級位者が初段を目指すための本。『将棋「初段になれるかな」会議』(以下『初段会議』)の続編。
今回も、「初心者以上、有段者未満の人のための本」で、ターゲットは同じ。ルールはちゃんと理解できていて、囲いや戦型も代表的なものなら分かり、ネット対戦もやっているが、なかなか初段になれない人が壁を突破するための本となる。
基本的な進行は、以下の3人で鼎談形式で話しながら、初段になるための勉強法やコツを伝授していく。
・指南役=高野秀行六段(プロ)
・聞き手役=さくらはな。(5年かけて初段)、岡部敬史(将棋ウォーズ3級)
本書では、細かい手順ではなく、だいたいで指せるような「最低限のポイント」を目指す。また、前回の『将棋「初段になれるかな」会議』(以下『初段会議』)を読んでいなくてもOKとされている。
各章の内容を簡単に紹介していこう。
第一章 |
いきなりの攻めと変な戦法にどう対処するのか? |
・本章では、いきなりの攻め、見慣れない戦法に対応するためのコツを学ぶ。
−「プロでもいきなり棒銀」は、この場合は対△ゴキゲン中飛車の▲超速3七銀のこと。(この対処方法は本章では触れない)
−特にアマ級位者でよく見かける戦法の対処方法を3つ解説する。
・1つ目の題材は[△四間飛車に▲居玉棒銀]。とにかく棒銀を5段目に出させないこと。そのため、「▲3五歩を△同歩と取らない」、「戦いの起こる筋に飛を回る」、「角を引いて銀にヒモを付ける」を覚える。
・2つ目の題材は[矢倉崩し]。相手の陣形を見ずに一目散に矢倉に入城すると、居角の右四間で一丁上がり。本書の推奨は、「矢倉にするなら5手目▲7七銀」、「6筋の歩は突かない」、「2筋の歩を伸ばして相手の角頭を受けさせる」といったもの。(※有段者になったら、もう少し細かい駒組みの知識は必要でしょう)
・3つ目の題材は、[(3手目角交換からの)筋違い角]。苦手な人が多いやつ。「盤面の馬と手持ちの角が同じくらいの価値」と知れば大丈夫。名(?)格言「級位者の自陣角に好手なし」。居飛車で行くか、振り飛車にするかはまず決めよう。振り飛車にする場合の推奨手順は、本章の最後の方に書かれている。
−わたしのときの「お困り戦法」は「早石田」だったんですが、最近の人はあまり困ってないのかな…?
・本章では、「詰めろ」を解除するための受けを練習していく。
・初段を目指すのなら、受けを徹底的に練習する必要はない。
・「受け」に分かりやすい方法論がある訳ではないが、最低限知っておいた方がいいポイントはある。
−横に利く駒(飛・金)は受けに強い。
−玉は上に逃げるほど、捕まえるための駒がたくさん必要になる。
−あとはとにかく読む!
−「合駒請求」で、相手の持駒を使わせて詰めろを解除するという方法も覚えておこう。
第三章 |
銀交換はどれくらい得?〜知っておくと強くなる考え方〜 |
・『初段会議』を読んで、桂を跳ねないという方針にしたら初段になれた人がいる。(桂は攻めで使うのは難しいので、「最後に桂」と指南していた)
・本章では、そのほかの「級位者が知っておくと強くなる考え方」を検討していく。
・(級位者同士では)「攻めの銀と守りの銀の交換」は、それ自体は大した得ではない!
−銀交換で攻め筋は増えるので、そのあとの攻め筋を知っていることの方が大事。
・攻める時は、盤上の駒を清算してしまわずに、種駒(攻めの手がかり)を残すことを意識する。
・逆に、受ける時は、多少駒損しても(銀桂交換など)相手の種駒を残さないようにすると「すっきりさせる」ことができる。
・相手の駒(タタキの歩など)を取る/取らないの判断は難しく、読むしかない。
−ただし、ちょっと強くなってきたときの「受け過ぎ」には注意。
−歩で攻められているときは受からないので、どこかで諦めて攻めに転じるのが良い。
第四章 |
持ち駒は小さいほうから使う〜初段になった人へのアンケートから〜 |
・プロだと、「アマ初段の壁」が分からない人が多い(自分は簡単に突破してしまった)ので、実際にアマ初段になった人(初段〜四段)にアンケート。
−項目は、
○[現在の棋力](+道場名)
○[本格的に勉強してから初段になるまでの年月]
○[得意な戦法]
○[なぜ将棋を強くなろうと思ったか]
○[心がけてた信条や格言、考え方]
○[棋力アップのきっかけや発見]
○[将棋の勉強法とその時間]
○[おすすめの棋書]
○[初段を目指す方へのアドバイス]。
−アンケートは計22通。そのうち3通は、章末に全文が掲載されている。リアルな「こうして初段になりました」の生の声は貴重。
⇒人によって、「目覚めた瞬間」とか「そこまでの道筋」って違うんだなー。
⇒22通といわず、もし次回があるなら数百人規模でやってもらえると嬉しいなー。いろんな人の声から、自分に合った方法を見つけるのもすごく良いと思うし、プロやアマ高段者、指導者が書いた上達法はいくつもあるけど、「初段になった人」が書いた上達法は少ないし、初段になる方法はいろいろあるはずなので、たくさんの人の声を聴いて、共通の部分、汎用性の高い部分、人それぞれの部分をもっともっと見せてほしいです。
・期間は、1〜2年で初段の人と、4〜5年かかる人に分かれる。
・仲間がいるとモチベーションを得やすい。
・戦法は振り飛車がオススメ(攻めと守りが分かりやすい)だが、好きな戦法でよい。
・自分なりの戦い方のポリシーを決める。
−「戦いを起こす前に囲う」、「持駒は小さい方から使う」、「攻めるは守るなり」、「狙いが複数ある手を心掛ける」、など。
・支持が高かった棋書は『【新版】3手詰ハンドブック』、『寄せの手筋200』。
・いくつか例題を挙げて「詰めろ」や「必至」の解説をしていく。
・「詰めろ」は、勝率を上げるためにとても大切な考え方。
−偶然できた詰みを読み切るよりも、自分で考えた「次に詰み」の局面を意識したい。
−初段を目指す人は、難しい詰みがある局面でも、確実な詰めろをかけるようにしよう。「頭金」になる詰めろを推奨。
−見覚えのある必至筋に合流させることができればさらによい。
⇒興味が湧いたら 必至問題集の本
をどうぞ。
・子ども教室で初段になれるのはわずか2%(!)
−6級の壁: 数の攻めが理解できるか。棒銀で敵陣が突破できる理屈が分かるか。玉の囲いができるか。これで「学校最強」レベル。
−3級の壁: 歩の手筋、「詰めろ」、3手詰めなど。ここまでで、すでに10%まで絞られる。地域のこども大会で優勝争い。
・『初段会議』で真っ先に挙げられていた「級位者が覚えるべき10の格言」は、特に汎用性の高いもの。本章でおさらい。
−特に「最後に桂」は、一般的な格言ではなく、「初段を目指す人のための格言」。第三章ではこれを意識したら初段を突破できた人がいた。
・それに加えて、本書で「級位者が覚えるべき新しい8つの格言」を追加。
−基本的には、本書で説明してきたことをひと言でまとめたものになる。
−「歩を支えに打ち込まれた駒はすぐには取らない」は、結構即効性がありそう。
−級位者は自分の持駒を見ていない人が多い。持駒をきれいに並べるように癖を付けよう。
●「アトガキ」は、さくらはな。の漫画で、出版元の扶桑社将棋部の職団戦奮闘記。
−「負け褒め」作戦っていうのがあるんですねー。
〔総評〕
本書は、「初段まであと一歩の人が、初段まで到達するための本」で、『将棋「初段になれるかな」会議』の続きとなる。前作『初段会議』のおさらいを交えながら、前作で書ききれなかったことの追記や、実際に初段になった人へのアンケートなど新しい内容が加えられている。
「前作を読んでいなくてもOK」とあるものの、本書には書かれていないこともあるし、本書と前作の両方に書かれていることは大事なことなので、推奨としては前作を読んでから本作を読んだ方が良い。
今作に書かれていることも、初段を目指す人にとっては相当に参考になることは間違いない。ただ、『大会議』かと言われると、ちょっと違うような…。メンバーは3人で前回と同じだし、新しい内容は実感として6〜7割なので、実質的にボリュームダウンしており、イメージ的には『感想戦』『延長戦』とか、『分科会』『定例会』という感じ。なのに値段は跳ね上がっているのが痛い。
ちょっと厳しめですが、評価Bとしました。個人的には、「初段になった人へのアンケート」をもっと深掘りしてくれると、かなり貴い本になったんじゃないかと思います。次に期待します。
誤字・誤植等(電子版で確認、Ver不明(2020/09/23にダウンロード)):
No.143 ×「後手が3八飛と回ったので、先手は3四歩。」 ○「後手が3二飛と回ったので、先手は3四歩。」
No.180 ?「6筋の歩を突く自然な攻めだけで、ここ でつらくなるんですね」 「ここ 」がちょっとハッキリしない。
No.471 ×「けっこう得してるんじゃないでしょ
うか」(不要なスペースが入っている) ○「けっこう得してるんじゃないでしょうか」
No.1269 ×「正解なんで す」(不要なスペースが入っている) ○「正解なんです」
No.1417 ×「1972 年」(不要なスペースが入っている) ○「1972年」 (※2ヶ所)
No.1427奥付 ×「将棋「初段になれるかな」会議」 ○「将棋「初段になれるかな」大会議」
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