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マイナビ将棋BOOKS よくわかる雁木 |
[総合評価] B 難易度:★★★ 〜★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)B+(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜有段者向き |
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【著 者】 伊藤真吾 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年3月 | ISBN:978-4-8399-7243-1 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)人狼ゲーム (2)書道 (3)YouTube (4)食事 (5)スタンプラリー (6)散歩 (7)Mリーグ |
【レビュー】 |
雁木の戦術書。 新型雁木が登場して、雁木という陣形の評価はずいぶんと変わり、いまや相居飛車の第5の選択肢として立派な地位を築いている。また、矢倉模様や角換わり模様からの変化もできるため、角交換の有無も含めて、雁木という戦型自体が非常に多岐にわたっており、なかなか定跡が定まってこない状態といえる。 そのため、雁木を指しこなすのが易しいようで難しくなっているが、その雁木をできるだけ分かりやすく解説しようとしたのが本書である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「先手矢倉VS後手雁木急戦」。 ・先手の▲矢倉早囲いに対して、後手が△雁木から急戦を仕掛ける戦い。 ・雁木は角筋を通しやすいので、相手が無策に矢倉に入城してきたときは、角筋を生かした攻めが炸裂しやすい。 ・矢倉に入城せず、早囲い▲7八玉型で留めても、△5四銀右からの6筋攻めが効果的。 ・▲4六角の牽制が有力で、△雁木側も簡単ではないが、基本的に△雁木が攻勢を採ることができる。 |
第2章は、「角換わり封じの△4四歩止め雁木」。 ・角換わり模様の出だしから、後手が△4四歩と角道を止めて、角交換を拒否し、雁木を目指す。 ・本章では、先手が腰掛け銀+▲7九玉+▲4八金型で仕掛けを狙う形。いい勝負。 |
第3章は、「相雁木」。 ・角換わり模様から、今度は先手が角道を止めて雁木を目指す。双方が雁木を有力と見ていれば、相雁木になる。 ・先後ともに新型雁木(▲4七銀型)を目指すと、先手の動きが難しい。 ・ただし分岐は多く、本章の展開はホンの一例。 |
第4章は、「相雁木右玉」。 ・本章も相雁木だが、第3章と違い、矢倉の出だしから、先手が雁木を目指す形。 ・後手も矢倉では△3三銀を形で狙われて面白くないと見れば、やはり双方が新型雁木を目指すことになる。 ・そして、新型雁木と相性が良い右玉の評価も上がっており、双方が右玉を目指す「相右玉」が現れるようになった。 ・互いに有力な攻め筋として、地下鉄飛車からの端攻めがある。ただし、右玉は玉の引越も視野に入るので、戦いの場所は柔軟に考えるべき。(地下鉄飛車にこだわりすぎない) |
第5章は、「4手目△4四歩型雁木」。 ・後手が4手目△4四歩から、振り飛車の含みを残しつつ、先手の駒組みの様子を見ながら雁木を目指す作戦。 ・先手は左美濃+早繰り銀が有力。 |
第6章は、「▲5七銀型雁木VS後手腰掛け銀型 ・矢倉模様の出だしから、先手がすぐに雁木を目指すのに対して、後手が腰掛け銀+右四間の攻めを狙う。後手の陣形は△3一玉型左美濃が相性が良い。 ・先手は▲5七銀型雁木(旧型雁木)で受け止めるのが手堅い。 |
第7章は、「▲8八銀型−△4四歩型」。 ・▲8八銀型は、カベ銀で悪形だが、角のラインに強いので、カウンターを恐れずに攻めることができる。 ・相振り飛車での金無双に近いイメージか。 |
第8章は、「▲5六銀型左美濃VS△5三銀型雁木」。 ・後手の雁木模様に対し、先手が▲7九玉型左美濃+腰掛け銀の攻撃形を採用する。 ・後手は狙われている4筋を厚くするため、△5三銀型雁木(旧型雁木)にする。 ・第6章の先後をひっくり返したイメージ。 ・先手が飛先を受けるかどうかは分岐点。 ・飛先を受けずに、他の場所でリードしようというのも考え方の一つ。 ・後手も飛先歩交換を後回しにする手もある。 ・▲6六角型で仕掛けるのが比較的新しい形。仕掛け後に角交換になったとき、先手の玉型が乱れない。 ・後手も固めて待つのが有力策。先手の攻めは単調なので、カウンターを楽しみにする。 |
【総評】 雁木にはバリエーションがいくつかあって、かつては消極的とされていた形も見直しが進んでおり、いろいろな考え方が交錯する。 本書では、雁木側の攻めが比較的気持ちよく決まる形から、プロ同士の緻密なやり取りまで、様々な形が提示されているので、雁木の戦いをいろいろ見ることができた。実戦ではなかなか本書と同一局面にならないとしても、類型をいくつも見られることで、雁木という戦型の理解は進むことだろう。 ただし、「よくわかる」「とにかく易しく徹底解説」を標榜している割には、「雁木という戦型での考え方」や「雁木戦での頻出の攻め方、受け方」、「雁木囲いの長所・短所・急所」などについては特にまとまりがないのはちょっと残念。個人的な希望を言えば、自戦記と実戦次の一手のページを、考え方・頻出手筋や、棋譜解説(解説はシンプルにして、棋譜を多めに)に回してくれていれば、Aにしたと思う。 なお、ちょっと大きめの誤植(下記参照)が多いのもマイナスポイント。総合評価にはギリギリ影響しなかったが、Cになるおそれすらあった。(2020May03) |
※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p26 ×「第11図以下の指し手A」 ○「第11図以下の指し手B」 p51上段 ×「先手の応手が難しい ▲同銀には…」 ○「先手の応手が難しい。▲同銀には…」 ※句点が抜けている。 p80上段 ×「意外と受けづらい」 ○「意外と受けづらい。」 ※句点がない。 p88上段 ×「▲同角として歩の入手に成功した。…」 ※文章のつながりが不明。改良案「△3五同歩なら▲同角で、歩の入手に成功する。…」 p149上段〜下段 ×「▲3四飛(参考図)まで進むと…」 ○「▲3四飛まで進むと…」 ※参考図がない。 p182上段 ×「▲6五同歩には…」 ○「▲同歩には…」or「▲7五同歩には…」 ※また、2020年4月25日の「将棋情報局編集部」@mynavi_shogiのツイートによれば、以下の誤植・修正がある。 p4(目次)、p113〜p119の柱 ×「後手腰掛け銀型雁木」 ○「後手腰掛け銀型」 ※後手の陣形は雁木ではなく、△3一玉型左美濃。 p7下段 ×「先手にとって手堅い駒組みだ。▲6八銀型が速攻に対して耐久力がある。」 ○「先手にとって手堅い駒組みだ。」 ※先手はすでに▲6八銀型ではない。 p88上段〜下段 ※さきほど「文章のつながりが不明」と書いた箇所。 ×「▲同角として歩の入手に成功した。持ち駒の歩は1枚と0枚で大きな差がある。いかなる局面においてもお互いの歩の枚数は意識しておきたい。調子が良いようだが手番が後手に移るので怖い局面ではある。」 ○「前頁の▲4五同桂以下の変化を紹介する。△2二角には▲2四歩△同歩▲同角△3一玉に▲2三歩があり、△同金には▲4二角成の要領だ。よって▲4五同桂には△4四角とかわすのが最善で以下▲2四歩△同歩▲同角△3一玉のときに▲2三歩が空振り。また後手には△2六歩で飛車先を止めることが出来るため形勢は互角。」 |