タイトルどおり、「初段になるための勉強法」について解説した本。
「初段」──。囲碁・将棋だけでなく、空手や柔道などの武道にもある段位であるが、ほぼ共通するのが「一般人とは明らかに異なる力」であり、一方では「トップレベルの能力をある程度推し量れる力」でもある。
また、本書にあるように、「将棋を指して本当に面白く思うようになる入り口」(p217)でもあろう。そして、「誰もが最初の目標として掲げる到達点」である。
ところで、これまで将棋の勉強法を記した本はいくつか出ているものの、具体的に書かれた本はほとんどなかった。そこに目をつけた編集者の鈴木氏(ブログ『初段になるための将棋勉強法』を運営中)が浦野真彦七段とタッグを組み、出来上がったのが本書である。
各章ごとに、内容と感想を個別に書いてみよう。内容が盛りだくさんなので長くなってしまったがお許しを。m(_
_)m 灰色字は本書の内容紹介になっている。なお、本書全体を通して、いろいろな指導者達の意見・金言が引用されていたり、各節で参考になる棋書・ソフト・道場などの紹介があったりする。
第1章は、勉強法の内容と効果、心がけるべきことについて。本書のプロローグ的な章である。
・「初段」にもいろいろある(段級位取得の方法:日本将棋連盟)
(1) 道場初段
(2) 24初段 (一般的なレベルとの比較表がある)
(3) プロor指導者による認定
(4) 認定問題に応募 (いわゆる「ペーパー初段」)
→基本的にどの「初段」を目指すにしても、総合的な棋力の底上げは必要である、とされている。
・大事な3ヶ条(p17)
(1) 継続 : できるだけ毎日将棋にかかわる
(2) 効率 : 効率の良い勉強法で取り組む。
特に自分のレベルと勉強の難易度を一致させることと、最適な組み合わせを選ぶことが重要。
(3) 意識 : 目的意識を持って取り組む
→3ヶ条の意味と根拠について、それぞれ詳しく解説している。
・8つの勉強法の紹介
(1)定跡書 (2)次の一手 (3)詰将棋 (4)必至
(5)棋譜並べ (6)観戦 (7)対局と感想戦 (8)指導対局
→詳しくは第2章〜第3章で。効果一覧表が面白い。個人的には、初段を目指すにはこの8つの勉強法に加えて「手筋」「格言」「形勢判断法」の3つを基礎として追加したい。また、プラスアルファとして「奇襲対策」も必要かと思う(一応「定跡書」に含まれるのかな?)。
・盤駒の使用を推奨
→わたしは盤駒を持っていないので(こどもの遊び用に百均の盤駒はある)、初段になるためには必ずしも必携ではないと思うが、人によってはちょっといい駒を持つことで毎日「駒に触ってみよう」という効果はありそうだ。
・「誰でも初段になれる」
→私見では、「“努力すれば”誰でも初段になれる」が正しいと思う。よって、本書は「努力が誤った方向に向かわないための本」として活用すると吉だろう。
第2章は、一人でできる勉強法の詳細を解説。
(1)定跡書
・本の選び方
・取り組み方
・棋力とのマッチング
まず自分の棋力・棋風を把握する
戦法自体の難易度・特徴を理解する
→各戦法がどの棋力に向いているかについては、いろいろと異論があるかもしれない。個人的には、四間飛車は駒組みを覚えるのは易い戦法だが、中盤以降は結構難しい戦法だと思う。そもそもカウンター狙いは、ボクシングなら高級テクニックだ。
・各戦法のオススメ棋書(p50〜)
→「棋書ミシュランで探せ」と書いてくれるだけでいいのに。(マテ)
・読み方
読む本を一冊に絞る
盤に並べる
実戦で試す
・レパートリーの増やし方
・苦手戦法対策
(2)次の一手
・「解説を読んで納得できる問題を選ぶ」(p65)
→完全同意!
・時間を区切る
・解けない場合は答えから見てもよい
→抵抗がある人がいるかもしれないが、一度でいいから試してみるべし。
・間違えたらあとでもう一度挑戦する
(3)詰将棋
・何手詰めがいいか?
→1手詰め〜5手詰めをツリーで難易度比較しているのは◎。手数を選ぶ基準表も○。
・初段目標なら5手詰めまで
→ほぼ同意。24初段を目指すなら7手〜9手くらい行きたい。
・継続は力なり
・詰将棋を解くときは、駒は動かさない方がよい
(4)必至
・初段を目指すなら1手必至で十分
→個人的には易しめの3手必至くらいは必要かと思う。ただ、周囲の二〜三段くらいの人でも、自玉に易しい必至がかかってから「あ…!必至か!」と言うレベルなので、一般的な初段なら1手必至で十分かも。24初段を目指すなら、もうちょっとレベルを上げよう。
(5)棋譜並べ
・効用1:良い手が自然と身につく
・効用2:符合に慣れ、他の勉強でも効率upする
・棋譜並べの手順を写真入りで解説
→個人的には超オススメの勉強法。将棋年鑑1冊分(500局強)をとにかく並べ切れば、自然と初段になっていると思う。
(6)観戦
・テレビ、ネット、大盤解説会、新聞・雑誌の観戦記
→時間のある人にはオススメ。ここ数年で、ネットの棋譜中継は特に充実している。新聞の観戦記は、翌日の手を予想するのが効果的。
第3章は、相手が必要な勉強法の詳細を解説。
(7)対局と感想戦
・数をこなす
・「初段になりたいなら千回負けるといい」(p126)
→R恐怖症の人は、この金言を参考に。
・道場、ネット、ソフト、大会
道場・ネットの対局までの手続きをフロー付きで解説
・自分より少し強い相手と指す
・感想戦のやり方
→24での感想戦について、本書に載ってない小技を一つ。終局直後に、「あ」でも「ano」でも「えーと」でもいいので、とにかく短文チャットを送信すると、感想戦の実現率がupする。なお、それでも即去り率は70〜80%くらいなので、自分で検討するのを基本としておこう。
・ソフトの棋譜解析を利用する
→ここ数年で実用的になった勉強法。どこで形勢が悪化したか、詰みを逃してないかなど、参考になる。ただし、いまだに「作戦負け」などの概念はソフトがあまり理解できていないので、鵜呑みにはしないこと。
(8)指導対局
・効果が高い
→指導者が適切なら。
・良い手をたくさん見られる
・駒落ちの効用
第4章は、自分の強化すべき点を知る方法。基本的に、大きな弱点があると初段になるのは難しいので、弱点を克服する必要があるというスタンスだ。
・負けた将棋を振り返る
・指導者や強い人に意見を聞く
・ソフトで棋譜解析する
・「対局」と「詰将棋」は必須
・棋力の目安
・棋力の伸び方は階段状
→必ず何度か停滞期があるので、焦らないこと。
・初段になるためにかかる時間
→「毎日勉強した人」とそうでない人とで比較しているが、「10年以上かかった人」はほとんどがしばらく将棋をしていなかった人たちなので、平均からは除外すべきだと思う。また、正規分布状になっていないので、そもそも「平均」を取ることにはあまり意味がない。「10年以上」を除外すれば、「毎日勉強すれば、およそ1〜2年で初段になれる」が妥当なところだろう。
第5章は、ルート別の勉強法について。道場初段を目指すか、24初段か、ペーパー初段かで、多少勉強法や目標点が違ってくるが、基本的な勉強法は変わらない。
・「やや早指しで、やや攻め将棋」がベスト
→これはアマ将棋全般に言えそう。これに一致しない人がどのようにすれば棋風を修正できるかが解説されているが、これはいままでわたしは知りませんでした。
・24で初段を目指すには、普通の初段以上を目指す勉強が必要
・菅井四段曰く、「24はあくまで強くなる場であって、そこで結果を残すことがすべてではない」(p180)
→R恐怖症の人にまた一つ至言が。
・スランプ対策
・「勉強ノート」で自己分析
第6章は、脳科学者の中谷氏と、森信雄七段へのインタビュー。
〔中谷裕教氏〕
『将棋と脳科学』(脳の世紀推進会議編,クバプロ,2010.05)に研究発表あり。
・継続が重要
・失敗を恐れない
・数多くのパターンを覚える
・好きこそ物の上手なれ
・学習したあとに寝る
→これは意外な至言かも。
・失敗の誤差を修正する
〔森信雄七段〕
生徒・弟子をたくさん持つ。
・初段になるのは10人中2〜3人
→意外と狭き門!「継続して努力できるかどうか」がカギか?
・平手ばかり指していると伸びが止まることが多い
・大人は上達が少し遅い
・「負けても平気」なら実戦重視
・基本的には「詰将棋・棋譜並べ・対局」
・やはり「継続」
・毎日1ノルマこなす
・連続してやりすぎるよりは、我慢して区切りをつけて、別のことをやる
・初段は「将棋を指して本当に面白く思うようになる入り口」(p217)
すでに有段者の人から見れば、本書の内容は9割がたが「それって当たり前のことなんじゃないの?」と思うかもしれない。確かにその通りだ。本書には特に画期的な勉強法というのはほとんど書かれていない。
しかし、森七段が言うように、将棋教室に通う人でさえ初段になれるのは2〜3割なのである。つまり、7〜8割以上の人は、この「当たり前のこと」ができていないし、裏を返せば、有段者たちは級位者たちに「当たり前のこと」をちゃんと伝えられていないのだ。
本書は、「正しい努力を」×「効率良い方法で」×「コツコツとやれば」=「初段になれる!」ということを言語化した。これから初段を目指す人はぜひ一読してほしいし、有段者の人は本書の内容に対して何らかの見解を持っていてほしい(例えば、「わたしはもっと対局を重視すべきだと思う」など)。初段クラス以上の人が増えるほど、みなさんの将棋仲間は増えていくのだから。(2011Feb17)
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