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マイナビ将棋BOOKS 中飛車の逆襲 対三間飛車編 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B+ 有段者向き |
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【著 者】 竹内雄悟 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年3月 | ISBN:978-4-8399-7360-5 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
▲中飛車vs△三間飛車の戦術書。 相振り飛車では、「自玉からできるだけ遠い位置に飛を振る方が優る」というのが長く定説で、「▲中飛車には相振り飛車(主に△三間飛車)で対抗する」という思想も根強かった。従来は、相振り飛車になると先手は中飛車のままでは戦いにくく、他の筋に飛を振り直すことになり、先手番としては不満があった。しかし、最近では戦い方が多様化し、▲中飛車にするメリットも多く見つかっている。 本書は、▲中飛車vs△三間飛車の戦型において、先手が中飛車のまま相振り飛車で戦う(玉を右に囲う)戦型と、中飛車左穴熊(玉を左に囲う)で戦う戦型の2つを詳しく解説した本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「相振り飛車と中飛車左穴熊のポイント」。 本書で解説される戦型のポイントとなる局面を抜粋して、簡単な概説をしている。 ・先手が中飛車から向かい飛車に振り直すのは手損だが、相美濃囲いでゆっくりした展開ならジックリ攻める体制を整えることができ、手損はあまり気にならない。 ・展開によっては、飛を振り直さず、中飛車のまま動いていくのも有力。 ・対穴熊でも、対美濃囲いと同様の戦い方は優秀。 ・先手中飛車の▲5五歩が角交換を防ぎ、左辺の駒組みの自由度が高く、いつでも▲5四歩と角交換を迫れる。 ・角道保留+▲5五歩の先手中飛車で、▲6八銀〜▲5七銀を急ぐ指し方が出てきて、相振り中飛車の幅が広がった。攻めの▲6六銀と受けの▲4六銀を選ぶことができる。 ・中飛車左穴熊は、右辺の銀桂の使い方が急所。上手く捌けば堅さを生かせる。 なお、本章では、前振りなしで、相振り飛車の駒組みが進んだ局面(すでに中飛車ではない)からスタートする。局面図がどうなっているのか分からない場合は、先に第1章や第2章の解説を読んで、「まとめ」として本章を読むとよい。 |
第1章は、「相振り飛車編」。 先手中飛車に対して後手が相振り飛車の戦いを挑むとき、相性が良いとされる△三間飛車に絞って解説する。 (※なお、△三間飛車に対しては第2章の中飛車左穴熊も有力) (1)相美濃囲い ・互いに囲いを美濃囲いにする形。 ・▲5六飛と△3四飛の交換を入れて、互いに歩交換を防ぐ形に絞る。 ・角が浮くと△5四歩の逆襲がある。▲6八銀や▲5八金左のタイミングには注意。 ・膠着状態で千日手だと先手がつまらないので、▲6六角と前のめりに構える。 ・2歩を手持ちにすれば、端攻めを決行しやすい。相手の歩交換を利用することも考えよう。 ・持ち歩が1歩でも端攻めはギリギリ繋がりそう。まずは攻めの香と守りの香を交換することを目指そう。 ・△9四歩と受けてこない形だと、端攻めは狙いにくい。▲5四歩〜▲7四歩から2歩を同時に交換することを狙い、それを防ぐなら後手陣が乱れるので▲5五銀とぶつけて仕掛けていく。 ・さらに△6四歩と、▲5四歩〜▲7四歩の筋を警戒してくるなら、5筋歩交換はせずに5五の位を維持しておき、8筋に目を向ける。 |
(2)美濃囲い 対 穴熊 ・▲中飛車+美濃囲いvs△三間飛車+穴熊。 ・先手は、早い仕掛けや、後手のバランスの乱れを衝いた攻めを目指したい。 ・早めに▲7五歩と突き、将来の△8四飛の揺さぶりに▲8六歩の受けを用意しておく。 ・▲6八銀を急ぐと、角が浮き駒になるため、様々なタイミングで△5四歩の反発が気になる。 −左銀はしばらく▲7九銀のまま角にヒモを付けておき、▲8六歩〜▲8五歩を優先しておく。 ・端をにらむ▲6六角は対穴熊でも有効。▲6六角は手詰まり打開のカギとなりやすい。 ・角を上がってから左銀を▲5七銀まで持って来れば、無駄のない美しい陣形となる。 −5筋〜9筋で猛攻する。▲5三飛成や▲6二角成のような金銀を穴熊から剥がすor遠ざける手と端攻めを組み合わせよう。 |
(3)角道不突中飛車 ・これまでは角道を早く開けてきたが、本作戦では▲7六歩を保留する。 ・▲6八銀〜▲5七銀の活用を急ぐのが狙い。 ・後手が△3六歩の歩交換を急いでくるなら、先手はそれを逆用し、▲3八飛から3筋で逆棒銀のイメージで戦える。 ・△6二玉と▲4八玉の交換が入ると、▲3八飛の筋は使えない。 −後手が3筋歩交換後に浮き飛車にするなら、2枚の銀で右辺を押さえ込み、▲7九角〜▲8八飛と角道不突きを生かして組む。 −後手が飛の引き飛車を保留してくるなら、▲5七銀まで上がったあと、タイミングを見て角道を開け、角交換から向かい飛車に組み直す。 角道不突き中飛車から角交換相振り飛車になるという、面白い展開。 ▲5七銀から▲6六銀とあがるなら棒銀(+筋違い角)の攻め、▲4六銀と上がるなら持久戦。 ・後手が△3五歩を保留するなら、互いに美濃囲いに組み、▲3九玉と入ってから▲7六歩と角道を開ける。 |
第2章は、「中飛車左穴熊」。 ▲中飛車で、後手が△三間飛車から相振り模様になったときに、先手が玉を右に囲わず、左側の穴熊に囲う作戦。 cf. これまでの左穴熊の本 (1)基本図までの話 ・▲中飛車vs△三間飛車で、後手が角道を開けたまま6手目△3五歩としてきた場合、角交換から▲6五角がある。 −ただし、後手も早石田特有の角打ちで受けてくるので、互いに角は成れない。この場合、角のポジション争いで先手が優位に立てそう。 ・6手目△4二銀なら穏やか。 ・先手が左穴熊を目指すなら、あまり早く▲5六飛と浮かない方が良さそう。 ・後手の囲いは、美濃囲いか穴熊か。 |
(2)対穴熊 ・左穴熊は、金銀をどうやって穴熊にくっつけるかが課題の一つ。左銀を締まった後、どうするか。 ・▲4八銀は、△2四飛の揺さぶりに対応しづらい。 ・▲7九金は自然だが、△5四歩の仕掛けに要警戒。先手が指せそうだが、激しい攻め合いになる。 ・▲5九金右が無難。△6七角成や△2七角成の筋から右金を避けておく。同じ意味で▲5八金右もあり、一長一短。 −このとき、右辺の守りは▲3八銀と右桂に任せる。 ・次に後手が△3三銀と銀を攻めに使う場合は、▲6八金右と、縦に金を2枚並べる。これなら後手からすぐに△3六歩と仕掛けてこられても大丈夫。 −▲1六歩は余裕があれば入れておこう。攻めのバリエーションが増える。 −▲2六飛の揺さぶりで、後手の受け方によって対応を変える。 ・後手が△5一銀〜△6二銀と銀を囲いに使う場合は、先手も▲7九金〜▲6八金右と固める。 −機を見て▲2六飛の揺さぶりを入れていこう。 ・左穴熊側が堅さで上回ることがあるが、攻めの戦力に乏しいのですぐ仕掛けて良くなることは少ない。 −手待ちや揺さぶりで後手の形を崩そう。チャンスと見れば▲5四歩から捌ける。 |
(3)対美濃囲い ・後手が美濃囲いの場合は、攻守にバランスが良い。 ・左穴熊に潜るタイミングには要注意。 −△7四飛(7六歩を取る狙い)▲5六飛と揺さぶられ、△5四歩と5筋をこじ開けられる仕掛けが怖い。局面を収めても先手やや不満。 −▲9九玉の前に▲7八金と上がっておくのが良い。 ・△3三銀〜△4四銀は後手の有力手段。「歩越し銀には歩で対抗」の▲4六歩がマスト。 ・局面が煮詰まってきたとき、「▲1七桂」が左穴熊の秘伝手。▲2五桂から桂交換すれば、使える場所が多い。 ・△1四歩〜△3三桂と石田流に組んでくる場合、漫然と左穴熊に組むと△3六歩と動かれる。▲5六飛と浮いて△3六歩を受けておきたい。 |
〔総評〕 「▲中飛車には△三間飛車から相振り飛車が有効」という考え方は、かなり前から有力視されているので、▲中飛車を指す人にとっては本書の作戦の実現率は高い。以前は、中飛車から他の筋へ振り直すことになっていたが、本書で「相振り飛車」と「左穴熊」の2つの作戦が示されたので、どちらか好きな方を選ぼう。 ただし、本書の難易度はやや高め。戦法の基本思想から解説している訳ではなく、すでに他の本で学んで、ある程度は実戦で指し込んでいることが前提となっており、「応用編」の位置付けである。本レビューのチャートを見て、「この形なら指してみたい」と思えるならオススメ。どちらの作戦も持久戦的な展開が多く、まったくそのまま使えることは少ないかもしれないが、頻出する攻め筋や決行のタイミングは大いに参考になるはずだ。 (2021Mar25) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版Ver1.00で確認): p7下段 ×「角交換迫れるのも」 ○「角交換を迫れるのも」 p45下段 ?「玉が固く、」 ○「玉が堅く」 p93下段、p217上段も同様。 p67上段 ×「飛車の横効きが無くれば」 ○「飛車の横利きが無くなれば」(または「無ければ」)」 p137上段棋譜 ×「▲4七銀 △6二金 ▲7八金寄」 ○「▲4七銀 △6二金寄 ▲7八金寄」 p211上段〜下段 ×「もう一つの候補主。」 ○「もう一つの候補手。」 p216下段 ?「左右迎撃の形を作れる」 ○「左右挟撃の形を作れる」 |