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マイナビ将棋BOOKS 横歩取り 後手番の逆襲 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段者向き |
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【著 者】 上村亘 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年2月 | ISBN:978-4-8399-7523-4 | |||
定価:1,804円(10%税込) | 264ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・参考棋譜=3局 |
【レビュー】 |
横歩取りの戦術書。 横歩取りは、▲青野流が猛威を振るっている。さらに、相居飛車の中では横歩取り後手番のAIの評価が低いこともあり、一時期はプロ公式戦で横歩取りがかなり減少した。ただし、横歩取りが消滅したわけではなく、飯島栄治、横山泰明、大橋貴洸らの健闘により、新たな鉱脈が見つかり始めている状況で、再流行の兆しがみられる。 本書は、横歩取りのスペシャリストの一人である上村亘五段が、先手の様々な作戦に対抗できる後手番の指し方を健闘していく本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「本書の概要」。 横歩取りの現状と、先手が横歩取りを拒否してきた場合の対応例を簡単に解説する。 ・横歩取りは現在、▲青野流と▲勇気流が強敵。 −特に青野流が猛威を振るい、2020年度はプロ公式戦で横歩取りの採用がほとんどなかった時期がある。 ⇒本書では後手番視点で有力な順を探る。 ・後手番で横歩取りを目指しても、先手が応じない場合もある。 ・▲2六歩〜▲2五歩と飛先を決めてくる場合は、 −4手目△3三角なら、後手が飛先保留の角換わりにできそう。桂頭を攻められにくく(△8五桂と跳ねる余地がある)、後手が少し得か。 −4手目△8四歩なら、相掛かり系統の将棋になりやすい。 ・▲6六歩と角道を止めてくる場合は、積極的に急戦を狙いたい。 |
第1章は、「「青野流」との戦い」。 ・青野流は、現在の横歩取り後手番にとって最大の強敵。 ・横歩を取った後に飛を引かず、▲5八玉〜▲3六歩〜▲3七桂で速攻を狙ってくる。 (1)青野流 対 △5二玉型 ・△5二玉型は、後手が囲いを最小限で済ませ、早い戦いに応じようとしている。 ・△7六飛▲7七角△同角成▲同桂△5五角の変化は激戦だが、先手に有力手段が複数あり、際どいながら後手の分が悪そう。 ・△7六飛▲7七角△7四飛と飛交換を挑む変化は、後手は何とか五分で戦えるかもしれない ・△7六飛▲7七桂の「藤森式青野流」は、正確に指せば後手が悪くはならなさそうだが、先手の研究にハマりやすく、ワンミスで負けになりやすい。 −ただし、▲2二歩に△3三桂なら、流れがやや穏やかになる。 ・▲3六歩に△2六歩と垂らすのは有力。 −ただし、▲3八銀に△7六飛と横歩を取るのは後手が苦しそう。 −▲3八銀に△8八角成〜△2七歩成〜△5五角の順〔右図〕は、後手の有力な手段(鉱脈がある)と見られている。 |
(2)青野流 対 △4一玉型 ・△4一玉型は、先手の両桂で狙われやすい5三から遠ざかっており、△3一銀や△3二金に玉で紐を付けているので、△3三角を動かしやすい。 −半面、5三が薄いので、▲4五桂で手にされやすかった。 ・△4一玉〜△4二銀〜△2二歩の組み合わせ〔右図〕の発見で、△4一玉型が見直された。▲7七角のラインや2筋の飛の先受けになっている。 −先手は中央方面での速攻はしづらく、いろいろな組み合わせで1筋を伸ばしてもあまり大きな戦果が得られない。 −先手の青野流の攻めを防ぐことができそうだ。 −ただし、局面が収まれば、△2二歩と打っている分だけ持ち歩の枚数に差が出る。 |
・△4一玉に対して、先手は形を決めさせたことに満足して、▲3六飛から持久戦模様にスイッチするのも一案。 −後手は、△4一玉型で戦うのもあるが、△5二玉と手損でも玉の位置を変える〔右図〕のが新しい考え方。 −以前は「後手は歩損の代償に早く動く」という考え方だったが、考え方が変わってきた。 −先手は、▲3八銀型で速攻を狙うか、▲3八金型でじっくり戦うか。▲3八銀型は先手の右辺が薄く、△5五角や△2八角などで後手が手を作りやすい。 ※なお、先に△4二銀もある。飯島栄治七段が育てた手。(p247) −先手が▲3六歩〜▲3七桂とするなら、△4一玉〜△4二銀に合流する。 −▲3六飛と引く場合は、先に△4一玉の将棋とは全く異なる展開になる。 |
第2章は、「「勇気流」との戦い」。 ・勇気流は、青野流と並んで、横歩取り後手番にとってもう一つの強敵。 ・青野流と同様、横歩を取った後に飛を引かず、▲6八玉〜▲3六歩〜▲3七桂で速攻を狙ってくる。 ・玉の位置が一つ違うだけだが、展開が大きく変わってくる。 ・後手の対策は、大きく分けて2つ。 −△7六飛と横歩を取るか、△4一玉〜△4二銀〜△2二歩と局面を収めにかかるか。〔右図〕 −青野流(▲5八玉型)と違い、勇気流では▲7八金に玉で紐を付けているので、△7六飛のタイミングで先手は青野流とは違う手を選べる。 −ただし、△7六飛に▲3六歩から速攻を狙ってもなかなか上手くいかない。▲8四飛の方が有力。後手は穏やかな展開にできれば満足。 ・勇気流で先手が▲3六飛から持久戦に切り替えようとすると、▲6八玉型がたたる。 |
第3章は、「先手持久戦」。 先手が横歩を取った後、▲3六飛と引いて持久戦を目指す指し方。 ・先手は1歩得を主張して、なるべくゆっくりとした戦いに持ち込もうとする。 ・後手は歩損の代償に駒組みの先行を目指す。 (1)先手▲5八玉型 ・従来からあるメジャーな指し方の一つ。 ・最初から△5二玉と上がれば、第1章第2節で△4一玉〜△5二玉と立て直す形よりも1手得をしている。 ・▲3八金〜▲4八金の中住まい金開きに対しては、△8四飛の横利きを保ったまま両端を一つずつ突いて様子を見る。 −▲7七角には△同角成▲同桂△3三桂と活用し、先手に動かれる前に△7五歩〜△5四角と桂頭を狙おう。 −▲7五歩とヒネリ飛車模様には、▲8六歩を見てから△9三桂が良い。 ・いきなり△8八角成〜△3三桂〔右図〕も面白い。左銀をズンズン前進させて、逆棒銀の要領で先手の飛を圧迫する。 |
(2)先手▲6八玉型 ・▲6八玉型も従来からある作戦。 −本書では、後手にとって新しい指し方を見ていく。 ・▲3八金は▲6八玉型とのバランスが良くない。先手は▲4八銀と使う。 ・先手が飛の横利きを止めず、▲1六歩〜▲1七桂と活用してくるなら、△2三歩と受けるのが手堅い。 −(※以前の横歩取りでは、後手は持ち歩2枚をキープするように指していたが、現在は考え方が変わってきている。) −続いて▲3六飛〜▲2五桂!と桂捨てで攻めてくるが、何とか受け止められるようだ。 ・先に中原囲いを作ってくる場合は、△8五飛と一つ浮くのが有力。▲1七桂に△3五飛!で、先ほどの▲3六飛〜▲2五桂の仕掛けを防ぐ。 ・△8八角成〜△4四角〔右図〕が比較的新しい指し方。 −▲2八飛と引けば、飛先を連打して押さえ、△8八角成(銀を入手)〜△2七銀で飛を捕獲するのが直接の狙い。 −なので、▲3六飛と横によけるが、△2三銀と繰り出して飛を圧迫していくのが後手の構想となる。 |
〔総評〕 ▲青野流の猛威により、2020年度はプロ公式戦での横歩取りが少なく、横歩取りファンにとっては寂しい年度だったが、上記レビューで図示したような戦い方が発見されて少しずつ息を吹き返しており、まだまだ横歩取りが消えることはなさそうだ。 ただし、かつての△8五飛戦法の頃のような「歩損の代償に後手が先攻」とか、2010年代に流行した「△2四飛と飛交換を迫る」といった戦い方はしづらくなっており、横歩取り党は考え方をアップデートしなければならないことが、本書を読んでよく分かる。 特に、青野流を抑えるために「△4一玉〜△4二銀〜△2二歩」と打ってしまう戦い方は、従来の「横歩取り後手番は持ち歩2枚を維持」という考え方には反しているが、ここを取り入れないと現代の横歩取りでは戦っていけないことが理解できた。 今後も横歩取りをレパートリーにしたい人は、先手番・後手番に関わらず、必修の一冊といえるだろう。 (2020Mar14) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認): p45下段 ×「バラバラの先手陣はまとめにくい」 ○「バラバラの先手陣はまとめにくい。」(句点がない) p163上段 ×「第19図以下の指し手A」 ○「第19図以下の指し手B」 p247上段棋譜 ×「△4二銀 ▲3六歩 △4一玉」 ○「▲3六歩 △4一玉」 ※前ページですでに△4二銀が指されている。 |