zoom |
マイナビ将棋BOOKS 都成流 新型ダイレクト向かい飛車 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段者向き |
||
【著 者】 都成竜馬 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年3月 | ISBN:978-4-8399-7552-4 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
【構成】 池田将之 ・プロローグ1 なぜ△4四歩型なのか ・プロローグ2 ▲2四歩・▲7八金の変化
・【コラム】(1)将棋AIとの向き合い方 (2)棋士YouTuber (3)ペットのフェレット |
【レビュー】 |
4手目△9四歩の戦術書。 初手より▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩とする「4手目△9四歩」は、以前は変化球と思われていたが、非常に面白い作戦であることが分かってきた。端歩ひとつで、似たような局面でも全く異なる展開があり得る。 4手目△9四歩は、「早い段階での端の打診」。本書で解説する△9五歩-△4四歩型の「端歩位取りダイレクト向かい飛車」は、その派生の一つであり、真のテーマは「4手目△9四歩」そのものにある。 本書は、4手目△9四歩の様々な可能性を探る中で、特に△9五歩-△4四歩型ダイレクト向かい飛車に注目して解説した本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
プロローグ1は、「なぜ△4四歩型なのか」。 ・後手が9筋を突き越してからのダイレクト向かい飛車は、以前から指されている。 ・ただし、▲3八銀-▲7八金型では、▲6五角が難敵で、ダイレクト向かい飛車が成立しなかった。 −▲6五角△7四角に▲同角△同歩▲7五歩が、▲7八金を生かした手順。 −後手は▲7五歩を取りにくく、▲7四歩と取り込ませて取り返しに行くのも、先手の左銀の進出が間に合う。▲7八金型が良い形で左銀を繰り出しやすい。 ・▲4八銀-▲7八玉型に対しても、▲6五角は厄介で、後手が嫌なイメージ。 ・ダイレクト向かい飛車でなく、△4二飛と一旦停止すれば▲6五角の筋はないが、あとで△2二飛と振り直す場合は手損が気になる。 ・飛を振る前に△4四歩が本書のテーマ。 −▲6五角に対し、△7四角▲4三角成とされたときに歩を取られないで済む。 |
プロローグ2は、「▲2四歩・▲7八金の変化」。 ・この戦型では、後手が2筋を受けずに9筋の歩をズンズン伸ばしていくので、「▲2四歩問題」を解決しておく必要がある。 ・いきなり▲2四歩は、角交換〜△3三角〜△2六歩で後手不満なし。 ・▲7八金としてから▲2四歩を狙うのが一つの工夫。先ほどの△3三角の筋が両取りにならない。 −▲7八金にダイレクト向かい飛車を目指すのは、後手の端歩(9筋位取り)が生きにくい展開。 −▲7八金型には△4二飛で戦える。 |
第1章は、「後手△4四歩型−先手▲3八銀・▲7八金型」。 ・後手は9筋の歩を伸ばし、角交換して△2二銀〜△3三銀と飛先を受けた後、△4四歩と突いてから△2二飛と振る。 ・▲6五角は恐くない。4三歩を取られない。 −ただし、馬の押さえ込み方が特殊なので、p26の順をしっかりとマスターしておくこと。 ・先手は▲4七銀-▲3八金型でバランスを取って地下鉄飛車に組むのが比較的新しい考え方。 −バランスは良いが、金銀が分散しているので堅くはない。どこか網が破れればよいので、後手は激しい戦いは歓迎。 −2筋で1歩を手持ちにして、自陣角から桂頭攻めが狙いの一つ。歩を手持ちにするのは、居飛車の9筋逆襲の牽制にもなる。 −先手は地下鉄飛車に固執すると危険。▲2六飛と桂頭をカバーしておき、9筋逆襲を狙いたい。 ・△9五歩型に対し、9筋逆襲は居飛車の切り札。後手は、駒組みと△2四歩のタイミングをしっかりと考えておきたい。 −後手の駒組みは、玉型をどうするか(端に近づけるか否か)や、自陣角の設置場所をどう作るか、など。 −銀冠を急いでも、9筋逆襲と▲4五歩の仕掛けを両方ケアするのは難しい。 ・△6二玉型で△7二銀と美濃囲いを構築するのが都成流の研究手。 −次に△7一玉ならある程度堅く、端にも近づき過ぎなくて、戦いやすい形。 −▲8二角と打たれる隙があるが、これは誘いのスキ。△3五歩〜△2四歩と仕掛けることができる。 −ただし、△5二金左と▲3八金の交換があると、先手に正確に指されたときに難しくなる。 互いに一段金の利点と弱点を考えながら、成否を考えよう。 ∴都成流は△7一玉型に組むまでは苦労するが、魅力的な構想。 |
第2章は、「後手△4四歩型−先手▲4八銀・▲7八玉型」。 ・▲4八銀は、対抗形の駒組みとしては自然。 −居飛車は、矢倉や穴熊などの堅陣を目指す。(第1章のようなバランス型の駒組みではない) −先手の9筋逆襲は、▲7八玉型では先手陣の傷みも大きく、無理気味。 ・後手の序盤の組み方は第1章と同様。 後手は9筋の歩を伸ばし、角交換して△2二銀〜△3三銀と飛先を受けた後、△4四歩と突いてから△2二飛と振る。 ・▲6五角はやはり大丈夫。 −▲4八銀型に特有の反撃筋がある。先手の2筋が薄いのを衝く。 −角交換後に▲5六銀から△7四歩を狙って動いてくる高等戦術には、△6四歩と銀出を防ぐと先手の術中に嵌まる。△6二玉が強気の対応。 ・▲7八玉型に対して、第1章のような都成流(△7二銀〜△7一玉)を目指すのは危険。 −▲8二角から同様に△2四歩と攻めたとき、先手の▲7八玉型が第1章(▲7八金・▲6八玉型)よりも遠く、やや無理筋気味。 −先手陣は9筋逆襲に向かない陣形なので、後手も早めに深く囲う。 ただし、後手は早く動きたいので、穴熊よりは美濃囲いが良い。 ・先手陣の右辺は手薄なので、後手は△2四歩の仕掛けを模索したい。 −仕掛けの成否は彼我の陣形次第。 ・実戦編第2局の対千葉幸生七段戦をベースに、駒組みの改良を行う。 −居飛車は、▲6八金寄で離れ駒をなくしてから▲5六銀が有力手段。 凹み矢倉から、腰掛け銀で6筋歩交換をして、そこから居飛穴に潜れば、手詰まりになることはない。 −後手は△6四歩からの駒組みでは不満。 △3五歩で先手の右桂の活用を封じ、△3三銀を立て直すのが改良案。 −先手は早めの▲3六歩で△3五歩を拒否するのも一案。持久戦になれば右桂の活用が約束される。 ただし先手にとって良いことばかりではなく、▲3七桂は標的にもなり得る。 後手は左銀の立て直しではなく、銀冠〜地下鉄飛車を目指したい。 |
第3章は、「先手▲9六歩型に対する工夫」。 先手が9筋を受けてきたときの、ダイレクト向かい飛車以外の指し方を検討する。 ・近年は端歩を受ける居飛穴も増えている。 ・4手目△9四歩に▲9六歩と受けられると、本書の「△9五歩+△4四歩型ダイレクト向かい飛車」はできないが、端歩の突き合いを生かした作戦が複数考えられる。 (1)△四間飛車にしたとき、先手が居飛穴なら、△4四銀型にして▲8八銀の前に開戦してどうか。 −9筋の突き合いがなければ、振り飛車難局。 −9筋の突き合いがあれば、端攻めがあるので振り飛車が有望。 (2)9筋の突き合いを入れてから、△7四歩と袖飛車を狙うのはどうか。 −互いに金を締まってから歩交換すれば、2歩手持ちで9筋攻めがありそう。 (3)△早石田はどうか。 −▲6八玉の早石田封じがあり、通常は後手の無理筋となっているが、9筋の突き合いがあれば後手から端攻めが生じる変化がある。 −また、▲8二角に△9三香と逃げる余地があるので、居玉で△7二銀と美濃の骨格を作る変化があり得る。 −▲5六歩の早石田対策には、4→3戦法を狙い、展開によっては立石流にする。または、△5四歩から中飛車狙いで、手将棋に持ち込む構想もある。 (4)△ゴキゲン中飛車はどうか。 −本書に記載はないが、▲5八金右超急戦に対しては、9筋の突き合いは中飛車有利に働きがち。 −▲超速vs△3二金型で、9筋の突き合いがあれば後手から端攻めできる変化がある。 (5)△一手損角換わりはどうか。 −先手が早繰り銀に出たときに、△9三桂と端桂を活用できる可能性がある。 |
第4章は、「後手の工夫 △4二飛・△3二金」。 後手が△9五歩と9筋の位を取れたとき、ダイレクト向かい飛車以外の指し方を解説する。 具体的には、△4二飛と△3二金のどちらを選ぶかで展開は異なる。 (※△4二飛と△3二金を両方とも指す訳ではない) ・先手が△ダイレクト向かい飛車を想定して▲6八玉と上がるなら、態度を保留して△3二金がある。 −△阪田流向かい飛車や△3三金型三間飛車の展開になるなら、9筋の位が大きく後手の得になりそう。 −角交換した力戦相居飛車に落ち着くか。 ・角交換してから△4二飛も有力。 −△4三歩型が生きる展開もある。 −▲4五桂速攻の是非が重要になる。 |
第5章は、「実戦譜」。 都成の実戦5局の自戦記となる。 ・このうち、本書のメインテーマである△9五歩-△4四歩型のダイレクト向かい飛車は、第1局と第2局の計2局。 特に第2局の対千葉戦は、第2章のベースとなる一局。 ・残りの3局は、△4四歩と突かず、△4二飛と一旦停車するタイプの角交換四間飛車。第4章の内容に近い。 ダイレクト向かい飛車と姉妹関係の戦法なので、参考にはなる。 飛車を振るタイミングは少しずつ異なる。 |
〔総評〕 本書の「都成流ダイレクト向かい飛車」は、序盤のちょっとした工夫が戦型の全体像を変えていく。また、まえがきにもあるように、本書の真のテーマは「4手目△9四歩」で、向かい飛車にとどまらず、さまざまな戦型に影響が波及する可能性があり、今後注目の戦法だと思えた。 ただ、指しこなすのは結構難しそう。2筋逆襲など明確な仕掛け筋はあるものの、彼我の陣形などで柔軟に考える必要があり、プロ的な戦法(≒あまりアマ向きではない)とも思った。とはいえ、非常に難解な構想も分かりやすく解説されているので、本書を読みこなす・理解する分にはそこまで難解ではないです。 すでにダイレクト向かい飛車を指していて、▲6五角問題が悩みのタネになっている人はマストチェック。また、ダイレクト向かい飛車を指さない人でも、端歩の関係によってさまざまな戦型に広がる可能性を楽しみたい人や、プロが早めの端歩打診をしている意味を知りたい人にもオススメの一冊です。 (2021Mar31) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認): p76下段 ×「陣形が痛んでいません」 ○「陣形が傷んでいません」 p87下段も同様。 p194下段 ×「後手もまずまでした。」 ○「後手もまずまずでした。」 |