歩型は、振り飛車が玉の囲いを▲3八銀〜▲3九玉として、▲5六銀と▲1七桂のミックスで攻めを狙ってくる形。
→トマホークの原型と思われるが、振り飛車が囲い過ぎで、▲1五歩や▲6五歩が遅れている…?
・居飛車は△5五歩の突き出しと△8四飛の形で受ければ戦えそう。

・一応、居飛車の左美濃作戦も最後に少しだけ載っている。▲4五銀には△2三銀と形良く受けられる。



第5章は、「エルモ囲い急戦」

・エルモ囲いは、△3二玉+△4二銀+△3一金の玉型。右金は△5一金〜△4一金右とくっつけるのもあるし、対三間飛車では飛の成り込みを防いで△6一金のまま指すのも多い。
コンピュータソフト「elmo」が多用し始めたことで広まった囲いで、プロでは2018年9月から大橋貴洸四段が連採して注目されるように。
・エルモ囲いの原型は、30年以上前の「対中飛車△6四金戦法」などで見られる。(たとえば『羽生の頭脳 3 急戦、中飛車・三間飛車破り』(1992)にも載っている)
・「おそらくエルモ囲いが書籍化されるのは本書が初めてだろう」(p13)とあるが、少なくとも本書の出版より3か月前に『自由自在!中飛車の新常識』(2018.11)に載っている。「居飛車急戦」としては初めてだと思われる。

・△5三銀右型から、△6五歩〜△7五歩〜△6四銀の仕掛けが有力。エルモ囲いなら、飛を捨てる攻めも可能。
・▲6八銀型三間飛車には、△6四銀からナナメ棒銀が有力。エルモ囲いなら、5筋も絡めやすく、5筋への飛の転回もできる。
・6三の地点が薄い点には注意。

・△5三銀右保留型では、右銀を△6二銀で保留し、より低い陣形での仕掛けを目指す。
・横の堅さ重視。

・従来の舟囲い急戦と似た仕掛けが応用でき、さらに玉の堅さもある程度期待できる。
・まだ振り飛車側の目が慣れていない。
・将棋世界2019年3月号の千田翔太六段の講座では、「穴熊・左美濃・銀冠穴熊(などの堅さ重視の駒組み)を志向するプレイヤーが参入するほどではない」という旨が書かれている。

・わたしの実戦では、対四間飛車も含めてエルモ囲いはまずまずの勝率。天守閣美濃よりは安心感がある。ただし、居飛車側もあまり目が慣れていないせいか、とんでもないウッカリもときどきやらかしている(汗)。
・本書では、振り飛車の右辺の待ち方が「▲4六歩〜▲3六歩」か「▲4六歩〜▲4七金〜▲3六歩」と限定されているが、個人的にはエルモ囲い全般に対しては「▲4六歩〜▲4五歩(3筋は保留)」とすべきかな、と思う。エルモ囲い側から見ると、右桂を活用されるよりも、6六の地点をツツかれる方が急所を衝かれている感じがしている。
・また、本書出版直後の▲西川和宏△石田直裕戦(2019/2/8、順位戦C2)では、後手のエルモ囲い+△6四銀に対して、先手は右辺の歩を保留して▲5七銀〜▲6七金と構えた。



第6章は「実戦編」

・畠山の実戦4局。
(1)▲本間博五段△畠山鎮六段、2000.02.14、棋王戦、▲三間飛車△居飛車穴熊
(2)▲畠山鎮六段△神吉宏充六段、2000.05.09、棋王戦、△三間飛車▲居飛車穴熊
(3)▲畠山鎮七段△野月浩貴七段、2006.06.30、順位戦B1、△三間飛車▲居飛車穴熊
(4)▲畠山鎮七段△中田功七段、2012.04.20、王将戦、△三間飛車コーヤン流▲居飛車穴熊

・うち3局は、居飛穴vs石田流本組。第1章では「居飛車の税金」▲1六歩を省略する指し方が解説されていたが、本章の3局はすべて税金を払っている。また、すべて5筋不突きの居飛穴。
・第1章を反映した実戦はないが、居飛穴での中終盤の指し方は参考になる。
・4局目の対コーヤン流は、▲6六歩と角道を止めて、後手の角筋の直射を防ぐ駒組み。講座編にはなかった。それでもコーヤンは固め合いではなく、後の端攻めを考慮した駒組みにした。


〔総評〕
書名に「必勝」と銘打っていても、居飛車のありがちな失敗例(振り飛車の成功例)も示したうえで、居飛車の有力な指し方を提示している点は◎。

また、対コーヤン流の藤井聡新手を先後で検討している(第2章)ことや、流行し始めのエルモ囲い急戦に多くの解説を割いている(第5章)点も◎である。

ただし、内容紹介に「時代は変わりました。トマホークが登場したからです。この画期的な作戦によって、5筋を突かない居飛車穴熊は壊滅に追い込まれました。」とあるのに、トマホークの解説はほぼなく、5筋不突きの居飛穴を多く紹介している(第1章の解説と、第6章の実戦)のは疑問を感じた。少なくとも、「トマホークで5筋不突きはダメになったが、他に○○といった作戦が有力で、対三間飛車では十分に戦える」というテイで構成してほしかったところ。

最近の三間飛車の本は、石田流とノーマル三間側の立場で書かれたものが多かったので、最新と古いものが混在しているとはいえ、居飛車寄りで書かれた本書は貴重な一冊ではある。


※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p93 ×「△6四銀をして」 ○「△6四銀として」
p121 「▲7八銀は△7六歩だし…」とあるが、後手の持ち歩はなく、△7六歩とは打てない。(三十三間党さんthx!)
p136上段 ×「第10図以下の指し手B」 ○「第10図以下の指し手C
p165上段 ×「第47図以下の指し手A」 ○「第48図以下の指し手A」
p167上段 ×「第47図以下の指し手B」 ○「第48図以下の指し手B」
p196下段 ×「評価が分かるところ」 ○「評価が分かれるところ」
p214上段 棋譜が1手飛んでいる。×「△9一香 ▲6二銀 ▲7三銀成」 ○「△9一香 ▲6二銀 △9四香 ▲7三銀成」



【関連書籍】

[ジャンル] 三間飛車
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 畠山鎮
[発行年] 2019年

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