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■居飛車の全戦型に対応 なんでも右玉

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居飛車の全戦型に対応 なんでも右玉
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マイナビ将棋BOOKS
居飛車の全戦型に対応 なんでも右玉
[総合評価]
A

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A+
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段者向き

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【著 者】 北島忠雄
【出版社】 マイナビ出版
発行:2021年1月 ISBN:978-4-8399-7420-6
定価:1,804円(10%税込) 280ページ/19cm


【本の内容】
第1章 矢倉編 ・矢倉編
・▲2五歩型
・▲6七歩型
・矢倉中住まい
・△3三角型
102p
第2章 角換わり編 ・角換わり編
・後手△4二銀型
・対棒銀戦法
・対▲4五桂急戦
・一手損角換わり右玉対棒銀
・一手損角換わり右玉対早繰り銀
100p
第3章 △4四歩型 ・△4四歩型
・角交換型
・▲3七銀急戦
・対右四間飛車
50p
第4章 相掛かり編 ・相掛かり編
・▲5八玉型
21p

・【コラム】 金柑の木

◆内容紹介
右玉という戦法は力戦のイメージがありますが、実は矢倉でも角換わりでも相掛かりでも同じような駒組みで戦うことができる万能戦法でもあります。ということは、これさえ覚えれば居飛車は全部OK!

一手一手に緊張しながらの駒組みはもういらない。右玉で相手の得意戦法をのんびり受け流して勝ちましょう!


【レビュー】
居飛車での右玉戦法の戦術書。

右玉は、かつてはやや消極的な作戦とみられていたこともあるが、バランス優勢の現代では評価が高まり、多くの戦型で見られる形になってきている。中でも、相居飛車では横歩取り以外のほとんどの戦型で右玉を選ぶことが可能になっている。

本書は、相居飛車での右玉戦法について、できるだけ多くの戦型で進行例を示した本である。


本書の方針を「まえがき」「あとがき」から抜粋すると、以下のようになっている。

・「あらゆる戦型を右玉で迎え撃つ」が本書のコンセプト。ただし、ページ数の都合で、相居飛車のみ。(対振り右玉は別の機会に)
・右玉は自分のペースで戦える。序盤で研究にハマって負けることは少ない。
・囲いは薄いので受けの力は必要。
・本書では右玉は後手番。(ただし先手で右玉を指しても大丈夫)
・プロが参考にするような高度な定跡ではなく、アマが読んで分かりやすい内容を心掛けた。
・プロの右玉はカウンター狙いが多いが、本書では右玉ができるだけ先行する形を目指した。
・AIの検討は行わず、棋士の感性を基準にして形勢判断を行っている。


各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。



第1章は、「矢倉編」

●矢倉編
まずは、先手が序盤で飛先を急がない形の矢倉に対する、△右玉。

・△6四歩〜△6三銀が右玉の基本形。
・飛先交換は許容する。代わりに、角道を止めないでおく。
・チャンスがあれば、積極的に△6五歩から仕掛けていく。
−玉型は薄くても、上部の厚みを意識しておく。
−仕掛けの是非はしっかり読んでおく。後手番右玉なら、先手が仕掛けに苦労するなら満足とする。



●▲2五歩型
矢倉での最近の主流は、後手の急戦策を限定させるために▲2五歩を早く決める。

・後手は、米長流急戦矢倉の含みを持たせた構えから、右玉に組む。
・▲3七銀〜▲4六銀には、後手はゆっくりしていられないので、△4四銀〜△5五歩と仕掛けていく。
・先手の3筋歩交換から▲6八角は、平凡ながら右玉にとっては強敵。次に▲3八飛で、金取りの受け方が悩ましい。
−△3五歩〜△3三金〜△3四金で局面を収め、自陣を整備しよう。



●▲6七歩型
先手が早めに▲2五歩を決める指し方に対し、△3三角と受けた場合に、先手が▲6七歩型で速攻を狙う。

・▲6七歩型は、6筋で歩がぶつからない。半面、△6五桂と跳ねられやすい。
・先手の仕掛け方は、(1)▲3五歩△同歩▲4六銀、(2)▲2六銀〜▲2四歩、(3)▲2六銀〜▲3五歩、の3通り。



●矢倉中住まい
互いに矢倉を構築するが、後手は居玉のまま駒組みを進め、先手の駒組みに応じて中住まいに構える。厳密には右玉ではないが、思想的には共通している。



●△3三角型
矢倉模様で、先手が早めに▲2五歩と伸ばしてきたときに△3三角と飛先交換を防ぐ形。

・後手は、右玉を視野にツノ銀雁木にしておくのが一例。
−この形なら、先手が引き角から角交換してきても、自陣は角打ちに強い。
−先手が2筋歩交換(+角交換)をせず、角を目標に攻めてくるパターンはバリエーションが多い。
(1)▲3七銀〜▲3五歩△同歩▲同角、
(2)▲3七銀〜▲2六銀△4五歩▲2四歩、
(3)▲3七銀〜▲2六銀△4五歩▲3五歩、
(4)▲3七銀〜▲4六銀、
(5)▲3七銀〜▲3五歩△同歩▲4六銀、
(6)▲4六角〜▲3七角〜▲5七銀、
(7)▲4六歩〜▲4七銀〜▲3八飛〜▲3五歩、など。



第2章は、「角換わり編」
角換わりの右玉は、矢倉右玉と比較するとやや受け身になりやすい。
−本書では、できる限り右玉からの攻め筋を盛り込んで解説する。

●角換わり編
・先手の陣形は、従来型の▲5八玉型と、新型の▲4八金-2九飛型がある。
・角換わりの右玉は、△8五歩と飛先の歩が伸びているので、8四がキズになりやすいことに注意。
・△4四銀と積極攻勢を採るのが有力。右玉の△3三銀は攻め駒である。
・▲4五歩位取り(▲4六角型)で△4四銀を防いでくるなら、△4四歩と反発する指し方と、先手の仕掛けが難しいことを見据えて後手が「一人千日手」で待機する指し方がある。
−後手の「一人千日手」に対しては、先手が右金を上がって攻勢を目指すか、右金を玉に寄せて固めるか。
・△4二銀と引くのもある。
−▲8八玉と▲6七銀を指させた瞬間が△4二銀のタイミング。▲8八玉まで囲わせて、攻撃を有効にしたい。
−銀が攻撃に参加しないので、強力な攻めにはならない。飛角桂歩で細かくポイントを稼ぐ。
・先手の地下鉄飛車には注意。▲6七金左を見たら、警戒しよう。右玉側の有力手は複数ある。
−地下鉄飛車になりそうなら、右玉を左辺に引っ越すのも一案。
−上級者同士の駆け引きでは、地下鉄飛車を警戒した△5四銀−△6三金に反応して、先手が通常形に戻すこともある。
・先手が矢倉の形から、▲6八銀〜▲6七銀とツノ銀型に組み替える手もある。
−後手は飛先交換ができるが、金冠にされると後手から攻めにくい。(近年は金冠の評価が高まっている)
 先手だけ地下鉄飛車から仕掛けの権利がありそう。
−先手の駒組みが完成する前に、後手から仕掛ける展開に持ち込みたい。
 5筋の位が取れるなら、△5四角型が有力。
 5筋位取りを阻止されたら、まず5筋をつっかけておこう。▲4五歩と銀を追い返されるが、5筋の回収は後でできる。



●後手△4二銀型
・先手が▲2五歩を保留する場合に、面白い指し方。
・後手から角交換せず、△4二銀と変化して、先手から▲2二角成△同金とさせる。
・△2二金型のまま駒組みを進める。直接咎められることはない。
・2筋の歩は交換させても構わない。
・狙いの一つは、△3一飛。△2二金型なので、先手陣を直ににらめる。
・駒組みの途中で△3二金と戻れば通常形にもどることもできる。



●対棒銀戦法
▲棒銀に対して、よくある定跡型ではなく、右玉を視野に入れた指し方を解説。(※作戦としての右玉ではない)

・▲1五銀の進出を許すと右玉とは異なる将棋になるので、△1四歩と受けておく。
・先手の攻め筋は、▲1六歩からの端攻めか、▲3六歩からの攻めか。
・▲1六歩には、あらかじめ▲4四銀と上がって、端を突破されても△3三桂と逃げられるようにしておくのが本書の推奨順。
−左辺を重く攻めさせて、玉を右にかわす焦土戦術を採る。
・▲3六歩は、3筋で歩が交換されたあと▲3七銀と銀を立て直しに来るので、△4三銀と引き締めておく。
−2筋の歩交換は許容し、先手の銀が働く前に後手は攻めの態勢を整える。




●対▲4五桂急戦
先手が早い段階で▲4五桂と跳ねてくる急戦策。

・△6二銀〜△5二金と、中央を厚くして早期の桂跳ねを警戒しておく。
・△6三銀の瞬間は後手の守備力が下がる。△7四歩〜△6三銀が推奨手順。
・単に▲4五桂跳ねは無理攻めだが、ちゃんと受け方を知っておかないと怖い順。特に▲7一角の対応をマスターしておこう。(p173)
・先手が陣形整備に手をかけるなら、△6二玉と右玉にしておけば▲7一角がなくなり、▲4五桂の仕掛け筋は恐くなくなる。
・3筋に付き捨てを入れて▲4五桂は、△2二銀は危険。△4四銀が安定するが、歩で桂を取れないので、玉型を慎重に整えよう。
−△6二玉まで囲えれば安定するので、△3三桂とぶつけていこう。



●一手損角換わり右玉対棒銀
6手目角交換の△一手損角換わりで、先手が棒銀で急戦を仕掛けるパターン。

・棒銀の1筋進出を△1四歩で阻止する。
・ノーマル角換わりの対棒銀(p166)と違い、後手の手は遅れている。
−後手は四間飛車で棒銀を受け、▲3七銀と引いたときは△3三金と2筋歩交換を阻止しておく。
−金の力で棒銀を受け止めて持久戦に持ち込めば、手損の影響はなくなり、右玉が十分力を出せる展開が望める。
・後手は右玉を狙うが、すぐに第二波攻撃がない先手は穴熊を狙ってくる。
−スムーズに穴熊に組ませると、右玉が勝ちにくい。
−藤井システムのイメージで、先手の穴熊を牽制しよう。
−ただし、先手が矢倉でも堅さの差は大きい。後手は丁寧な指し回しが必要だ。



●一手損角換わり右玉対早繰り銀
6手目角交換の△一手損角換わりで、先手が早繰り銀で急戦を仕掛けるパターン。

・一手損角換わりでは、早繰り銀に対して8筋の継ぎ歩攻めは狙いにくい。腰掛け銀から銀矢倉の形で先手の早繰り銀の出足を止める。
・後手は陣形が整うまでは戦いを避ける方針を貫く。



第3章は、「△4四歩型」

●△4四歩型
後手が4手目に△4四歩と角道を止め、居飛車か振り飛車かの態度をはっきりさせず、右玉を狙う。

・▲7八玉型なら、上部の攻めの当たりが強い。
−後手は2筋を△3三角と受けず、ムダな手を省いて速攻を目指す。
・先手は▲7九玉型左美濃を選ぶこともできる。後手から先攻するのは難しい。
−ただし、先手は堅陣だが攻撃力は高くない。後手は低い陣形を維持して、先手に仕掛けを与えないように進める。
−先手に銀冠に組ませないように注意。銀冠は右玉の天敵である。
−後手から端攻めを狙うときは、まずは右玉から中住まいへ引っ越して、戦場から遠ざかっておくこと。
−歩が入手できたら、端攻めに着手しよう。



●角交換型
先手が早く▲2五歩を決めて△3三角と受けさせ、後に▲2四歩から角交換する指し方。

・角交換型の右玉はじっくりした展開になりやすい。好形を維持して仕掛けのチャンスを探る。
・先手が矢倉からすんなり穴熊に組まれると後手不満。6筋の位が取れても、穴熊に対しては響きが弱い。
・後手はツノ銀雁木から左玉に構えるのが有力。左玉なら△6五歩と仕掛けやすい。(もはや右玉ではないが、状況に合わせて玉を移動するのは右玉の常)



●▲3七銀急戦
後手が△4四歩と角道を止めて右玉を目指す手に対し、先手が▲3七銀から急戦を仕掛ける。

・先手は自陣の整備を最小限にして仕掛けてくる。
・この展開では、後手は右玉に囲う余裕はない。(もはや右玉ではないが、避けては通れない作戦)
・チャンスがあれば、袖飛車から先手の玉頭を狙おう。



●対右四間飛車
後手の右玉に対し、先手が右四間飛車で急戦に来る。△4四歩を突いて4筋に争点があるので、この仕掛けは常にある。

・後手は△6二銀型で待機しておく。展開によって△5三銀と△6三銀を使い分けよう。
・右玉の含みを残すため、玉の移動を保留して、ギリギリまで居玉で頑張りたい。
−先手がすぐに仕掛けてきたときは、右玉に囲うヒマはない。
−先手が▲6六歩と突けば持久戦。右玉にできる。後手から先攻は難しいので、千日手をちらつかせよう。
・後手の右玉に先手が反応し、陣形を立て直して、右四間から地下鉄飛車へのシフトがある。
−地下鉄飛車の予感がしたら、あらかじめ玉の引っ越しをしておこう。



第4章は、「相掛かり編」

●相掛かり編
近年の相掛かりは、飛先の交換を急がず、互いに低い陣形で空中戦が行われることが多いが、じっくりした腰掛け銀模様になれば右玉を選べる。

・途中で角交換になる。
・相掛かりで、互いに飛先の歩を切っているので、△3三銀型は必要ない。△5三銀型を目指そう。
・▲4五銀と攻めてきたら、すかさず△6五歩と仕掛けてカウンターを取ろう。
・先手が4筋位取りから▲4六角と設置する作戦には、後手も△2二角と自陣角を設置して攻めを目指す。



●▲5八玉型
近年流行している形の一つ。飛先の交換を急がず、右銀を上がり合って、▲5八玉と構える。
(※▲6八玉型や、1筋・9筋の端歩を先に指すのもあり、組み合わせが非常に多い。)

・▲5八玉型は、後手の指し方を見ながら攻撃陣を整えていく柔軟性がある。
・先手が3七銀戦法に出たとき、後手が腰掛け銀で対抗するのが昔からよくある形だが、△7四歩〜△7三桂が増田康宏流の新作戦。
−△7二金-△6二玉型の右玉で先手の攻めを迎え撃つ。



〔総評〕
本書ではさまざまな戦型で右玉の進行例を示している。右玉は手将棋模様になりやすい戦型なので、本書で多くの解説で「○○も一局」という表現が使われており、「定跡書」として暗記する類のものではない。どちらかといえば、さまざまな進行例を追って、右玉の感覚やカウンターのタイミング、特有の手筋や良い形を学んでいくのに適した本だと思う。

そういう意味では、本書は非常に多くの例を見られるので、「右玉の指し方がよく分からない」という人だけでなく、「右玉に対してどう指したらよいか分からない」という人にも、大いに参考になるだろう。

(2021Mar05)



【関連書籍】

[ジャンル] ユニーク戦法
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 北島忠雄
[発行年] 2021年

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