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■杉本流相振りのセンス

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杉本流相振りのセンス
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杉本流相振りのセンス [総合評価] A

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 杉本昌隆
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売
発行:2013年11月 ISBN:978-4-8399-4912-9
定価:1,659円(5%税込) 256ページ/19cm


【本の内容】
序章 最新相振り飛車の考え方   8p
第1章 現代の相三間 第1節 現代の三間飛車
第2節 美濃の強敵・阿部流
46p
第2章 相三間・先手浮き飛車型   34p
第3章 後手△4四角型向かい飛車   38p
第4章 先手中飛車 第1節 先手中飛車の現状
第2節 先手中飛車対後手三間
34p
第5章 角道オープン四間対策△2四歩   30p
第6章 その他の相振り最新研究 第1節 ▲3九銀型金無双対後手美濃
第2節 先手中飛車・速攻銀交換
第3節 相三間・序盤▲3八銀の是非
第4節 △3五歩保留三間
58p

・【コラム】(1)本のタイトル (2)非常勤理事 (3)弟子との研究

◆内容紹介
これで相振りは指せる!!!

著者であり、相振りのスペシャリスト、杉本七段は言っています。

「角筋を止めない振り飛車が大流行している。3手目▲7五歩の三間飛車や初手▲5六歩の中飛車、または角道オープン四間飛車など全てそうだ。必然的に相振り飛車戦も角交換型が増加。結果、今まででは見られなかった出だしの相振り戦も多くなっている」(まえがきより)

相居飛車と違い、相振り飛車には中飛車、三間飛車、四間飛車、向かい飛車といったバリエーションがあり、さらに相手の振る位置も同じだけあるため、その組み合わせは多岐にわたります。しかも最近大流行の角道を止めないタイプの振り飛車の出現によって相振り飛車の戦場は複雑さを極めています。

ではどうすればいいか?

杉本七段の解答はこうです。

「定跡から外れても、乱戦になっても『相振り感覚』があれば、道に迷わない。」(同上)

どんな形にも共通する
相振りの感覚=センスというものがあり、それらを知っていれば未知の局面でも十分対応できるのです。
そして、その相振りのセンスを記したものこそが本書です。

代表的な形の定跡手順を解説しつつ、まとめ部分で登場する
32の相振りのセンスをすべて体得してください。そうすれば相振り飛車という大海原に放り出されても勝利という名の目的地に必ずたどり着けるはずです。


【レビュー】
相振飛車の解説書。「相振り革命」シリーズの8作目。

「もはやなんでもあり」と銘打たれたのがシリーズ4作目の『相振り革命最先端』(2008.06)。相振りはさらに進化が進んでいる。

囲いは美濃・矢倉・穴熊・金無双の4バージョンと言われていたところに金美濃・カニ囲いが加わった。また、「とにかく美濃」の風潮に対し、美濃を狙い撃つ作戦も登場し、それを警戒して結局金無双に落ち着くこともある。ただし、昔と違うのは、「隙あらば自分だけ強い囲いに組む」ということで、駒組みからギリギリのまで突っ張っていることが多くなった。

また、飛車を振る位置は現在も石田流三間飛車が主流だが、先手中飛車や角道オープン四間飛車がかなり増えている。特に▲中飛車は、「左穴熊」が選択肢として増えたことで流行している。(※本書では左穴熊は少し触れているのみ)

本書は、相振飛車の最新戦型について、考え方を中心に解説した本である。



これまでのシリーズにない工夫としては、「相振りのセンス」がある。これは、相振飛車独特の感覚が要求される局面については、項の表題に「相振りのセンス20(完成したら動く)」のように書かれているというもの。ただし、全てが格言風になっているわけではなく、「センス」だけを拾い読みしていってもあまり理解は深まらない。「センス」と書かれているところは特に注意深く読む、というくらいに考えるのが良い。

また、本文のところどころが太字で強調されているが、これも「センス」と同様で、太字で書かれていたら少しゆっくり目に読むくらいがいいだろう。太字部に蛍光マーカーを塗ってもあまり意味はないので注意(笑)。



各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。

第1章は、相石田流の▲4六歩型から高美濃を目指す形。

かつての相石田流は、相金無双になるのが相場だったが、近年はお互いに美濃囲いから可能なら高美濃を目指す傾向があった。同じ囲いで同型を続けると先手に主導権があるので、後手はどこかで工夫する。

その一つが、後手は平美濃のまま仕掛けること。先に4筋で銀交換できるが、後で平美濃の欠点を衝かれて、7筋歩交換から揺さぶられる筋があり、あまり上手くはいかない。

もう一つの対策が、「阿部流」。『相振りレボリューション』(2010)のp194〜で紹介されている。▲4六歩の瞬間に△8八角成〜△2二銀とし、先手が高美濃に組むのを狙い撃ちする。向飛車に振り直して、棒銀で2筋にプレッシャーを与えていく。後手の囲いは金無双。囲いとしてはイマイチだが、複合的に攻められなければ案外堅い。




第2章は、相石田流で▲7六飛と浮く形。第1章の阿部流で先手がいやな変化が多いため、▲4六歩と突く形が減少傾向 になり、▲4六歩を保留して▲7六飛の浮き飛車で歩交換を阻止する形が浮上した。先手は高美濃を目指さないので、第1章とは全く違った戦いになる。

相金無双の場合は、『新相振り革命』(2000/2004)では先手良しだったが、途中で角交換が入ることで、後手十分に結論が変化。先手としては面白くない。

先手としては同型を回避し、▲3八玉から後手が金無双にしたのを見て自分だけ美濃に組むか、▲7七桂と角交換を回避するか。本章ではやや先手に分があるが、後手にもまだ工夫の余地はありそうだ。




第3章は、△4四角型向飛車。個人的には、本書で一番アマ向きの有力作戦だと思う。

3手目▲7五歩に対して4手目△1四歩と打診するところからスタート。▲1六歩△5四歩が入れば、石田流志向の先手は▲6六歩と止めざるを得ない。そこで△4四角が本戦法の主眼で、先手の囲いが美濃・矢倉であれば狙い撃ちできる。7筋ががら空きだが、最低限しか受けずに、7筋歩交換してくるならそこで得た歩を攻めに逆用する。▲7四歩と拠点を作られても気にしない。

先手は一方的につぶされたくなければ金無双にするしかない。後手は7筋に拠点を作られているが、中原囲いにしてしまえば気にならない。横歩取りやカニカニ銀が好きな人にはオススメの作戦だ。




第4章は、▲中飛車。『相振り革命最先端』(2008)で一度詳しく解説されており、「相振りで中飛車はやや損」の定説は変わっていないが、現状はどうなのかを改めて検証する。

第1節は▲中飛車vs△向飛車。▲中飛車は左金が美濃系の囲いに不向きなので、穴熊を目指すのが自然。有名なのは▲久保△豊島の王将戦第2局(2011)で、左金を安易に▲4八金としないのが工夫。

第2節は▲中飛車vs△三間。第1節と違い、互いに浮飛車で歩交換を阻止する展開になる。

なお、先手中飛車に大きな影響がある「中飛車左穴熊」については、巻を改めて執筆中とのこと。(『対振り革命 中飛車左穴熊』(2014.06)が本レビュー掲載時にすでに発売中。)




第5章は、▲角道オープン四間飛車に△2四歩。まだ後手は飛車を振らないうちから△2四歩〜△2五歩と伸ばしていく。

いつでも角交換の筋があって怖いが、あえて馬を作らせてから1筋で香を捨て、さらに2筋も突き捨てて角を打つのが西川流の驚愕の仕掛け。▲3八玉・▲6八飛型のときだけギリギリ成立する仕掛けだ。場合によっては大駒を全て渡すこともあるので、よほど研究していないと怖くて指せないが、面白い変化がとても多く、一度は読んでおきたい。

西川流が怖ければ先手は金無双に組むが、その場合は後手はシフトチェンジして駒組み勝ちを狙っていく。




第6章は、その他の相振り最新研究。まだ研究や実戦譜が多く出回っていない新しい作戦を解説していく。新しいがゆえに、狙いが知れ渡っていないために実現しやすい。半面、解説での分岐は多くなっておらず、実戦では早くレールを外れることもあるだろう。逆に言えば、開拓する楽しみの多い戦型たちである。

第6章第1節は、▲ノーマル向飛車vs△三間で、先手が金無双に組む形。

金無双という囲い自体が完全否定されていた時期もあるが、最近は状況によって使いこなすことがある。特にこの戦型では、先手が矢倉に組むと「菅井流」の仕掛けがあり、さらにそれを伏線にして後手が早い3筋交換を行ってきて、矢倉に組みづらくなっている。

そこで、後手の早い3筋交換に対して、矢倉に未練を残さずに▲3七歩と打ち、右銀を保留した金無双にするのが先手の工夫となる。




第6章第2節は、▲中飛車で速攻で銀交換をしてくる形の対策。

中飛車を相手にしていて、これが苦手な人も多いのではないだろうか。端角も含みにしているため、生半可に受けづらく、わたしも金銀3枚で5筋を守るような戦い方をしていた。本書では、銀はあっさりと交換させる。受けは△4二金が工夫の形。強い反発が必要なので、慣れないうちは苦労するかもしれないが、何度か経験していけばこの形は怖くなくなる。




第6章第3節は、相石田流で▲3八銀と美濃に組めるかどうか。

結論から言えば無理筋だが、先手としては組めるなら組んでみたいところ。もちろん角交換から△2八角が見えている。この形は、『相振りレボリューション』(2010)では▲5五角だと△3六歩で先手危険と解説されているが、さらに研究が進んでいる。本書は別の発想で、▲5五角には△1二飛で局面を収めに行く。

ただし、後手にとって先に攻められる変化が多いので、アマは先手の欲張りな美濃を甘受することも必要かもしれない。一応、知っておいて損のない知識である。




第6章第4節は、△3五歩保留三間。

△7二金で角交換対策をして、△2四歩〜△2五歩と飛車がいない筋の歩を先に伸ばす。続いて3筋の歩を伸ばすことで、先手の美濃を牽制する。もちろん、それでも美濃に組んでくる場合もある。

後手の囲いは、△7二金を上がっている都合で金美濃か銀冠を目指す。先手が金無双にしたら、銀冠で持久戦にして作戦勝ちを目指す。先手が美濃の場合は、低い金美濃で速攻を狙う。




「相振り革命」シリーズの8作目(『相振り飛車の教科書』(2013.05)を含む)ということで、書名は大きく変わっている(発行も日本将棋連盟になっている)が、相振飛車の解説姿勢そのものには特に変化はなく、従来シリーズに信頼感を持っている人は安心して読んでよい。

相振飛車は、もっとも感覚や考え方の移り変わりが大きい戦型群といえる。相振りが苦手な人には、ますます入りにくい状況になっているかもしれない。逆に、各プレイヤーの個性のぶつけ合える戦型であるともいえる。

そんな相振りの感覚についていくには、「相振り革命」シリーズは欠かせない。杉本の「安定品質」は本書でも間違いない。本書も頼りにしてます。


誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p207 ×「▲3七歩△3四飛▲4八金△7二銀▲4六玉…」 ○「▲3七歩△3四飛▲4八金△7二銀▲4九玉…」
(みつなりさんご指摘thx!)
p230 ×「「相振り革命最先端」では…」 ○「「相振りレボリューション」では…」 ※『
相振り革命最先端』(2008)には該当の箇所が見当たらない。『相振りレボリューション』(2010)のp198に載っている形だと思われる。
p237 ×「▲4三成桂など」 ○「▲4三成香など」
p249 ×「以下▲同歩△同飛△2七歩▲5六飛…」 ○「以下▲同歩△同飛▲2七歩△5六飛…」
(みつなりさんご指摘thx!)



【関連書籍】

[ジャンル] 
相振飛車
[シリーズ] 
[著者] 
杉本昌隆
[発行年] 
2013年

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