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マイナビ将棋BOOKS 英春流 かまいたち&カメレオン戦法 |
[総合評価] B 難易度:★★★★☆ 図面:見開き2〜3枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:B- 解説:A 読みやすさ:B- 有段向き |
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【著 者】 鈴木英春 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年11月 | ISBN:978-4-8399-7121-2 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)生かされている (2)ラストレディー |
【レビュー】 |
「英春流」の二大戦法を解説した戦術書。 「英春流」とは、アマの鈴木英春(すずき・えいしゅん)氏が開発した戦法である。英春氏は、1981年に奨励会を年齢制限で退会した後、アマ王将などを獲得しているが、その原動力となった戦法が英春流「かまいたち戦法」である。 英春流は独特の序盤と大局観が特徴。「かまいたち戦法」は、1988年以降に三一書房から計6冊が出版されており、書籍化で一般ファンの目に触れたため、アマには一定数の英春流の使い手が存在する。ただし、これらの書籍は元々定価が高い上にすでに絶版で、現在でもかなりのプレミアが付いており、なかなか入手しづらい状況である。 また、英春流にはニューバージョンの「カメレオン戦法」もある。こちらは本人の指し始めが2005年であり、書籍化はされていない(はず)。「かまいたち」とは両立できない戦法であるが、思想に共通したところもある。 本書は、英春流二大戦法の「かまいたち」と「カメレオン」を、実戦例をベースに解説した本である。 「かまいたち」と「カメレオン」の共通点は、まず「総合戦法」であること。これは、単なる奇襲ではなく、相手がどんな作戦で来ても対応できる戦法であるという意味。もう一つは、従来の序盤の常識(の一部)を疑問視し、独自の理論と大局観で駒組みを進めていくことにある。 ●かまいたち ・英春流第1の総合戦法。 ・先手番では初手▲7六歩〜▲4八銀。 ・後手番では2手目△6二銀とする。 ・「先手後手に関係なく、相手が攻めてきた時はすべてを受け切って反撃。相手が受けてきた場合はどんどん攻めていく」(まえがきp4) ●カメレオン ・英春流第2の総合戦法。 ・対振り飛車の入玉作戦「棒玉」がベースになっている。 ・角道を開けない。 ・急戦用には「ダブル銀」、対居飛車には▲3七銀〜▲4六銀〜▲3八飛の袖飛車。 ・居玉でも隙あらば攻め潰す。 ・展開次第で、いろいろな形に姿を変えていく。 各章の内容を、図面を交えながら紹介していこう。なお、本書は実戦譜をベースとした解説になっており、分岐形式の体系化はされていないので、チャートは作成していない。 |
序章は、「英春流の発想」。英春流の着想から基本思想までを、英春氏自身の人生を振り返りながら解説していく。(※なお、本章は「英春流の」と銘打っているが、「英春流かまいたちの」と読み替えてください。「カメレオン」には該当しない記述もあります) ・大局観がしっかりしていれば、どのように指すことも可能。 ・既成の定跡すべてに対応できる「総合戦法」である。(≒ユニーク戦法であるが奇襲ではない) ・定跡の観念の逆を衝く。 ⇒例としては、「飛先の歩を切れる時は切る」など。英春流では、「飛先の歩を切らせている間に駒組みを進める」とか、「拠点を作られても後続がなければ問題なし」など、一般的な常識には反するものの、「それも一理ある」という考え方が多い。現代将棋では受け入れられている概念もある。 ・「まず相手からの手を殺し、そして自分十分の駒組みを作り、完成したら攻めまくる」(p14)のは一つの理想。 ・序盤から相手の指し手を限定するのも一つの思想。 ・対振り飛車では、飛車のコビンを狙うのが原則。 対四間飛車では5筋を狙い、対三間飛車と対中飛車では4筋を狙う。(飛先を突かないので、対向かい飛車はない) 自分が右四間にすると、相手が四間に振り直す展開になりやすいが、飛と飛が吸い寄せられる様子から、本書ではこれを「磁石飛車」と呼ぶ。 ・対居飛車では、「居飛車・かまいたちの陣」ですべてに対抗可能。飛先不突き、相手の飛先は切らせる、自陣は菊水矢倉…などが特徴。あえて相手の攻めの桂と自分の守りの桂を交換させるのも狙いの一つで、桂を持駒にしてカウンターを狙う。 ・対居飛車のなまくら型(ウソ矢倉、雁木、右玉など)には、「必殺右四間の陣」で攻め落とす。 ・先手番では▲7六歩から積極的に、後手番では△6二銀から受け志向。 ・先手番での3つの「19手定跡」は、知らなければ飛び込んでくる可能性が非常に高い。ただし「19手定跡」は真の狙いではない。 ・後手番では動き過ぎないこと。相手が受け身なら自然な攻めを、相手が攻めなら全力で受け切ってカウンターを。 |
第1章は、「かまいたちVS振り飛車」。 (1) (対)四間飛車穴熊 ポイントは、 1. 飛先不突き(初手から▲7六歩△3四歩には▲4八銀) 2. 5筋の位を取る 3. すぐに右銀を▲5七銀〜▲6五銀と移動 4. ▲5八飛〜▲5六飛(相手の飛は「磁石飛車」になる) 5. 左銀を▲6八銀〜▲5七銀〜▲6六銀と移動 6. 角は▲7七角 7. 右金を▲5九金〜▲6八金右として、二枚金のバリケードを築く ⇒〔右図〕が一例。6筋付近の密度が高い布陣になる。すでに先手の作戦勝ち。後手から動く手段がないので、先手はさらに玉を堅くしてから、駒をぶつけていけばOK。 手順は違うが、中飛車左穴熊と似ているように思った。 (2) (対)美濃囲い(先手番) 相手が美濃囲いでも、かまいたち側の方針は同じ。ただし囲いの手数が少ない分、攻撃に手をかけてくる点には注意。 (3) (対)美濃囲い(後手番) 便宜上先後逆で、英春流を手前にして解説。後手番ではやや難度は上がるが、基本思想は同じ。 (4) かまいたち阻止型 かまいたち理想形の阻止を図ってくる作戦。 ・5筋位取り阻止なら、四間飛車のコビンが早くも開いた形。▲5八飛から5筋歩交換〜▲5六銀で指しやすい。 ・△4五歩と早めに伸ばしてくるなら、5筋にこだわらず、▲4八飛から4筋の伸び過ぎを咎める。 ・△6四歩と早めに突かれたら(▲6五銀型を阻止)、▲6六歩〜▲6八飛で後手の飛を6筋に吸い寄せて(磁石飛車)、6筋付近で駒を密着させていく。 (5) 三間飛車 VS かまいたちパート2 相手が三間飛車のときは、「飛のコビンを狙え」で右四間にするのが「かまいたちパート2」。 ・序盤は右金を動かさず、3九に利かせておく。 ・後手が3筋歩交換してくるようなら、浮いた角をターゲットに▲4五歩が決まる。(〔右図〕) ・△3一銀を動かさず(角にヒモを付けて)駒組みを進めてきても、3筋歩交換に対して▲4五歩のカウンターが入る。▲2二角成△同銀の形は、後手の左銀が遊んでいる。 (6) 中飛車 VS かまいたちパート2 対中飛車は4パターン。角道クローズのツノ銀中飛車には「かまいたちパート2」で飛のコビンを狙う。 ・右金・右桂は不動でシンプルに▲4五歩の仕掛けがある。 ・後手番でも仕掛け方は同じ。△6五歩の仕掛けを取らずに▲6八飛(磁石飛車)と受けても、仕掛け自体は成立する。 本章では、主に角道を止めたノーマル振り飛車に対するかまいたち戦法を解説していた。飛先を突かないので、対向かい飛車はなくて当然だが、角交換振り飛車や角道オープン振り飛車にはどう退治(対峙)するのかは記述がなく、使い手としてはやや気になるところ。(将棋ウォーズでは、角道を止めてなくても構わず右四間にされることがよくあるが、英春流なのだろうか?) |
第2章は、「かまいたちVS居飛車」。 (1) 英春流の世界 ・居飛車を相手にするとき、先手番では▲7六歩〜▲4八銀〜▲5六歩〜▲5七銀と指していく。 ・後手番では△6二銀スタートで受け切り、囲い終わったら攻める。 ・先手番では「19手定跡」といわれる序盤の落とし穴がある。後手がすぐに飛先交換に行くと、一気にかまいたち側が良くなる変化。 〔19手定跡〕 ▲7六歩 ├△3四歩▲4八銀△8四歩▲5六歩△8五歩▲5七銀! |△8六歩▲同歩△同飛▲2二角成△同銀▲7七角 |├△8九飛成▲2二角成△3三角▲2一馬△9九角成▲5五桂!(19手定跡・一直線型) |└△8二飛▲8四歩△3三桂▲8八飛△7二銀▲3八金(19手定跡・左右分断型) └△8四歩▲4八銀△8五歩▲5六歩△8六歩▲同歩△同飛▲7八金 △7六飛▲6六角△8六飛▲8八銀△8二飛▲5七銀△5四歩▲5五歩△同歩▲5四歩!(19手定跡・横歩取らせ型) すべて19手で優劣がハッキリするのがウリ。一直線型・左右分断型は、横歩取り模様で金を上がらない場合の乱戦や、角道オープン系振り飛車の序盤と似た変化。横歩取らせ型は、近年流行の相掛かりアルファゼロ流に似た思想で、一歩を犠牲に金銀を動かしていく。 (2) 一直線型 「19手定跡・一直線型」をもう少し詳しく、19手目▲5五桂の先まで解説する。 (3) 左右分断型 「19手定跡・左右分断型」の先を解説。19手目の▲3八金は覚えておきたい一手で、力戦系振り飛車で類似の局面はよくある。△5四角への対応や、将来の狙いが△3三桂の桂頭攻めであることも知っておこう。 (4) 横歩取らせ型 2手目△8四歩のときのパターン。角頭を守らずに飛先交換を誘い、横歩を取らせている間に駒組みを進める。16手目△5四歩でなく△3四歩の場合は、5筋の位を取って中飛車にするのが有力。歩損なので、持久戦にしないように心がけよう。 (5) 居飛車・かまいたちの陣 いよいよ対居飛車の持久戦編。相手が序盤で飛先交換をしてこない(19手定跡に飛び込んでこない)ケース。かまいたちの本質はむしろこちらにある。「相手の攻めをガッチリ受け止めて、それから攻撃に移る」(p86)が基本思想。先後の区別はあまりない。 ・5七銀が駒組みの急所。 ・駒の働きを重視する。 ・角交換されなければ角道を止める。 ・飛先交換してきたら、いったん菊水矢倉に組む。飛先交換を逆用して、銀冠にできれば理想的。 ・「相手に行くぞと見せかけて攻めを誘い、そこに強烈なカウンターを放ってペースをつかみ、優勢になると丁寧に面倒を見る」(p94) (6) △6二銀の発見 後手番での指し方。後手番では、2手目△6二銀によって動き過ぎをセーブする。目指す方向は先手番の時と同じ。横歩を代償なしで取られないように注意。 |
第3章は、「かまいたちVS居飛車 実戦編」。基本的には、これまでの章も各節1局ずつの実戦譜ベースだったが、どちらかといえば英春流全体の思想や序盤に焦点が当てられていた。本章では、主に序中盤から形勢がハッキリするところ(もしくは投了)までの実戦ベースで解説している。 @ 矢倉 先手かまいたち 飛先を切らせて▲菊水矢倉△矢倉へ。(※本書では菊水矢倉を「英春囲い」(p112)と呼んでいる) △7三桂に▲7七桂と対抗する。 A 角交換・上(先手番) 相手が飛先を交換してきたタイミングで角交換。その後、6筋位取りで金銀を盛り上げる。 B 角交換・下(後手番) 後手かまいたち 後手では相手の動きに追随する方針。菊水矢倉から銀冠を目指すのも一興。 C 飛車先交換棒銀(後手番) 棒銀で来られたときは、△4四角と上がって攻めをいなす。目標の角がいなければ、棒銀は空を切りやすい。 D 腰掛け銀速攻 先手かまいたち 後手が飛先を切らず、腰掛け銀から△6五歩と急戦を仕掛ける。(〔右図〕) ▲6五歩△同桂に▲4六銀?!が英春流の一手で、△6六歩とクサビを打ち込まれても大丈夫、という感覚が必要。 |
第4章は、「進化する英春流の世界」と題して、「カメレオン戦法」を解説する。 育成に力を入れていた英春氏が、瀬川さん(瀬川晶司・現六段)のプロ編入嘆願書の提出(2005年2月)をきっかけに、もう一度プロを目指して(このときすでに英春氏は55歳!)、第2の総合戦法として生まれたのが「カメレオン」。英春氏の指し始めも2005年。 「カメレオン」は「かまいたち」とは発想が異なり、「角道を開けず、相手に隙あらば居玉のままでもどんどん攻めて、攻め倒す」(p148)というもの。「かまいたち」との両立は基本的に不可。 ・先手番では、初手▲9六歩。これは1手様子を見たもの。 ・対ノーマル振り飛車では、すばやく右銀を▲3七銀と設置し、続いて左銀を▲5七銀とセット。引き角でダブル銀の鳥刺しにする。(〔右図〕) ・▲2六銀に△3二飛と相手が受けの態勢なら、▲4六歩から「棒玉」へ。対振り飛車右玉で玉が三段目まで進んでいるイメージ。右玉以上に入玉をイメージしている。左辺での戦い方は右玉とだいたい同じで、飛以外の攻め駒(角銀桂歩)を交換していく感じ。 ・後手番では初手△6二銀。駒の配置は先手番の時とほぼ同じ。 ・棒銀を見せる△8四銀に▲8八飛なら、左に囲って「ダブル銀」へ。二枚銀での鳥刺しで押さえ込む。 ・相手の駒組みを押さえ込んだら、急戦から超持久戦で堅く囲う展開もあり。「カメレオン」の名の由縁。「相手の動きに合わせて姿を変えていく」(p172) |
・対居飛車では、いきなり早繰り銀から袖飛車が狙い筋。相手は堅い矢倉に組むのは難しい。 ・カメレオンが後手番で、先手が速攻棒銀に来たら、△5四歩〜△3三桂で急いで受け止める。 ・対中飛車も、早繰り銀〜袖飛車は有力。 ⇒初手▲5六歩を見てから作戦が決められるので、対▲中飛車が苦手な人は試してみる価値があるかも。 「カメレオン」は変幻自在なので、実戦例で感覚を掴もう。早めにちょっかいを出して、手将棋に持ち込もうとするのは同じだ。力戦振り飛車党が相手でも、角道を開けないので、おかまいなしに攻勢が採れる。 第5章は「2人の後継者」。後継者とは、田中沙紀(現・女流3級)と野原未蘭さん(女流アマ名人など)のこと。この2人との関係は、「あとがき・将棋は人生」に記されており、英春氏が開いた「晩成塾」の塾生だったとのこと。 どちらも英春流の影響を強く受けている。田中のかまいたちと、野原のカメレオンを1局ずつ掲載。 |
〔総評〕 「英春流」という、他の戦法とは思想や大局観で一線を画す戦法群について、広く知ることのできる機会が再び得られたのは喜ばしいところ。また、「カメレオン」については単行本でちゃんと書かれたのは初めてなので、実戦で目にする機会も増えてくるだろう。 「かまいたち」が序盤で難所が多い代わりに、相手の自由度を封じていくという「達人向け」「職人向け」の印象がある一方、「カメレオン」は序盤のハードルが比較的低く、すぐに無限の宇宙へ広がる感じで、どちらかといえば「やんちゃ向け」「力戦の雄向け」である。 「自分に合いそうだ」と思った人は当然必読。「自分では指さないな」と思った人も、何かよく分からない序盤でやられたという事態を避けたければ、英春流に流れる思想はチェックしておきたいところだ。 なお、基本的に、「かまいたち編」(第1章〜第3章)は過去の本(1990年前後)のダイジェスト&リメイク版である。例えば、第2章は文体の調整はあるものの『必殺!19手定跡 英春流〈かまいたち〉戦法居飛車編』(三一書房,1990)とほぼ同じ文章。よって、すでに「英春流シリーズ」を持っている人にとっては、本書の新規部分は第4章の「カメレオン」と第5章の「英春流を継ぐ者」となり、全体の3割くらいになる。(逆にいえば、もっと深く知りたい人は、過去の「英春流シリーズ」を何とか手に入れてください) 過去の本のリメイクなので、かまいたちについては、角交換系の振り飛車(2000年代以降に流行)対策には全く触れられていないのが残念。実際は戦えるのだろうが、どこかで補足が欲しかったところである。 また、リメイクのせいなのか、図面と棋譜・文章のレイアウトはイマイチ。棋譜の始まりの図面が近くにないことが多く(前のページにあることが多いが、後ろにあることも)、ページをめくり戻してから図面を探して、図を頭に入れて棋譜を読んでいくことになり、一譜あたりの手数も多いので、ソラではなかなか大変だった。 オリジナル版も、始まり図が前のページにあるせいで読みやすいとはいえなかったが、本書では、オリジナル版では1pに収まっているところでレイアウトを崩しているので、さらに読みづらい。 できれば盤駒か棋譜入力可能なソフトを用意して、並べながら読んでいこう。そうすれば読みづらさは気にならなくなる。個人的には何度も戻せる棋譜入力ソフトを推奨。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p190下段 ×「雲泥の差がる」 ○「雲泥の差がある」 p196上段 ×「第2素以下の指し手」 ○「第2図以下の指し手」 p203下段棋譜 ×「▲5三銀 △同 歩」 ○「▲5三銀 △同 金」 |