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秘法巻之五 真・石田伝説 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【編】 週刊将棋 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:1992年7月 | ISBN:4-89563-570-8 | |||
定価:971円 | 213ページ/19cm |
(文庫版) |
MYCOM将棋文庫(5) 真・石田伝説 石田流の秘法を伝授 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【編】 毎日コミュニケーションズ 【解説】 古作登 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2003年2月 | ISBN:4-8399-0983-0 | |||
定価:700円 | 235ページ/16cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・各章主要図までの指し手=2p |
【レビュー】 |
振飛車のうち、石田流関連の戦型を解説した本。1992年にオリジナル版が出版され、2003年に第6章を追加して文庫本が出版された。さらに、2016年に合本文庫化されている。 本書は、石田流的な動きをする力戦形振飛車全般を扱う。基礎・基本から書かれている訳ではなく、ある程度の棋力の人が応用編または裏ワザとして知っておくべき知識を示したものだ。棋力の目安としては、「升田式石田流の▲9六角」と言われて、局面がハッキリと脳裏に浮かぶくらい、と言っていいと思う。 本書の出版は1992年と2003年なので、石田流の歴史的には、2004年の鈴木新手以降の石田流ムーブメントよりも以前の考え方になっている。例えば、「角道を止めた石田流には棒金が天敵なので、角道を止めない升田式が有効」という大局観があるように思う。 要は、少なくとも現代では「多少古い」という前提で読んでほしい。とはいえ、参考になる指し方はいくつも出てくるはずだ。 本書の内容をチャートを添えながら紹介していこう。なお、第2章の「立石式石田流」、第3章の「楠本式石田流」は、それぞれ「立石流」「楠本流」という呼称の方が普通だが、本書では石田流のバリエーションとして、あえて「○○式石田流」としている。 |
第1章は、升田式石田流。ご存じ、「角道を止めない本格派石田流」の代表格だ。本章では早石田NEWバージョン、1筋の位を取る升田式、1筋の位を取れなかった場合の升田式、5手目▲6八玉の乱戦定跡を扱う。なお、本章は△石田流であり、本文はすべて便宜上先後逆になっている。 [早石田NEWバージョン]は、▲4六歩に△3六歩と仕掛けていくもの。“よく定跡書に書かれている”という▲同歩以下の変化に対して、△1五角が新手で、飛交換を強要して、両端に狙いを付ければ指せる、というもの。ただし、そもそも△3六歩には▲3八金が正着と本文にも書かれているのに、その場合に石田流側がどうすればよいかは書かれていない。 [1筋の位を取る升田式]は、端の位を取って△1四角が狙いの一手。常用の▲1六角の受けができない。放置すれば△2五角と歩をタダ取りし、さらに△2四飛〜△4七角成が狙いとなる。また、後で左桂を△1七桂成と捨てることで戦機を得る。 [1筋の位を取れなかった場合の升田式]は、△1四歩に▲1六歩と受けられた場合。端の位が取れない場合は、△3三銀から△2四歩の飛ぶつけが狙い筋。部分的には、現代石田流(2004年鈴木新手以降)で主流となった▲石田流7七銀型の狙い筋と同じ。この筋は1992年にはすでに出ていたのである。強引に飛交換を挑めば、玉形に差がある場合は有効だ。 [5手目▲6八玉]は、かつて升田式対策の決定版とされていた手。それでも△3二飛なら、角交換から▲6五角(両成り)のときに△3四角が利かない(6七が玉で守られている)。本書は乱戦定跡。この定跡の成否は難しいが、△7四飛の発見で石田流が戦える可能性が示唆された。なお、現在は「石田流側がやや無理気味、やはり角道を止めて戦う」が定番。なお、本文中には△3二飛には▲7八玉が最善の旨が書かれているが、石田流側が角道を止めて戦えるのであれば、最善かどうかは微妙。 |
第2章は、立石流。ノーマル四間飛車から6筋・7筋の歩を伸ばして、石田流の形を目指す。アマ強豪の立石勝己さんが開発した指し方。 序盤のポイントは、左銀を初期位置から動かさないこと。そして、角交換は歓迎であること。(なお、▲7八銀-▲7七角型から、相手が居飛穴を明示したのを見てから▲6五歩とする「角交換挑戦型」or「浮き飛車作戦」と呼ばれる形も、広い意味では立石流といってよい) 立石流では6筋の歩が伸びているので、△4三角など角で飛を狙われにくい。また、△6三銀型にならないので、△8四飛と浮かせ、その飛を狙った手作りができる。 角交換から△4二角は居飛車の秘策で、7五歩を狙うことで▲6六飛〜▲7六飛を防ぐ意味。▲6六角と打たせて、この角を目標に作戦勝ちを狙う。これに対して、立石流側がどう指せばよいかは書かれておらず、少なくとも本書ではこの指し方が「立石流対策決定版」となっている。(なお、本書には載っていないが、▲6六飛と浮かせない意味で、角交換後に△3三角という指し方もある) また、本章後半では、3手目角交換から▲7七桂という、奇襲的な指し方を紹介。△5四角の筋さえ自信が持てれば、確実に角交換できるという意味で採用するのも面白い。 ただし、この項は立石流対策(後手番で千日手狙い)の解説も兼ねている。相手が立石流の気配があれば、飛先の歩を伸ばすことを急がない。飛先の歩を切っても逆襲されやすいので、その分を玉頭方面に回したい。右金をそのままに、2〜4筋に位を張り、4三金型を作る。なお、この作戦で居飛車が作戦勝ちというわけではなく、千日手になりやすい。後手番ならではの戦い方と言えよう。 |
第3章は、楠本流。 楠本流は、アマ強豪の楠本誠二さんの開発した、対居飛穴用の戦法。居飛穴なので、居飛車の右銀は△5三銀に来る(対石田流での定位置△6三銀ではない)。 まずは三間飛車に振り、普通に美濃に囲う。そして▲7五歩と飛先に位を取り、▲5九角!と引いて、▲3六歩〜▲3七角と使う。玉側の端歩は突かず、▲1八玉と寄って角の格納場所を作る。将来▲2八馬と引き付けるのが理想だ。 本章では、△6四銀と出て▲6五歩を突かされた場合のみを解説している。通常の石田流の捌きはしにくくなるが、▲3七角の睨みで逆用できる。なお、△6四銀と出てこない場合は、▲6五銀や▲6五桂が生じる。 また、居飛穴が堅くなければ、強気の捌きに出るのもポイント。 楠本流は、あまり書かれている棋書がないので、知らなかった人には本書のオススメ度が上がる。 |
第4章は、中飛車型石田流。ゴキゲン中飛車(1992年出版時はまだなかった)の出だしから、6手目△5五歩から、2筋の歩を切らせる代償に5筋位取り中飛車にする。(なお、6手目は現代ならほぼ△5二飛のゴキゲン中飛車を採用するだろう) △3五歩から浮き飛車にして石田流を目指すのが、ゴキ中でも見られた手法。ただし、ゴキ中ではまず美濃囲いをしっかりさせることが多いが、本章では居飛車の陣形が不十分なうちに動くことを良しとしている。主導権を居飛車側に与えないという意味で優秀な作戦となるが、勝ちにくさは感じるかもしれない。 横歩を取られた形の場合は、△1四歩からヒネリ飛車のように石田流を目指す。△5六歩から横歩を取り返し、飛を5六→7六→7四→2四と大回転させて、ヒネリ飛車風に飛をぶつける。横歩取られの効果で、3筋の歩が切れているので、いつでも角切りの強襲があるため、居飛車は5七銀とはしづらい。また、△3八歩の垂れ歩もいつでもありそう。 |
第5章は、「急攻石田流」というタイトルだが、定跡や作戦の解説ではなく、さまざまな形での石田流の捌き方を、各テーマ見開き完結で解説していく。テーマ数は16。一部は、居飛車側の石田流対策もある。 第6章は、文庫版で追加された章。「21世紀の升田式」と題して、居飛車が升田式に対して作戦勝ちを狙う指し方と、その対抗法を解説。 この指し方の居飛車側のポイントは、以下の3つ。 (1)△8五歩を伸ばさないこと(戦機を与えやすい) (2)△3三銀とすぐ上がらず、△4四歩を優先。△4三角や△4三銀の余地を残す。 (3)△4五歩と伸ばす。△4六歩〜△6九角の馬作りを狙う。 ただし、現代では、居飛車が序盤で飛先の歩を伸ばしてこなければ、角道を止めた石田流で戦える(升田式にする必要がない)ので、▲石田流で使われる機会は少ないかもしれない。 なお、最後の方に先手番3・4・3戦法の紹介があるが、実は本章の変化全体で採用されている。つまり、純正の▲升田式よりは1手遅れている勘定になる。 |
本書の評価は迷った。定跡というよりは、実戦の成功例に近いのだが、他書にない部分が多いという点はプラス要素。AとBの境目くらいで悩んだが、一応Aにしておく。 ただし、繰り返しになるが、少なくとも現代石田流の思想とは少し異なる部分があるため、新しく文庫本で読む人は、「こういった指し方もある(あった)」という視点で読むのが良いと思う。 ※誤字・誤植等:(2003年文庫版第1刷で確認) p221下段 ×「飛車の横利きを少なしようという…」 ○「飛車の横利きを少なくしようという…」 |