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マイナビ将棋BOOKS 現代角換わりのすべて |
[総合評価] S 難易度:★★★★★ 図面:見開き6枚 内容:(質)A(量)S レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B+ 有段〜高段者向き |
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【著 者】 池永天志 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年12月 | ISBN:978-4-8399-7134-2 | |||
定価:2,024円(10%税込) | 352ページ/19cm |
【本の内容】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)雑記 (2)言葉 (3)教訓 (4)雨間(あまあい) |
【レビュー】 |
角換わり最前線を解説した本。 角換わりは、かつては「狭く、深く」で、一部の求道者が指すイメージだった。また、先手がかなり勝率が高い時代が長く、後手番を持つのは大変だった。 現在では、▲4八金-2九飛型(△6二金-8一飛型)が主流になったことで、テーマ局面が非常に広がりを見せており、プロの居飛車党の多くが参入する「ど真ん中の戦型」になっていて、棋譜中継でも毎日のように角換わりを見かける。また、先後の勝率もいい勝負になっており、かなり指し甲斐のある戦型になっているようだ。 それに伴い、角換わりの定跡も大きな変化を遂げた。あまりに複雑化していて、我々ファンが把握するのは大変な状況の中、現代角換わりを一冊にまとめたのが本書である。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「最新形への手引き」。 ・角換わりの出だし・駒組みは、この5年間で変わった。 −角交換後の△4二銀→△2二銀 (▲4五桂速攻への対策) −角交換前の▲8八銀→▲6八銀 (後手が角道を止めて雁木にしたときに、先攻しやすい) −2筋の歩を保留→▲2五歩まで突き越す (桂を4筋で使うなら、▲2五桂の余地は不要) −▲4八金-2九飛型が主流に (コンピュータの採用と、▲6八玉型での仕掛けが発見されたのが主因) ・▲4八金型の特徴 −△4四歩型には、▲4五歩△同歩▲同桂△4四銀▲4六歩が狙い筋。次に飛先交換がスムーズにできれば作戦勝ち。 −△4三歩型で、4筋に争点がない場合、▲3五歩△同歩▲4五桂が狙い筋。銀をどかして飛先交換がスムーズならやはり十分。 −角銀が持駒のとき、△4七銀の打ち込みから▲同金△3八角の飛金両取りを狙われる筋がある。 ・玉の位置は様々。入城する以外に、5八玉⇔6八玉の往復運動(主に後手)や、右玉もある。 ・早繰り銀と棒銀も、ずっと止まっていた進歩が動き始めた。 |
第1章は、「▲4八金 対 △6二金(▲2五歩型)」。「現代の先後同型」として、特に研究が活発で進んでいる形。本書でのメインテーマとなっており、最も多くのページが割かれている。 第1章第1節は、「基本図から▲6六歩」。 〔右図〕が2019年12月現在の角換わりの最重要局面。互いの陣形はほとんど同型で、後手が△4四歩と突けば完全同型になる。 この局面での後手の有力手は6つ。(本書では7つに分岐している) (1) △3一玉 ▲3五歩△同歩▲4五桂の仕掛けで、先手が指せる変化が多い。 (2) △6五歩 後手から先に仕掛ける。他に後手の有力手段があるので、現在はメジャーではないが、ダメではない。(※出版直前の2019年12月には、プロの実戦でときどき見かけたように思います) (3) △6三銀 後手が手損で待機し、▲8八玉の入城を待って△6五歩と仕掛ける。先手がそれを嫌うなら、▲7九玉型で先に▲4五桂と動く。 p58の仕掛け〔右図〕は、出版直前の2019年12月25日時点で実戦例9局。右桂を▲5三桂成と成り捨て、△同玉▲7四歩と入手した歩で桂を取り返す。以下△4四歩▲7三歩成△同金で、本書では▲2四歩。 2019年12月2日、順位戦A級、▲糸谷哲郎△羽生善治では、そこで▲4五歩。 2019年12月25日、順位戦A級、▲渡辺明△広瀬章人では、そこで▲6五歩。 ⇒本局面に限ったことではないが、どんどん新しい手が出ている。 (4) △6三銀〜△5二玉〜△4二玉 後手が徹底待機する作戦。△6三銀型で玉の往復運動を行う。7筋の桂頭攻めがない形(△6三銀が桂頭を守っている)だが、先手玉が入城してからの▲4五桂ポンが相当有力。 (5) △5二玉〜△4四歩〜△4一飛 △4四歩は4筋に争点ができるが、△4一飛と受けていくのが一連の構想。 ▲4五歩の仕掛けは後手も戦えそう。 ▲は陣形の形を変えて仕掛けを狙う。永瀬新手▲5八金は有力。 (6) △4四歩 △4四歩+△4一飛を両方指せれば後手の理想形。▲4五歩には△5二玉、▲8八玉には△3一玉で仕掛けを封じる。どちらの手を優先するかで展開が変わってくる。 △4四歩に先手が反発するなら、▲4五歩と仕掛ける。 (7) △4一飛 △4一飛を先にするのは豊島新手。4筋の争点がないので、先手が仕掛けるなら▲4五桂から。 |
第1章第2節は、「基本図から▲5六銀」。 ▲6六歩よりも▲5六銀を先にした場合、後手から△6五歩位取り作戦がある。「後手にとってなかなか有力な手段」(p110)とのこと。ゆっくりした展開になると、位の価値が大きくなりそうなので、先手は早めに動くことになる。 後手は、位を取らずに△5四銀と追随する手を選ぶことも可能。ただし、▲7九玉△3一玉▲6六歩に△4四歩と追随を続けるのは先手の仕掛けが成立しそうなので、△6五歩と先に仕掛けることになる。 先手は、▲6六歩を突かずに▲4五桂ポンも有力。△2二銀!の豊島新手を崩せるかどうか。 |
第1章第3節は、「△8二飛△6五歩型」。 後手陣は△6二金型だが、△8一飛を保留して△6五歩と位を取る。位を取れるうちに取ってしまおうという、後手の積極策。 |
第2章は、「▲4八金対△6二金(▲2六歩型)」。 先手が2筋の歩を保留する形。▲2五桂の余地がある。 旧型角換わりでは▲2六歩で保留して▲2五桂の余地を残しておくのは革新的な進化だったが、現在の角換わりでは▲4五桂と使いたいので、▲2六歩型の価値はやや低めに見積もられている。 本章では、▲2六歩型を生かした戦いを解説していくが、現状は▲2六歩型のメリットは大きくないとの認識が主流で、あっさり▲2五歩と突くことが多くなっている。 |
第3章は、「▲4八金対△7二金」。 通常は△6二金と上がるところを、あえて△7二金と上がる作戦。 △7二金の狙いの一つは、△6一飛の「右四間飛車」。もう一つの狙いは、時間差で△6二金と寄る「手損作戦」で、▲8八玉と入城させた方が後手の反撃の当たりが強まる意味がある。(※そのため、先手側も▲6八玉→▲6九玉→▲7九玉のように1手で行けるところを2手かけるなど、玉の位置を微妙に変えてポジション争いをする作戦を見かける) また、後手の手待ちは「△5二玉⇔△4二玉」と、「△6三銀⇔△5四銀」の2種類がある。それぞれ別の変化が生じてくる。 |
第4章は、「▲5八金対△6二金」。 先手が従来型の陣形で構える作戦。現在の流行は▲4八金型であるが、有力ではある。 特徴としては、「▲4八金▲2九飛型のような一段目の飛車は陣地の耐久度を上げるのに対し、(▲5八金型から派生した)▲4七金▲2八飛型のような二段目の飛車は、囲いの耐久度を挙げる効果がある」(p271)という違いが出てくる。 |
第5章は、「▲4八金対△5二金」。 第4章と陣形が先後逆になる。最近はほとんど指されてはいないが、有力ではある。 ただ、△5二金型での対抗はやや先手に分がありそう。△6三金型も後手に苦労が多い展開。 |
第6章は、「後手9筋不突き型」。 後手が中央での主導権を握ろうとして、△9四歩を省略する(▲9六歩と突かれても突き返さない)作戦。先手の仕掛けを牽制するか、後手からの先攻を狙う。 本章では、先手が9筋の位を取る展開を解説していく。 第6章第1節は、「▲2五歩型」。 先手が9筋の位を取ると、(端に手数をかけた分だけ中央方面の手が遅れるので)中央の主導権は後手が握ることになるが、終盤で端の位が生きることも多い。後手は位が生きないような戦いを目指していくことになる。 |
第6章第2節は、「▲2六歩型」。 2筋保留の一手を先手が駒組みに回せるので、▲2五歩型と比べると、後手が先攻するのは難しい。 |
第7章は、「後手早繰り銀&棒銀」。 後手が、守勢になりがちな腰掛け銀を避けて、攻勢の取れる早繰り銀or棒銀を採用することがある。 先手としては、▲2五歩型のときは「反撃の布陣をどう作るかがテーマ」(p289)。▲2六歩型の指し方は章末のp310で紹介する。 早繰り銀と棒銀の使い分けは、先手のが早繰り銀シフトの陣形を敷くかどうかによる。先手の陣形によっては早繰り銀(△6四銀)は上がりづらく、棒銀(△8四銀)との使い分けが必要になる。 先手が最善の陣形(p307)を採ると、棒銀にスイッチしても後手がやや指しづらいようだ。棒銀の進出を防ぐ▲9六歩が省略できることが発見されたのが大きい。 |
第8章は、「先手早繰り銀&棒銀」。 後手番でそれなりに有力なら、先手番ではどうか。後手番のときよりも一手早いことを生かせるかどうか。 昔からある作戦だが、陣形に対する考え方が変わってきたことで、復活してきている。 また、△一手損角換わりでの▲早繰り銀で先手が戦えたため、さらに一手早い(純正)角換わり▲早繰り銀が注目されている。 早繰り銀の仕掛けタイミングは、▲7九玉-▲6九金型がベスト(p323)とのことだ。 |
第9章は、「相早繰り銀」。 角換わり三すくみの法則で、「腰掛け銀>早繰り銀」のはずだったが、最近は腰掛け銀で対抗するのも簡単でなくなってきた。 そこで、相早繰り銀の見直しが始まっている。 昔の本(1980年代くらい)にあった「▲1一角成までで、△8七歩成としても▲同金△同飛成▲8八香で龍を殺して先手良しの定跡」は、事前工作を入れた妙手が見つかり、覆されている。(p336) また、早繰り銀では、2四で銀交換したときの王手飛車(△1五角)を避ける手が何か必要で、従来は▲1六歩や▲6八玉があったが、近年は▲5八玉型が流行している。(昔の本にはほぼ載っていなかった) |
〔総評〕 テーマ、質・量ともに、あの『角換わり腰掛け銀研究』(1994)を髣髴とさせる。 第1章〜第6章の「腰掛け銀編」は、現在プロの居飛車党のど真ん中で指されている将棋で、非常に難解。多くのテーマ局面があり、先後ほぼ互角で戦えているため、簡単には結論が出そうにはない。本書でも、さまざまなテーマ局面で仕掛けからの有力そうな展開を途中まで示していることがほとんど。プロの実戦ではどんどん新しい工夫や組み合わせが出てくるので、途中からは本書に載っていない形になることも多い。 よって、「腰掛け銀編」は、「角換わりを指しこなすための知識を得る」というよりは、「プロの最前線で指されている角換わりを理解するための補助」として使うことになりそうだ。「先手・後手はそれぞれ、こういった展開を目指している(または避けている)」ということが分かるだろう。 一方、第7章〜第9章の「早繰り銀&棒銀編」は、「腰掛け銀編」に比べるとやや難易度が低くなっている。アマでも比較的指しやすく、また従来の知識から大きくアップデートされている部分があるので、「指しこなすための知識を得る」という側面がやや強くなっている。先後とも、これまで以上に一筋縄ではいかなくなっているが、指し甲斐のある戦型だと思う。 ところで、本書は通常の「マイナビ将棋BOOKS」の1.8倍の大ボリュームのため、とても分厚いです。紙質・製本ともにいつもどおりなのですが、しっかりしていて分厚くなっているため、本を開いておく(または手に持って読む)のがとても大変で、場合によっては本のフチ部が指に食い込みます。(※いま確認してみたところ、分厚い棋書はたいていそういう感じになっていました…) (2020Jan06) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): 大半は「Aの付け忘れ」なので、間違いではないとも言えますが、本書のポリシー的には「Aが付いている箇所の方が多い」ので、指摘しておきます。 ※2020Apr26追記:初版第3刷ではすべて修正されているそうです。名無しさんthx! p71上段 ×「第60図以下の指し手」 ○「第60図以下の指し手A」 p117上段 ×「第1図以下の指し手」 ○「第1図以下の指し手A」 p131上段 ×「第19図以下の指し手」 ○「第19図以下の指し手A」 p153上段 ×「第13図以下の指し手」 ○「第13図以下の指し手A」 p178上段 ×「第30図以下の指し手」 ○「第30図以下の指し手A」 p181上段 ×「第33図以下の指し手」 ○「第33図以下の指し手A」 p183上段 ×「第37図以下の指し手」 ○「第37図以下の指し手A」 p187上段 ×「第42図以下の指し手」 ○「第42図以下の指し手@」 p221上段 ×「第34図以下の指し手」 ○「第34図以下の指し手A」 p248上段 ×「第28図以下の指し手@」 ○「第29図以下の指し手@」 p315 ×「第1節でも解説した…」 ○「第7章でも解説した…」 ※第8章に第1節はない。 p321上段 ×「第11図以下の指し手」 ○「第11図以下の指し手A」 p328上段 ×「第21図以下の指し手」 ○「第21図以下の指し手A」 p328下段 ×「そこで一端駒組みに…」 ○「そこで一旦駒組みに…」 p336下段 ×「前頁の参考図ように…」 ○「前頁の参考図のように…」 p337上段 ×「第1図以下の指し手」 ○「第1図以下の指し手A」 |