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マイナビ将棋BOOKS 緩急自在の新戦法! 三間飛車藤井システム |
[総合評価] S 難易度:★★★★ 〜★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 佐藤和俊 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年9月 | ISBN:978-4-8399-6650-8 | |||
定価:1,814円(8%税込) | 296ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)誕生の理由は後手番過多? (2)藤井システムよもやま話 (3)穴熊は消える? (4)いまだ発展途上 |
【レビュー】 |
△三間飛車・藤井システムの戦術書。 藤井システムと言えば、元々は四間飛車である。居飛穴や左美濃に対して玉頭から強襲し、急戦に対しても美濃囲いに入城して過去の知見を活かして戦えるということで、1996年〜2004年頃に大ブームを巻き起こした戦法である。ただし、藤井システムに対しても、居飛穴に組める手順が発見されたり、急戦を見せての持久戦などが大変となり、2018年現在はプロの実戦にはたまに現れる程度になっている。 一方、藤井システムの三間飛車バージョンも比較的早くから試されていたが、ほとんど注目はされていなかった。ノーマル振飛車全般が苦しいとされている中で、著者の佐藤和が最近採用して、2017年度のNHK杯で準優勝を収め、にわかに注目が高まっている。 本書は、△三間飛車藤井システムの指し方について、四間バージョンとの違いに留意しながら解説した本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。なお、実戦編の4局もチャートに組み込んでみた。 |
序章は、「三間飛車藤井システムの概要」。歴史と特徴をざっくり解説してある。 〔歴史〕 1995年、居飛穴に対して藤井システム(四間飛車)が誕生。 ・左美濃が衰退、ミレニアムが穴熊の代用で登場。 ・対藤井システムの急戦、相振り飛車が増加。 ・1996年〜2004年が流行期。 ・居飛車の対策が進み、2018年時点ではたまに指される程度。 2009年、三間飛車バージョンが初登場 ・最初は久保利明。 ・杉本昌隆が数局指した。 ・佐藤和俊は2015年から採用、2017年度NHK杯で本戦法を駆使して準優勝を果たす。 〔特徴〕 ・三間飛車藤井システムは急戦に対応しやすい。 ・居飛穴に組まれても、雁木でじっくり戦ってよい。 |
第1章は、「対穴熊編」。近年は作戦が多様化しているが、居飛穴対策は一番の課題である。 (1)▲6六歩型穴熊 オーソドックスな組み形。 ・左銀の定位置は△4三銀。(早く決めて良い) ・飛を振ったら、居玉で△9四歩と突く。 ・次に△7二銀(無難)か、△9五歩(積極的だがややリスキー)。 ⇒△6二飛から攻めていく。(※この形だと、序盤の細かいアヤ以外は、四間飛車も三間飛車も同じ) ・場合によっては雁木模様に囲う。雁木は2017年頃から評価が高まっており、穴熊にされても端攻めの形ができていれば戦える。 (2)6筋不突き型穴熊 ・居飛車が右銀を▲5七銀と上がらず(▲4八銀型)、▲7七角から居飛穴を目指す。 ・△6五桂が両取りにならない。 ・6筋が争点にならない。 ⇒いろいろあるが、攻撃重視の「美濃囲い放棄△7三銀」が有力。 ・早繰り銀のように△6四銀と構える。 ・飛は△7二飛or△9二飛。 ・△8五桂と跳ねられる形を急ぐ。 ・囲いは雁木ライクで。攻めを慌てない。 なお、先手は穴熊にせず、実戦編(4)のようにミレニアムを目指すのもある。△三間飛車だから生じている変化(奇手▲2四角!?、p282)もあり、有力だと思う。 (3)6筋不突き▲5七銀型穴熊 ・▲5八金右と上がっていない。(金は地を這っていける) ・▲6八角は、▲5七銀のために角筋が2筋に通らず、やや緩くなる。 ⇒「△6三銀〜スズメ刺し」が有力。 ・囲いはやはり雁木ライク。 ・2筋での角交換は歓迎して良い。 (4)▲9六歩型穴熊 居飛車が9筋の歩を受けた場合、穴熊としては損だが、急戦や左美濃も視野に入れている。 ⇒振り飛車も囲い優先にする。 ・石田流を目指すのが三間飛車を生かした動き。 ・形によっては、石田流を見せるだけで、駒組みを進めるほうが良いことも。 |
(5)トマホーク ・5筋不突きの一目散穴熊に対して、△5四銀〜△9三桂の「トマホーク」が有力。 ・▲5七銀型や、穴熊を決めていない段階では失敗しやすいことに注意。 ・場合によっては、端桂にこだわらないほうが良い。 |
第2章は、「対急戦編」。三間飛車藤井システムも四間Ver.と同様、玉の囲いを後回しにしているため、急戦の成否は気になる。飛の位置の違いのため、四間Ver.と三間Ver.では刺さりやすい急戦のタイプも全く違ってくる。 (1)対急戦基本編 ・▲3六歩と急戦を見せられたら、速やかに△6二玉とする。 ・△四間飛車には厳しい仕掛けも、△三間飛車なら受けやすい。(ナナメ棒銀系など) ・半面、▲4六歩からの仕掛けが怖いが、すぐに△4二飛と振り直せば戦える。 ・▲4五歩には△3二金と使うか、△7一玉から玉を固めるか。 (2)▲4八銀型急戦 ・▲4八銀型〜▲4六歩の急戦。 ・▲棒銀へのチェンジがあることに注意。△4二飛と受けると、棒銀にチェンジされたらまた△3二飛と戻ることになる。 ・▲4五歩を見てから△4二飛と回ろう。 (3)△9五歩型急戦 穴熊への意識が強いなら、序盤で△9五歩を急ぐことになる。急戦に対してややリスキーで、美濃囲い入城は間に合わないが、十分戦うことは可能。 (4)▲3六歩〜持久戦 ▲3六歩と急戦を見せてから持久戦(穴熊など)に切り替えるのは、四間飛車藤井システムに対してはかなり有効だが、三間飛車藤井システムには無効。△3五歩▲同歩△4五歩の仕掛けが大きな武器になる。知識があればこの作戦が全く怖くないのは、大きな利点となる。 |
第3章は、「対美濃編」。天守閣美濃ではなく、▲7九玉型美濃囲いの対策となる。シンプルかつ柔軟性があるので、近年評価が高まって採用も増えている。相居飛車でも対応できるので、相手が振り飛車と確定しなくても▲6八玉と上がるケースは多い。 (1)対▲7九玉型美濃囲い基本編 ・対▲7九玉型では居玉は避ける。本節では△8二玉の入城まで急ぐ。 ・先手が銀冠穴熊に組み替えてくるなら、中飛車への転回よりも、石田流を目指すのが有力。三間が生きてくる。 (2)△6二銀型対左美濃 ・三間側が美濃に囲わずに、△6二玉型で風車ライクで戦うのも有力。 ・銀冠穴熊には組ませる。 ・先手玉頭から攻めよう。 (3)△6二玉型対急戦 ・△6二玉型への急戦は、▲7九玉型なら強気で対応しよう。 ・▲8八玉型や▲9八玉型なら、角筋を生かした玉頭攻めでOK。 (4)腰掛け銀型 ・▲7九玉型左美濃と相性の良い腰掛け銀。(右四間ではない) ・有力だが、だいたい互角に戦える。 |
【総評】 本書の内容をざっくりまとめると、以下のようになる。 ・三間飛車藤井システムは、居飛穴に対しては四間Ver.と同じような感覚で戦える。 ・天敵だった「一目散穴熊」に対して、トマホークで迎撃できるようになった。 ・3筋を狙う急戦(▲4六銀など)には、四間Ver.よりも対応しやすい。 ・4筋を狙う急戦(▲4六歩など)は難敵だが、何とか戦えそう。 ・急戦を見せてからの持久戦は全く怖くない。 ・▲7九玉型左美濃や、銀冠穴熊に対しても十分戦える。 ・石田流への組み替えがスムーズ。 ・雁木系や風車系の評価が上がったのも追い風。(従来は不満と見ていた形に自信が出てきた) ⇒∴△三間飛車藤井システムは、十分やれそうな戦法である。 急戦への対応感覚とか、居飛車感覚で攻めたり、バランスを取ったりなど、様々な経験や能力も必要なので、指しこなすには一筋縄ではいかないが、本書には気になるところはほとんど書かれていた。ノーマル三間飛車で戦いたい人にはバイブル的存在となりそうな一冊である。 今のところ、爆発的な流行にはなっていないので、長く使えそうなところも利点の一つかも?ただし、まだ発展途上とのことなので、「ベースとなる一冊」となるだろう。 (2018Sep16) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p81 ×「第2図以下の指し手@」 ○「第2図以下の指し手」 ※第2図からの2つ目の分岐はなかった。 p193上段 ×「第6図以下の指し手A」 ○「第5図以下の指し手A」 p230棋譜 ×「△5二金左」 ○「△5二金」 |